「今日は休みか。小猫ちゃんも忙しくて遊べないし何するかなー」
土曜日、おれは暇を持て余していた。普段なら部室でみんなと楽しく雑談といくのだが、生憎誰一人暇ではなかった。
部長はトップ会談について絶賛会議中だし、朱乃先輩は家ですることがあるみたいだし、木場はサーゼクスさまたちと何やら怪しい儀式を行うらしい。イッセーは部長にとある神社に行くよう言われてたし、アーシアさんとゼノヴィアは二人で出かけるみたいだった。
でおれの愛しの小猫ちゃんはというと、
「……今日は大事な予定があるので、すみませんが遊べません」
とのことだ。そんなわけで暇になったおれはギャスパーと訓練をしようとしたのだが、昨夜、夜遅くまで騒いでたせいかまだ眠ってるようだった。しかたなく家に戻ってきて何しようか考えてるってわけ。
「……はーおれだけ暇とか久しぶりすぎてすることが思い付かない。ただ無駄に一日を過ごすのもたまにはいいけど何かなぁ……」
部屋で一人だらだらしていたら、ノックの音が聞こえて扉が開かれる。
「お兄ちゃんいるー?」
顔を出したのは遥香だった。そういえば今日は友達と出かける用事が無くなって家にいるって言ってたっけ。
「いるけど、どうした?」
「これから暇?暇なら一緒に買い物に行って欲しいんだけど」
「買い物か……特に欲しいものは無いけど暇だからな、たまには兄らしく妹の頼みを聞いてあげますか」
「やった!じゃあ準備したらまた来るから。それまでにお兄ちゃんもしといてよ?」
「了解」
返事をして立ち上がる。遥香とお出かけか。そういやここ最近は全然行ってなかったなぁ。おれも悪魔になって色々と忙しかったし、もしかしたら神様がくれた安息の日だったりして。……なんてな。おれにそんなロマンチックなもん似合わねぇよ。さて、可愛い妹を待たせるのも兄としては申し訳ないからな。着替えますか。
着替えを終えてしばらくするとまたノックの音が聞こえた。
「お兄ちゃん終わった?」
「あぁ終わってるよ」
「じゃあ早速行こっか!」
「おー!」
遥香と元気よく家を出て目的地へと向かう。
「ねーお兄ちゃん。こっちはどう?」
「おっいいんじゃない?全体的に赤くて一見派手に見えるけど、所々に入ってる黒が大人びた感じで落ちついて見えるよ」
「そっか。じゃあこっちは?」
「今度は青にピンクか。可愛らしくて似合うと思うぞ」
おれは遥香が両手に持っている服に関してそれぞれ感想を述べる。おれたちは今、隣の市の総合レジャーランドに来ていた。ここは前にイッセーたちと遊びに来たとこで、おれと小猫ちゃんの思い出の地でもある。その中にあるショッピングモールで買い物をしていた。
本当は友達と来る予定だったけど行けなくなって、でも一回来てみたかったらしいからおれを誘ったんだと。正直、女性の買い物は長くて疲れるからあまり好きじゃないんだが……。
「お兄ちゃん!次はあのお店見に行こう!」
満面の笑顔で言う遥香。この笑顔を見たら嫌だとは行ってられないだろ?言える奴がいるなら出てこい。おれが一発ぶん殴ってやるから。
「はいはい。そんなに慌てなくても店は逃げないだろ」
「お店は逃げなくても商品は買われていくの。こういうのは時間との勝負でもあるんだよ?まったくお兄ちゃんは。その様子だと小猫さんの時もそんな感じなんでしょ」
「うっ……」
遥香に図星を突かれて若干戸惑う。確かに小猫ちゃんとデートに来たときも同じようなこと言われたっけ。
「もうお兄ちゃんったら。よし決めた!今日はお兄ちゃんにデートっていうものが何なのか教えてあげる!」
「いや別におれはそんなの教えられなくても……って遥香。お前デートしたことあんの?」
「さぁ~どうでしょう~?」
「あるのか!?あるんだな!相手は誰だ!同じクラスの奴か!?それとも同じ部活の奴か!?許さねぇぞそいつ!おれの可愛い遥香に手ぇ出しやがって……」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん落ちついて!そんなこと大きな声で言わないでよ!は、恥ずかしいから……」
「遥香!」
「は、はい!?」
「今度そいつを家に連れてきなさい。一度おれと話をさせろ」
