「無茶苦茶だこの人」
「同感」
目の前で行われたことに唖然としながら呟く。何故なら、悪魔なのに神社の敷地内に入っていったからだ。しかもその方法が神社の聖なる力を絶大な魔王パワーとやらで跳ね返してんだからな。これを見て驚かないわけがない。
「どうしたんだい?早く来なさいイッセーくん、近衛くん」
「あ、はい。わかりました」
小走りで向かうイッセーに着いていく。しかし、鳥居をくぐる一歩手前で踏み止まる。イッセーも同様に。
「……行くか?」
「行きたいけど……」
やっぱり躊躇するイッセー。その理由は絶大な魔王パワーとやらがおれたちまで効果を発揮するのかわからないからだ。パワーを発している悪魔界最強の魔王さま、その直ぐ近くにいる上に最強の『女王』のグレイフィアさん。この二人なら大丈夫だろうけど、『赤龍帝の籠手』を持っているだけの下級悪魔のイッセー、九尾のハーフだが全然力の弱い下級悪魔のおれ。差がありすぎて正直入りたくない。
そんな風に躊躇していると魔王さまが優しい微笑みで言った。
「大丈夫。私の力で君たちも守っているから入ってきなさい」
こう言われたら入らないわけにはいかない。イッセーと二人で顔を見合い同時に頷く。そして一歩踏み出す。
トンッ
「…………はぁぁぁ」
「良かった……何ともないな」
「ははは、では揃ったことだし行こうか」
「はい」
「了解です!」
魔王さまを先頭に神社の中を見て回る。今日は神社に来ているが、ここ数日いろんな所を見て回っている。会談が行われる町がどのような所なのか今一度確かめているようだ。
例えば、ゲーセンに行ってイッセーと勝負してみたり、ハンバーガーショップで全商品注文してみたり、デパートで大量に買い物してみたりなど、一見遊んでいるように見えるがきっと冥界のことを考えての行動だろう。ただ、グレイフィアさんは行く先々でため息ついてたけど……。
初め、町の案内役としてイッセーと木場を指名されたがイッセーが、
「近衛、頼む!俺と来てくれ!サーゼクスさま!俺と近衛で町を案内します!」
って普段では見られないほどの慌てようで言ったから木場の代わりにおれが付いていくことになった。木場はとても残念そうにしていたが。
そんな風にここ数日のことを思い返していたら魔王さまが突然話しかけてきた。
「時に近衛くん。私のことを魔王と呼んでくれるのは嬉しいが、妹の眷属にはサーゼクスと呼ばれたいんだ。イッセーくんもこの前そう呼んでくれると約束したからね。まぁ、イッセーくんにはお義兄さんと呼ばれてもいいが」
笑いながら後半を冗談っぽく言う。やっぱりこの人フレンドリーだな。だったらお言葉に甘えて呼ばせてもらうかな。
「はい!わかりました、サーゼクスさま!これからそう呼ばせていただきます!」
「うん、よろしい」
満足そうに頷く魔王……もといサーゼクスさま。それにしてもお義兄さんか。遥香に彼……いやいや!あいつに彼氏なんてまだまだ早い!連れてきたとしてもおれは認めない!
新たな決意を胸に空を見上げる。そこには綺麗な青空が広がっていた。
「イッセー、今日が何の日か覚えているか?」
「愚問だな。俺がそんなことを忘れるわけがないだろ?」
朝、日が上り始める頃におれとイッセーは学校近くの公園に来ていた。おれたちはそれぞれ学校指定のジャージを来ている。これから始まる戦いには必要な服装だ。そして手にはプールに行く小学生たちが持っているバッグを持っている。そう今日は待ちに待った、
「「プール開きの日!!!!」」
一年の中で楽しみな日トップ3に入るほどの重要な日だ。ちなみに1位は衣替えの日、2位はバレンタインだ。
プール開きとは言っても学園全体ではなくおれたち、オカルト研究部だけだ。なんでも、先日のコカビエルの一件で生徒会が学園の修復をした代わりに、オカルト研究部がプールの掃除を願い出たらしい。掃除をする代わりに一番最初に使ってもいいとも言われた。
つまり、学園の誰よりも先にオカルト研究部の女子たちの水着姿が拝めるというわけだ。この事実におれたちが黙っているわけがない。
「こんな朝早くに呼び出したのは他でもない。おれたち二人で先にプールの掃除をしようと思うんだ。そうすれば、みんなが集まる頃には掃除が完了していてすぐに遊ぶことができる」
