「え?堕天使たちが旧校舎に襲撃?」
「襲撃ってほどではなかったけど、儀式の邪魔をさせないための足止めってとこかしら」
上に行くための階段を上っているとき部長からそんな説明を受けた。
なんでも旧校舎の裏の方に、ドーナシーク他二人の堕天使が来ていたらしい。儀式の邪魔をさせないために。それに朱乃先輩が気付いて、部長と一緒に向かって消し飛ばしてきたそうだ。
「だからあの時、突然いなくなったんですね」
「えぇ、堕天使が来たと聞いたときは流石に驚いたけどね」
「そういえば朱乃先輩、後片付けしてるって言ってましたけど、どういうことですか?」
先程、朱乃先輩は後片付けしている、と部長が言っていたが気になったので聞いてみた。
「彼らがイッセーのことをバカにするもんですから、頭にきて全員まとめて消し飛ばしたのよ。その時の衝撃で羽根が散らばってしまってね」
部長は、ご丁寧にさらりと恐ろしいことを告げてくれた。
やっぱりこの人怖ぇぇ。ガクブル
オレが恐怖で震えていると、地上に出る扉が見えてきた。
「あ、ここです部長。ここから地上に出られます」
「そう、ありがとう。みんな、今からイッセーのもとに行くけど、手出しは無用よ」
木場から教えてもらった扉に手を掛けながら、部長が言ってきた。
「わかりましたけど、本当に大丈夫ですか?」
「僕も近衛くんの意見に賛成です。堕天使が相手では、戦闘経験皆無の兵藤くんでは敵わないかと」
「あなたたちの意見は正しいわ。確かに今のあの子なら直ぐに負けてしまう。でもあの子は『兵士』の駒を八つ消費したの。あの子の中には何か大きな力がある。私はそれを確かめに来たの」
そう言って、扉を開けて外にでる。すると、
「アーシア!アーシア……。くっ何でだ!この子は何も悪いことなんてしてないじゃないか!何で……何でこの子が……」
イッセーの悲痛な叫びが聞こえた。
突然の大声だったから、驚いたがそれを聞いてオレは、アーシアさんが死んだことに気付いた。
他のみんなも気付いたようで全員暗い顔をしていた。
一瞬の静けさがこの場を襲う。それを破ったのは、
「あら、その子死んじゃったの?残念ね、ご愁傷さま」
堕天使―レイナーレだった。一部始終を見ていたらしく、すんげぇイラつく顔でイッセーに歩み寄っていった。
「あいつ!」
怒りのあまり飛び出そうとしたが、木場に止められる。
「神様……いるなら俺のお願いを聞いてください。この子はただ……友達が欲しかっただけなんです。だからこの子を連れていかないで下さい。お願いします」
アーシアさんの死を受け入れられないのか、イッセーはそんなことを呟いていた。
「悪魔が神にお願い事?奇妙な光景ね。それよりも見て、この傷。ここに来る途中あなたのお仲間の騎士に傷つけられたのよ」
奴は傷口に手をかざした。すると、手から淡い緑色の光が現れたら傷口を塞いでいく。
なぜだ?あれはアーシアさんの力だろ?何であいつが使えるんだ?
わからないことだらけだが、その事と儀式が無関係ではないだろう。
「なんで……お前が……」
「あぁ最高だわ!どんな傷も完治させることのできる神器。これで私は堕天使を回復できる堕天使として、アザゼルさま、シェムハザさまのお力となれるわ!」
「返せよ」
「なに?」
「それはアーシアの力だ。お前ごときが使っていいようなものじゃない」
アーシアさんの神器を手に入れたレイナーレに向かって、イッセーが怒っているのかと疑いたくなるような静かな怒りを向けた。
「アーシアを返せよ」
『Dragon booster!!』
イッセーのその怒りに応えるように、左腕の神器が動き出した。手の甲の宝玉が眩い輝きを放つ。
それと同時にイッセーの力が少し強くなった。
「おバカねぇ、あなたの力がいくら倍になろうと1が2になるだけ。私には到底及ばないのよ」
「そんなこと知っている。ただ俺は許せないだけだ。アーシアの命を奪ったお前も、アーシアを守れなかった俺もすべてが」
『Boost!!』
宝玉から再び音声が聞こえると、またしてもイッセーの力が強くなる。
「へぇ!少し力が増したかしら。でもまだね!」
イッセーの変化に気付いた奴は、両手に光の槍を出現させる。
「力を込めてあげたわ!これを食らって死になさい!」
ヒュッ ドス!
