染岡のシュートが完成した数日後、サッカー部の部室で円堂と入野は豪炎寺の入部届けを確認していた。その隣に帝国学園との試合と同じ様に10番のユニフォームを着た豪炎寺が立っていた。
「これで豪炎寺は雷門中サッカー部の一員だな」
「これからも宜しくな。そうだ、改めて自己紹介して貰おうか」
「豪炎寺修也だ」
豪炎寺がサッカー部に入部した事で、一年組はとても喜んでいた。
「豪炎寺さんが俺達と一緒に……」
「これで怖いものナシだね!」
宍戸と少林寺が喜んでいると、壁に寄り掛かっていた染岡が豪炎寺に突っかかってきた。
「待てよ、そいつに何の用がある。雷門中には俺と入野の必殺技があるじゃねぇか」
「落ち着け、染岡」
「染岡……」
「どうしたんだよ染岡。ストライカーが三人になるんだぜ?こんなに心強い事はないだろ?」
半田や入野の制止も、円堂の説得にも耳を貸さない染岡はそのまま豪炎寺に詰め寄る。
「ストライカーは俺と入野で充分だ」
「……結構つまらないことにこだわるんだな」
「つまらないことだとぉ!?」
「豪炎寺!!染岡!!」
入野が止めに入る前に、豪炎寺の言葉に怒りを覚えた染岡は胸倉を掴む。一触即発かと思った時に、部室のドアが開いた。
「皆、いる?」
「見て欲しいものがあるんですけど……」
「何かあった?」
出野達マネージャーが入って来たので、染岡は舌打ちをして豪炎寺を離す。
「豪炎寺、大丈夫か?」
「大したことはない」
春奈は持ってきたDVDをプレーヤーに入れて再生させた。そこにはサッカーの試合が映されていた。
「これは?」
「尾刈斗中の試合です」
「こんなのどこで……」
他校の試合など、そう簡単に手に入るものではない。風丸は不思議そうに尋ねる。
「新聞部の情報網を使ってゲットしたんですよ!私に掛かればこんなのお茶の子さいさいですよぉ?」
「ほー……流石だな」
「キャー!!明先輩に褒められちゃいました〜!」
入野が素直に感心していると、春奈が抱き着いてきた。もうこの光景が日常茶飯事になっており誰も気に留めていない。そして最近になってようやく出野からの殺気が止んできた様だった。豪炎寺だけが初めて見るので少し驚いていた。
「いつもあぁなのか?」
「暫くしてたら慣れるよ……」
半田は苦笑しながら答えた。一方円堂は既にDVDの方に釘付けになっていた。感嘆の声を挙げながら見ていると、ふと違和感を覚えた。
「ん?これは?」
「なんであいつら止まってんの?」
映像には、尾刈斗中と試合していた選手達がその場から一歩も動いていない様子が映っていた。その様子に円堂と松野が疑問を感じた。
「多分動けないんだと思います……噂では尾刈斗中の呪いだとか」
「呪い、か……」
円堂はジッと画面を見つめていた。入野が顔を覗き込む。
「円堂は信じていないようだな」
「え?だって呪いなんてあるわけないだろ?」
(此奴は案外リアリストだな……)
子孫の意外な一面に、入野は思わず感心していた。
そして試合当日になった。
『はい。いよいよ今日この日を迎えました。雷門中対尾刈斗中の練習試合。あの帝国学園を降した我が雷門中イレブンの勇姿を見ようと、多くの観客が詰めかけております。雷門中イレブンはどのような試合を見せてくれるのでしょうか? 実況は私、将棋部の角馬圭太でお送りいたします!』
帝国学園との試合の時に実況をしていた角馬が今回も試合をするようだった。雷門中サッカー部は試合に向けてグラウンドでウォーミングアップを始めていた。入野も念入りにマッサージをしていると、視界の端に見覚えのある人物が四人見えた。時間もあり、少し挨拶をしに行こうと入野はその場を離れた。グラウンドから少し離れた木の下に向かうと、その人物達は何かを話していた。入野はこっそりと近づき充分に近付いた所で声を掛ける。
「佐久間、源田、成神!」
「えっ!?あ、入野先輩!!」
「入野!?」
佐久間と源田、成神と鬼道が驚いた顔で入野の方を向いた。成神は入野に気が付いた瞬間駆け寄り抱き着く。佐久間と源田も親しそうに話しかける様子を見て鬼道は呆然としていた。
「どうしてここに来たんスか!?」
「ウォーミングアップはもう終わったのか?」
「お前達が見えたから挨拶しようとな。有難う、見に来てくれて……否、偵察に来たといった所か?」
「……まぁな」
「佐久間、源田……こいつは……」
偵察と図星をつかれた源田は気まずそうに頭を搔く。鬼道が不思議そうに見ていたので、入野は成神に抱き着かれた鬼道の方を向く。
