おれは降り下ろされる剣を見て逃げようとするが体が動かない。そして死を覚悟する。
(あぁ、おれここで死ぬんだな。やり残したことはたくさんあるし、こんなことなら気持ち伝えとくんだった。)
眼前に迫る剣を見ながらそんなことを思い、目をつぶる。がしかし、
ガキィン!
剣と剣のぶつかり合う音がしてすぐ目を開ける。そこには……、
「木場!」
「やぁ、近衛くん」
おれたちの『騎士』がいた。
「お前フリードは?バルパーは?」
「フリードはゼノヴィアとともに倒したよ。バルパー・ガリレイはまだだけど、仲間のピンチだからね。来ないわけにはいかないさ」
そう言って苦笑する木場。おれはその言葉を聞いて目頭が熱くなった。それに追い打ちをかけるように木場が、
「僕も君がいなくなるのは嫌だ。イッセーくんと小猫ちゃんと一緒にメリットがないのに、バレたら部長に怒られるのに。それなのに僕のために動いてくれた。ありがとう」
「グスッ。……へっ、お礼を言うにはまだ早いぞ。あいつらを倒して全てが終わってから、部長にもイッセーにもみんなに言わねえとな」
「……うん、そうだね!」
笑い合うおれたち。するとバルパーが突然何かに気づいたようで大声を出した。
「……そうか!わかったぞ!聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとすれば説明はつく!つまり、先の大戦で魔王だけでなく、神も―――」
ズンッ。
バルパーに光の槍が突き刺さる。投げたのはコカビエルだ。
「バルパー。お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているがゆえだろうな。―――だが、俺はお前がいなくても別にいいんだ。最初から一人でやれる」
消滅していくバルパーに向かって言うコカビエル。手を組んでいるだけとはいえ一応仲間なはず。それをこんなに簡単に殺すなんて……。やっぱりこいつはここで倒しておかねぇと!
動かない体に葛を入れる。おかげで立つことは出来た。でも、足も腕も全身ガクガクいってる。無理した代償か。ははは……。
「ほぉ、立ち上がるか。やはり貴様はおもしろい。―――だが、貴様の実力では俺を倒せない。おい、赤龍帝の小僧」
「なんだ」
「力を最大まで高め、誰かに譲渡しろ」
おれを無視して後ろにいるイッセーにそんなことを言った。それに対し部長がイッセーに指示をだす。
「……イッセー、神器を」
「わかりました。ブーステッド・ギア」
『Boost!!』
力の倍加が始まる。つまり、コカビエルの誘いに乗ったのだ。部長としては悔しいだろうけどこうするしか方法はない。
それから数分間、グラウンドには力の増加を告げる音だけが響いた。そしてついにその時がきた。
『Boost!!』
「きました部長。誰に譲渡を?」
「私に。イッセー!」
「わかりました!ブーステッド・ギア!ギフト!」
『Transfer!!』
手を握り合う部長とイッセー。その姿には何処か力が湧く感じがして体の震えが少し収まった。そしてイッセーの手から部長に力が譲渡され、部長の纏う紅いオーラが膨れ上がる。
その全てを手に集め巨大な滅びの魔力の塊を作る。それを見てコカビエルはバカ笑いする。
「フハハハハハ!いいぞ!その魔力の波!俺に伝わる力の波動は最上級悪魔の魔力だ!もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー!お前も兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」
「消し飛びなさいッッ!」
叫び、魔力を放つ。それはさらに大きさを増してコカビエルを襲う。あれを食らったらほとんどの敵は消し飛ぶ。それくらいの威力を持っていると思う。だが奴は両手を付きだし正面から受け止める。
「おい!マジかよ!?」
「おもしろい!おもしろいぞ、魔王の妹!サーゼクスの妹!」
しかし、さすがの堕天使の幹部も無傷とはいかず受け止めている手から腕から血が吹き出している。それでも部長の魔力は徐々に小さくなっていき最後には消滅した。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする部長。あれだけの魔力を放ったんだ。部長でも連発は無理だろう。でも奴は手負いになった。ここで一気にかたをつけたい!
