御先祖様は子孫の為に生きる   作:鈴ノ木

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御先祖様は対峙する

試合当日、部員達は部室に集まっていた。

 

「皆、紹介するよ。今日の試合、助っ人に入ってくれる松野空介だ」

「僕の事はマックスって呼んでいいよ。君達のキャプテンを見てたら、なんだが退屈しなさそうだなって思って」

 

彼は確か、部員勧誘で学校中を駆け回っていた時に入野達を見ていた生徒だった。その様子に風丸達が溜め息を吐いた。一人の部員、染岡竜吾がじろりと睨む。

 

「退屈って、遊びじゃねぇんだぞ。試合は」

「心配いらないよ。サッカーはやった事無いけど、こう見えて器用なんだよね」

「と、いう事だ。期待しようぜ」

 

すると松野と入野の目が合った。松野は入野の前に歩いて来て手を差し出した。

 

「君が入野明さんだね?同じクラスの中途半田から話は聞いてるよ」

「誰が中途半田だ!!」

「よろしくね」

「あ、嗚呼。此方こそ、今日は宜しく頼む」

 

松野はニッコリと笑い、入野の手を握った。半田がふと思い出したかのように呟いた。

 

「これで部員は全員なのか?」

「俺が居る……」

「ひっ!?」

 

半田の背後には何時から居たのか、髪の長い生徒影野仁が居た。

 

「ごめん、気付かなくて……」

「影野も入部したんだっけか」

「良いのさ。俺はもっと存在感を出せる男になりたくて来たんだからね……フフフ」

 

影野の不気味な笑い声に何人かが苦笑してしまった。それからグラウンドに出て帝国学園を待っていると、さっきまで晴れていた空がどんよりと重く曇り始めた。遠くから細長い旗を靡かせた黒いバスが入って来た。バスが停まり、ドアが開くとレッドカーペットが綺麗に敷かれ、中から沢山の生徒が出てきてカーペットの横に並び両脇に挟んでいたボールを足で押さえて構える。すると、威圧感のあるサッカーのユニフォームを着た生徒達が出て来た。

 

(まるで軍隊の様だな……前世の頃の軍隊もあんな感じだったかな?そして……)

 

入野はバスの上の椅子に腰掛けている一人の男を見上げた。

 

(……あれが監督とやらか。何でバスの上に椅子があるのかはこの際置いておこう)

「雷門中サッカー部のキャプテン、円堂守です。練習試合の申し込みありがとうございます」

 

円堂は一人の生徒に挨拶し手を差し出すも、その生徒は無視をした。

 

「初めてのグラウンドなんで、ウォーミングアップしても良いかな?」

(何だ……感じの悪い奴だ)

 

入野はげんなりとした表情で帝国学園のサッカー部を見ていた。円堂を無視した生徒と目が合う。口角を上げて仁王立ちをしており、馬鹿にしている感が否めない。

 

「女がサッカーやってんのか」

「流石弱小チームって言った所ですね」

「それ程までに切羽詰まってたんだろう」

「どうせ大した事無いんだろ?」

 

生徒達が入野を見て愉快そうに笑う。何か言われるだろうと予測はしていたが、こうも露骨に言われるのは腹が立ってしょうがなかった。

 

「あ、あいつら!!」

「半田、好きに言わせておけ」

「入野!」

「……餓鬼共の戯言に付き合う程、年齢は低く無いもんでな」

「……お前も同年代だろ」

 

入野はギロりと帝国学園の生徒達を睨んだ。その視線に生徒達が口を噤んだ。緊迫した雰囲気が辺りを包む。円堂達はベンチに戻り、帝国学園のウォーミングアップを観察する事にした。

 

「な、何だ……あれ……」

(……想像以上だ)

 

帝国学園の力は自分達が思っていた以上に高いと、部員達から焦りの声が聴こえてくる。

 

(嫌味な連中だ。試合が始まる前に戦意を落とそうという訳か。だが、子孫は違うらしい)

 

円堂だけが、他の部員と同じ様に驚いてはいたが目は興奮の色を見せていた。そしてそれは入野も同じだった。他の部員に悟られない様に平常を気取っているも、内心とてもワクワクしていた。

 

(強敵を前にしてこうも興奮していられるのも、本当に俺とそっくりだ。流石俺の子孫)

 

円堂を見ていると、帝国学園の生徒がシュートを撃ち込んできた。一瞬反応が遅れた入野は円堂に避けろと叫んだが、円堂は手を前に突き出しボールを受け止めた。グローブは摩擦力で少々焦げてしまった様だ。それでも尚、円堂は恐怖で怯えることは無かった。

 

「燃えてきたぁぁぁぁ!!皆、一週間の成果をあいつらに見せてやろうぜ!!」

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

一年の宍戸佐吉と栗松鉄平が驚いた様に声を上げた。帝国学園の実力に圧倒されてしまったのであろう。

 

「あ、あの、キャプテン……」

「何だ?」

「俺、トイレ行ってくるっス!」

「え、おい!壁山!」

 

