あー眠たい。…何で俺が中学生のお守りをしないといけないんだ。
「浮気者は許さないです。」
「すんませんでした。」
なんでもないです。ハイ。……怖いよこの子。
友里さんを帰らせた直後、小夜ちゃんは突然抱きついてきた。異常な程呼吸繰り返しながら。吐息とかちょっと色っぽいし。守備範囲じゃないけど俺に効くよ?
で、司令が入ってきた。見られても別に困らないんだけど──
「お前、そんな趣味が…。──す、すまんッ!邪魔したなッ!」
なんて言いながらダッシュされれば、誰だって追いかけるもので。だが、それは無理だった。ちょっと考えればわかる事だ。
「逃げちゃやだよ…。」
はん。今度は泣き落としか。そんなの俺に通用するますはい。普通に通用しました。いや、だって無理でしょ?こんなの卑怯だよ。
その後、正座させられた。こちとらまだ寝てないってのに。そして、冒頭のセリフである。…ヒトヲオチョクッテルトブットバスゾ!
「…まだ分からないんですね。…藤尭さんは私の物なの。だから、勝手にフラフラしたら…めっ、ですよ?」
めっのところが『滅ッ』に聞こえたんですけど。多分暗殺教室の読みすぎじゃないよね。
「……返事が聞こえないなぁ。」
「──あだだだッ!わ、わかったからッ!分かりましたッ!」
腿を踏まれ、絶叫する。…もうやだ。
♢
「──なんて事があったんですよッ!どう思いますかッ!うわああああッ!」
「…心中お察しします。」
なんやかんやで逃げ出し、緒川さんに泣きついてきたという訳だ。我ながら情けないが、どうしようもないのだ。
今、緒川さんの部屋にいる…筈なのだが、異様に部屋が汚い。
「ところで、これどうしたんですか?」
「………。先程まで翼さんが居た、とだけ言っておきます。」
全て理解した。ここまでの意思疎通が出来るなんて、統一言語なんていらないんじゃないかな。
「あれ?何で翼さんが居たんですか?」
ハッとなり、気付く。まさか、2人はそんな関係に──って、アホか。中学生じゃないんだから、憶測でものを言うのは良くない。
「…お答えしかねます。」
その目には心配と、慈愛があった。何だ、何があったんだ。聞くのが怖いが、聞くしかないだろう。
「他言はしません。」
「別に他言無用という訳ではありませんが……。貴方が良いなら、いいんでしょう。」
含みのある言い方に、少しムッとしてしまう。これでも俺は大人だし、どんな事を言われても受け入れる覚悟は出来ているつもりだ。
そして、緒川さんは重い口を開き──
「──貴方を探していたんですよ。藤尭さん。」
「…は?」
何事だよ。
♢
落ち着いてきたので、話を整理しよう。睡眠も緒川さんの部屋で取らせてもらったし、バッチリだ。いやまぁ、流石に迷惑かと思ったんだけど。
『友人に僕が出来ることは、これぐらいですから。』
すっごくいい人。女に生まれてたら間違いなく緒川さんを選ぶよ。あっちが選んでくれるか知らないけど。
まずひとつ。装者の人達が俺を探してらっしゃる。俺ずっと仕事してたのに。用があるなら話しかけてくれればいいのに。
だが、そうは思わなかった。緒川さん情報だと、『迷惑は掛けたくない』だそうだ。全く、小夜ちゃんも見習って欲しいものだ。まだ子供とはいえ、度が過ぎることも稀によくある。
そしてもう1つ。これは今明かされる衝撃の真実なのだが、このままじゃ友里さんがやばい。何がやばいって知らん。俺は何も知らん。緒川さんも言葉を濁すばかりだ。
昨日の事をよく考えると、友里さんはかなり参っているようだ。小夜ちゃんの世話を俺に押し付けられ、ただでさえ自分の仕事で精一杯だと言うのに俺は…。人間のクズがこの野郎…。
という訳で、友里さんを探す。しかしここは広い。探すのには一苦労だ。…かと言って電話はハードル高い。
ひたすらに廊下を走るが、デスクワークしかしてない俺には体力が絶望的に無い。ひとまず休憩を──
「──あ、藤尭さん。」
「ッ!?ゲホッ!ゲホッ!…し、調ちゃんか…。」
曲がり角で止まったのが間違いだった。心臓に深刻なダメージをくらい、息絶え絶えになる俺に、調ちゃんは不安げに声を掛ける。
「大丈夫?」
「あ、う、うん。大丈夫だよ…。」
こんな顔面蒼白な男に言われても、まるで説得力が無い。すると、調ちゃんは後ろを向き──しゃがんだ。
「…おぶさって。医務室に連れていく。」
「ちょとしょれはシャレにならんですよ。」
噛んだし。何言ってるかわかんないし。恥ずかしさで一杯になる。が、おぶさってしまえばとんでもなく酷い絵面の完成だ。ピカソもびっくりだよ。
「どうして?…あ、マリア。」
「あら、調……と、藤尭。どうしたの?」
呼び捨て☆…別にいいけども。いや待って。マリアさんもダメだぞ調ちゃん。そんなことしたら俺刺されるから。
「藤尭さんが体調悪いから、マリアにおぶさりたいんだって。」
俺終わった。
「…な、は、えッ!?…い、いいけど…。医務室、よね?」
いいのかよ。
…い、いやいや待て待て。こんなのおかしいから。待ってって言ってるでしょ流行らせコラやだ髪めっちゃいい匂い。
「…何をそんなに慌ててるのよ。…おぶさりたいって言ったのは貴方なのに。」
「……言ってないっす。」
言ってないけど、このシチュエーションは中々…って、俺は変態か。すると、目の前のマリアさんの首が真っ赤になって行く。
「…え?どういうこと?」
「…ごめんねマリア。あれは嘘だよ。…本気にすると思わなくて…。」
ほら、調ちゃんも謝ってるし、許してあげ──
「──うわあああああああああああッ!ばかあああああッ!」
「──うごッ!」
あまりの大音量に面食らって、仰け反り、頭を打つ。…さ、流石トップアーティスト…。
「ああッ!だ、大丈夫ッ!?」
「…う、うっす。」
「落ち着いてマリア。まずは人工呼吸を…。」
お前が落ち着け。ちょっと、待って。誰か助けて。頭痛い。動けな───
「──ウワァァァァァッ!」
情けない声を上げながら、初めてを奪われるのであった。
藤尭さんの喋り方が安定しない問題。