「──ふぅ。…あー…。
──ディスプレイに目をやられたッ!ぐわーっ!喰らえブルーライトカットッ!相手は死ぬ!…はぁ。」
ひとり遊びをしていた、仕事終わりの夜。深夜テンションなので何をしでかすか分からない俺。
「────。」
何処からか感じる、舐めるような視線。こんな深夜に、一体何者が。
「──誰ッ!?」
この時は、どうせ小夜ちゃんとか小夜ちゃんとかその辺だろうと高を括っていた。すると、逃げるような足音が。
恐る恐る見ていた者が居た場所に向かい、ある物を見つけた。
「──青い、髪?」
♢
「──S2CAによって、その……やんでれ、というのが感染したと?」
「…本人が言うにはね。」
「…本当なんですよ!今だって襲いたいくらい愛おしいですッ!」
すごく真面目な顔でエルフナインちゃんに言われ、俺は渋々と言ったら感じで答える。響ちゃんが何か言ってるが聞こえない。
ゆっくりバレないように、何とか歩みを進め、漸くエルフナインちゃんが居る研究室に着いた。…登山した時並に疲れた。
「…では、ギアを纏って確かめてみましょう。心象に直接影響が出ているのならば、変化が出来ているかもしれません。」
「…そ、そうだね。…って、何か手早くない?今考えたにしては…。」
「…実は、この事態には既に気付いていました。当然あなたが苦しんでいた事も。」
衝撃の真実ぅ〜…。こんな天使みたいな子が、まさかそんな。まぁ、別にいいか。
うん。あ、どうでもいいって事じゃなくて──
「──何で、知ってて何もしなかったんだ…ッ!」
「……。」
「…知ってたって事はつまり?この状況を楽しんでたって言うこと?」
…ぶっちゃけると、限界だった。助けて欲しいと、何度も叫んだ。だけど誰も助けてくれなかった。
こうやってエルフナインちゃんに八つ当たりするくらいには。
「…やめなよ。この子に当たっても何にもならない──」
「──君に何がわかるんだッ!今来たばかりの君がッ!俺の気持ちの何がわかるんだッ!?」
…こうやって、響さんに八つ当たりするくらいには。
…後で恥ずかしさと申し訳なさで悶絶するから聞いてやって。
「この子にストーキングされてッ!暴力振るわれてッ!マリアさんや調ちゃんに恥かかされてッ!
緒川さんに襲われて…ッ!…司令にも襲われて……。
…翼さんにも、裏切られて…、
友里さんに…哀しい顔させて…。」
「…藤尭さん…。」
何で俺はこんなにキレてんだろうか。ここまで馬鹿だとは、自分でも思わなかったけど。…何泣いてんだよ。男だろ。
そんなバカを、優しく撫でてくれる人が居るのがここだ。
「…辛いなら、最初から言いやがれ。迷惑だと思ってんなら、お門違いだからな。」
「…クリスちゃん…?」
照れたようなしかめっ面で、俺を撫でてくれる。…やっぱ天使かよこの子。
「…ごめんなさい。私、気持ちを抑えきれなくて…。迷惑かけて、すみませんでしたッ!」
「…響ちゃん。」
悲しい顔をして、謝罪する。その目には、黒い物は無かった。…露骨な好意はやめてくれないけど。
「…あー、この空気で言うのはなんですけど、私は諦めませんからね?前にも言ったでしょ?大好きだって。」
「…小夜ちゃん。」
いつもの調子で、告白される。…いや、ストーキングはやめて欲しいけども。
「…ボクは、この事態を実験のように見てきました。…ですが、今、目が覚めました。…ボクがこんな悪魔のような事をしていた事に、気付けました。
…皆さんが元に戻れるように、ボクにも出来る限りのサポートをさせてください…ッ!」
「…エルフナインちゃん。」
エルフナインちゃん。ごめん、実は黒幕なのかとめっちゃ疑ってた。本当にごめん。あと八つ当たりしてごめん。
──希望の光が、一筋見えた。まだか細いその光は、彼にとって眩い光だった。
だが、彼にとっての地獄は、まだまだ終わらないだろう。例え見る人によっては、ハーレムに見える状況でも…………。
…何この最終回っぽいモノローグ。すごく不穏なんだけど。
♢
「──デースッ!舐めやがってデースッ!!デスデスデースッ!」
人の家で激昴する少女。暁切歌。セリフに似合わず、怒り狂う様はまさに鬼。布団を引きちぎり、綺麗な自らの金髪を掻きむしる。──顔真っ赤涙目だけど。
「…はぁ…ッ! はぁ…ッ! ぜ、絶対に許さない…ッ!──よくもあたしの黒歴史をーッ!」
黒歴史上等とは一体。
──彼女の地獄も続く。
♢
「──成程、やはり適合系数が跳ね上がっていますね。」
「…いつもの倍はあるぞこれ…。黄金錬成した時より強くない?」
「おお!力がみなぎるッ!魂が燃えるッ!私──」
「──いや、君のマグマは迸らなくてもいいから。」
響ちゃんにギアを纏って貰ったら、案の定これである。クローズマグマになりたての万丈みたいな、そんな高揚感を感じているのはわかった。
「…この流れで、他の人達も強くなっていれば──間違いなく未来さんに蹂躙されるでしょうね。」
「…最凶の装者…シャレにならんでしょこれは。」
確かにこれは、味方をいくら増やしてもビームで一掃されて終わるのがオチだろう。
「──ですが、響さんが正気を取り戻した時と同じ方法なら、未来さんを味方につけられるかもしれません。」
「…マジすか。」
【朗報】ラスボス、仲間になる説浮上。
「…どうやってしたか覚えてんのか?」
「…えっと、確か───」
『──ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!!』
悲嘆する響ちゃん。…これを未来ちゃんにするのか…。嫌だなぁ…。どうやるのか今一わかんないし。
「…あの人にはアンチリンカーも使えません。…
…もうこれは、エルフナインちゃんに任せっきりにするしかないな。過労死しないか心配だけど。
「…取り敢えず、あいつ慰めてやれよ。」
「…あ。」
指さされた方向を見ると、体操座りで俺を睨む響さんが。
…許してつかぁさい…。
真の地獄は、これからだ!
ご愛読ありがとうございました。今回でこの話は終わ──らないですはい。ごめんなさい。
過労ナイン発動!どうなる藤尭さん!