円堂の制止を振り切って同じく一年の壁山塀吾郎がトイレへと一目散に駆け出した。視線を感じた入野は後ろの方をちらりと見る。帝国学園の生徒の何人かがこちらを見ていた。

 

「どうするんだ?あいつが抜けたら十人しか居ないようだが?後の一人は、いるのかな?」

 

生徒の視線は自分達では無く、その後ろの木の影に居る豪炎寺に向いていた事に入野は気付いた。殆どの部員が帝国学園の実力に圧倒され落胆していると、円堂達を呼ぶ声が聴こえてきた。

 

「木野、どうかしたのか?」

「彼、サッカー部に入ってくれるんだって!」

 

秋の横には一人の男子生徒が立っていた。入野はその生徒に見覚えがあった。

 

(確か、武勇伝を作るとか言っていた目金欠流だったかな?)

「彼、確か運動神経は……」

「あぁ……」

 

風丸や染岡の反応を見る限り、運動神経の方は余り宜しくはないらしい。目金は一通り挨拶を終え部員全体を見渡した。

 

「どうやら僕は最後の一人では無かった様だね。でも入るって言ってましたし。それで入部するにあたって条件があるんだけど」

「条件?」

「僕さぁ、10番のユニフォームしか着たくないんだよね〜」

「えぇ〜……」

 

目金の言葉に何人かが座り込んで呆れてしまった。

 

「どうするでヤンスか?」

「枯れ木も山の賑わいって言うしね……」

「それはどういう意味かな?それに……」

 

目金はチラリと入野のユニフォームを見る。入野のユニフォームには大きく10番と描かれていた。これは部員全員に着て貰いたいとお願いされ、入野自身も特に拘る必要が無かった為、10番のユニフォームを着ているだけであった。

 

「何で女子が10番のユニフォーム着てるんですかぁ?」

「じゃあ、女子がサッカーやっちゃいけない決まりでもあんのかよ」

「少なくとも入野はお前よりかは出来るぞ」

 

先程の帝国学園の入野を馬鹿にした様な発言でイライラしていた風丸達にとっては火に油を注ぐ行為だった。風丸達が詰め寄る中、円堂が見事にその空気をぶち壊してしまった。

 

「よし分かった!!」

「えぇぇぇぇ!?」

「キャプテン、マジでヤンスかー!?」

「マジだ!!」

「だぁっ!?」

 

円堂の真面目な回答に半田と達がズッコケた。円堂は満面の笑みで入野の肩にポンと手を置いた。

 

「……と、言う訳だ。入野、脱げ!」

「……阿呆!」

 

その言葉と共に、入野は右手を振り上げ円堂の頭に拳骨を落とした。鈍い音がグラウンドに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、どうして子孫はああも真っ直ぐ過ぎるのだ!!せめて向こうで着替えてとか、言う事あるだろうに!!女心が分かっとらん!!まぁ俺も分かっとらんのだがな!!」

 

部室で秋から受け取った予備のユニフォームに着替え終えた入野は、ベンチに戻り目金にユニフォームを渡した。円堂は先程の拳骨がまだ痛むのか頭を押さえ蹲っていた。

 

「円堂君、円堂君!」

 

ベンチの向こう側から、一人の男が走ってきた。相当慌てているようだ。

 

(顧問の、冬海先生。だったかな?生徒達の間では評判は良くないと聞いているが……)

 

冬海は円堂達に早く試合を始める様にとせっついていた。時折、チラチラと帝国学園の方に目線を向けていたのが気になった。

 

「あ、はい!分かりました!皆、壁山を探しに行こう」

「円堂、私は帝国学園の方に一言言ってから向かう。結構待たせているからな」

「あぁ、頼んだ!」

 

円堂達と別れ帝国学園の方に歩こうとする入野の前に冬海が立ちはだかった。

 

「何の御用でしょうか?」

「い、入野さんは早く壁山君を探しに行きなさい!ここは先生が言っておきますから!」

「……先程からチラチラと目線が気になっていましたが、そういう事でしたか。大丈夫です。一言謝りに行くだけですから御心配なく。それとも、私があっちに向かって余計な事を喋らないか不安ですか?」

「なっ……」

「私は先生の事は何も言いません。ですが……円堂達に何か起きれば、私は先生を決して許す事は出来ません。それだけは憶えておいて下さい」

 

それだけ言うと入野はさっさと歩き始めた。グラウンドの帝国学園の方に向かって歩くと、何人かが入野に気付き始めた。一番近くに居た選手に話しかける。

 

「すみません」

「何だ?」

「大変申し訳ございませんが、部員が戻って来る迄もう暫くお待ち下さい」

 

深々と頭を下げて謝罪する入野に、選手達は少し目を見開いた。近くに居た別の選手が尋ねる。

 

「あの眼鏡を掛けた男が来て十一人になった筈だ。捜す必要は無いと思うが」

「彼はうちの大切な部員です。人数云々の問題ではありません」

「……お前、名前は何だ」

 

