黒ウサギの説明が終わり、移動していると。
「なぁ、比企谷すこし世界の果てまで行って見ねえか?」
「いや、めんどくさくなりそうだから遠慮しとくわ」
「そうか。じゃあちょっくら行ってくるぜ」
「おう」
***
それから間もなくして、
「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」
ジンと呼ばれる少年がはっと顔を上げる。
外門前の街道から黒ウサギと飛鳥と耀、八幡が歩いてきた。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人と男性が?」
「はいな、こちらの御四人様が–––––」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「……え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児!”って
オーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君のこと?彼なら”ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出していったわ。あっちの方に」
あっちの方に。と指をさすのは上空4000mから見えた断崖絶壁。
街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて三人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「”止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったんですか⁉︎」
「”黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
「あ、俺は知らなかったって言う雰囲気を出しているけど
比企谷君は十六夜君に誘われていたわよ」
「え、八幡さん!どうして黒ウサギに言ってくれなかったんですか‼︎」
「二人と同じで面倒くさかったって言うのじゃダメか?」
「ダメです!」
「じゃあ巻き込まれたくなかった、は?」
「それもダメです‼︎」
ガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。
まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。
そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。
「た、大変です!”世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に”世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
「いや、逆廻ならどうせ戻ってくるだろう」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、三人は叱られても肩を竦めるだけである。
黒ウサギは溜息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ……ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに–––––“
箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
黒ウサギは立ち上がって怒りのオーラを全身から噴出させ、
艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。外門めがけて空中高く飛び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフをご堪能ございませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び上がり、あっという間に四人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「……。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが…… 」
そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥は心配そうにしているじんに振り直り、
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートはあなたがしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「そして目が特徴的なのが」
「比企谷八幡だ」
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はそう言ってジンの手を取ると、胸を躍らせて笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。
***
箱庭に入り、八幡達四人は手近にあった『六本傷』の旗を掲げている店に入った。
注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。
(猫耳か、なら大方猫しょうや猫又の類か?)
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」
「あ、俺はコーヒーを砂糖とミルク付きで」
『ネコマンマを!』
「はいはーい。ティーセット三つとコーヒーを砂糖とミルク付きで一つ、ネコマンマですね~」
「「え?」」
……ん? と飛鳥とジンが首を傾げる。
八幡は店員の姿を見てある程度予想をしていたからあまり不思議とは思わなかった。
耀は信じられないものを見るような目で猫耳の店員に問いただす。
「三毛猫の言葉、わかるの?」
「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」
『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘ガミしに行く』
「やだもーお客さんお上手なんだから♪」
「箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」
店員の後ろ姿を見送り耀が嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「ちょ、ちょっと待って。あなたもしかして猫と会話できるの!?」
珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はこくりと頷いて返す。
「もしかして猫意外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているなら誰とでも話はできる」
「じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、きっと出来……る? ええと、鳥で試したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」
「「ペンギンッ!?」」
「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」
「ほーそりゃすげぇな」
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言葉の壁と言うのはとても大きいですから」
「そうなんだ」
「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
感心された耀は困ったように頭を掻く。対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟いた。
耀と飛鳥は出会って数時間の間柄だが、飛鳥の表情はらしくないと耀そして八幡は感じた。
「久遠さんは」
「飛鳥でいいわ。よろしくね、春日部さん」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?八幡も?」
「名前呼びですかい…」
「ぇ、えっとダメだった?」
「え、いや別にいいんだが……まぁ、俺はおいおい話すわ」
(チクショ可愛いじゃねぇか」ボソ
「ふぇ!」
耀は八幡があったことが聞こえたのか変な声を上げて