「……お兄ちゃんってたまにおかしくなるよね。今の発言もお父さんか!って突っ込みたいんだけど」
呆れた顔で言う遥香。何を言う!可愛い妹が心配なのは兄として当然だろう!イッセーからは構いすぎだとは言われるがそんなのは知ったこっちゃない。
しばらく詮索をしていたが、割りとガチめにウザがられたので大人しく買い物に付き合うことにした。
洋服の店を何店か回った後、昼も過ぎたことなのでフードコートに向かった。
「遥香は何か食いたいものとかあるか?」
リクエストを聞いてみる。遥香は小猫ちゃんと違って大食いじゃないからバイキングとかには行かなくて良いだろう。まぁあまりにも高い店には連れていけないけど、ここにはさすがに無いよな。
「うーん……パスタとかかな。後はパフェが食べたいな!」
「そっか。だったら……そこのファミレスに入るか」
「うん!」
近くにあったファミレスに入る。ここだったらパスタもパフェも他にもたくさんあるだろ。おれも久しぶりにそういうの食べたいしな。
店に入り席に案内されて、注文を決めて来るのを待つ。その間に遥香が聞いてきた。
「そういえばお兄ちゃん」
「んー?」
「小猫さんとどこまでいったの?」
「ブッ!ゲホッ、ゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫!?」
「あ、あぁ大丈夫だ。ちょっと噎せただけだから。……それより遥香、突然なんだ。ものすごく驚いただろ」
「いやーお兄ちゃんも小猫さんもお年頃だからさ。それなりなのかなって思って聞いてみた」
「はあー、まったく今の中学生は……そういうのはもう少し大きくなってからな。てか普通に考えて妹に言う奴いるのかよ」
「ん」
そう言って遥香はおれを指さす。いやいやいやいや!おれは言わないよ!?恥ずかしいからね!
「何でおれなんだよ!ほら、飯来たから食って次にいくぞ!」
「はーい」
まったく、今日一番疲れたぞ。これから遥香と出かけるのは考えようだな。
昼食を食べたおれたちは、買い物を再開させた。最初に行ったのはアクセサリーショップだ。そこはこのショッピングモールで一番大きいアクセサリーショップらしく、種類や量が結構多かった。
「おおー、これだけあると圧巻だな」
「そうだよね。私も見応えがあって楽しみなんだ」
「ここにはどんな用があるんだ?」
そう聞くと遥香はやれやれとした感じで顔を横に振っていた。
「まったくお兄ちゃんは。用が無いと見に来ちゃダメなの?」
「あーそういうことですか。これは大変失礼いたしました」
「わかればよろしい。じゃあ講義料として何か一つ買ってちょうだい」
「なんじゃそりゃ。まぁ別に構わないけどさ」
「やった!何買ってもらおうかなぁ」
全身から喜びオーラを発する。そんなに嬉しいものなのかね。でもおれも買ったものを喜んでもらえたら嬉しいからな。少しくらい奮発してやるか。
それから三十分くらいじっくり見た後、遥香はこれだってやつを決めた。それはアクセサリーにしては少し高めだったが、プレゼントだと思えばどうってことなかった。遥香も喜んでたしな。
「他にはどこに行きたいんだ?」
「んー今日行きたかった所は全部回ったからなぁ。お兄ちゃんはどこかないの?」
「おれか?そうだなぁ……」
少し考えてみる。おれ自身は特に必要なものは無いから置いといて、料理器具もまだ新しいものを買うには早いし、うーん。……ケーキでもお土産に買ってくか。
「じゃあケーキ屋行こうぜ。健二や母さんにお土産買ってこう」
「いいね。私も賛成だよ」
そうしてケーキ屋に向かった。場所がわからなかったので人に聞いてたりした時にある噂を聞いた。何でもある店でメチャクチャ可愛い店員さんがいるとのことだ。おれはその話を聞いてぜひ見たい!と思ったので遥香に提案してみたら、
「……お兄ちゃんサイッテー」
って蔑まされた。可愛い人を見たいのは男の性なんだからしょうがないだろ!それに見るだけなんだから小猫ちゃんだって許してくれるよきっと!……きっと許してくれるよ……多分。