「ぐあぁぁ!」
飛びかかろうとしていたイッセーの両ももに打ち込まれ、そこから煙が上がる。
「あはははは!下級悪魔のあなたにとってこのくらいの光でも激痛よね!」
痛みのあまり地面に両膝をつくイッセー。誰もがそこで終わりだと思った。しかしあいつの眼から光は消えていなかった。
イッセーは何を思ったのか、突然光の槍に手をかける。当然手は光に焼かれ煙が上がる。
「うおおぉぉぉぉぉ!」
痛みなど気にしない。そんな雰囲気を漂わせながらあいつはそのまま光の槍を抜く。
ドバァ!
塞いでいるものが無くなったせいで、太ももからは血が大量に溢れでる。
『Boost!!』
三度目の音声。今度は最初に比べてとても強い魔力を感じる。
「……大したものね。私の光は濃度が濃い。だから派手さはないけど、与える痛みは見た目以上。それを抜くなんてね。でもそれまでね、光があなたに与えたダメージはすでに死んでもおかしくないレベルだもの」
血を流しすぎたのと激痛のあまり放心状態のイッセーだがふいにアーシアさんの方を見た。
「……こういうときって神に頼むのかな」
「?」
突然わけの分からないことを言い始める。
「でも、神様は駄目だな……俺は悪魔だし、さっき願いを聞いてくれなかったからな」
「何を言っているの?痛みのあまり壊れた?」
「じゃあ魔王さまならいいかな?……神や悪魔がいるから、一人くらいはいるだろ。魔王さまお願いします。今から目の前の堕天使を殴りたいので邪魔が入らないようにお願いします。誰の助けも何も要らないので、俺とこいつだけにしてください…………一発だけ。それだけで十分です」
今更だが普段は女性に優しいこいつがここまで言うなんて、どれだけ怒りが込み上げて来ているんだな。
そう言うとイッセーは、生まれたての小鹿の様だが、徐々に立ち上がる。
「!嘘よ!立ち上がれる筈がないわ!体の中から全身に光が巡っているのよ!」
「あぁ確かに痛い。気を抜くとすぐ意識が飛びそうなくらいな。……でもな、アーシアの為、お前を殴る為そう思うと自然と力が沸き上がってくるんだ」
目の前に来たイッセーに対し、レイナーレは恐怖の表情をしていた。
『Expiration!!』
今までとは違い力強い音声が聞こえると、イッセーの力が桁違いに跳ね上がった。
「!……ありえない。これはなんなの?その神器は持ち主の力を倍にする『龍の手』じゃないの?……どうしてあなたの力が私を越えている?この力は中級……いや上級悪魔レベルよ……!」
恐怖のあまり後ずさるレイナーレ。しかしやけくそなのか分からないが、両手に光の槍を作り、イッセーに投げる。
ブン! バシッ
しかし槍はイッセーによって簡単に弾かれる。
「嫌、嫌よ!私は『聖母の微笑』を手に入れて、至高の堕天使になったのよ!シェムハザさまやアザゼルさまから愛を頂ける存在に……!」
そう言いながら逃げようとするが、イッセーによって腕を捕まれる。
「逃がすかよ」
「私は、至高の……」
「吹っ飛べ、この堕天使!」
ドッゴォォォォン!
殴られた奴は、教会の壁に激突しそのまま外に飛んでいってしまった。
「見たかこのやろう」
イッセーはそう言って笑うが、直ぐに泣き顔になる。そう例えあいつを倒しても、アーシアさんは帰ってこない。