「オレは世界を破壊する道を選ぶ」
近衛はイッセーの胸を自分の尻尾で背中から貫きながら宣言した。体を貫かれながらもイッセーは近衛を問いただす。
「何でだ……想い、届いたんだろ……」
「あぁ、届いた。ギャスパーを助ける時のお前と部長の気持ち。オレを助けるために叫んだ想い」
「だったら……!どうして……だ!」
「だからだよ。オレにとってグレモリー眷属は大切な人たちだ。それを改めて確認させられた。だから、そんな人たちを傷つけるこの世界をオレは許さない」
近衛の強い眼差しにイッセーは気圧される。それでもなお食い下がろうとするが、胸の傷が予想以上に深く血を吐いた。血を浴びながらも近衛は動じなかった。そこにようやくリアスが二人に近づいてきた。
「お、やっと部長が来たな。まったく、来なかったらどうしようかと思ったわ。ほれ、愛しのリアス部長のとこに行ってこい」
「ガッ!」
「イッセー!」
「部長……俺、ゴホッ」
「わかってる。わかってるから喋らないで。取り敢えずすぐにアーシアを呼んでくるから───」
「その必要はないみたいですよ部長、ほら」
近衛の指差す方を見てみれば新校舎の出口から、サーゼクスを筆頭に出てきた。そして近衛たちを見つけるなり走りよってくる。
「アーシア!早く回復を!」
「は、はい!」パアッ
アーシアはすぐに『聖母の微笑』でイッセーを回復し始める。その回復力はさすがで胸の傷はみるみる塞がっていく。その間に他の人たちはイッセーを庇うように立つ。
「あらあら近衛くん、これはどういうことですか?返答によってはお仕置きが必要ですね」
「それは怖い怖い。でもまぁ、本気の朱乃先輩とやれるなら面白そうですけどね」
「ふざけるな近衛。貴様、自分が何をしたかわかってるのか」
「わかっておりますとも聖剣使い殿。あ、今は元か。わはは」
「近衛くん、今ならまだ間に合うよ」
「何が間に合うってんだホモ君?もう既に遅いんだよ」
三者三様の態度に三様の反応で返す。
「オレは世界を破壊するって決めた。手始めにまずはこの学園でも壊すか」
手に魔力を集めながら近衛はそう言う。直径50センチになったところで、校舎に向かって打ち出した。しかしそれを横からリアスが同様にして打ち消した。
「……何するんですか部長」
「近衛、今なら許してあげるわ。だから謝りなさい」
「……ハァ、だから言ってるじゃないですか。もう既に遅いって。これ以上邪魔するなら例え部長たちであろうと容赦しませんよ?」
「……下僕の不始末は主の不始末。この尻拭いは私がするわ」
「チッ。さっきのが最終通告ですからね」
その言葉の返答は魔力の球だった。近衛はため息をつき何かを呟いた。すると、当たる直前で魔力の球は消滅した。
「な!?」
「覚悟してくださいね、部長」
近衛は『疾風』を発動させ一度距離を取る。そして地面を思いっきり踏み込み駆け出す。さらにもう一度踏み込み加速する。最後にリアスに接触する前に『剛力』に切り替え、腹部に掌底を打ち込む。
パァン!
肌を叩いた音なのか、はたまたそれ以外の音なのか。軽快な音をたててリアスは新校舎の壁まで吹っ飛んだ。
「かはっ!」
「部長!アーシアさん捕まって!」
「は、はい!」
祐斗が慌ててアーシアを連れてリアスの元に行く。それと同時に朱乃が近衛を攻撃する。
「雷よ!」
「凍てつけ」
ズガガガ パキィン
しかし、朱乃の放った雷は近衛によって凍らされる。雷を凍らすなどという曲芸をした近衛は『疾風』で朱乃に近づき『剛力』で脇を肘打ちする。
バキバキッ!
