入部届けを出した頃にはすっかり夕方になってしまった。入野は円堂に連れて行きたい場所があるとまた腕を引かれていた。
「何処に向かうんだ?昨日練習していた河川敷とは方向が違うぞ」
「良いから良いから!」
長い道のりを超え階段を登った先、入野の目に広がってきたのは広大な景色と橙色の夕陽だった。前世と同じ夕陽が入野の目に映った。
「此処は……」
「俺の小さい頃からのお気に入りの場所なんだ。入野にどうしても見せたいって思って」
「嗚呼……綺麗だ」
(今も昔も、この場所の美しさは変わらないのだな。やはりお前は俺の子孫だな。好きな場所まで一緒になるとは)
景色を眺めていると、視界の端に見覚えのある人影があった。円堂もそれに気付き、人影へと近づいた。
「豪炎寺!!」
豪炎寺は円堂達の方を向き驚いた表情を見せたが、直ぐに何時もの固い表情へと戻りその場を去ろうとした。しかし円堂が先回りをし豪炎寺の前に立ちはだかった。
「ここ、スッゲー良い所だろ!!俺のちっちゃい頃からのお気に入りなんだ!!なぁ、お前も聞いてるだろ?帝国学園との練習試合」
その言葉に豪炎寺が一瞬目を見開いたのを入野は見逃さなかった。
「でも、メンバーがどうしても足りなくてさ。入野と一緒に学校中回ったんだけど、誰も入ってくれなくて……なぁ、考え直してくれないか?」
豪炎寺は何も答えず夕陽を見つめていた。
「どうして、辞めちゃったんだ?良かったら話してくれないか?勿体ないじゃないか!あのキック!!最初にお前を見た時、俺鳥肌立ったんだぜ。辞めたのは理由があるんだろうけど、サッカーが嫌いになった、じゃないよな。好きでなきゃ、あんなキック出来ないもんな!!」
「……お前、良く喋るな」
(もう、止めた方が良い。これ以上しつこく誘えば、二度と勧誘する事は出来ない)
「円堂、今日はもう諦め……」
「俺、お前と入野とサッカーやりたいんだよ。俺達三人が組んだら最強のチームが出来るぞ!!」
「円堂!!」
「もう俺に話し掛けるな」
それだけ言うと、豪炎寺は下の道路へと飛び降りた。入野と円堂もつられて下を見る。豪炎寺は綺麗に着地し、歩き始めた。
「じゃあ!何で昨日ボールを蹴った!?」
「しつこいんだよ、お前は」
こちらを見ながらボソりと呟き、豪炎寺は去っていった。円堂は肩を落としてしまった。
(もっと早くに止めるべきだったか……)
円堂は残念そうな顔を浮かべていたが、夕陽を見つめると、よしと声を上げて近くに縄でぶら下がったタイヤへと向かった。心を切り替えるかと入野もそれに続く。
「特訓、始めるか!」
「嗚呼、宜しく頼む」
それから入野は円堂からサッカーのルールについて簡単に教えて貰い、早速特訓を始めた。
辺りがすっかり暗くなり、街灯の灯りだけが頼りになって来る頃、二人はまだ特訓を続けていた。入野はシュートの練習として、木に何度もシュートのイメージをしながらボールを高く上げ勢い良くジャンプしシュートを撃ち続けていた。
「うおおおおお!!」
何度目かも分からないシュートを撃った時、ボールの周りがバチバチと火花を散らしながら木にめり込む。木はさっきよりも大きく揺れ動いた。今までとは違う威力のシュートに入野は驚きを隠せなかった。
「い、今のは……?」
「ぐわぁっ!!」
「円堂!?」
呆気にとられていると、円堂の叫び声が聞こえていた。顔を円堂の方に向けると、円堂は擦り傷まみれで地面に突っ伏していた。入野は慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?少し休もう、立てるか?」
「何とか……」
「無茶苦茶だな、その特訓」