そこのケーキ屋は味も良いとの評判だったので何とか遥香を説得して向かうことにした。楽しさ半分、怖さ半分で向かった。だって後ろからメッチャ冷めた目で見てくる人がいるんだぞ。恐怖以外の何でもないよ。ガクガク
着いてみると人だかりが出来ていた。もしかしてこれ全部その噂の店員さんを見に来た人たち?八割くらい男だから確実にそうだろう。はぁーなんて奴らだよ。純粋にケーキを買いに来てる人の邪魔になると思わなかったのか。
「お兄ちゃんも変わらないけどね」
「おれはケーキも買いに来たからこいつらとは違うぞ」
「もーそんな屁理屈ばっかり言って。小猫さんに嫌われても知らないよ」
「……気を付ける」
ゴホン、よし気持ちを切り替えて早速向かいますか。どんな人なのかな噂の店員さんは。
期待をしながら店の中に入るとそこにいたのは―――。
「……いらっしゃいませ。お持ち帰りでしょうか、それとも店内で食べて行きますか?」
「お持ち帰りで。今すぐお持ち帰りで。さぁさぁ、早速行きましょう」
「ちょっとちょっと、落ちついてよお兄ちゃん。小猫さんもここで何してるんですか?」
小猫ちゃんだった。おれはケーキ屋の制服姿の小猫ちゃんを見た時に理性が飛んだので、突っ込みも忘れて暴走してしまった。
「はっ!危ない危ない。危うく暗い独房に叩き込まれるとこだった」
「……いえ、近衛さん。今のは完璧にアウトです」
「目が犯罪者だったもん。私家族から犯罪者出るの嫌だからね。気を付けてよ」
「犯罪なんてしねぇよ!それより小猫ちゃんどうしてここにいるの?今日は大事な予定があるんじゃなかったの?」
小猫ちゃんに聞いた。遥香も不思議だったらしく頷いていた。
「……バレてしまったなら仕方ないですね。本当はもう少し練習してから驚かせたかったんですけど」
「練習?ここでケーキの作り方でも習ってたの?」
「……はい。前に近衛さんがお菓子作りはまだ得意じゃないって言ってたので。変わりに私が作ってあげれたらいいなぁと思いまして、ここにお願いしました」
「健気でしょう?こんな子今どき見たこと無いから年甲斐もなく興奮しちゃって、二つ返事でOKしちゃった」
店長と思われる人が小猫さんに抱きつきながら言った。いや、確かに小猫ちゃんは健気で可愛いけど見ず知らずの人をそんな簡単にOKするか?普通。
おれの疑問が顔に出ていたのか小猫ちゃんが答えてくれた。
「……実はこの人部長と知り合いなんです」
「へ?」
「リアスちゃんでしょ?知ってるよ。もちろん悪魔だってこともね。私もそうだし。ここも出店する時少し手伝ってもらったしね。だからあなたたちからの頼み事は出来るだけ受けるわよ」
「な、なんと……」
おれは驚愕した。悪魔の知り合いが他にいることにも驚いたがそれ以上に、学園の経営だけでなくケーキ屋にも出資してたことにだ。どこまで手を広げているのだグレモリー家は……。主とはいえ恐ろしくなってきたな。
「……それではお客さま。お持ち帰りですか、それとも店内で食べて行きますか?」
「お持ち帰りで。もちろんあなたを」
「はいストップストップ。それ以上はダメだよお兄ちゃん。捕まるから」
同じコントを繰り返した。だってそれほど小猫ちゃんの制服姿似合ってるんだもん!噂になるのは当然だよ!てかさっきおれのためにここでお菓子作りの練習してるって言ってたっけ。……メッチャ可愛いじゃん!本気でお持ち帰りしたくなってきた。
「まぁ冗談は置いといて、真面目に買い物しますか」
「そうだね。これ以上いるとお店に迷惑かけるもんね。じゃあ……これとこれ、あとはそれとあれください」
「……かしこまりました」
手際よくショーケースからケーキを取り出して箱に詰めていく。その姿は様になっていた。
「……お待ちいたしました。お会計はこちらです」
「え?……嘘でしょ?」
おれは合計金額を見てまた驚いた。だって一万越えてるんだよ?おかしいでしょ。
「……遥香。お前何頼んだの?」
「え?ホール四つだけど?」
「だけど?じゃねぇよ!ホール四つって何!?誰がそんなに食べるの!?」
「だってこれから小猫さん家に呼ぶんでしょ?だったらそれくらい買ってかないと。ねー」
「……ねー」
ねー、じゃねぇよ!確かに家には呼ぼうとは思ってたけどこれはさすがにおかしいよ!ねー店長さん!