骨が折れる音と感触を近衛が感じ取ると、朱乃はその場に崩れ落ちる。すかさずゼノヴィアがデュランダルを取りだし斬りかかる。
「近衛ぇ!」
「神器発動『停止する異能』」ピタッ
「な!?」
「何驚いてんだ?デュランダルとはいえ聖なるオーラを止めちまえばただのよく斬れる剣だ。後は『堅牢』を使えば止められないわけないだろ」
ゼノヴィアが驚いてる隙に回し蹴りをして吹っ飛ばし木に叩きつける。蹴り飛ばす瞬間デュランダルを奪い取る。
「お?聖なるオーラ止めたってのに暴れるか。さすがは伝説の聖剣だな。持ち主以外には言うこと聞かないってか。返すぜゼノヴィア」
近衛はゼノヴィアに向かってデュランダルを投げる。もちろん手から離れた時点で神器を止め、本来の力を取り戻させる。そのまま突き刺さったら当然。
「がっ!あああぁぁぁ!!」
聖剣使いとはいえゼノヴィアも悪魔。聖なるオーラは致命的だ。刺さった直後、無理矢理亜空間に戻したから何とか即時消滅は免れたものの致命傷は負った。
「へぇやるなぁ。あのタイミングでしまうとは、さすがは元聖剣使いだ」
「はあぁぁ!!」
「お、今度は木場か。いいぜ、お前とは一度本気でやりたかったんだよ!」
高速で振るう祐斗の聖魔剣を『疾風』を使って避ける近衛。それを見て祐斗はもう一本聖魔剣を作り出し振るう。それでもなお近衛は避け続ける。
「どうした?これで終わりか?グレモリー眷属の『騎士』の名が泣くぜ?」
「ッ!はあぁぁ!」
「いいないいな!もっとだ、もっと熱く滾ろうぜ!」
テンションの上がった近衛はいつの間にか『九尾化』を済ませ、祐斗の剣に合わせ腕でいなしていた。祐斗は軌道を変えられながらも一太刀浴びせようと剣を振るう。しばらくその状態で拮抗していたが近衛が合わせ間違え腕を軽く斬られる。その時、血が飛び散り祐斗の目に入り動きが一瞬止まる。
「そこ!」
「ぐはっ!」
その隙を逃すことなく近衛が祐斗に一発入れる。『騎士』である祐斗はそれだけで動きが止まった。そして近衛は容赦なく両手両足の骨を折り、聖魔剣で筋を斬った。
「あーらら。これで剣振るうことが出来なくなっちゃったね。楽しかったぜ木場。さて次は───」
「……近衛さん」
「小猫ちゃんか。いいよ、好きなときにかかってきな」
「……違う、あなたは近衛さんじゃない」
「何言うんだよ小猫ちゃん。オレはオレだよ。他の誰でもない正真正銘桜近衛だ」
小猫の言葉に若干ムキになって返す近衛。それで逆に確証を深めた小猫はさらに否定する。
「……私の大好きな近衛さんは、例え何があったとしても仲間を傷つけることはない」
「ギリッ……さっきも言ったけどオレには目的がある。それを邪魔するなら誰であろうと容赦はしない」
「……それでも近衛さんはそんなことしません」
ガシッ
「お前にオレの何がわかる」
小猫の胸ぐらを掴み、怒気の含んだ瞳で近衛は睨む。しかし、それに動じず小猫は睨み返す。
「訂正する気はない?」
「……ありません」
「……そっか。なら仕方ないか。本当は小猫ちゃんだけは傷つけたくないって思ってたけど。なんせ最後の希望だからさ。この世界に対する」
「え───かはっ!」
胸ぐらを掴んだまま首を締める。その目は本気だった。本気で小猫を殺すつもりだ。
小猫は必死に抵抗する。『戦車』である彼女が本気で抵抗すればひとたまりも無いはずだが、近衛が手を離すことは無かった。まるで『戦車』の力が使えてないようで。
「無駄だよ。今の小猫ちゃんに馬鹿力はないから」
「……こ……の…えさ……」
次第に彼女の意識は薄れていき抵抗する体からも力が抜けていく。目も虚ろになっていき、一筋の涙が頬を伝う。そして最後には───。