突然の第三者の声に二人は驚き、顔を向ける。そこに居たのは、風丸だった。風丸は二人の傍に近づき円堂を立たせた。円堂は何とか立ち上がり、近くのベンチに腰を下ろした。
「それにしても、何で入野も一緒にやってるんだ?」
「サッカー部に入部する事になってな」
「そうだったのか!?」
「意外そうにでも見えたか?」
「まぁな。それにしても、どうしてもこんな特訓を?」
「あぁ、あれだよ」
円堂の指差す先には一冊のノートがあった。少し年季の入ったノートを手に取り、ページを捲る。すると顔を引き攣らせながらボソりと「読めない」と呟いた。
(まぁそれが普通の反応だな)
ノートには文字というより暗号の様な文章の羅列が並んでいた。絵が載っているお陰で辛うじてサッカーの事について書かれている事が分かる。
「お前ら、これ読めたのか?」
「まぁな……読むというより解読と言った方が正しいのかもしれないがな」
入野は苦笑しながら、ノートを覗き見る。
(可笑しい。俺はまだ字は読める程度には綺麗だった筈。何処で下手くそになったのだ、俺の子孫達は)
「それ書いたの、じいちゃんなんだよね」
「じいちゃん?」
「あぁ。俺が生まれる前に死んじゃったんだけどね。昔、雷門サッカー部の監督だったんだってさ。そん時に作ったノートらしい。帝国学園はパワーもスピードも想像以上さ。そいつらのシュートを止めるにはじいちゃんの技をマスターするしかないと思ってさ」
「入野もか?」
「嗚呼、此奴の夢を手伝うと言ったんだ。ならば出来る限りの事はしたくてな。勝てないと最初から分かっていたとしても、逃げるつもりはない」
「……お前ら、本気で帝国学園に勝つ気なんだな」
「嗚呼」
「もちろんだ!!」
入野と円堂は迷い無く答える。するとフッと笑った風丸が手を差し出した。その意味が分からなかった円堂は手と風丸を交互に見た。
「お前らのその気合い乗った!!」
「風丸!!」
円堂は目を耀かせて風丸の手を力強く握り締めた。入野も嬉しそうに二人を見つめていた。
「……俺はやるぜ。お前らはどうするんだ?」
風丸が背後に向かって問い掛けると、木の陰や茂みから半田達サッカー部員が出て来た。
「みんな!!」
円堂は部員達の元に走り出そうとしたが、足を取られ転んでしまった。部員達が円堂の元に駆け寄る。
「キャプテン!!」
円堂の周りに部員達が集まるのを見て、入野は円堂にかつての自分を重ねていた。
(此奴には仲間が居る……だが俺には、その仲間はもう居ない。寂しいもんだな)
「入野、入野。どうかしたのか?」
「ん?否、何でもない」
風丸が心配そうに顔を覗き込んで居たが、入野はフッと微笑み円堂達の方へと向き直る。すると、一人の部員と目が合った。
「そう言えばキャプテン。この人は……」
「ん?あぁ、俺のクラスに転校してきた入野明だ。今日からサッカー部に入部するんだ!」
「宜しくお願い致します」
「入部ってマネージャーでヤンスか?」
「いや、選手だ」
「えええええええ!?」
円堂の言葉に風丸と円堂以外の部員達が驚いた顔で入野を見る。どうやら、円堂の特訓に付き合わされていただけだと思われていたらしい。半田が慌てて入野の両肩を掴む。
「お前、本気で入部する気なのか!?」
「嗚呼。円堂とも約束しているからな。それに困っている奴は放って置けない性分なんだ」
「そう……なのか」
「何だ?文句でもあるのか?」
「そ、それはないよ」
「ならば、それで良し。ところで、だ。折角なら自己紹介をして貰えないか?名前も知らぬ人間とサッカーをするのは、ちと至難の業なんだが」
「あぁ、そうだな」
その後部員達の自己紹介を終え、円堂達は再び特訓を再開させた。今度は二人ではなく皆で。
(仲間……か。現代でも良き仲間が見つかりそうだ。有難う、子孫よ)