━━歪な王冠の形をした水晶。とある国の、王子の物語。
其れは、あまりに短いdrama。嗚呼、でも貴方にとっては無限のdramaなのかもしれないわね。私には退屈過ぎて、切り取ってしまったわ。ごめんなさい。
━━僕は恵まれていた。世界(セントニア)の王の遺伝子を継いだ、産まれながらにして勝者となる権利を持ったのだから。
━━僕は恵まれていなかった。僕より先に、世界の王の遺伝子を継いだ、産まれながらに勝者となる義務を持っていた兄がいたから。
産まれながらにして皇帝。
産まれながらにして皇帝の奴隷。
きっと僕は、あの兄に勝つことは出来ないだろう。父上の瞳と、父上のオーラと、父上の全てが、あの兄には詰まっている。
僕は恵まれていた。然れど、彼の方がもっと恵まれていただけだ。
圧倒的な王の前には、全てが奴隷。圧倒的な勝者である筈の僕でさえも、更なる勝者の前では、奴隷でしかない。
産まれながらにして、勝者。
産まれながらにして、敗北者。
最終的に勝者となる者は一人しかいないのかもしれない。
それでも、僕は少しでも勝者となりたかった。
産まれながらにして、敗北者。
━━それは、彼のような者のことを言うのだろう。
セントニア国第七王子、ヴァッシュ・セントニア。彼が誕生したその次の日、彼の母であった側室は「王によって」暗殺された。
彼女は、セントニア王国にとって、黒王一族にとって、邪魔でしか無かった、と聞かされた。
ヴァッシュも兄弟皆から嫌われていた。理由があった訳では無い。唯、あの女の子どもだから。薄汚れた血が混じった王家だから。使用人達も避けているから。そういった理由で彼を虐げていた。
しかし、ヴァッシュは抗い続けた。例えどれ程年齢が違う相手だろうと、どれ程体格が違う相手だろうと噛みつき続けた。その度に全身に傷を刻まれ、敗北者としての
「ヴァッシュを殺せ」
そう、僕に命令したのは兄だった。逆らえなかった。逆らう必要も無かった。殺してしまえばいい。そう思っていた。
僕の持つ兵士達を使い、僕も剣を持ち、アイツを殺そうとした。けれど、アイツは「僕がアイツを殺そうとしていること」に気付き、同じように剣を持って抗おうとした。
ヴァッシュは産まれながらにして敗北者であった。たった一人で抗おうとしても、多数の兵士と僕を相手に抗い切れる筈もなく。「殺す」ことを目的に虐げに来た相手も初めてだっただろう。当然の様にアイツは逃げ惑った。
それでも、ヴァッシュは死ななかった。あろうことか僕は、彼を追っているうちに彼を見失ってしまった。
やってしまった、と思った。兄に殺される、と思った。けれど、ひとつのことに気がついた。
アイツは、一人なんだ。生きていけないじゃないか。なら、殺したも同然だ。
僕は兄に「ヴァッシュを殺した」と報告した。兄もそれを疑いもしなかった。
恐らく、最大の誤算はこの時だったのだろう。
数年後、ヴァッシュは生きた姿で発見された。
アイツは、世界に抗い続けることを諦めていなかったんだ。あろうことか、セントニア王国そのものに牙を剥く、御伽話のような「不死の兵隊」と名乗り、僕の、セントニアの前に現れた。
兄は僕に酷く苛立った。地方領主の身勝手な自殺による妹の縁談の破談、未だ尚世界に抗い続ける無謀な女詩人、そして同じく世界に抗っていると思われる謎の創作者……これ以上面倒を増やしてくれるな、と。
きっと、兄が死ねば次男である僕が次の王だ。
ヴァッシュよ、コイツを殺しておくれ。
━━僕は、斬首台に上げられた。
━━驚いた、って顔をしているわね。私も驚いているわ。まさか、貴方がそうだなんてね。
……これで貴方が追い掛けるdramaはお終い。何か得たものはあったかしら?少なくとも、「貴方」にはあったでしょう?
━━さあ、敗北者よ。時計の針を━━