「冗談じゃないわ」
おれが小向さんの依頼をこなした次の日、部長は部室でそんなことを言って怒りを露にしていた。ちなみに今の部長の体勢はイッセーを膝枕している。この光景は前から何度か見ているので軽く見慣れてきた。
そういうおれも膝に小猫ちゃんを乗せているがな。最近ていうか付き合い始めてから小猫ちゃんは今までより大胆になってきた。人前でおれの膝に座るくらいには。
それは置いといて、何故部長が怒っているかと言うと、昨日イッセーが行ったお得意様が実は堕天使の総督アザゼルだったのだ。
何故三大勢力の一角の親玉がイッセーに接触してきたのかはわからないが、決して良いことをしようってわけではないよな。それなら部長がここまで露骨に怒りを露さなくてもいいし。
「はっきりとした理由はわかんないすけど、もしかしたらイッセーの神器を狙いに来たんじゃないですか?
コカビエルが言ってた通りなら、アザゼルは異常なコレクター趣味でしかも今は神器を研究しているみたいですし」
「そうかもしれないな。アザゼルのコレクター趣味の異常さは実際昨日目にしてきたから。前に教えたゲームのハードを古いのから最新のまで全部揃えていたよ」
おれの言葉に頷きイッセ ーが続けた。てかゲームって……お前ら何やってんだよ。まぁ依頼なんて人それぞれだからな。
「それなら尚更よ。私のかわいいイッセーを堕天使の所になんて行かせるものですか。……イッセー、あなたは何があっても私が守るわ」
部長がイッセーの頭を撫でながら言った。部長は下僕に対してとても大切にする節が様々なところで見られる。今回もその片鱗が見られる。まぁ、相手がイッセーだってのもあるかもしれないが。
「ありがとうございます。部長の気持ちは嬉しいですが男としては女の人に守られるのは気が引けるので、自力でなんとか頑張ります」
部長の心配を他所にイッセーは男らしさを見せていた。それに同調するように木場が口を開いた。
「そうですよ。イッセーくんの成長のためにはそっちの方が良いと僕は思います。それにいざとなったら僕がイッセーくんを守ります。堕天使の総督が相手でも『禁手』に至った僕とイッセーくんが合わされば怖くはないからね」
恋する乙女のような目をしながらイッセーに向かって言った。それに対しイッセーは軽く体を縮こまらせる。
「あ、ああ。お前の気持ちは嬉しいが……真顔でそんなことを言うのは止めてくれ。身の危険を感じる」
「そ、そんな……。僕は別に男同士でも構わないのに……」
最後の方はごもごもと言っていてあまり聞こえなかったが、イッセーの顔色から見て微笑ましいことでは無さそうだ。……コカビエルとの一戦以来こいつも変わったよな。長年の恨み辛みを晴らすことが出来たからかな。
「それにしてもアザゼルはどうしてこの町に―――」
部長の言葉に部員ではない第三者が答えた。
「それはここで三大勢力のトップ会談をするからだよ、リアス」
部屋の中央の魔方陣が銀色に光り、その中から紅い髪をした男性と銀髪のメイド服を着た女性が現れた。どちらも嫉妬を通り越して羨望の眼差しで見てしまうほどの美しさを持っている。てかこの人たちって!
「お、お兄さま!?それにグレイフィアまで!」
そう部長のお兄さん、つまり魔王サーゼクス・ルシファーさまだ!それと魔王さまの『女王』グレイフィアさん。どちらも部長の婚約パーティー以来の再会である。
二人の姿を確認するや否や、小猫ちゃんはおれの膝から降りて朱乃先輩たちと一緒に膝をついた。おれもそれを慌てて見習う。
部長は驚きのあまり急に立ち上がる。だから膝枕されていたイッセーは当然、
ゴンッ
「イタッ!」
床に頭をぶつけていた。しかし、すぐに体勢を立て直しておれたちと同じように膝をつく。アーシアさんとゼノヴィアは魔王さまだとわからないようで立ち尽くしていた。
「アーシア、ゼノヴィア。この方は俺たち悪魔の一番のお偉いさん、魔王サーゼクス・ルシファーさまだ」
「そ、そうなんですか!?」
「ほぉ、このお方が……」
イッセーの言葉に慌てて膝をつくアーシアさんと慣れた様子で膝をつくゼノヴィア。
そんなおれたちを見て魔王さまが、
「ははは、そんな畏まらなくてもいいよ。今はプライベートで来ているのでね」
笑いながらそう言ってくれた。しかし、そうは言ってもやはり相手は魔王さま。すぐには立ち上がることが出来ない。再度、言われてやっと立ち上がる。
「やぁ、我が妹よ。そしてその眷属たち。初めての人もいるから自己紹介をしようかな。私が魔王サーゼクス・ルシファーでありリアスの兄だ。そしてこちらが私の『女王』グレイフィアだよ」
「初めまして、サーゼクスさまの『女王』兼グレモリー家の使用人グレイフィアです。お見知りおきを」
魔王さまが挨拶しそれに続くグレイフィアさん。そして今度はおれたちの番だ。
「イッセー、近衛、アーシア、ゼノヴィア。お兄さまとグレイフィアに挨拶しなさい」
部長の言葉にそれぞれ挨拶する。
「初めましてってのはおかしいかな……。リアス・グレモリーさまの『兵士』の兵藤一誠です。あの節は大変申し訳ございませんでした」