頬を染めた。
「ん?どうした春日部?」
「い、今可愛いっ「ん、ん’’お、俺も久遠の力が知りたい」」
「私? 私の力は……まあ、酷いものよ」
「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
二メートルを超える大柄な体を窮屈そうにタキシードで包んだ変な男が品のない声でジンを呼ぶ。
「僕等のコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」
ジンはガルドと呼んだ男をにらみつける。
だが、男はその視線を気にせず、
「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人員を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ––––––そう思わないかい、お嬢様方に、紳士様」
四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。
飛鳥と耀に愛想笑いを向けるが、相手の失礼な態度に二人は冷ややかな態度で返す。
その時八幡はガルドからある匂いを嗅ぎ取った。
(あれ?この匂いはどこかで……)
「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている……ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧オォ!」
ジンに横槍を入れられ、牙をむいたガルドの姿が変わっていく。
肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。
「口を慎めや小僧ォ……紳士で通っている俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ……?」
「森の守護者だったころの貴方なら相互に礼儀で返していたでしょうが、今のあなたはこの2二一◯五三八◯外門付近を荒らす獣にしか見えません」
「ハッ、そう言う貴様は過去の栄華に縋る亡霊風情が。自分のコミュニティがどういう状況におかれてんのか理解できてんのかい?」
「ハイ、ちょっとストップ」
険悪な二人を飛鳥が遮った。
「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど–––––」
飛鳥が鋭く睨んだのは、ガルド=ガスパーではなく、
「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」
ジンだった。
「そ、それは」
飛鳥に睨まれたジンは言葉に詰まった。
「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」
ガルドは獣の顔を人に戻し、含みのある笑顔と上品ぶった声音で、
「レディ、貴方の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ”フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧––––––ではなく、ジン=ラッセル率いる”ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明されていただきますが」
飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。
ジンは俯いて黙り込んだままだ。
「……そうね。お願いするわ」
「承りました。まず…(以下略)…
此れは比喩にあらず、ですよジェントルマンとレディ達。彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災–––––俗に”魔王”と呼ばれる者達です」
***
説明を聞いた飛鳥、耀、八幡は、それぞれに出されたカップを片手に話を反復する。
「つまりジン達のコミュニティは魔王とのギフトゲームに負けて名も旗印も人材も全て奪われたと」
「そして、”魔王”というのはこの世界で特権階級を振り回す神様 eat.を指すということね」
「そうですジェントルマンとレディ。神仏というのは古来、生意気な人間が大好きですから。愛しすぎた挙句に使い物にからなくなることはよくあることなんですよ」
ガルドは皮肉そうに笑う。
「名も、旗印も、主力陣の全てを失い、残ったのは膨大な居住区画の土地だけ。もしもこの時に新たなコミュニティを結成していたなら、前コミュニティは有終の美を飾っていたんでしょうがね。今や名誉も誇りも失墜した名もなきコミュニティの一つでしかありません」
「……」
「そもそも考えてみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、一体どんなかつどうができます?商売ですか?主催者ですか?しかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。では優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティのにあつまるでしょうか?」
「そうね……誰も加入したいとは思わないでしょう」
「そう。彼は出来もしない夢を掲げて過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」
ガルドは豪快な笑顔でジンとコミュニティを笑う。
それに対してジンは顔を真っ赤にして両手を膝の上で握りしめていた。
「もっと言えばですね。彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりの殆んどリーダーとしての活動はしていません。コミュニティの再建を掲げてはいますが、その実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもうだけの寄生虫」
「……っ」
「私は本当に黒ウサギが不憫でならなりません。ウサギと言えば”箱庭の貴族”と呼ばれるほど強力なギフトの数々を持ち、何処のコミュニティでも破格の待遇で愛でられるはず。コミュニティにとってウサギを所持しているということはそれだけで大きな”箔”が付く。なのに彼女は毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティをやり繰りしている」
「……そう。事情は分かったわ。それでガルドさんは、どうしてそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
「あぁ、俺も大体の予想はつくが気になっていた」
飛鳥と八幡は含みのある声で問う。
ガルドもそれを察して笑う。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、
私のコミュニティのに来ませんか?」
「な、何を言いだすんですガルド=ガスパー⁉︎」
ジンは怒りのあまりテーブルを叩いて抗議する。
それに対しガルドはどう猛な瞳でジンを睨み返す。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘でコミュニティを追いこんでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼びだした」
「そ……それは」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
ガルドの獣のような瞳に似た鋭利な輝きに貫かれて、ジンは僅かに怯む。しかしガルドの言葉以上に、飛鳥達に対する後ろめたさと申し訳なさがジンの胸の中で濁りだす。
それほどジンのコミュニティは崖っぷちにあるのだ。
「……で、どうですかジェントルマンとレディ達。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴女達には箱庭で三十日間の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達”フォレス・ガロ”のコミュニティを偵察し、十分に検討してから–––––」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
は?とジンとガルドは飛鳥の顔を窺う。
飛鳥は何事もなかったようにティーカップの紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?
