いやーいい夢見れt…いや、酷い目に遭った…。まさか花の女子高生に人工呼吸されるとは。
元気を取り戻した俺は、何気にスタンバっていたマリアさんを宥め、走り出した。
──が、足元を捕まれて転ぶ。
「──おぐッ!?」
顔面を強打する。暫く悶絶していると、マリアさんが怒る声が聞こえた。
「な、何やってるの貴方ッ!やめなさいッ!」
え?
「許さない。よくも”私の”藤尭さんを。」
このセリフで、誰が何をしているのか全て把握した俺は、すぐさま立ち上がり──逃走するか迷った。
ここで逃げれば、二度と歯向かえなくどころか、人間として、男としてクズだろう。
だが、プライドや他人の評価より、自分の命の方が大切だ。だから、この迷いが生まれた。
──それは野生の中では、致命的な隙なのだが。
「──たすけて」
振り向くのが怖い。調ちゃんの助けを求める声がする。…ちくしょう。何で小夜ちゃんは暴力とか振るうかね…。
「コラ!何暴↑力↓してるッ!中学生はそんなことしか考えないのか(偏見)」
言いづらいことは語録の力を借りる。割と小さい頃からこれやってるけど超便利。
尚、振り向けてはいない模様。…後ろでどんな顔してるのか、わかりやしない。
「…えー?酷いなぁ。私は暴力なんて振るってませんよ。」
マジかよ。…もしかして、実はいい子───
バチリと音が聞こえた。…痛え。これはもしやスタンガン…。
ああ、そうか。道理でマリアさんや調ちゃんが静かだと思った。…何故音が聞こえなかったし。
♢
「起きましたかぁ?」
「……起きてない。」
「あはっ。それギャグですか?つまんないですよぉ?」
やってらんねぇ。前見えないし、金属の擦れ合う音が聞こえるし。背中冷たいし。間違いなく監禁されてますねこれは。
「これから貴方には教育を受けてもらいます!」
「いやです」
「じゃあまずは1時間目ですねー!」
聞いちゃいない。…すぐさま刺されなかっただけマシか。
一先ず、助けを待とう。非力なオレではこの手錠を解くことは出来ない。かと言って力ずくで小夜ちゃんに襲いかかろうとも、多分勝てない。地のパワーで負けてる。
「じゃあー…。『耐久力』の抜き打ちテストね!」
──腹部に強烈な激痛が走る。
「──ヴォエッ!」
喉から込み上げるモノを、惜しげも無くぶちまける。酸っぱい臭いが辺り一面に広がる。…な、なんてことをするんだ。
「…アイツの菌を、全部吐き出さないと…ねッ!」
「…ゴェッ!…ぁ、あ…。」
何だこの子。殺す気か。その脚ならサッカー日本代表も夢じゃな──また蹴られる。
「…あは。いい声してますねぇ!道理でねぇ!」
「…う、うぐ…。お、俺が何をしたんだ…。」
いい大人が、少女に痛めつけられて、涙を流す。これ程の屈辱があるだろうか。そんな思いから、この呟きが零れた。
「…まだ、分からないんですか。貴方が、私以外の女の子と話すのが悪いんです。私の所有物を、勝手に奪おうとしたアイツらが悪いんですよ。何でそんな顔をしてるんですか?私の愛を受け入れられないんですか?ねぇ。ねぇ?──答えてよ。」
待って、言いながら蹴らないで。これじゃ声も出せない。…しかし、俺が悪い、か。理不尽だな、世の中って。
俺はただ、皆に平等であろうとしただけなのに。誰かを優遇することもなく、卑下することも無く、心から分かり合える人など一人もいない。緒川さんはいい人だけど、やっぱり何処か距離を感じる。
──俺はただ、平穏に生きて死にたいだけだ。
「…そう。答える気は無いんですね。──なら、その口塞いじゃいましょうか。…あ、腕も私が介護するから要らないですね。足も、目も、鼻も耳も全部もいで。逃げられないようにしましょう。…はは、何だか楽しくなってきちゃった。」
現実世界に意識が戻ってくる。これはまずい。小夜ちゃんは正気じゃないぞ。…俺が何か言わないと。
「ま゛、待゛っ゛て゛」
喉潰れてんのか俺は。…無理だな。
「…うッ!」
小夜ちゃんの呻き声が聞こえる。この風を切る音は、もしかして───
「──大丈夫ですかッ!?…心配だったので、着いてきて正解でしたね…。」
「…お、おがわしゃん…ッ!」
泣いた。全俺が泣いた。
♢
拘束を解いてもらい、医務室に運ばれる俺。
「…すみません。遅くなってしまって。…閉めた瞬間にロックが掛かる仕組みたったので、手こずってしまいました。」
「…うぅ、いいんですよ…ッ!ありがとうございます…ッ!」
涙無しでは、感謝は出来ない。もう緒川さんに足を向けて寝られないなこれ。
「…そ、そういえば小夜ちゃんは…?」
それが気がかりだった。恐らく緒川さんはATEMIで気絶させたのだろうが、まだあの部屋にいるのだろうか。
「あの子なら、既に他の職員方に任せています。…それより、傷は大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。…まだ痛みはあるんですけど、大分マシになりました。」
本当は滅茶苦茶痛いし、今も意識を失いそうな程だ。…これ肋骨何本か折れてんじゃないのか。
だが、緒川さんを心配させる訳にはいかないし、友里さんを探さないといけないのだ。
「…そうですか。ですが、今日は休んだ方が良いでしょう。」
「…いや、本当に大丈夫──」
「──今日は、休んだ方が良いでしょう。」
「………はい。」
怖い。緒川さん怒ると怖い。…気をつけよ。
すると、ノックの音が聞こえた。
「風鳴翼です。…緒川さん、何かあったのでしょうか?入ってもよろしいですか?」
翼さんか…びっくりした…。てっきりまた小夜ちゃんかと…。──そこで、チラリと緒川さんを伺う。
「……。」
彼の目の奥に、黒い物が走った気がした。…どっかで見たけど、思い出せない。
「──緒川さん?」
「…翼さん。大丈夫ですから。」
え?入れてあげないの?
「──え、でも。」
「任務で掠っただけです。心配することはありませんよ。」
翼さんは、純粋に緒川さんが心配なだけだろう。だが、緒川さんは心底鬱陶しそうな顔をしている。それを察した翼さんは、
「…!わかり、ました…。
──藤尭さんが、そこにいるんですね?」
何故バレたし。ドアをこじ開けようとする翼さん。ガタガタと音を立て、開きそうになるドアを、俺は呆然と眺めていた。
…何が始まるんです?
本作の藤尭さんは総受けです。