愛されすぎて仕事が出来ない   作:最高のモルモット

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疑心

 

緒川さんの様子がおかしい。今気付いたんだが、彼が翼さんの事を放置するとは到底思えない。これは二人の間に何かあったに違いない。

 

「緒川さんッ!いい加減にしてくださいッ!流石の私も鞘走らずにはいられませんよッ!」

 

「…翼さん。あなたには関係の無い事です。」

 

全く状況が飲み込めない。え、何これは。もしかして修羅場?マジで何があったの。

 

「──藤尭さんの事は諦めてくださいッ!貴方は男性でしょうッ!」

 

はぁ?

 

 

 

♢

 

俺氏、逃走中。

 

窓をかち割り──嘘です。普通に開けました。──部屋から脱出する。緒川さんは翼さんに気を取られていたらしく、俺を捉えることは出来なかった。

 

しかし、この逃走劇も時間の問題だろう。俺は元々体力がないし、死ぬ寸前まで追い詰められたのだ。保ってあと10秒弱。…明日から非番の日も運動しよ。

 

──走る、走る。ひたすらに走る。

 

そして、眼前に黒い影が現れ──驚き、止まる。その黒い影は俺を捕まえ、近くの部屋に引き摺り込んだ。

 

「…な、何をッ!?」

 

「しッ!…大丈夫。心配しないでください。…これは翼さんの作戦です。」

 

翼さんの作戦?

 

 

黒い影の正体、小日向未来から話を聞く限りだと、翼さんが緒川さんがおかしい事に気づいたのはつい最近であり、様子を窺っていたらしい。

 

結果がアレである。…いや、本当に助かった。緒川さんに襲われたら拒否できない。(命の危機的な意味で)…俺がノンケでよかった。

 

「…あ、その、もう怒ってないの?」

 

「え?」

 

未来ちゃんは以前、響ちゃんに誘われた俺に殺意を向けてきてやばかった。…今はどうなんだろう。ひょっとしたら、俺をここでSHI☆MA☆TUする気なのでは?

 

「いや、あれは、その。…下らない嫉妬ですよ。…私のことは誘ってくれなかったから。」

 

それはあれか。『未来は確定でー、後は誰誘おっかなー』的なあれか。仲睦まじくていいなぁ。

 

「…結局俺は行ってないけどね。」

 

「!…あ、な、なら今度こそ行きませんかッ!?」

 

2回目だが、耳を疑った。俺の耳もとうとう限界か。…聞き直すまでもなく幻聴だから無言を貫く。

 

「…あ、いえ。お気に障ったなら、すみません…。」

 

何だこの乙女。これがあの393かよ。ギャップ萌えが有頂天だよ。だが、理性を保つ。ここで手を出せば小夜ちゃん乱入とかいうオチなのは分かりきっている。

…そういえば、マリアさんや調ちゃんは大丈夫なんだろうか。バタバタしすぎて気付かなかったけど。俺マジでクズ。

 

「…ごめんなさい。忘れてください。…都合良すぎますよね。」

 

「…えっ。あ、是非行かせてもらいたいんですけど。」

 

しまった。答えるのを忘れていた。未来ちゃんが涙目でとても心が痛んだ。そのせいで、脊髄反射で言葉を放つ。

 

「ほ、本当ですかッ!?」

 

「…う、うん。…あ、でも高すぎるのは勘弁してね。」

 

ここは俺が払わないといけないパターンだと、俺の第六感が言っている。──あと一つ、第六感がなんか言ってた気がするけど、多分気の所為だろう。

 

「…い、いいですよッ!…私が払いますからッ!」

 

「…いや、俺が払うよ。大体さっき俺がゴネたのが悪いんだしね。」

 

「いや、でも。」

 

「いや、だから。」

 

…言い合いになる。今更だが、未来ちゃんとこんなに話すのは初めてだ。ぶっちゃけ響ちゃん大好きのやべーやつとして見ていたけど、良く考えればこの子もまだ高校生なんだ。

 

…人の裏面は見るのは怖い。だが、意外なところが見られる。当たり前のようで、よく分かっていないことだった。

 

「…ふふふ、あはははっ。」

 

「…くっ。…あはははっ!」

 

何故か笑いが込み上げる。さっきまで泣きそうだったのが、嘘のようだ。

 

「わかりました。…お願いします。」

 

「…うん。じゃあ、店選びは任せるよ。」

 

 

────。

 

 

 

 

「──心外ですね。僕がこの程度で撒けると?」

 

「──ウワァァァァァッ!?」

 

びっくりしすぎて叫び声にすらビブラートが着く。

 

「…小夜さんの気持ちが、少しわかりました。…貴方のこんな新しい表情を見られるなら、僕も同じ事をすれば良かったですね。…彼女は独り占めしたのが良くなかった。」

その表情はギラギラと、獲物を狙う獣の様だった。

 

──兎とライオン。それすら生ぬるい対比が、ここで出来上がっていた。

 

──しかし忘れてはいけない。時にライオンより恐ろしいものが存在することを。

 

「…そんなの、間違ってますよね。」

 

俺の服の裾を強く握り、未来ちゃんは呟く。…そんな時、第六感君のセリフを思い出した。

 

『何でお前がこの子に誘われてんだ』

 

そうだよ。この子が…勘違いかもしれないけど、浮気なんてするわけない。これは異常事態だと考えるべきだった。

 

「───独り占めなんて、良くないですよねぇ。」

 

「…なら、2人で分けましょうか。」

 

 

──兎とライオンと蛇ッ!

 

 

 

♢

 

 

逃げるが勝ちと言うが、勝利条件を満たすにはまだ遠い。

 

廊下を逃げ惑う俺。…俺最近走りっぱなしだな。

 

やはり、皆が変だ。主に俺を見る目が。あの時は気付かなかったけど、響ちゃんが未来ちゃんを誘わない訳がない。

 

小夜ちゃんにしてもそうだ。片鱗はあったけど、あそこまで酷くなかった。まるで、本で見た──

 

「──うッ!」

 

動けない。この術はまさか──

 

「──影縫い。これで逃げられませんね。…ああ、その怯える表情も中々良いですね…。」

 

やべえ。俺の憶測が正しければ、ここの人達は全員やべーやつと化している。何処へ逃げてもダメだ。…マリアさんは、まだ初期の段階だったんだろう(適当)。

 

「…や、め──」

 

 

 

「そこまでだ緒川。未来君。」

 

このダンディなOTONAの声は…。

 

 

「──司令…ッ!」

 

「…済まない。遅くなったな。──藤尭。」

 

司令──風鳴弦十郎が、緒川さんの前に立ちはだかった。

 

 

 

何故だろうか。俺には彼が救世主に見えない。

 

 

 

 

 




藤尭さんが流れを察し始めました。

おがふじ流行る…流行らない?
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