「完成だ。四本のエクスカリバーが一本となる」
バルパーの言葉にそちらを見ると、グラウンドの真ん中にあった四本のエクスカリバーが激しく光始めた。
その光はさらに輝きを増して、おれたちは顔を覆った。目を凝らして見てみると、四本のエクスカリバーが重なり一本となっていく。
遥か昔に七つにわかれし伝説の聖剣のうちの四本が一つとなる。
光が収まるとそこには、神々しい光を放つ一本の剣があった。
「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。あと二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」
バルパーの言葉に衝撃を受ける。
な、なんだって!?あと二十分もしないうちに学園だけじゃなく町も吹き飛ぶのか!嘘だろ!?
「フリード」
「あいあいさー」
コカビエルに呼ばれ現れるフリード。
「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで戦って見せろ」
「ヘイヘイ。まーったく、俺のボスは人使いが荒くてさぁー。でも、チョー素敵仕様になったエクスなカリバーちゃんを扱えるなんて光栄の極み!なんちゃって」
イカレた笑いをしながらエクスカリバーを握る。四本まとまっても扱えんのかあいつ!
そんな中バルパーに近づく人影が一つ。木場だ。
「ん?貴様は何者だ?」
「僕は『聖剣計画』の生き残り……いや、正確にはあなたに殺された身だ。悪魔に転生したことで生き永らえている」
静かに告げる木場だが、その瞳には憎悪の炎が宿っている。今にも斬りかかりそうだ。
「ほう。あの計画の生き残りか。被験者の中で一人脱走したと聞いていたが……まあいい。君たちのおかげで計画は完成したのだからな」
「完成?僕たちを失敗作だと断じて処分したじゃないか」
木場の言う通りだ。部長やゼノヴィアが言うにも失敗したからこそ被験者たちは殺された。それを完成?
「確かに君たちの因子はエクスカリバーを扱うまでの数値は示さなかった。考えた末、私は一つの結論に至ったのだよ。『因子だけを抽出し、一つにすることはできないか?』―――とな」
懐から青い何かを取り出すバルパー。
「そして結晶化することに成功した。これはあの時の因子を結晶化したもの。最後の一つとなってしまったがね!」
「ひゃはははは!俺様以外の奴は途中で体が因子についていかずに死んじまったけどな!うーん、そう考えると俺様スペシャルだねぇ」
「あれは……!」
バルパーが持つ結晶とフリードの言葉から何かを理解したゼノヴィア。
「なるほど、イリナたち聖剣使いが祝福を受ける時体にあのようなものを入れていたが、因子の不足分を補っていたというわけか」
「偽善者めらが。私を異端として排除しておきながら研究だけはあつかましくも利用しやがって。どうせあのミカエルのことだ。被験者から因子を抜き取っても殺してはいないだろうがな」
おいおい、その言い方だと木場たちだって殺さなくてもいいんじゃなかったのか?
「なら、僕らだって殺さなくてもよかったはずだ。……どうして!」
「お前らは極秘計画の実験材料に過ぎん。用済みになれば廃棄するしかなかろう」
なんて奴だ!自分たちで勝手に利用して用済みになったら廃棄だ!?こんなクズ、木場じゃなくても殺したくなる!
「……僕たちは主のためと信じてずっと耐えてきた!……それを実験材料?廃棄?」
木場の手が震え、怒りと哀しみから生みだされる魔力のオーラが全身を覆った。
「ひどい……」
アーシアさんが呟き涙を流していた。
「ふん、欲しければくれてやる。今や環境が整えばもっと精度のいい因子の結晶を作れる段階まできているからな」
そう言ってバルパーは木場の方に結晶を投げる。それを木場は優しく手に取った。哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに、その結晶を撫でていた。
「……みんな……」
木場の頬を涙が伝っていく。その表情は悲哀に満ち、そして憤怒の表情を作りだしていた。
「……バルパー・ガリレイ。自分の研究、自分の欲望のために、どれだけの命を弄んだんだ……」
木場が言うとその言葉に反応するように、木場の持つ因子の結晶が淡く光だした。
その光はグラウンドを照らし、地面の各所から青い光の様なものが浮かんできた。それらは次第に形を成していった―――人の形を。
「あれは……?」
「この戦場に漂う様々な力が、そして祐斗くんの心の震えが結晶から魂を解き放ったのです」
イッセーの言葉に朱乃先輩が教えてくれる。そうか。じゃああの人たちは、木場と一緒に聖剣計画に身を投じられた者―――処分された者たちか。
木場は彼らに気づき、哀しそうな懐かしそうな表情で見つめた。
「みんな!僕は……僕は!……ずっと……ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていていいのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていていいのかって……」