「雷よ!」
すると、朱乃先輩が奴に向かって天雷を放つ。
しかし、コカビエルはそれを翼で払うだけで簡単に消してしまう。
「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿す者よ!」
「……私をあの者と一緒にするなッ!」
朱乃先輩は目を見開き珍しく激昂する。雷を連続で放つが全て消されてしまう。
バラキエル?確かその名は堕天使の幹部であったはず。『雷光』の二つ名を持つ雷の使い手でもあったかな?そいつの力を宿すということは……もしかして!
「悪魔に堕ちるとはな!ハハハ!まったく、愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ!赤龍帝、九尾と人間のハーフ、禁手に至った聖剣計画の成れの果て、そしてバラキエルの娘!お前も兄同様ゲテモノ好きのようだ!」
なっ!それ本当か!?朱乃先輩が堕天使の娘!?
朱乃先輩を見てみると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。他の人は驚いていたり、平静を保っていた。
「兄の―――我らが魔王への暴言は許さないっ!何よりも、私の下僕への侮辱は万死に値するわっ!」
部長の言葉にコカビエルは鼻で笑い、挑発的な物言いをする。
「ならば滅ぼしてみろッ!魔王の妹!『紅い龍』の飼い主!紅髪の滅殺姫よっ!お前が対峙しているのは、貴様ら悪魔にとって長年の宿敵なのだぞ!?これを好機と見なければお前の程度が知れるというものだ!」
「おい、そこの堕天使」
イッセーがコカビエルに話しかける。
「なんだ?」
「それ以上部長や朱乃さんにふざけたことを言ってみろ。俺がてめぇを完膚なきまでに倒す!」
『Boost!!』
キレる寸前のイッセーの言葉に顔を赤らめる部長と朱乃先輩。イッセー、お前こんなときにまで好感度上げてどうすんだよ。まぁ、それのおかげでまた動くことが出来そうだけどな!
木場とゼノヴィアが頷き同時に駆け出す。それに続くようにおれと小猫ちゃんも。
「兵藤一誠!私たちで時間を稼ぐ!」
「イッセーくんはパワーを!」
「わかった!」
『Boost!!』
「ぬあぁぁぁあ!!」
「はあぁぁぁあ!!」
ゼノヴィアが左から、木場が右から斬りかかる。奴はそれを両手に光の剣を出現させ防ぐ。
「聖剣と聖魔剣の同時攻撃か。おもしろい!」
笑うコカビエル。それだけじゃないぜ!
「そこ!」
「おらぁぁ!」
小猫ちゃんが後ろから、おれは前から攻撃する。四方向からの攻撃!どうだ!
「甘いわ!」
しかし、奴は翼を鋭い刃物と化しておれたちを斬り刻む。特に後ろにいた小猫ちゃんは傷が酷く、鮮血が噴きだしていた。
「小猫ちゃん!」
吹き飛ばされながらも体勢をなんとか立て直し、小猫ちゃんに駆け寄ろうとする。が膝から崩れ落ちる。
「がっ!……くそっ!」
なんでこんなときなんだよ!あの子が倒れてんじゃねぇか!動けよおれの体!
『近衛、お前の体はもう限界だ。『九尾化』した上で全ての力を使ったんだ。体への負担が半端じゃない』
(そんなことわかってるさ!わかってる上で使ったんだよ!でもそんなこと言ってられないだろ!?好きな子が倒れてんだよ!力を貸してくれ、九十九!)
『そうは言っても俺にはお前の体を動かせるような力は無い。残念だが今回は諦めろ』
無情にもそんなことを言う九十九。確かにこいつの言う通りだ。だけど……だけど!
