「あ、おーい小猫ちゃーん。こっちこっち!」
「……すみません、近衛先輩。休日に呼び出したりして」
「いいっていいって。それで?今回の用件は?」
「……はい。取り合えず着いてきてください」
おれは教会の二人が来た次の日、小猫ちゃんと駅前で待ち合わせをした。なんでも一緒に来てほしいとのことなんだ。
不思議に思ったが、休日に小猫ちゃんと会える喜びの方がでかく二つ返事でオッケーした。
向かった先は喫茶店。しかも外に座る席がある所。お互いケーキと飲み物を注文する。
「それで?今回の用件は?」
先ほどと同じ質問をする。
「……ちょっと待ってください。もう少しだと―――あ、来ました」
小猫ちゃんが指を差すほうを見ると、イッセーと生徒会の書記、匙元士郎が歩いてきた。
「ん?近衛じゃねぇか。どうしたんだ?こんなとこで」
「いや、お前らこそどうしたんだよ二人して。おれは小猫ちゃんに連れられここまで来たんだ」
「いや、俺はちょっとこいつに頼みたいことがあってさ」
挙動不審なイッセー。その態度に少しイラッと来て冷たく当たる。
「なんだ?それはおれたち同じ眷属には言えないことか?」
「そういうわけじゃない。……あーもう分かったよ。この際だ、近衛たちにも手伝ってもらうよ」
「初めからそうすればいいんだよ」
イッセーと匙も席に座り、みんな分の注文品が届くとイッセーが切り出した。
「聖剣エクスカリバーの破壊許可を紫藤イリナとゼノヴィアからもらう」
…………………………。
『えぇぇぇぇぇええ!?』
イッセーの言葉におれと匙だけでなく小猫ちゃんも声をあげて驚く。
「お、おいイッセー。それって……」
「ああ、捉え方では一時的とはいえ神側と手を組むということだ。だから、部長たちには内緒にする」
強い眼差しでおれを見る。イッセー、お前そこまで木場のことを……。
「よし!わかった!木場のためだ、おれも一肌脱ごう!」
「……私も賛成です。祐斗先輩のためですから」
「ありがとう近衛、小猫ちゃん!」
しかし、おれたちとは反対に匙の奴は断固拒否していた。
「そ、そんなことできるか!エクスカリバーなんて破壊してみろ!会長にどんなことされるか……!」
体をガタガタ震わせ怯え始める匙。え?会長ってそこまで怖いの?
「頼む匙。俺の知ってる悪魔のなかで頼めるのはお前しかいないんだ」
「む、無理だ!今回はお前の頼みでも無理だ!お前んとこのリアス先輩は厳しくて優しいけど、俺のとこの会長は厳しくて厳しいんだよ!」
そう言って逃げ出そうとする匙。しかし小猫ちゃんに服の裾を捕まれ足を動かしても前に進めない。
そこまでとは。おれ、部長の眷属でマジ良かったよ。
「なあ、近衛と小猫ちゃんも木場が聖剣計画の犠牲者で、エクスカリバーに恨みを持っているのを知ってるよな?」
イッセーの質問に首肯する。
「彼女たちが俺たちのとこに来たとき、最悪破壊してでも回収したいみたいなことも言ったよな?」
「……はい、そうですね」
「なんだ、お前が言いたいのはその奪還作戦を手伝わせてほしいってことか?」
「そう、木場を中心にな。そしてそこでエクスカリバーに打ち勝って、想いを果たしてほしいんだよ」
なるほど、それは良い名案だな。おれもいつもの木場に早く戻ってほしいからな。
「木場はエクスカリバーに勝って、自分と昔の仲間の復讐を果たしたい。ゼノヴィアたちは堕天使たちからエクスカリバーを破壊してでも奪いたい。意見は一致している。あとは彼女たちが俺らの言葉に耳を傾けてくれるかどうか」
「……難しそうですよね」
小猫ちゃんの言う通りだな。悪魔のおれたちの言葉を素直に聞いてくれるかな。
「その前に、あいつら見つけられんのか?」
「まぁ、あては無いこともない」
自信がありそうでない顔で言うイッセー。心配だな。
しかし、その心配とは裏腹に彼女たちは簡単に見つかった。イッセーが向かった先は人通りが多い所だった。そこで祈りを捧げている白いローブの二人。
「マジかよ……。あいつら何でこんなとこにいんだ?」
「まぁ大方イリナが変なやつに騙されて、お金を無くして恵みをもらってるってとこじゃないか?」
いやいやいや、仮にも教会からの刺客がそんなバカなこと―――。
「まったく、何故こんなことをしなければならん。もとはといえばイリナ、お前が詐欺まがいのその変な絵を購入するからだ」
「何を言うの!この絵には聖なるお方が描かれているのよ!展示会の関係者もそんなことを言っていたわ!」
…………イッセーの言う通りだわ。キリスト教徒ってみんなあんなんなの?