「確か、鬼道有人だったかな……」
「久しぶりだな……入野明と言ってたな」
「嗚呼、先日は私達と試合をしてくれて有難う」
「……お前、恨んでいないのか?」
鬼道がキョトンとした顔で尋ねてくる。あれだけボロボロにしてしまっても、普通に話し掛けてくる事に不思議に思っていたのだろう。入野は思わず吹き出して笑いながら話した。
「佐久間と同じ事を言うんだな!もう大丈夫だ。あれから皆、心機一転で頑張っている。おまえ達のお陰だよ。有難う」
入野は頭をペコリと下げる。鬼道は佐久間達の方を向く。
「佐久間、源田……何時から仲良くなっていた?」
「あぁ……」
遂にその質問が来たかと佐久間は視線を逸らす。源田は別にバレても構わないと一つ溜息を吐いて出会った時の事を話し始めた。理由を聞いた鬼道は成程と納得した表情を見せた。
「だからか、成神が偵察に行きたいと駄々をこねたのは」
「まぁ、そんな所だな……」
入野はグラウンドの方を見ると、円堂達はもうそろそろウォーミングアップを終える頃だった。入野は成神に視線を落とす。
「じゃあもうそろそろ戻らないと……」
「えぇ〜……」
「成神、もういい加減離れろ」
佐久間が勢い良く成神を引き剥がす。成神はふくれっ面で入野から離れた。
「またな、是非ウチを応援してくれ」
「ハイ!先輩の活躍しっかりと見てますから!!」
入野は四人に手を振り、その場を後にした。
入野がグラウンドに戻って来ると、全員が準備を終えていた。出野がキョロキョロと入野を探していた。
「出野!」
「あ、入野さん!良かった、もうすぐ相手の選手が来るって」
「嗚呼分かった」
二人が話していると円堂が来たと呟いた。円堂達の方を振り向くと、如何にもなオーラを纏った選手がやってきた。
「あれが、尾刈斗中……」
「不気味だ……」
「お前が言うな」
影野の呟きに半田がツッコミを入れる。入野は聴き流しながら尾刈斗中の選手達を見ていた。見れば見る程、不気味さを感じる。不気味さを感じながらも、円堂達はセンターラインに並んだ。横では互いの監督が握手をしていた。その様子を見ていた入野は尾刈斗中サッカー部の監督、地木流と目が合った。地木流は入野と豪炎寺の元に近付いてきた。
「君が入野さんと豪炎寺君ですね?帝国学園との試合で撃ったシュート、見させて頂きましたよ。いやはや、全くもって素晴らしい。今日はお手柔らかにお願いしますね?」
「ちょっと待て。あんた達の相手は入野と豪炎寺だけじゃない。俺達全員だ」
「はぁ?」
感嘆の声を上げる地木流に染岡が詰め寄る。しかし地木流は呆れた表情していた。
「これは滑稽ですねぇ。我々は入野さんと豪炎寺君と戦いたいから練習試合を申し込んだんですよ。弱小チームの雷門には興味がありません」
「何!?」
「やめろ染岡」
掴みかかろうとする染岡を円堂が制止する。流石に腹が立った入野はフッと鼻を鳴らした。
「地木流監督、でしたね?此の度は私達雷門中サッカー部と試合して頂き誠に有難う御座います。また、先日の試合でのシュート、褒めて頂きこちらも嬉しく思います。ですが貴方は一つ勘違いをしていらっしゃいます。サッカーは十一人でやるもの。私や豪炎寺にばかり目がいっていると、足元を掬われるかもしれませんね?」
腕を組みながら入野は言う。誰かがまるで某理事長代理だと呟いた。地木流は入野の言葉に面を食らったが、面白げに笑う。
「ご忠告ありがとうございます入野さん……精々お二方の足を引っ張らない様にして下さい」
地木流達尾刈斗中サッカー部はその場を後にした。染岡は今にも舌打ちをしそうな表情だった。円堂は染岡の肩に手を置いた。
「言ってくれるじゃねぇか」
「見せてやろうぜ、染岡。お前の必殺シュートを!」
「おう!」
「……へ、へ、へっくしゅん!!」
入野が小さくくしゃみをした。傍に居た風丸が心配そうに顔を覗き込んだ。
「入野、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……今日は風があるから砂埃が酷くてな……それに天気も余り良くない。雷でも鳴りそうだ」
「雷?怖いのか?」
「まさか……な」
「あぁー……大丈夫だ。誰にも言わない」
「すまん……」
入野は前世の頃から雷が苦手だった。現在の天気も曇っていて天気は良くない。雰囲気も相まって雷でも落ちてきそうな予感がした。
(何も起こらなければ良いが……)
出野の方をそっと向く。出野も入野の雷嫌いを知っているのか、頑張れというジェスチャーを送ってきた。