私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
飛鳥が髪を触りながら耀に問う。恥ずかしかったのだろう。
耀は無言でしばらく考えた後、小く笑って頷いた。
「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
『よかったなお嬢……お嬢に友達ができてワシも涙が出るほど嬉しいわ』
ホロリとなく三毛猫。
リーダー達と八幡を置いて盛り上がる二人。相手にされなかった事にガルドは顔をひきつらせ、咳払いして二人に問う。
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
「だから、間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけだから、ジン君でもガルドさんでもどちらでも構わない。そうよね?」
「うん」
「そして私、久遠飛鳥は–––––裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みある人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎えてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら、だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ虎紳士」
「あ、そう言えば比企谷君はどうなの?」
「ん?俺かまぁ、そうだな。ガルドさん」
「な、何でしょうか」
「貴方のコミュニティってそれなりに大きかったですよね」
「えぇ、此処らではかなり」
「ジン=ラッセル」
「は、はい」
「ガルドさんのコミュニティが大きくなった理由って何だ?」
「えっとコミュニティの存続をかけたゲームで勝利すること、ですかね」
「そうか、なら楽しかったですか?他のコミュニティから人質特に子供なんかの若い子をさらって強制的に大きくなったのは?」
「は?な、何をおっしゃっているんですか?」
「いや〜消せないものですね。血の匂いって…」
「「「「⁉︎」」」」
「し、失礼ですがジェントルマン私は「黙りなさい‼︎」!」
「お?おい久遠これって」
「えぇ私の力よ」
「そうか、ならガルドさんや、潔く自白してくれ」
「そうね、私もコミュニティのことでは少し気になっていたからちょうどいいわ、貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい」
椅子にヒビが入るほど強くガルドが座る。
その様子に驚いた店員さんが急いで飛鳥達に駆け寄る。
「お、お客さん!当店でもめ事控えてくださ–––––」
「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いて欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」
「ガルドさん、さっき比企谷君が言ったことは事実かしら?」
「じ、事実だ」
「そう、なら人質にしたのは誰かしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ人質にとってある」
「比企谷君の発言で概ね予想できてるけどその人質は?」
「もう殺した」
その場が凍りついた。
ガルド=ガスパーだけは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。
「初めてガキ共を連れてきた日、鳴き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキ全部まとめてその日のうちに始末する事にした。
けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下ぎ食「黙れ」」
ガチン‼︎とガルドの口が先ほど以上に勢いよく閉ざされた。
「素晴らしいわ。此処まで絵に描いたような外道とはそうそう会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら……ねぇジン君?」
飛鳥の視線にジンは慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそういません」
「そう?それはそれで残念。–––––ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
ガルドが外へ出ては裁く事が出来ない。
飛鳥はそれでは満足しなかった。
「そう。仕方ないわ」
パチンと飛鳥が指を鳴らすとガルドの体が自由に戻った。
怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと、
「こ……この小娘がァァァァァ‼︎」
雄叫びとともに体を変化させる。
姿からしてワータイガーと呼ばれる混在種だった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかったんだろうなァ⁉︎箱庭六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ‼︎俺に喧嘩売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」
再びガチン、と勢いよく黙るがガルドの怒りはそれ誰では止まらない。丸太のように太い豪腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。それに割って入るように耀と八幡が腕を伸ばし、ガルドを抑えた。
「喧嘩はダメ」
「自業自得のくせしてキレてんじゃねぇよ自称紳士さん」
「ギッ……!」
耀の見た目には合わない力にガルドが目を剥く。
飛鳥だけは楽しそうに笑っていた。
「さてガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だった彼の最終目標は、コミュニティを潰した”打倒魔王”だもの」
ジンはその言葉に大きく息を呑む。
「……はい。僕たちの最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間を取り戻すこと。今更そんな脅しに屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」
「く……くそ……!」
そこで八幡が間に入る。
「久遠、悪いんだがこっから先は俺に合わせてくれないか?」
「……わかったわ。いいわよ」
「サンキューな久遠」
八幡は飛鳥から両々を得た瞬間、八幡の周りに異常なほどの威圧感と恐怖がその場に渦巻いた。
「「「「「‼︎」」」」」
「なぁ、ガルド。俺はお前のコミュニティのが瓦解する程度じゃあ満足しねぇんだわ、テメェは後悔しながら罰を受けるべきだ––––––そこで提案がある」
その瞬間、八幡の目が金色の狼のような瞳に変化し、
そして、
「俺達と『ギフトゲーム』をしねぇか?テメェの”フォレス・ガロ”存続と”ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、そして俺個人としてだがその死んじまった子供達の安らかな眠りのために、な」
ガルド=ガスパーに宣戦布告をした。
八幡があまり喋ってない気が……