その言葉に全員が優しく微笑む。
『大丈夫』
『みんな集まれば』
『受け入れて』
『僕たちを』
『怖くない』
『たとえ神がいなくても』
『神様が見てなくても』
『僕たちの心はいつだって』
「―――ひとつ」
パァァァァァァ
彼らが青白い光を放ちだし、木場を中心に眩しくなっていく。そして歌が聞こえてきた。
「……聖歌」
アーシアさんが呟く。
聖歌を歌う木場は、まるで幼い子供のように無垢な笑顔に包まれていた。
おれたち悪魔は聖歌を聞けば苦しむ。そのはずなのに彼らが歌うその歌は優しく、温かい。友を同志を想う、温かなもの―――。
おれたちは自然と涙が溢れ止まらなかった。
よりいっそう輝きが増すと、それらは木場の中に収まっていった。
「……彼らは……同志たちは僕に復讐なんて望んでいなかった。それでも僕は目の前の邪悪を打ち倒す。……第二、第三の僕たちを生まないために!」
「ふん、研究に犠牲は付き物だと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」
まだそんなことを言うか。やっぱりお前はいてはいけない人間だな。
「木場!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩け!お前は、リアス・グレモリー眷属の『騎士』で、俺の仲間だ!俺の友達だ!戦え木場!あいつらの想いを無駄にすんな!」
「祐斗!やりなさい!自分で決着をつけるの!エクスカリバーを越えなさい!あなたはこのリアス・グレモリーの眷属なのだから!私の『騎士』はエクスカリバーごときに負けはしない!」
「祐斗くん!信じてますわよ!」
「……祐斗先輩!」
「ファイトです!」
「お前の力を見せてやれ!」
みんなで木場に激を送る。あいつはそれに頷いた。
「ははは!何泣いちゃってんの?あぁ、最悪。俺的あの歌大嫌いなんだよね。聞くだけでお肌がガサついちゃう!もう嫌。もう限界!てめぇを斬り刻んで気分爽快しちゃいましょう!」
今だ憎たらしい笑みを浮かべるフリード。
「―――僕は剣になる。部長、仲間たちの剣となる!今こそ僕の想いに応えてくれ!『魔剣創造』ッッ!」
木場の想いに、願いに、あいつの神器が応える。木場の魔なる力、同志たちの聖なる力。二つの力が混ざりあい新たな剣が生まれる。
「―――禁手、『双覇の聖魔剣』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」
禁手を果たした木場のもとにゼノヴィアが近寄る。
「リアス・グレモリーの『騎士』、共同戦線が生きているならば、あのエクスカリバーをともに破壊しようじゃないか」
「いいのかい?」
「最悪、私はあのエクスカリバーの核になっている『かけら』を回収できればいい。フリードが使っている以上、あれは聖剣であって、聖剣ではないからね」
「そういうことなら了解した」
笑いあう二人。あいつら意外と仲がいい?
木場の承諾を得られたゼノヴィアは突然右手を宙に広げた。そして何かの言霊を発し始める。
「ぺトロ、バシレイオス、デュオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
すると、それに反応するように空間が歪みそこから一本の剣の柄が現れる。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。―――デュランダル!」
ギャリィィィィン!
異空間より現れる新たな聖剣。エクスカリバーと並ぶ有名な聖剣デュランダル。その登場にこの場にいる全員が絶句していた。
おれはそれを見て木場たちの心配が無くなった。だから、一つの覚悟を決める。それは―――。
「おい、そこの堕天使」
「何だ?」
「おれとちょっと勝負してくれないか?」
『なっ!?』
コカビエルとの一騎討ちだ。それには当然部長たちは驚愕し、当のコカビエルも僅かながら驚いていた。
「近衛!何を言ってるの!?そんなことをしても勝てるわけがないじゃない!」
『そうだ!リアス・グレモリーの言う通りだ!今のお前の実力じゃ死ぬのが目に見えてるぞ!』
部長と九十九から猛反対を食らう。そこまではっきり言わなくても……。流石に傷つきますぜ?
「そうは言っても部長。このまま魔王さまを待ったとしてもその前におれたちの町は消えてなくなります。それよりなら可能性があるほうにおれは懸けたいんです」
決意を持った強い眼差しで部長を見据える。それでもまだ反対しようとする部長。
「で、でもあなた一人じゃ―――」
「ほぉ、大した度胸だ。いいだろう。勝負してやる」
部長の言葉を遮りコカビエルが降りてくる。
「それはお褒めにあずかり光栄です」
「そんなご託はいい。さっさとかかってこい」
「じゃあお言葉に甘え……て!」
素早く『九尾化』と神器を発動し、全ての力を『疾風』で速さに換え駆け出す。今は前と違って尾が一本ではなく三本だ。
「!」
爆発的な瞬発力のおかげでコカビエルからは一瞬おれの姿が見えなくなっただろう。そのまま懐へと潜り込む。
「先手必勝!」
叫び、今度は『剛力』を発動し腹を思いっきり右手で殴る。
ドン!