「……どうする?あいつら。あ、喧嘩始めたぞ」
多分さっきの絵が原因だと思うがお互い顔をぶつけながら喧嘩をしている。すると、
ぐぅぅぅぅぅ……。
少し離れているおれたちにも聞こえるほどの腹の虫。相当腹が減ってんだな。
「よし、せっかくだ。食事に誘うか。そうすれば恩を売ることもできるからな」
お、意外と悪どいことを言いますねイッセーさん。さすがは悪魔です。
イッセーの提案で決まり、彼女たちを食事に連れていくこととなった。のだが……。
「うまい!日本の食事はうまいぞ!」
「うんうん!これよ!これが故郷の味なのよ!」
いやー食べること食べること。小猫ちゃんにひけをとらないのではないか?
「…………」ゴンゴン
痛い痛い。無言で殴らないで小猫ちゃん。てか人の心を勝手に読まないで!
食事代が気になりイッセーに尋ねると、
「頼む近衛。一緒に払ってくれ!」
お願いされちゃった。まぁいいか。後で木場に請求しとこ。
一通り食べ終えたのか箸を置く二人。
「ふぅー、まさか悪魔に助けられるとは。世も末だな」
おいおい、食わせてもらってその態度か。なんて傲慢な。
「あー主よ。この心優しき悪魔たちにお慈悲を」
ズキッ
『うっ!』
目の前で十字を切られダメージを受けるおれたち。悪魔って意外と不便だな。まぁ普通は敵対する勢力とは一緒にいないからな。
「で、用件はなんだ?まさか本当に食事を奢るだけじゃないよな」
さすがは教会から派遣された者だな。ここらへんは鋭い。
「ああ、あんたの言う通り目的があって接触した。……エクスカリバーの破壊を協力したい」
イッセーの言葉に目を丸くする二人。敵対する勢力から協力を申し出られるとは思ってなかったみたいだな。
しばらく考え込む二人。すると、ゼノヴィアが、
「そうだな、一本くらいなら任せてもいいだろう。ただし、正体はバレないようにしてくれ。こちらもそちらと関わりをもっているように上にも敵にも思われたくない」
おおっと案外すんなり言ったな。コイツらも二人だけじゃ難しいって思ってたのかな?
「そうね、私もいいと思うわ。でも悪魔の力を借りるなんて背信行為よ」
「そうだ。だから悪魔の力を借りず、ドラゴンの力を借りる。それにそちらの彼も話によれば九尾の力を有しているしな」
おれとイッセーをそれぞれ指差す。確かにおれたちには悪魔以外の力がある。それを借りることにすれば悪魔の手を借りたことにはならないかもな。意外と頭良いなこいつ。
「それもそうね」
イリナも賛成のようだ。今回の作戦の始まりは上出来だな。
「よし、商談成立だ。じゃあ今回の主役を呼んでいいか?」
そう言ってイッセーは携帯を取り出す。誰を呼ぶかなんて目に見えてるけどな。
しばらくすると木場がやって来た。先ほどの話を説明すると、
「……話はわかったよ」
「じゃあ!」
「うん。でも正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」
「ずいぶんな言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬りすててるところだ」
睨み会う両者。こんなとこで勝負なんて始めんなよ!?