頭を上げて答える入野に選手は問う。

 

「雷門中二年、入野明です」

「俺は帝国学園二年、鬼道有人だ」

「お互い最善を尽くしましょう。では、失礼致します」

 

そう言い残し、入野は円堂達が捜す校舎へと走り去った。その後ろ姿を鬼道達は不思議そうな目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、円堂!居たか?」

「あ、入野!それが何処にも居なくて……」

 

その後、円堂達と合流した入野は校舎のあちこちを探し回っていた。

 

「何処に行っちまったんだ?」

「あいつが行きそうな場所はほとんど見たんだけどなぁ……」

 

半田が首を降り宍戸が肩を落としていると、何処からか悲鳴が聴こえてきた。何事かと慌てて向かってみると、栗松が教室で四つん這いになりながらガンガンと動いているロッカーを指差していた。

 

「ロッカーが!さっきから、さっきから揺れてるでヤンスよ〜!ギャアア!!出たああああ!!」

「出たって、お化けが入ってるわけないだろ」

 

円堂は栗松に構わずロッカーに向かう。

 

「そこに居るのか、壁山」

 

円堂がロッカーを開けようとすると反動で思いっきりドアが開き飛ばされた。中に居たのはやはり壁山だった。

 

「どうも、キャプテン……どうも。どうも……」

「壁山……」

 

呆れながら壁山の名を呟く松野と宍戸と半田。入野は倒れた円堂を引っ張り起こし上げた。

 

「お前何やってんだよ?早く出ろよ、試合始まっちゃうだろ」

「そ、それが……抜けられないんスよ!助けて〜!」

 

壁山は勢い良くロッカーごと飛び跳ねる。

 

「じゃあ、いっそのことそのままサッカーやるでヤンスね。鉄壁の守り、なんちって」

「お、上手いな」

「入野、上手くない」

「そんな〜!出して欲しいっス!!」

 

栗松と入野の冗談に半田がツッコミを入れる。壁山はどうにかして出ようと、必死に飛び跳ねる。怪我をしていないのが不思議な位だった。

 

「壁山、これ以上動くと怪我する。まずは落ち着け」

「キャプテン、俺やってみます」

「少林、頼むぞ!」

 

壁山達と同じく一年の少林寺歩は、数歩下がり勢い良く走り出した。そして飛び上がりロッカーを蹴り飛ばした。その衝撃で壁山は何とか外に出る事が出来た。皆が驚いている中、入野は少林寺の蹴りに拍手を送った。

 

「すみませんキャプテン……俺、ちょっと怖くなっちゃって……」

「壁山、逃げたら何も始まらない。一度逃げたらずっと逃げ続けなきゃならなくなる。そんなの、カッコ悪いだろ?」

「キャプテン……すみません。俺、やるだけやってみるっス!」

「良し!その意気だ!」

 

入野は壁山に手を差し出す。壁山はその手を握り締め立ち上がる。

(流石俺の子孫だ。部員達の士気も充分。これなら良い試合が出来そうだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、私はベンチなのか」

 

グラウンドに戻ってきた後、入野は直ぐに帝国学園の元に向かい再び謝罪してきた。二度も謝罪してきた事に選手達は驚きの表情を隠せなかった。その後、いよいよ試合が始まろうとした時、誰がベンチに入るかと話になった。人数上誰かがベンチに下がらなければならないのは分かってはいたが、自分がベンチに下がるとは思わず不満が隠しきれていない。

 

「お任せ下さい!女の子の出番が無い事を証明してみせましょう!!」

 

目金がこうも自信満々に言うので、仕方無く引き下がることにした。既にグラウンドに着いている円堂は申し訳なさそうに入野の方を見ていた。

 

(……今回は子孫の顔に免じて許しておこう)

「あの〜……」

 

隣からふと声を掛けられたので横を向くと、部員勧誘の時に出会った新聞部の生徒が隣に座っていた。

 

「私、新聞部の音無春奈です!どうぞよろしく」

「嗚呼、宜しく」

「取材、よろしいですか?」

「良いぞ」

「では、今回の試合、勝つ自信はありますか?」

「ん?無いな」

「えっ!?」

 

入野の即答過ぎる答えに思わずズッコケる春奈。入野は続ける。

 

「……だがな、彼奴等は何かやってくれそうな気がしてな。根拠など無いのだが。だから私はその何かに賭けようと思う。その何かが、勝利に導いてくれるんじゃないかって、期待している」

「……カッコイイ〜!今のコメント、是非使わせて貰いますね!!」

「えっ?」

 

入野は春奈の言葉に思わず驚く。さらに隣を見ると秋が少し照れた表情をしていた。入野と同じくコメントが新聞に載るのだろう。そしていよいよホイッスルが鳴る。

 

(愈々試合が始まる……子孫、俺はお前の秘めた可能性に賭けている。お前なら、どんなどんでん返しをしてくれるのだろうな)

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