「近衛ェェェェェ!!」
一人の男の叫びによって助けられた。イッセーの叫びを聞いた近衛は手を離し小猫から意識を外す。
「何だよイッセー。また死にかけたいのか?」
「お前、自分が何をしたのかわかってるのか」
「もちろんだ。部長に一発入れて内臓破裂させて、朱乃先輩の肋骨とあばら骨を折り、ゼノヴィアにはデュランダルを突き刺して致命傷を負わせ、木場は両手両足の骨と筋を斬って再起不能にした」
「……下手をすれば命を奪う可能性があるんだぞ」
「それがどうした。目的のため立ちはだかる障害を排除するのは当たり前のことだろ。現にお前も今まで色んな奴ぶっ飛ばしてきただろ」
「……本気で言ってんのか」
「本気で言ってるよ」
その瞬間、イッセーの中で何かが弾けた。一瞬、彼は激しい怒りを見せた。しかし、すぐに消えて代わりに近衛に冷たい視線を送る。それはまるで目の前の男を完全に敵とした眼だ。
「もう……無理なんだな」
「そうだな。さっきから言ってんだろ」
「そうか……じゃあ俺はお前を───」
そこで言葉を切り、イッセーは全身から赤いオーラを噴出させた。その眼は先程の冷たい感じはなく、激しい怒りと悲しみに満ちていた。近衛はそれを見てなお平然とした態度をとる。しかし、次の瞬間驚愕した。
「殺すぞォォォォォォォォォ!!!近衛ェェェェェッッ!!!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
その音声を機に噴出していたオーラはイッセーの体を覆い始めた。そして次第に形作っていく。右腕は左腕同様に籠手が現れ、胴と足は赤い鎧に覆われ、最後に頭が覆われれば小型のドラゴンと化した。
親友であった男の裏切り、その男による大切な仲間の負傷。それら二つが深い悲しみと激しい怒りを生み、イッセーの心に大きい衝撃を与えた。結果、禁手へと至った。
「は、はは、まさかここで『禁手』に至んのかよ」
「覚悟はいいか、近衛」
「よくないって言ったら?」
その返答は一発のストレートだった。それは今までのモノなんて比べ物にならないくらい速く、重い一撃だった。それを間一髪で交わした近衛は反動を生かして蹴りを入れる。しかし、それはイッセーに容易く止められ、逆に足を捕まれ投げられた。
「ッ!おっとっと。おいおい、さっきとまるで別人じゃねぇか。反則だろそれ。こっちだって『九尾化』してるってのによ」
「知るか。お前の方が弱いってことだろ。その程度の実力でよくまぁ世界を破壊するなんて豪語できるもんだ」
「言ってくれるじゃないのイッセーくん。オレちょっと頭にキタよ」
「そしたらどうすんだ?ママにチクって終わりか?それとも先生?」
「……上等だ、テメェ。後悔しても知らねぇからな」
「こっちのセリフだ。今さら謝っても許してやんねぇよ」
互いに突撃する。左ストレートを放つイッセーに対し近衛は右腕を添えて軌道を反らし、左でボディブローを放つ。それをイッセーは膝で受け止めそのまま蹴り飛ばす。バックステップで蹴りを交わし、お返しとばかりに足を掴んで投げ飛ばす。しかし、イッセーはブラスターを駆使してすぐに体勢を立て直しそのままブラスターを使って殴りかかる。近衛は腕を交差してそれを受け止める。
「ははは、やるなぁイッセー」
「お前もな」
「よく考えてみればお前と本気で殺り合うのはこれが初めてか」
「当たり前だろ。普段からやってられっか」
「確かに、くくく」
日常会話をするかのように軽口を叩く二人。その間にも攻防は続いていた。互いに一撃を入れられない状態が続き、痺れを切らした近衛が大きく距離を取った。