「いやーこんだけ買ってくれるお客さんはそうそういないね。助かるよ」
「あんたもか!……はいはいわかりましたよ。買えばいいんだろ買えば。はい」
「……ちょうどお預かりしました。お買い上げありがとうございます。それじゃあ店長さん。今日はこれであがらせてもらいます」
「うん。彼氏くんと楽しんできてね」
ちょうどあがる時間だったらしく、小猫ちゃんもおれたちと一緒に店を出た。今さらだが周りの男どもからは恨みの籠った目で見られていた。
「で、帰ってきたはいいけど。何がどうなったの?」
目の前に惨劇に言葉を失いながらも何とか捻り出す。この惨劇を作った母さんに。
「いやーえっとね……お菓子作ろうとしたら爆発しちゃった。テヘッ」
「テヘッ、じゃねぇよ!何でお菓子作ろうとして爆発するんだよ!絶対おかしいから!料理下手で片付けられないから!」
おれは全力で叫んで膝から崩れ落ちる。おれたちが家に帰ってくると、玄関には母さんの靴があった。何でも仕事が早く切り上げられたから帰ってくるのも早かったらしい。それで暇になったから、普段はしないことに挑戦をしようと思ったようだ。その結果がこれ。
「何なんだよ今日一日は……。暇だと思って買い物に付き合ったらやだらと疲れたし、家に帰ってもこんなことが起こってるし……。今日は厄日だ」
「まぁまぁそんなに落ち込まないの近衛。せっかく可愛い彼女さんが来てるんだから。お茶でも出して寛ぎなさい」
「そうしようと思ってたのに仕事を増やした人が何言ってんだ。今日はさすがのおれでも我慢出来ないぞ」
「さーて、やること思い出したからちょっと出かけてくるわ。小猫さん、ゆっくりしていってね」
「……はい。お言葉に甘えて」
半眼で母さんを睨むがどこ吹く風で受け流されてどこかに行きやがった。はー、女手一つでおれたちを育ててくれてる母さんじゃなかったらこの家出てるぞおれは。
「落ち込んでてもしょうがないか。さっさと片付けをしよう。あ、そうだ遥香。お金渡すから近くのコンビニで飲み物でも買ってきてくれないか?」
「わかった。行ってくるね」
「……行ってらっしゃい」
小猫ちゃんに見送られて遥香は家を出ていった。
「小猫ちゃんはリビングで寛いでていいよ」
「……いえ私も片付け手伝います」
「そっか、ありがとう」
おれは小猫ちゃんのご厚意をありがたく受けとる。普段であれば断っていたが今はそんな気力も無い。黙々と片付けをしていると小猫ちゃんが口を開いた。
「……近衛さん、私に怒ってますか」
「ん?突然どうしたの?」
「……近衛さんに黙ってケーキ屋でアルバイトしてたことにです」
そう言う小猫ちゃんの顔は若干ばつの悪そうな感じだ。黙ってたことに引け目でも感じてる様子だ。
「なんだそのことか。おれは別に怒っちゃいないよ。確かに黙って働いてたことには驚いたし、思うとこもあった」
「……ッ。やっぱり怒って―――」
小猫ちゃんの言葉を遮って言い切る。
「でもそれ以上に嬉しかった。おれなんかのためにしてくれてることが。だからさ、笑ってよ小猫ちゃん。おれは今の顔より、そっちの方が大好きだな」
自分の素直な気持ちを伝える。こんなんで笑顔になってくれるならいくらでも言うよ。
小猫ちゃんは驚いた顔をしていたがすぐに目に涙を浮かべた。
「え、え?お、おれ何か泣くようなこと言った?」
「……いえ、これは嬉し涙です。こんな私なんかに好きだって言ってくれたのが嬉しくて……」
そう言って小猫ちゃんは笑った。
「……やっぱり小猫ちゃんにはそっちの方が似合うな。……好きだよ、小猫ちゃん」
「……私も好きです、近衛さん。不甲斐ないか、彼女ですがこれからもよろしくお願いします」
「こちらこそ。頼りない彼氏ですけどよろしくお願いします」