「いやいや、謝らなくてもいいよ兵藤一誠くん。両方の同意の上で行ったことだし、両家もあの結果に不満を漏らしていないからね」
その言葉を聞き、安堵したように息を吐いたイッセー。あの行動に後悔はないようだが何処か気にかかっていたようだ。
「初めまして!リアスさまの『戦車』桜近衛です。憧れの魔王さまに会えて光栄です!」
「それは良かった。何でも君は九尾と人間のハーフだそうだね。しかも父上は陰陽師の家の出だとか」
おれはそれを聞いて驚いた。何故なら父さんが陰陽師だとは部長にもましてやイッセーにすら言っていないのだから。
「あ、はい。そうです。でもどうしてそれを知っているんですか?部長にも言っていないのに」
「いや、なに。私には優秀な『女王』がいるものでね。彼女なら君たちのことで知らないことはないんじゃないかな?」
誇らしげに言う魔王さま。少し大げさだとは思うが部長の家の使用人でしかも魔王さまの『女王』だ。そこまで出来たとしても不思議ではない。
「は、初めまして!『僧侶』のア、アーシア・アルジェントです!部長……リアス・グレモリーさまには大変お世話になっています!」
「こちらこそ、リアスがお世話になっているようだからね。それに君には前々から会ってみたいと思っていたよ。リアスから送られてくる手紙に妹ができたみたいで嬉しいと何度も書かれていたからね」
「そ、そんな……妹だなんて……」
「お、お兄さま!それは内緒にしてくださいと言ったではありませんか!」
アーシアさんは嬉しさで、部長は恥ずかしさでそれぞれ赤面していた。へぇ、部長、アーシアさんのことをそんな風に思っていたんだ。以外だな。
「初めまして。私は『騎士』のゼノヴィアだ。つい先日悪魔になったばかりで無礼を働くかもしれないがご了承願いたい。……ふむ、あなたが彼の『紅髪の魔王』か。会えて光栄だよ」
「そんなとんでもない。伝説の聖剣デュランダルの使い手が妹の眷属となったと聞いたときは我が耳を疑ったよ。なんせ生粋の聖職者と聞いていたのでね」
「私もまさか自分が悪魔になるとは思わなかったよ。今思い返してもよくわからないのだ。……果たして私の選択は間違っていなかったのか?あぁ、主よ。お教えください……アウッ!」
いつものように祈りを捧げダメージを食らっているゼノヴィア。それを見て魔王さまは笑っていた。
「ははは、リアスの眷属は面白い人が多いね。退屈しなそうだ。それにしてもリアス。この部屋は何だい。年頃の娘たちが集まるにはあまりにも殺風景過ぎるのではないか?部屋中魔方陣だらけでは」
「そ、それは私たちの自由よ。それよりどうしてお兄さまがここに?それにさっきトップ会談がどうとか……」
なんとか落ち着きを取り戻した部長が魔王さまたちの来訪の理由を尋ねた。そうそう、出てきた時にそんなこと言ってたな。
「ん?連絡が来ていないのかい?おかしいな。こんな大事なことを土地の領主に教えないわけはないのに……」
「リアスさまにはご連絡いたしました。たぶん何処かで手違いがあったのかと」
二人して首を傾げる魔王さまとグレイフィアさん。連絡かぁ。そういえば今日ここに来る途中で封筒を持った怪しげな鳥を見かけて思わず捕まえてしまったな。……もしかしてそれ?
「あの~、連絡方法ってもしかして伝書鳩みたいな感じですか?」
おれの質問に全員がこちらを見る。うっ……気まずい……。
「はい。使い魔の鳥に今回の来訪の理由を書いた紙を入れた封筒を持たせ、リアスさまにお送りいたしました。ですがどうしてそんなことをお聞きになるのですか?」
「やっぱりですか……。実は……その……もしかしたらその鳥に見覚えがありまして……」
そう言って部屋の外に出ていく。廊下においてた段ボールの中から件の鳥を取りだし、部屋に戻る。
「こいつでしょうか?」
連れてきた鳥をグレイフィアさんに見せる。確認するように手にとるグレイフィアさん。
「はい。確かにこの子です。どうしてあなたが持っているのですか?本来ならこの使い魔はリアスさまの所に来るはずですのに」
その言葉で再度おれに注目が集まる。やべぇどうしよう。メッチャ気まずいよ……。
「いや……実はですね……。部室に来る途中に見かけて怪しいから捕まえたんですよ。でもその後小猫ちゃんと合流したら忘れてしまいまして……」
恐る恐る言い訳をする。だって大事な書類が入ってた封筒だよ?知らなかったとはいえ、これからのことに支障が出るかもしれないし……。
おれの言い訳に部長はため息をついた。
「はぁ~、まったく。近衛、あなたはいつもそうよね。小猫が絡むとすぐに周りが見えなくなる。昨日、何かあったら教えなさいと言ったばかりなのに。……この後少し話があるわ」
呆れた顔でお仕置きを告げる部長。普段は優しいが時には厳しい、それが部長であり、お姉さまであり、おれたちの主さまだ。
その光景に魔王さまはまた笑っていた。
「ははは、やはりリアスの眷属は楽しい人ばかりだな」
「からかわないでくださいお兄さま。それより三大勢力のトップ会談がこの町で行われるというのは本当ですか?」
「うん、そうだよ」
ふ~ん。……って三大勢力のトップ会談!?この町で!?今まで忌み嫌っていた仲なのにどうして今さら……?