「俺たちが今掃除をすることで部長たちの水着姿が長く拝めるというわけか。それは願ったり叶ったりだ」
おれの考えを読み取ってイッセーが続けた。
「その通り。てなわけでさっそく向かうぞ!」
「おう!」
朝日をバックにおれたちはおれたちだけの戦いに向かう。
「……何をしているのかしらこの子たちは」
「あらあら、ぐっすり眠っていますわ」
「……近衛さんの寝顔……可愛い」
「こんなとこで寝ていたら風邪を引いちゃいますぅ」
「ふむ、日本ではプールに入る前に一眠りするのが習慣なのか」
「グーグー」
「スースー」
私―リアス・グレモリーが朱乃たちと共に学園のプールに着くと先客がいた。今朝起きたときから姿の見えなかったイッセーと同じく行方がわからなかった近衛が。しかも二人ともプールサイドで寝ている。
「今朝から姿が見えないと思ったら……こんな所で何してるのかしら?」
「プールの状況を見るかぎり、二人だけで掃除をしたようですわね」
朱乃の言う通り、プールは一年放置されたとは思えないくらい綺麗になっている。誰かが代わりに……ってこの子たちしかいないわよね。でもどうして二人だけで?今日は私たち全員で掃除をする予定だったのに……。
そんな風に考え込む私の様子に、今まで近衛の寝顔を間近でじっくり見ていた小猫が、
「……近衛さんとイッセー先輩の性格を考えるとたぶん―――」
遡ること二時間
「よーし、終わった~!」
「う~ん、予定より早く終わったな」
おれとイッセーが学園に着いてから三時間。時刻は丁度午前七時を回ったところだ。部長たちが来るまであと二時間くらい。さて、どうしようか。
「そうだなぁ……ふぁぁ。少し眠くなってきたし仮眠とるか?」
「それもいいな。一時間くらいしたら起きてプールに水を入れるとしよう」
そうしておれたちは日差しが当たって気持ち良さそうなところに行き眠りについた。
現在 時刻は午前九時
「……って感じで自分たちが先に掃除を終わらせれば女子部員たちの水着姿が長く拝めると考えたけど、掃除をした結果眠くなり寝たのではないですか?」
小猫の言う通りかもしれない。近衛は言わずも小猫大好きだからそれくらいしても不思議ではないし、イッセーも表には出していないけど相当な変態だと思うわ。だから、二人でそんな考えで行動をとってもなんらおかしくない。
「……部長どうしますか?」
小猫の言葉にみんなが首を傾げる。この二人をどうしようか判断出来かねないようだ。
「うーん、そうねぇ~どうしようかしら……」
呟きイッセーと近衛を見る。それにしても気持ち良さそうに眠っているわね。朝早く起きてプール掃除という重労働をした上に日差しが当たるこの場所だからかしら。それだったら起こすのは可哀想よね。
「決めたわ。こんなに気持ち良さそうに眠っているのだから起こすのはやめましょう」
「うふふ、そうですわね。ではイッセーくんと近衛くんがせっかく掃除したんですからプールに入りましょう」
「……お先に失礼します」
「はい!」
「ん?みんなでこれから寝るんじゃないのか?」
今だ勘違いしているゼノヴィアを連れて着替えに向かう。
「……はぁ」
「あらあら、ため息ですか?残念ですわね部長。イッセーくんに水着姿を見せられなくて。楽しみにしてたのに」
更衣室に向かっていたら朱乃が笑いながら聞いてきた。……まったく朱乃は。
「そうね。前にメールした時から楽しみにしてたわ。残念といえば残念ね。でも夏はこれからじゃない。チャンスはまだまだあるわ」
「うふふ、そうですか」
そう言って前を歩くアーシアたちのもとに行った。すると今度は小猫が話しかけてきた。
「……起こしに戻りますか?今ならまだ間に合うと思いますよ」
「いえ、大丈夫よ。それにあの子たちでもさすがに一日中寝てるってことはないでしょう」
「……それもそうですね」
「朱乃!食らいなさい!」
バチャ!
「やったわね、リアス!お返しよ!」
「部長さんと朱乃さん。二人とも楽しんでいますね」
「……はい、普段では見られない光景です」
「ん……なんだ?……女の子の黄色い声が……聞こえる」
目を覚ますと女の子たちがはしゃいでる時の特有の声が聞こえた。……てかここどこだっけ?確か今朝はイッセーと公園に集まって……学園のプールに来たんだった。そのあと…………は!
