verlieren   作:亜梨亜

7 / 9
終章

「新たな敗北者……ヴァッシュ・セントニア。貴方は、このdramaを廻って何が見えた?」

 

 ヴァッシュが巡り廻った五つ物語(drama)。彼等もまた、何処かの世界の何処かの国の、何れかの時代の敗北者であった。或いは、彼もよく知る敗北者。

 

 俺は違う。

 あんな敗北者達と一緒にするな。

 

「でも、貴方も死んだ」

 

 違う。あれは……

 

 あれは━━。

 

 

 

「あれは、身内に殺されたんだ……とでも言いたいの?」

 

 

 

 ━━あの時、俺の心臓を貫いた槍。それは名も無き一兵卒。但し、セントニア王国の兵士では無く、「不死の兵隊」の兵士であったのだ。

 名前は知らない。何故、俺を貫いたのかも知らない。だが、それが無ければ、俺は、俺は━━。

 

「同じじゃない、貴方が追い掛けてきた物語に生きた彼等と」

 

 蘇るのは槍の物語(最初のdrama)。奇しくも、ヴァッシュを貫いた武器、「槍」の物語。

 槍を握って戦い続けた黒腕の悪魔は、味方であったはずの人間(悪魔)の手によって、世界(不条理)の手によってその命を絶たれた。味方であったはずの。

 同じではないか?

 

 違う。

 俺は違う。

 

 

「違わないわ」

 

 

 違う。

 

 

「産まれた時から周りに虐げられ、」

 

 

 五月蝿い。

 

 

「誰かを愛することも出来ず、」

 

 

 黙れ。

 

 

「かと言って孤独に戦うことも出来ずに、」

 

 

 やめてくれ。

 

 

「それでも誰も信用出来ないから隣人も作れない、」

 

 

 もう嫌だ。

 

 

「抗うつもりで、逃げているだけの!」

 

 

 嫌なんだ。

 

 

「敗北者でしょう?」

 

 

 敗北者に成り下がるのは……もう嫌なんだ。

 

 産まれながらにして勝者。

 産まれながらにして敗北者。

 

 俺を殺そうとした兄貴は……エイマウズは、それを知っていた。自分が、敗北者側にいることも。

 俺も知っていた。然れど、抗い続けた。

 

「……私は、その方が好きよ」

 

 抗っても、敗北者。

 (ユキムラ)も、世界(悪魔)に抗い続けた。薔薇(ローズ)も、世界(身分)に抗い続けた。(セレナ)も、天使(バロン)も、世界(セントニア)に抗い続けた。

 俺も、きっと。きっと抗い続けていたんだと思う。

 それでも、敗北者。

 

 ならば、抗わない方が良かったのだろうか?どれ程抗ったとしても、敗北者というレッテルからは、運命からは逃れられない。ならば、抗わない方が良かったのではないか?

 

 そうだ、そうすれば、「俺はまだ敗北者じゃない」なんて言わずに済む。そうだ、兄貴(エイマウズ)のように。受け入れるしかない。受け入れ、歴史の闇に埋もれ、どれ程惨めでも、小さな物語を生み出し、このまま死んでしまえばいい。

 

 

 

 ━━本当に、敗北者のままでいいの?

 

 

 

 

 いい訳ないだろ。けれど、仕方が無いんだ。

 

「……敗北者」

 

 うるせえ。

 

 くすくす。くすくす。

 

 笑ってんじゃねえよ。

 

「敗北 者」「 敗 北 者 」「 敗 北 者 」「敗 北者」

    く すくす。 「 敗 北者」くす く す。く すく す。 「敗北者」く すくす。 くすくす。くすくす。くす くす 。 くすくす 。「敗北 者 」「 敗北者」くすく す。

 

 声が、真っ白な世界に反響する。うるせえ。

 

 うるせえ。くすくす。黙れ。「敗北者」

 

 

「黙れっ!!」

 

 

 俺は。俺は違う。

 

 俺はまだ負けていない。敗北者なんかじゃ、無い。

 

 あんな歴史に埋もれてしまった、哀れな敗北者なんかと同じじゃない。

 不死の兵隊だ。俺は死なない。死して尚、抗い続ける。

 

 

 

 

「俺は死なない」

 

「俺は敗北者じゃない」

 

 

 

 

 黒い翼、白い翼。死と生を。

 産まれながらにして奴隷。

 奴隷は死しても皇帝に牙を剥く。

 全身を荊棘で締め付けられようとも、悪魔に心臓を売ってでも。

 たとえ、相手が兄であったとしても、皇帝であったとしても、世界であったとしても。

 

 不死の如く死から蘇り、東に沈む太陽を目指して、抗い続ける。

 

 

「……ええ、そうね」

 

 

 世界に、摂理に抗う。

 

 

 

 透明な少女は、静かに微笑んだ。

 

 

 

「死ぬ迄抗い続けただけでは、ただの敗北者」

 

「死して尚抗い続ける者は居なかった」

 

「何故なら、死を迎えれば、そこで敗北者の時計は止まるのだから」

 

「ならば、死した後、時計の針を戻して」

 

「死して尚、抗い続ける不死の獣を解き放つ」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━さあ。世界に、摂理に、神に。

 

 勝者に、抗い続けましょう━━━━。

 

 

 

 

 

 

 ━━そして、また新たな水晶が世界に産み出される……。







 ━━そして、世界は色を失い、再度あの透明な世界へ敗北者を誘う━━。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。