「新たな敗北者……ヴァッシュ・セントニア。貴方は、このdramaを廻って何が見えた?」
ヴァッシュが巡り廻った五つ
俺は違う。
あんな敗北者達と一緒にするな。
「でも、貴方も死んだ」
違う。あれは……
あれは━━。
「あれは、身内に殺されたんだ……とでも言いたいの?」
━━あの時、俺の心臓を貫いた槍。それは名も無き一兵卒。但し、セントニア王国の兵士では無く、「不死の兵隊」の兵士であったのだ。
名前は知らない。何故、俺を貫いたのかも知らない。だが、それが無ければ、俺は、俺は━━。
「同じじゃない、貴方が追い掛けてきた物語に生きた彼等と」
蘇るのは
槍を握って戦い続けた黒腕の悪魔は、味方であったはずの
同じではないか?
違う。
俺は違う。
「違わないわ」
違う。
「産まれた時から周りに虐げられ、」
五月蝿い。
「誰かを愛することも出来ず、」
黙れ。
「かと言って孤独に戦うことも出来ずに、」
やめてくれ。
「それでも誰も信用出来ないから隣人も作れない、」
もう嫌だ。
「抗うつもりで、逃げているだけの!」
嫌なんだ。
「敗北者でしょう?」
敗北者に成り下がるのは……もう嫌なんだ。
産まれながらにして勝者。
産まれながらにして敗北者。
俺を殺そうとした兄貴は……エイマウズは、それを知っていた。自分が、敗北者側にいることも。
俺も知っていた。然れど、抗い続けた。
「……私は、その方が好きよ」
抗っても、敗北者。
俺も、きっと。きっと抗い続けていたんだと思う。
それでも、敗北者。
ならば、抗わない方が良かったのだろうか?どれ程抗ったとしても、敗北者というレッテルからは、運命からは逃れられない。ならば、抗わない方が良かったのではないか?
そうだ、そうすれば、「俺はまだ敗北者じゃない」なんて言わずに済む。そうだ、
━━本当に、敗北者のままでいいの?
いい訳ないだろ。けれど、仕方が無いんだ。
「……敗北者」
うるせえ。
くすくす。くすくす。
笑ってんじゃねえよ。
「敗北 者」「 敗 北 者 」「 敗 北 者 」「敗 北者」
く すくす。 「 敗 北者」くす く す。く すく す。 「敗北者」く すくす。 くすくす。くすくす。くす くす 。 くすくす 。「敗北 者 」「 敗北者」くすく す。
声が、真っ白な世界に反響する。うるせえ。
うるせえ。くすくす。黙れ。「敗北者」
「黙れっ!!」
俺は。俺は違う。
俺はまだ負けていない。敗北者なんかじゃ、無い。
あんな歴史に埋もれてしまった、哀れな敗北者なんかと同じじゃない。
不死の兵隊だ。俺は死なない。死して尚、抗い続ける。
「俺は死なない」
「俺は敗北者じゃない」
黒い翼、白い翼。死と生を。
産まれながらにして奴隷。
奴隷は死しても皇帝に牙を剥く。
全身を荊棘で締め付けられようとも、悪魔に心臓を売ってでも。
たとえ、相手が兄であったとしても、皇帝であったとしても、世界であったとしても。
不死の如く死から蘇り、東に沈む太陽を目指して、抗い続ける。
「……ええ、そうね」
世界に、摂理に抗う。
透明な少女は、静かに微笑んだ。
「死ぬ迄抗い続けただけでは、ただの敗北者」
「死して尚抗い続ける者は居なかった」
「何故なら、死を迎えれば、そこで敗北者の時計は止まるのだから」
「ならば、死した後、時計の針を戻して」
「死して尚、抗い続ける不死の獣を解き放つ」
━━━━さあ。世界に、摂理に、神に。
勝者に、抗い続けましょう━━━━。
━━そして、また新たな水晶が世界に産み出される……。
━━そして、世界は色を失い、再度あの透明な世界へ敗北者を誘う━━。