試合が始まって十分が経過した。入野達は、目の前の惨状に目を覆いたくなった。最初は雷門中が優勢に思えたが、それは呆気なく崩れてしまった。あっという間に帝国学園のペースに飲まれ、次々と点を入れられてしまった。
(パワーもスピードもここ迄とは……何故最初に気付かなかったのだ俺は!最初に気付けば、対策は練れた筈だ!!)
雷門中サッカー部にファウルギリギリのシュートを撃ち次々と点を決めていく。もう既に全員が満身創痍だった。
(そして……鬼道有人という男。何故彼奴は俺達と試合を?そして何故あの時豪炎寺を見ていた?彼奴の目的は一体なんだ?)
豪炎寺はあの時のキックを見る限り、相当の手練だと分かる。その豪炎寺が雷門中に転校した時に帝国学園からの練習試合の申し込み。怪しいと入野は考え込む。
(……まさか!彼奴等の目的は豪炎寺か!?ならば一体何の為に俺達と試合を?訳が分からん!兎も角、今は子孫達が心配だ。後半戦に備えておこう)
入野はこっそりとベンチを抜け出し、ウォーミングアップに向かった。入野がウォーミングアップを終え戻ってきた頃には、丁度前半戦を終えた所だった。円堂達は入野が居ない内に随分とボロボロになってしまった。点数は10対0。寧ろ10点で済んで良かったと思えるレベルである。
「みんな……」
「喋る元気すらないみたい……」
誰一人として立ち上がれない円堂達を、秋と春奈は心配そうに見つめていた。
「どうなってんだあいつら!?誰一人息が乱れてないぜ!?」
「そりゃそうだよ。奴ら走って無いからね」
「僕らずっと遊ばれてるって感じですもん……」
帝国学園は、自分達のエリアからシュートを撃っており、雷門エリアに向かった者は少ない。それを皆はひしと実感させられたのである。
「クソっ!このまま終わってたまるか!後半はあいつらを走らせて体力を消耗させるんだ!!」
「消耗って……もう無理でヤンスよ……」
「あぁ……もう俺走れない……」
「なんだなんだ!?まだ前半が終わったばかりじゃないか!!」
「後半もやるんスかぁ?もうやるまでもないっスよ……」
「やっぱりこの試合、無茶にも程があったんですよ……」
宍戸や栗松、壁山の言葉に同意する部員も少なくない。円堂は怒りに震えながら立ち上がった。
「何言ってる!?まだやるぞ!勝利の女神がどちらに微笑むかなんて最後までやってみなくちゃ分かんないだろ!?そうだろう!?なぁ皆!!」
円堂が問い掛けるも、誰も返事を返さなかった。ただ一人を除いて。
「その通りだな」
「入野!?」
入野の発言に全員が驚く。入野の目には、円堂と同じ様に闘志が燃え盛っていた。
「後半は私が入る。多少は負担が減るだろう」
「何言ってんだ入野!あいつらのサッカー見てただろ!?相手はボールを使って攻撃してくるんだぜ!?」
「だから、何だ」
「えっ……」
「痛いのも全部承知の上だ。私が、満身創痍の部員を見て放っておく様な人間だとでも思ったか」
「そ、それは……」
「それに……」
半田が入野に詰め寄るも、入野は淡々と返す。そして宍戸の前まで歩き左足首に触れた。宍戸は痛みで小さく悲鳴を上げた。
「宍戸、怪我をしていたのだろう?後半もこの怪我で出るなら、彼奴等にとっては恰好の餌だ」
「本当かなのか、宍戸!?」
「すみませんキャプテン……言い出せなくて」
秋が怪我を診た所、酷くはないが無理はしない方が良いと言った。
「なら、代わりに私が宍戸のポジションに入る。さぁ、彼奴等を見返しに行くぞ」
『さて!いよいよ後半戦のスタートです!!雷門は八番宍戸に変わり雷門中サッカー部の紅一点、十九番入野が入ります!!圧倒的な帝国学園の力にどう立ち向かっていくのか!!』
ナレーションの実況を聞き流しながら、入野はグラウンドに立つ。
「入野……」
「半田……さっきは済まなかった」
「いや、俺こそ強く言い過ぎちゃったからな……あいつらには気を付けろよ」
「分かっている。お互い、無茶はしないようにな」
「もう無茶な気もするけど」
「それもそうか」
軽く談笑した入野は心を切り替えて帝国学園のエリアを真っ直ぐ見据える。そして、後半戦のホイッスルが鳴った。
「いくぞ……デスゾーン開始」
帝国学園からのキックオフで始まり、帝国学園の選手が雷門エリアへと上がって行く。
「そして、奴を引き摺りだせ!!」
「デスゾーン!!」
(……奴?やはり狙いは豪炎寺!!俺達は囮だったのか!!)