「そうだ!あのあと眠くなって寝たんだった!今何時だ!?イッセーは!?小猫ちゃんたちは!?」
慌てて周りをキョロキョロ見回すとまず初めに時計が目についた。時計の針が示す所は12、つまり今は正午丁度ってことだ。良かったぁ。まだ遊ぶ時間はある。まぁ、五時間も眠っちまったがな……。
再度、ゆっくり周りを見回すと、イッセーはおれの隣で寝ていた。……何故かその隣で木場も寝ている。こいつ今日は用事があるから来れないとか言ってなかったっけ……?
今度は声のする方を見ると、そこには桃源郷が広がっていた。際どい水着を身につけた部長と朱乃先輩が思いっきりはしゃいでる。何て素晴らしいんだろうか!
泳げないためか浮き輪に乗ってゆらゆらしているアーシアさんと小猫ちゃん。どちらも学園指定のスクール水着を来ているが清楚な感じがしてこちらも素晴らしい!
ゼノヴィアは飲み物でも買いに言っているのか姿が見えなかった。
「あら、近衛。起きたの?」
休憩に入ったのかプールサイドに上がってきた部長がおれの姿を捉え聞いてきた。
「部長おは……って時間でもないか。こんにちわです、部長」
「えぇ、こんにちわ。プール掃除大変だったでしょう?ぐっすり眠れた?」
「はい。それはもう五時間も寝ましたから。……おいイッセー、起きろイッセー!」
今だに寝ているイッセーを叩き起こす。
「ん……?あ、近衛に部長。おはよ…………何でこいつは俺の隣で寝ているんだ?」
目を覚ましたイッセーはおれと部長の姿を確認し、挨拶をしようとしたが隣にいる木場に気づいて途中で止めた。
「私たちにもよくわからないのよ。着替えをおえて戻ってきたらすでにいてね。……それにしても最近の祐斗はイッセーに積極的ね。これは由々しき問題よ」
「昔はそっち系じゃないと否定していたのに……。何時からこうなってしまったのでしょうかね?」
「……部長、近衛。身の危険を感じるので不吉なことは言わないでください」
「そんなに怖がらないでよイッセーくん。悲しくなるじゃないか」
ギュッ
「うおおわぁ!」
いつの間にか目覚めていた木場が後ろからイッセーに抱きついた。それに驚いたイッセーが木場を振り払っておれの後ろに隠れた。
「おっ、お?」
「こら、祐斗。私のイッセーに何しているの」
「すみません、気分が高揚してしまって」
「な、なあ木場。どうしてそんな風になっちまったんだ?」
イッセーがおれの後ろでビクビクしながら聞いた。……気持ちはわからんでもないがそんなにビビるなよ。
「……僕は部長に救われてからずっと同志たちの復讐を誓って生きてきた。でもそんなことを同志たちが望んでいないとわかって違う生き方をすることが出来るようになった。それを可能にしてくれたのはイッセーくん、君のおかげだ」
真っ直ぐな眼差しで恥ずかしいことを言い切る木場。カッコいいなこいつ。
しかしそれもそこまでだった。
「その時からかな。君のことを思うと胸のあたりが締め付けられるような感じがするんだ。最初の頃はこれが何なのかわからず苦労したけど今は違う。これが君への恋心だと気づいたからね」
ウィンクする木場。その姿はイケメンフェイスに相まって様になっていたが、している相手が男と理解すると気持ち悪かった。
イッセーもそう思ったらしく、うげぇ、みたいな顔をしていた。ただその中で一人だけ、部長だけは厳しい顔つきをしていた。
「……まさか祐斗までイッセーを狙うなんて。……これは躊躇してられないわね」
「僕も躊躇しませんよ」
「良かったなイッセー。モテモテだぞ」
「……もう何も言わないでくれ」
プールで遊ぶ前にすでに疲れているイッセーと部長と睨みあっていた木場を連れて着替えるために更衣室に向かうおれであった。
「はーい、いち、に。いち、に」
「……プハッ…………プハッ……」
おれは今小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合っている。着替えをおえて戻ってきたら部長から、
「近衛、お願いがあるのだけれどいいかしら?」
「もちろんですよ。どんなお願いですか?」
「小猫に泳ぎを教えてほしいの。実はこの子泳げなくてね。プールの授業が始まる前に泳げるようになりたいって言ってたから、タイミングもいいしね」
前に立っている小猫ちゃんの肩に手を置きながら部長が言った。それに対しおれは部長のお願いでもあるし小猫ちゃんのことだから、