おれのその疑問には魔王さまの次の言葉が答えてくれた。
「先日のコカビエルの件で三すくみの関係に少なくない衝撃を与えた。だから、一度三大勢力のトップたちが話し合った方が良いと言う意見が出てね。私もその意見には賛成だから行われることになったんだよ」
「それでどうしてこの学園に?」
事の成り行きを理解した部長が魔王さまの来訪の理由を再度尋ねた。この町で行われると言っても別にここに来る必要性は無いと思うが。それとも愛しい妹に会いに来たのかな?
「あぁ、それはね。もう少しで授業参観が行われるだろ?私もそれに参加しようと思ってね。妹が勉学に励む姿を是非一度見てみたいのでね」
「なっ!?……グ、グレイフィアね?お兄さまに伝えたのは」
驚いた後に非難の目をグレイフィアさんに向ける部長。それに対し肯定の意味で頷くグレイフィアさん。
「はい。学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュールを任されている私のもとへ届きます。むろん、サーゼクスさまの『女王』でもありますので主へ報告致しました」
それを聞き軽く息を吐く部長。授業参観に親御さんが来られるのが嫌なのか?まぁその気持ちわからなくもないけど。おれのとこは今回は来ないから関係無いが。
「報告を受けた私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。安心しなさい。父上もちゃんとお越しになられる」
それを聞きさらに気を落とす部長。うーん、確かに紅髪の男性が二人も来たら目立って大変だろうな。それにしても部長のお父さんか。婚約パーティーでチラリと見ただけだな。機会があったらちゃんと挨拶しよう。
「お兄さま。仕事を放り出してまで妹の授業参観に参加するとはどのようなお考えなのですか。いち悪魔に魔王がそんなに深く関わってはなりません!」
「相変わらずリアスは厳しいな。でも、この学園に来たのも仕事の一環なのだよ。実はトップ会談をここ、駒王学園で行うことに決定したんだ。今回来たのもそれを教えるためだからね」
魔王さまの言葉に全員が絶句した。最初に声を出したのは部長だった。
「―――ッ!そ、それは本当ですか!?」
「ああ。この学園とはどうやら何かしらの縁があるようだ。私の妹であるお前と、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、聖剣デュランダル使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。これらは偶然では片付けられない自称だ。さまざまな力がこの学園で渦巻いている。そしてそれをさらに加速的にしているのが兵藤一誠くん―――赤龍帝だと思うのだよ」
イッセーを見ながら魔王さまが言った。ドラゴンは力の塊、だから強いものを呼び寄せる。そして赤龍帝はそれらの中でも群を抜いてその特性が強い……って前に部長が言ってたな。
「そういうことだから、リアスたちにも当事者として会談で発言してもらうよ」
「え?……あ、はい。わかりました、お兄さま」
またしても魔王さまが驚き発言をしたが部長は予想していたのかそれほど驚かなかった。
「さて、これ以上難しい話をここでしても仕方がない。うーむ、しかし、人間界に来たとはいえ、夜中だ。こんな時間に宿泊施設は空いているのだろうか?」
魔王さまの質問にみんなが首を傾げる。宿泊施設か……。無いこともないだろうけど、見つけるのは時間がかかるかな~。
すると、イッセーが何かを思い付いたように顔をあげた。
「それなら俺の家に泊まりますか?」
「いいのかい?突然泊まりにいっても」
「はい。父さんも母さんも事情を言えば許してくれますよ」
「それならお言葉に甘えようかな。リアスが住んでいる先のご夫婦とは話がしたいと思っていたからね」
イッセーの提案に乗る魔王さま。これで魔王さまたちの泊まるところも確保できたな。一安心一安心。
そう思っていたおれだがこの後の部長の言葉で全身不安に刈られることになった。
「じゃあ私はこの後近衛と少し話をしていくからイッセー、お兄さまとグレイフィアの案内をよろしくね?」
「はい、わかりました部長。頑張れよ、近衛」
ポンッ
ムカつくほどに良い笑顔で肩を叩いてきやがった。くそぉぉぉ!衝撃的なことが多かったから忘れてると思ったのに!
「ははは、本当ここに来ると楽しいことが多いな。ではリアス、兵藤くんの家でね」
膝から崩れ落ちたおれを見て笑う魔王さま。この人以外とフレンドリーだな。そう思うおれであった。