verlieren   作:亜梨亜

6 / 9

 ━━歪な王冠の形をした水晶。とある国の、王子の物語。

 其れは、あまりに短いdrama。嗚呼、でも貴方にとっては無限のdramaなのかもしれないわね。私には退屈過ぎて、切り取ってしまったわ。ごめんなさい。


drama spare

 ━━僕は恵まれていた。世界(セントニア)の王の遺伝子を継いだ、産まれながらにして勝者となる権利を持ったのだから。

 

 ━━僕は恵まれていなかった。僕より先に、世界の王の遺伝子を継いだ、産まれながらに勝者となる義務を持っていた兄がいたから。

 

 産まれながらにして皇帝。

 産まれながらにして皇帝の奴隷。

 

 きっと僕は、あの兄に勝つことは出来ないだろう。父上の瞳と、父上のオーラと、父上の全てが、あの兄には詰まっている。

 僕は恵まれていた。然れど、彼の方がもっと恵まれていただけだ。

 圧倒的な王の前には、全てが奴隷。圧倒的な勝者である筈の僕でさえも、更なる勝者の前では、奴隷でしかない。

 

 産まれながらにして、勝者。

 産まれながらにして、敗北者。

 

 最終的に勝者となる者は一人しかいないのかもしれない。

 それでも、僕は少しでも勝者となりたかった。

 

 産まれながらにして、敗北者。

 

 ━━それは、彼のような者のことを言うのだろう。

 

 セントニア国第七王子、ヴァッシュ・セントニア。彼が誕生したその次の日、彼の母であった側室は「王によって」暗殺された。

 彼女は、セントニア王国にとって、黒王一族にとって、邪魔でしか無かった、と聞かされた。

 ヴァッシュも兄弟皆から嫌われていた。理由があった訳では無い。唯、あの女の子どもだから。薄汚れた血が混じった王家だから。使用人達も避けているから。そういった理由で彼を虐げていた。

 

 しかし、ヴァッシュは抗い続けた。例えどれ程年齢が違う相手だろうと、どれ程体格が違う相手だろうと噛みつき続けた。その度に全身に傷を刻まれ、敗北者としての刻印(レッテル)を貼られるというのに。たとえ刃で傷を刻まれようと、焼印で敗北の証を刻まれようと、鞭で弱者の佇まいを刻み込まれようと、彼は歯向かい続けた。

 

「ヴァッシュを殺せ」

 

 そう、僕に命令したのは兄だった。逆らえなかった。逆らう必要も無かった。殺してしまえばいい。そう思っていた。

 僕の持つ兵士達を使い、僕も剣を持ち、アイツを殺そうとした。けれど、アイツは「僕がアイツを殺そうとしていること」に気付き、同じように剣を持って抗おうとした。

 

 ヴァッシュは産まれながらにして敗北者であった。たった一人で抗おうとしても、多数の兵士と僕を相手に抗い切れる筈もなく。「殺す」ことを目的に虐げに来た相手も初めてだっただろう。当然の様にアイツは逃げ惑った。

 

 それでも、ヴァッシュは死ななかった。あろうことか僕は、彼を追っているうちに彼を見失ってしまった。

 やってしまった、と思った。兄に殺される、と思った。けれど、ひとつのことに気がついた。

 

 アイツは、一人なんだ。生きていけないじゃないか。なら、殺したも同然だ。

 僕は兄に「ヴァッシュを殺した」と報告した。兄もそれを疑いもしなかった。

 

 恐らく、最大の誤算はこの時だったのだろう。

 

 数年後、ヴァッシュは生きた姿で発見された。

 アイツは、世界に抗い続けることを諦めていなかったんだ。あろうことか、セントニア王国そのものに牙を剥く、御伽話のような「不死の兵隊」と名乗り、僕の、セントニアの前に現れた。

 兄は僕に酷く苛立った。地方領主の身勝手な自殺による妹の縁談の破談、未だ尚世界に抗い続ける無謀な女詩人、そして同じく世界に抗っていると思われる謎の創作者……これ以上面倒を増やしてくれるな、と。

 

 きっと、兄が死ねば次男である僕が次の王だ。

 ヴァッシュよ、コイツを殺しておくれ。

 

 

 

 ━━僕は、斬首台に上げられた。





 ━━驚いた、って顔をしているわね。私も驚いているわ。まさか、貴方がそうだなんてね。

 ……これで貴方が追い掛けるdramaはお終い。何か得たものはあったかしら?少なくとも、「貴方」にはあったでしょう?

 ━━さあ、敗北者よ。時計の針を━━
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。