気付いた入野は直ぐに円堂の元に向かう。これ以上自分達が傷付けば、彼等の思い通りになってしまう。それだけは腹ただしかったので阻止したかった。
「円堂!!」
入野が向かうも虚しく、放たれたシュートは真っ直ぐゴールへと向かい反応が遅れた円堂はゴールに叩き付けられた。
「しっかりしろ、円堂!!」
「続けろ、奴を炙り出すまで」
その後も次々とラフプレーに近い攻撃で雷門中サッカー部が倒れていく。入野は必死に攻撃をカットしてシュートを撃つも、簡単に止められてしまう。どんどん点数が積み重なっていき、遂に18点目を入れられてしまった。
「出て来い……出て来い。さもなくば、あの二人を……叩きのめす!!」
鬼道が指し示したのは円堂と入野。選手達は交代で入野と円堂にボールをぶつけていく。入野はどうにかしてボールを奪うも直ぐに必殺技・サイクロンで吹き飛ばされてしまった。
「ふざけるな……!こんなの……こんなの、サッカーじゃねぇ!!」
「風丸!?」
地面に倒れ伏せていた風丸が立ち上がり、円堂を押し退けた。ボールは風丸の顔面に直撃し、風丸は遂に倒れてしまった。
「風丸!!風丸!!」
入野や円堂が傍に寄った時には、もうボロボロだった。風丸はぽそりと呟いた。
「えん、どう……いり、の……」
「……お前の気持ち、受け止めたぜ。入野、ポジションに戻ってくれ」
「……分かった。信じている」
入野はそう言い残し、ポジションに着く。
(俺はあの目を知っている。嘗ての俺と同じ、何事にも決して諦めないあの眼差し。今の彼奴になら、きっと……)
「絶対に……このゴールは守ってみせる!!」
「フッ。一度として守れてはいないが」
「百裂ショット!!」
再びシュートが放たれた。次まともに喰らえば、円堂は立つ事も出来ないだろう。部員の誰もが円堂を守ろうと立ち上がる。ただ一人、入野だけは帝国学園エリアへと走り始めた。その行動に雷門中サッカー部だけでなく、帝国学園サッカー部も驚いていた。
『なんと入野!!円堂をフォローせず、一人帝国ゴールへと走っていく!!これは一体どういう事だ!?』
「入野は……俺を信じて走ってるんだ!俺がシュートを止めるって!!これを止めた俺から、パスが来ると信じて!!うおおおお!!はあっ!!」
円堂が拳を握ると、周りにオーラが見えてきた。練習の時には見られなかったオーラが。円堂のオーラは拳に集まり、大きく光る手を空中に出した。そしてそれを前に突き出し、百裂ショットを受け止めた。その姿に、その場にいた全員が驚いた。
(遂に……遂にやったぞ!!子孫が、ゴットハンドを完成させた!!)
あの鉄塔広場で練習していたゴットハンド。一度も出現させる事が出来なかったが、ここで遂に出現させる事に成功した。
「いっけぇぇぇぇぇ!!入野!!」
円堂が投げたボールを素早く受け取り、帝国ゴールへと向かってドリブルする。
「通させるものか!!」
「それはどうだ!!」
「何!?」
帝国側の選手が立ち塞がるも、入野はあっという間に抜いてしまった。次々と帝国学園サッカー部をかわし、DFが止めようとするも入野は高く上に飛び上がり見事に抜け切った。
(これで大体、連中の癖は読み切った!!まさか前世で培った人を観る力がこうも役に立つとはな!!後はキーパーのみだ!!)
キーパーは直ぐに構えに入った。しかし入野は臆する事なくシュートの構えに入る。
(子孫は体を張ってまで俺にボールを渡した!ならば今度は俺が体を張る番だ!!このゴール、外すわけにはいかん!!)
入野は再び高く飛び上がり、体を回転させる。鉄塔広場で感じた力をボールに集中させ、勢い良く叩き付けた。
「うおおおおおおおお!!!」
叩き付けられた様に蹴られたボールはバチバチと火花を纏い、やがて電気となって一直線にゴールに向かった。ボールはキーパースレスレの所を飛びゴールに入った。そしてホイッスルが鳴った。
『ゴォーーーール!!ついに!雷門イレブンが帝国学園から一点をもぎ取りましたぁぁぁぁ!!』
一斉にあちこちから歓声が響く。入野は目の前の出来事に実感が湧かない中、歓声を浴びながら着地しようとした。
「うぐっ!?」
右足に鈍痛が走った。着地の際に、足をくじいてしまった様だ。入野は怪我を悟られない様に立ち上がる。ここでバレてしまえば相手側の恰好の餌食になる。ホイッスルが鳴り試合が始まった。ポジションに戻り、ふと後ろを振り返ったその瞬間、ガンッと頭に強い衝撃が走った。一瞬何が起きたのか分からなかったが、衝撃で体が回転し、背後の景色が見えた。目線の先には白黒のボールの先にシュートを撃ったと思わしき選手が居た。
(後ろから……撃たれたか……し、そん……)
目の前が真っ暗になってしまった。その様子を、豪炎寺とは正反対の茂みに居た、一人の男子生徒が心配そうに見つめていた。