おれは自分の力の無さを呪った。好きな子一人助けられない。そんなんで大切な人を全員守ることなんて出来ない。
小猫ちゃんのもとにはアーシアさんとイッセーが駆け寄っていた。アーシアさんの神器で小猫ちゃんの傷を癒していく。これで彼女の命は助かるだろう。
でも今だ絶望の状況は変わらない。木場が何度もコカビエルに斬りかかるが全て容易くいなされてしまい吹っ飛ばされる。
「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、お前たち神の信者と悪魔はよく戦う」
突然コカビエルが意味深な言葉を発する。仕えるべき主?それって神と魔王のことか?
部長も怪訝そうな顔をしながら聞き返す。
「……どういうこと?」
すると、コカビエルは心底おかしそうに笑いだした。
「フハハ、フハハハハハハハハハハハ!そうだったな!そうだった!お前たち下々まであれの真相は語られていなかったな!なら、ついでだ。教えてやるよ。先の三つどもえの戦争で四大魔王とともに神も死んだのさ!」
『―――ッ!』
その場にいる全員が驚愕の顔をした。
「う……嘘だ」
「神が……死んでいた?バカなことを……。そんな話聞いたことがないわ!」
部長とゼノヴィアが信じられないという風に言う。
「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失い、天使も堕天使も幹部以外のほとんどを失った。もはや純粋な天使は生まれることができず、悪魔だって純血種は貴重なはずだ」
おれたちに言い聞かせるように伝える。
「どの勢力も人間に頼らねば存続出来ないほどに落ちぶれた。天使も堕天使も悪魔も、三大勢力のトップどもは神を信じる人間を存続させるためにこの事実を封印したのさ」
「……嘘だ……嘘だ」
ペタッ
ゼノヴィアが膝から崩れ落ちる。それでも続けるコカビエル。
「だが、そんなことはどうでもいい。俺が耐えがたいのは、神と魔王が死んだから戦争継続は無意味だと判断したことだ!―――耐えがたい。耐えがたいんだよ!一度振り上げた拳を下ろせだと?あのまま戦争を続けていたら俺たちが勝てたはずだ!アザゼルの野郎も二度目の戦争はないと宣言する始末だ。ふざけるなッッ!」
怒りを撒き散らしながら自分の思いを叫ぶ。そんな奴にアーシアさんが口を開く。
「……主はもういらっしゃらない。それでは、私たちに与えられる愛は!?」
「ふん。ミカエルはよくやっているよ。神の代わりとして天使と人間をまとめているのだからな」
「……大天使ミカエルさまが神の代行だと?では我らは……」
「システムさえ起動していれば祈りも悪魔払いもある程度は機能するだろうさ。―――ただ、神がいる頃に比べ、切られる信徒の数が格段に増えたがね」
その言葉にアーシアさんが気絶する。
「アーシア!」
「無理もないだろう。私自身こうして気を保っていられるのが不思議なくらいだ」
「聖と魔。それぞれをつかさどるバランスが大きく崩れているから、そこの聖魔剣みたいなイレギュラーな存在が生まれる。本来、聖と魔は混じり合うことがないからな。……貴様らの首をみあげに俺だけでもあの時の続きをしてやる!」
そんなことはさせたくねぇが、おれの実力じゃ何にも出来ねぇ。相手は聖書にも記されている奴だし、その敵たちも各勢力のトップだ。おれたちだけじゃ……。
みんなが絶望に打ちひしがれる中、あいつだけはコカビエルの前に立ちふさがった。―――イッセーだ。
「ふざけんな。お前の勝手な言い分で俺の町を、俺の仲間を、部長を、アーシアを消されてたまるか!俺は大切な人たちと幸せに暮らせる世界を創るのが夢なんだ!邪魔はさせねぇ!」
ぶちギレ、赤いオーラを纏いながら堂々と宣言する。
「幸せに暮らせる世界ねぇ。今代の赤龍帝はそれがお望みか。ならば俺を倒してみろ。でなければその夢は叶えられんぞ?」
「上等だ!お前を倒して夢への一歩を歩きだす!」
挑発するコカビエルにイッセーが駆け出した瞬間、上空から声が聞こえた。
「―――ふふふ、おもしろいな」