「やっぱりまだ恨んでいるのね。でもあの計画のおかげで研究は飛躍的に進んだわ。だから私やゼノヴィアみたいな聖剣使いが生まれたのよ」
「だからと言って用済みになったら殺してもいいのかい?」
木場の言葉は最もだ。神に仕えし者がそんなことをして良いわけがない。
「その事件は我々の間でも最大級に嫌悪されている。当時の責任者は信仰を疑われ、異端の烙印を押されたよ。今では堕天使側さ」
「……堕天使を追えば辿り着くことができるか。その者の名は?」
「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男さ」
それを聞いた木場の瞳には新たな決意が浮かんだ。目標がわかったんだから当然か。
「情報感謝する。僕からも一つ。先日、エクスカリバーを持った者と戦った。名はフリード・セルゼン」
木場の言葉に匙以外の人の動きが止まる。彼女たちもあいつのことを知ってるみたいだ。
「……フリードか。これまた厄介な。あの時の処理班の尻拭いを私たちがするのか」
忌々しい感じで言うゼノヴィア。いろんな方面で嫌われてますね、あの方。おれはほとんど知らないけど。
「取り合えず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう。何かあったらここへ連絡をくれ」
メモ用紙に連絡先を書いて渡してくる。お返しにイッセーも書こうとしたら、
「あ、イッセーくんの連絡先はおばさまからいただいてるわ」
「マジかよ!何してんの母さん!?」
あらあら、個人情報勝手に売られてるよ。世の中って怖いね。
「ではこれで失礼する。食事の礼はいつか必ずする」
「じゃあねぇイッセーくん。また会いましょう!」
去っていくゼノヴィアとイリナ。二人の姿が見えなくなると安堵のため息をつく。
「はぁぁぁ~。なんとか成功したな。最初はどうなるかと冷や冷やしたよ」
「そうだな。でもこれで木場の想いを達成するのに一歩前進だな」
「イッセーくん、近衛くん、小猫ちゃん。どうしてこんなことを……?」
今だ怪訝な様子の木場。まったく、お前はそんなことも言わなきゃ分かんないのか?
「同じ眷属で仲間だ。お前を手助けするなんてそれだけで十分だ」
「近衛の言う通り。それにお前にもしものことがあれば部長が悲しむからな」
「でも……」
それでもなお納得しない木場。そんな木場に小猫ちゃんが、
「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」
寂しげな表情をする小猫ちゃん。しかも普段は無表情の小猫ちゃんだから、木場だけでなくおれたちにも衝撃的だった。
「……お手伝いします。……だから、いなくならないで」
…………………………。
ブバッ! ドバトバ
小猫ちゃんの訴え。やばい。これはマジでやばい。可愛すぎる!直接ではなく周りから見ているだけなのにこの威力。鼻血が止まらなすぎるよ。だれか輸血パックを……。
木場もその姿に観念したらしく、
「はは、小猫ちゃんにここまで言われたら僕も無茶はできないよ。わかった。今回はみんなの好意に甘えさせてもらうよ。おかげで真の敵もわかったしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」
おお!木場もやる気になってくれたよ!
小猫ちゃんも安堵したようで、小さく微笑んでいた。その姿がまたしても可愛くて、おれの鼻血は止まる気配がない。あ、目が霞んできやがった。頭も痛くなってきたし、そろそろ本格的にやばいかな?
「大丈夫か?近衛。出血量尋常じゃないぞ」
「あ、イッセー。お願いだ……救急車か輸血パックをくれないか?」
「……変態な先輩にはどちらも必要ありません」
さっきの顔が嘘のような冷たい瞳でおれを見てくる小猫ちゃん。って冗談抜きでやばいです。マジでお願いします。
「取り合えず、外に出よっか」
木場の言葉に周りを見てみると奇異な目で見られてた。