「お任せください!この桜近衛、全身全霊をもって小猫ちゃんを泳げるようにさせてみせます!」
「ありがとう。じゃあ小猫のことよろしくね」
「……近衛さん、よろしくお願いします」
それでおれは小猫ちゃんの泳ぎの練習に付き合っているのだ。泳ぎに関してはそこそこ自信があったから教えるのは全然問題はなかった。ただ一つあるとすれば……。
「……プハッ。……すみません近衛さん。私のためにせっかくの時間を潰してしまって」
「なんのなんの。小猫ちゃんのためだ。おれで良ければもっと頼っていいからね」
「……ありがとうございます」
そう言って顔を赤らめそっぽを向く。その姿が可愛すぎておれは鼻血を出しそうになる。……小猫ちゃんって何でこうもおれのツボを的確に突いてくるのかな?血がいくらあっても足りないぜ。
それから二時間、休憩を挟みながら続けると小猫ちゃんは一人で泳げるようになった。まだ二五メートルは泳げないが初めに比べればすごく上達した。
これには部長も満足していた。妹の成長を喜ぶ姉のような感じで小猫ちゃんを撫で回していた。
それからは部員全員で遊びまくって楽しかった。途中何度か騒動はあったが……。
「プールでこんなに遊んだのは久しぶりだな」
「そうだな。高校に入ってからはこういうことほとんどしてないからな」
午後五時三十分
太陽が傾き始め、夕陽があたりを照らすなかおれとイッセーは着替えが早く終わったから先に校門に向かっていた。
「それにしても今日は本当に疲れた。朝に寝てなかったら俺ぶっ倒れてたわ」
「ははは、それもそうか。木場の衝撃発言から始まり、アーシアさんとの水泳レッスン、部長と朱乃先輩のおまえの取り合い合戦、ゼノヴィアの誘惑、木場の連れ去り事件。どれも大変そうだ」
「事実大変だったがな」
お互いに笑いながら歩いていると、校門の所に一人の青年を見つけた。
その青年は美しく、一瞬絵画の一枚かと思ってしまった。外国人らしく髪色は銀髪でダークカラーな感じだ。瞳は青色をしている。年齢はおそらくおれたちとあまり変わらないだろう。
「やぁ、いい学校だね」
微笑みながらおれたちに話しかけてきた。
「あ、ああ、まぁな」
「……」
それにイッセーは驚きながらも返したが、おれは返事を出来なかった。その青年の姿を見たことはなかったが声にどこか聞き覚えがあったからだ。どこだったかな……?
その答えはすぐにわかった。
「俺の名はヴァーリ。白龍皇―――『白い龍』だ」
「っ!」
「なっ!?」
驚愕の事実を告げる青年、ヴァーリ。そうだ。コカビエルを倒した奴に声が似ているんだ。あの時は鎧を着けていたから少し違うが、間違いない。
しかし、そうなるともしかしたらここで赤と白の宿命対決が行われるかもしれない。そんなことになったら部長たちだけでなく学園、この町に甚大な被害が及ぶだろう。
イッセーもそれを理解しているのか左腕を懸命に抑えていた。白龍皇の登場に赤龍帝であるドライグが反応しているんだ。
そんなことは露知らず白龍皇ヴァーリは、
「この学園で会うのは二回目かな。『赤い龍』―――赤龍帝の兵藤一誠。それに桜近衛」
「……ここに何の用だ。俺に会いに来たのか?」
イッセーがヴァーリを睨みながら聞く。おれはいつ戦闘になってもいいように身構える。
「それもあるかな。たとえば、俺がここで兵藤一誠に魔術的なものをかけたり―――」
ヴァーリがイッセーに手を伸ばすが、おれが間に入る。
「そんなことはさせねぇ」
「近衛くんの言う通りだ。冗談がすぎるんじゃないか?」
「ここで赤と白の対決を始めさせるわけにはいかないな、白龍皇」
瞬時に現れた木場とゼノヴィアがヴァーリの首元に剣を突きつけながら言う。
しかし、それでもヴァーリは物怖じせず飄々としている。
「別に今日ここで戦おうとは思っていない。ただ、先日訪れた学舎に興味があってね。アザゼルの付き添いでついでに来ただけだ。―――兵藤一誠は貴重な存在だ。大切に育てた方がいいよ、リアス・グレモリー」
「ご忠告ありがとう。でもあなたが堕天使と関わりがあるなら必要以上の接触はやめてもらいたいわ」
声のする方を見ると部長がとても不機嫌な様子で立っていた。朱乃先輩も小猫ちゃんも臨戦態勢をとっている。
「先程言った通りさ。……今日はこれで失礼する。俺もやることが多いんでね」
そう言って踵を返して帰っていった。一応みんな臨戦態勢は解いたが表情は強ばったままだった。
堕天使の総督のアザゼルに、『白龍皇』ヴァーリ。この地にまたしても強者が集まり始めた。