そう言ってどちらともなく近づいていく。あと数センチでキスができ……るって所でまたしても邪魔が入った。
プルルル、プルルル
「…………」
「……近衛さん?携帯鳴ってますよ」
無視を決め込もうと思ったら小猫ちゃんが親切に教えてくれた。先程までの甘い雰囲気はどこかに行ってしまった。おれはため息をつきながら電話の主を見る。
「またお前かよ……何回邪魔すれば気が済むんだ」
着信はイッセーからだった。今日は神社に行く予定しゃなかったか?それが終わって報告か?何にせよこの代償は高くつくからな。
「ごめん小猫ちゃん。ちょっと電話してくる。リビングに行って待ってて。後はおれ一人で出来るからさ」
「……はい、わかりました」
キッチンを出て小猫ちゃんはリビングに向かった。それを確認して電話に出る。
「―――はいもしもし。死んでくれませんか」
『開口一番何言ってんだよ』
「おれの幸せをお前はまたぶち壊してくれたんだよ。で何の用だ?」
『これからちょっと会えるか?無理ならいいんだが』
「これから?それって時間かかる?」
『わからない。聞いて欲しいことがあるからよ』
聞いて欲しいこと?何かすごく嫌な予感しかしないんだけど。うーん、どうすっかなぁ。本音は小猫ちゃんと一緒にいたいから行きたくは無いけど、何か大事な話っぽいしな。
そんな風に迷ってると遥香が帰ってきた。
「ただいまー」
「お、ちょうどいいとこに帰ってきたな。遥香、おれこれからイッセーと会ってくるからその間家とかのことお願いしていいか?」
「別に構わないけど、小猫さんは?」
「伝えてから行く。そんなわけだイッセー。どこに向かえばいい?」
『ありがとう。例の公園でいいか?』
「わかった。じゃあまたな」ブツッ
電話を切って小猫ちゃんに事情を説明して家を出る。後で埋め合わせしとかないとな。
公園に着くとイッセーの姿はまだ見当たらなかった。自分から呼び出しといて待たせるとか……あいつらしいか。しょうがねぇ待ってやるか。
手近なベンチに座りながら待つこと五分くらい。イッセーはやっと姿を現した。
「よっイッセー」
「悪い近衛。少し遅くなった」
「別にいいさ。それで話って何だよ」
「その前に今日のことについて話すよ」
そう言って話し出すイッセー。神社に行ったのはあるものを貰うためだった。そこの神社は朱乃先輩が住んでる所で、朱乃先輩のやることもイッセーのに関係してたらしい。彼女に連れられて中に入ってくと、そこにいたのは超お偉いさんだった。その人とは天使の長、大天使ミカエルさまだった。
「マジかよ……そんな大物がお前に何の用だったんだ?」
「今回の会談は三大勢力が手を取り合う大きな機会で、それの象徴として俺に聖剣『アスカロン』を渡すためだ」
「アスカロン?何だその聖剣は。それに悪魔のお前に聖剣だなんて意味無いんじゃないの?」
「アスカロンは龍殺しの聖剣で、何でも特殊な儀礼を施してるから、ドラゴンの力があれば扱えるんだと。それでブーステッド・ギアに同化させてきた」
そう言って左手に籠手を出現させ、さらに剣も出す。
『Blade!』
籠手の先から刀身が出現した。
「おおーすげー。それで、何でお前に何だ?」
「昔一度だけ三大勢力が手を取り合ったことがあるんだ。それは赤と白の龍を倒した時だそうだ。その時は戦場を乱しに乱したらしいな」
「へぇー初耳だな。そんなことが昔あったんだな」
「あぁ。それであの時のように再び手を取り合うことを願って赤龍帝の俺に願をかけたんだと」
「ふーん、何かミカエルさんってお茶目だな」
「そうだな。それでこれからが本題なんだが」
「あーそう言えばまだ話してなかったっけ」