「どうした。まさかもう疲れたのか?」
「違ぇよ。このままいってもオレかお前、どっちかの力が尽きて終わりだろ。それじゃあ互いに不完全燃焼だ。出来ることなら相手の本気の状態をぶっ潰してぇだろ?」
「それはそうだ。そうしないとこの気持ちはお前を殺しても収まらないからな」
「だろ?だったら一撃に全てを込めて殴ろうぜ」
右手に全身の力を集めながら近衛が言う。イッセーは少し考えたのちその考えに乗っかった。左手に力を集め倍加する。そして駆け出す。しかし、近衛は動かなかった。どころか口元に怪しげな笑みを浮かべ構えを解く。不思議に思いながらもそのまま止まることはしないイッセー。だが、突然何かに足を掴まれその場に倒れる。
「ぐっ……!」
見てみれば白い毛のようなモノが足に絡まっている。それは近衛の尻尾だった。
「く、くく、ははは!!マジかよイッセーお前、まさか乗ってくるとは思わなかったわ。本当バカみたいに真っ直ぐだよな」
「な!?……外道が。お前、何処まで堕ちれば気が済むんだ!近衛!!」
「何とでも言え。オレはもう手段を選ばない」
「クソ野郎がッ!怖くてもアーシアを助けに行ったお前はどこ行った!ライザーの『女王』から小猫ちゃんを守ったお前は!仲間のためにコカビエルに無謀な勝負を挑んだお前は何だったんだよ!」
「そんなオレもういねぇよ。というかまだ気づかないのか?少年よ」
その言葉にイッセーは驚愕し、同時に今までよりさらに強い怒りがこみ上げた。それまで近衛だと思っていたのは九尾の化け物が演じていたのだった。
「とても面白いモノが見れて楽しかったぞ」
「お前……!」
「さて、まずは貴様を殺すとしようか。その後順に───!きさ……ま…!この後に……及んで邪魔……するか!」
突然意味わからないことを口走る。体も言うことが効かないのか固まっている。驚きの連続でイッセーが固まっていると近衛の口が開いた。
「イッ……セー」
「な、なんだ。今度は何が目的だ!」
「ち、げぇよ。オレだって……近衛。お前の親友の……近衛くん」
「自分でくんとか付けるって世話ないな。じゃなくて嘘つくな。もう騙されねぇよ」
「だぁー!オレだつってんだろ!信じろよボケ!」
「誰がボケだ!小猫ちゃんに触って興奮してるロリコンが!」
「ロリコンじゃねぇっていつも言ってんだろ!ってそうじゃねぇよ!いい加減わかれよ」
「……本当に近衛か?」
「おう。つっても完全に元に戻ったわけじゃねぇぞ。あいつの隙をついて体奪い返して話してるけど、じき元に戻る。その前に頼みたいことがあんだよ」
近衛の意識がまだあったことに安堵しつつ、まだ安心できないことをわかりイッセーは気を引き閉め直す。その姿を見て近衛は笑う。
「オレを殺してくれ」
「……本気か?」
「本気だ。これ以上救いようのないことをする前にさ」
「……わかった。せめてもの情けだ。一思いにやってやるよ」
「サンキュー」
イッセーは近衛の願いを受け入れアスカロンを出す。そのまま持ち上げ心臓に狙いを定める。
「……近衛さん」
「小猫ちゃん……。ごめん、こんなオレで。もしまた会えることがあるならその時は……」
「……待ってます。私、いつまでも」
「そっか……。ありがとう」
「いいか?」
「おう。思いっきりこいや」
イッセーは一度目を瞑る。近衛も死を受け入れるように目を瞑る。そして───。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
ドシュッ!!
「ぐッ!ゴホッ……これで…やっと───」
その言葉を最後に近衛は地面に倒れ、何も喋らなくなった。