衝撃で奴の体が浮く。チャンスだ!と思い、左手で顔を横殴りする。足払いをしてコカビエルの体が地面につく瞬間、回り蹴りで奴の顔面を蹴る。そのままコカビエルは遠くまで吹っ飛んだ。
「はぁ……はぁ……ど、どうだ?」
九十九の力を連続で違うのを使ったから体力の消耗が激しい。それでなくても『九尾化』は常に体力を消耗し続ける。
このまま気絶して欲しいと思ったが、当然そんなことはなくコカビエルは平然として立ち上がった。
「痛いな。下級悪魔にしてこの威力。……くくく、おもしろい。おもしろいぞ小僧!もっと俺を楽しませろ!」
おれの攻撃がまったく聞いていないようで高らかに笑う。あれらは一つ一つ『兵士』であれば一発KOできる自信はあったんだけどな。流石は古より戦い続ける堕天使だ。
「今度はこっちから行くぞ!」
そう言って手に光の剣みたいなもの作り出し構えると―――消えた。
「マジかよ!?」
とっさに『堅牢』を発動して腕をクロスにする。そこにコカビエルの光の剣が容赦なく降り下ろされる。
ガッ! ジュゥゥ
「痛ッ!」
「ほぉ、これも防ぐか。さらに楽しくなりそうだ!」
二本目の剣も作り出し二刀流で剣を振るう。おれはそれを『堅牢』と『疾風』の同時発動し、神器で光の力を弱め何とか防ぐ。
「楽しいな!そうだろ?小僧!」
「くっ!……それはてめぇだけだ!」
強引に奴の剣を弾き、『剛力』を発動して力、速さ、堅さの三つを合わせ顔を殴る。
「ごはっ!……やるじゃねぇか!そうこなくてはな!」
今の一撃は効いたらしく一瞬動きが止まる。しかしすぐに復活して再び剣を振るう。先程よりも速く。
『九尾化』で三つを同時発動したからもう体力が尽きかけている。そのせいで少しずつ対処出来なくなり、おれの体に奴の剣が届いた。
「ぐはっ!」
その攻撃は意外と痛く、斬られたところから力が抜けていき膝をつく。
やばい!殺られる!と思ったが追撃の一太刀はこなかった。それどころか奴はわけわかんないことを言ってきた。
「ふむ……。お前、ここで殺すには惜しいな。鍛え上げればいい勝負が出来るだろう。どうだ、俺と一緒に来ないか?」
「………………はい?」
えーと、こいつは今おれを堕天使側に勧誘しましたか?敵であるおれを?
コカビエルの質問の意図を理解しかねていると部長が批判の声をあげた。
「な、何を言っているの?コカビエル!そんなことさせる―――」
「黙れ」
またしても部長の言葉を遮る。そして再度おれに問う。
「どうする?小僧。貴様が一緒に来ればこの地に仕掛けた魔方陣を解いてやってもいい」
「―――ッ!おれは……」
一緒に行けばこの町と部長たちの安全が一時的とは言え保証される。でもおれが行かなければこのままこいつには勝てずこの町もろとも部長たちも死ぬ。おれは……。
葛藤の末出した答えは、
「……分かった。お前と一緒に―――」
「近衛先輩!」
一緒に行く。と言おうと思ったら、小猫ちゃんに呼ばれた。
「……私は、先輩がいなくなるのは嫌です。先輩だけじゃない部長、朱乃さん、祐斗先輩、イッセー先輩、アーシアさん。眷属の誰か一人でも欠けるのは嫌です。……だから……ずっと一緒にいてください!」
「そうよ近衛!あなたが行かなくてもこの魔方陣なんてすぐに解除してやるわ!」
「近衛くん!堕天使の所になんて行ってはダメです!」
「近衛さん!」
「ついてったら一生恨むからな近衛!」
小猫ちゃんに続いて眷属みんなで止めてくれる。おれはそれに涙を流した。
何を言おうと思ったんだ、何をしようとしたんだおれは。こんなにも最高な仲間たちを裏切ろうとして……。初めから答えなんて決まってたんだ。
「コカビエル。おれはお前と一緒に行かない。仲間たちとともにお前を倒す!」
「……そうか。ならば―――死ね」
剣を振り上げ、ためらいなく降り下ろす。