イッセーは頷いて真剣な顔をする。その雰囲気におれも気を引き締める。さて、どんな相談が来るのか。
「……部長って部長だよな」
「………………は?あのーイッセーさん?言っている意味が全くわかりません」
「実はさ、神社に部長も来ることになっててよ。俺が朱乃さんに膝枕してもらってる時に来たんだ」
「何故膝枕してもらってるのかは聞かないでおいてやる。それで?」
「その帰り道、部長が聞いてきたんだ。『朱乃は……朱乃なのね』って。今でもその言葉の意味がわからないんだがさらに『朱乃は副部長。けれど『朱乃』なのね……。……私は?』とも聞いてきたんだ」
おれはそこで何となく部長が言って欲しい言葉が想像出来た。そしてこいつが何と言ったかも。だから敢えて聞く。
「それで?お前は何て答えたんだ?」
「部長……って答えた。部長は『…………そうね。私は部長だわ。―――でも『リアス』なの』って言ってた。それに対して俺は、部長は俺の主で上級悪魔リアス・グレモリーですよねって言ったんだ。それを聞いた部長の顔はとても寂しげな表情を浮かべて、『……何が『一番候補』よ……。私だけ遠いじゃないの……っ!』って」
「はぁーお前って奴は……それは部長が可哀想だ」
「……やっぱり俺、マズいこと口にしたのかな」
隣で落ち込む親友を他所におれは自分の中で納得する。なるほどな。部長が『私と出会えて幸せ?』って言った意味がやっとわかったよ。それにしても……二人して不器用だなぁ。いや、こいつが気づかないだけか。部長はわかりづらくとも自分の想いは表に出してるもんな。他人の恋路には鋭いくせして自分には疎いんだから。世話のかかる奴だな。
おれは自然と口が緩んでいた。そして小さく呟く。
「こいつも普通の男子高校生なんだな。ただ強大な神器を宿してるだけのな」
「……ん?何か言ったか近衛?」
「いや何も。……イッセー、おれが言えるのは一つだ。自分の素直な想いを部長に言ってやれ。それだけだ」
「近衛?それはどういう―――」
「はい、おれからのアドバイスはこれで終了!……後は自分で悩んで悩んで、悩みまくって答えを見つけな。おれだって出せたんだ。お前に出来ないわけがないからさ。じゃあな」
「…………」
それだけ言って公園を後にする。悩めよ、少年。はは、なにキャラだよ。
「ただいまー」
家に着いたおれはまだ小猫ちゃんがいたことに少し驚いた。けどそれ以上に嬉しかったのであまり気にしなかった。
リビングに行くと小猫ちゃんと遥香が楽しく会話をしていた。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
「……おかえりなさい、近衛さん」
「うん、ただいま……って遥香、ケーキは?」
「え?全部食べちゃったよ」
「な、なん……だと。全部食べた?あの量を?」
「うん」
その言葉に本日一番の衝撃を受ける。うっそーん!結構楽しみにしてたのに……ケーキ……。
「……すみません近衛さん。あまりの美味しさに手が止まりませんでした」
「……いやいいよ。美味しく食べられたならあのケーキも本望だろうしな……」
「……なのでお詫びをあげます」
「お詫び?何をくれ―――」
おれはそれ以上言葉が出なかった。いや出せなかった。それは小猫ちゃんに唇を塞がれたからだ。もちろん彼女の唇で。
「うわー大胆」
「…………プハッ。ケーキの美味しさ、伝わりましたか?」
「……は、はい」
おれはほとんど放心状態で答えた。え?今何が起こったの?おれの唇と小猫ちゃんの唇が……ってキスじゃん!
その考えに至ったら今日一日の嫌な思い出どころか、起きたこと全てを忘れた。何か大事な事あったような気がするけどどうでもいいや!小猫ちゃんとキス……イヤッフー!!!