FAIRY TAIL~選択者の軌跡~   作:ダブルマジック

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再会と決別

 どうにか間に合った。

 S級試験の時のキャンプが以前と同じ場所にあって幸いだったが、近くには悪魔の心臓の雑兵がいくらか転がっていて、少し離れた場所からは戦闘の音が響いていたので、そちらへと走っていったウィズ。

 そこで見たのは木の根のようなもので拘束されたリサーナと、そのリサーナを庇うように抱きつくミラの姿。

 そして少し離れた場所には戦っていたのだろう褐色の男が立っていて、興味を失ったのかミラ達に背を向けてしまっていた。

 ミラ達をよく見るとリサーナを拘束する根にはタイムカウントがあり、それがもう10秒を切っていたので、この手のものは爆発するのがお約束なので急いで2人へと近付き、その時に小石を1つ拾って到達。

 

「よく頑張ったな、ミラ。良いお姉ちゃんになったじゃないか」

 

 体を張ってリサーナを守ろうとしていたミラの頭をポンと触ってから、右手で根に触れて内包しているだろう爆発力を抜き取ると拾った小石に移してそれを背中を向けていた敵へと放り投げる。

 直前でウィズの存在に気付いて振り返ってはいたが、その時にはもう小石は男の目の前にまで迫って接触。

 途端に壮絶な爆発が起こって男は爆炎に包まれて見えなくなる。

 しかしこの程度で倒せるならミラが苦戦などするはずもないので、姿の見えない男に聞こえるだろう声で口を開いた。

 

「家族を傷つけた報いは受けてもらうぞ、三下」

 

 それにすぐ応える声はない。

 なら今のうちにと固まってるミラとリサーナに近寄り硬そうな根から強度を抜き取って地面に流してしまってから、持っていたナイフでサクッと根を斬りリサーナを自由にする。

 するとリサーナは泣きながらにウィズへと抱きついて「ウィズ兄! ウィズ兄!」と嬉しそうにするので、落ち着かせるように背中をポンポンと叩いてから離れると、次に俯いていたミラに顔を向ける。

 

「なんだか雰囲気変わったな、ミラ。あのツンツン不良娘がずいぶん大人しいじゃないか」

 

「…………何よ。勝手にギルドを抜けたバカが、何で今このタイミングで来るのよ……」

 

「それはまぁ、話すと長くなるから追々……」

 

 ──パァン!

 なんだか昔と雰囲気の違うミラに困惑してしまったが、唐突に平手打ちを食らったウィズはそこに込められた意味をすぐに読み取って一言「ごめん」と謝るが、キリッと睨んだミラは許してくれそうにない。

 

「今はそれだけで許してあげる。でもみんなが受けたショックがその程度の痛みだなんて思わないで」

 

「……わかってるよ。だがまずはやるべきことをしよう。話はそれからゆっくりとしてやる」

 

 再会を喜ぶような雰囲気ではなかったミラにちょっと悲しくはあったが、いつまでも話をしているわけにもいかないと真剣な顔つきに戻ると、ちょうど爆発の煙が晴れてそこからドーム状に張られた根の壁が崩れて男が出てきて、まっすぐウィズを見据えてくる。

 

「何者かね」

 

「名乗る時は自分から、だろ」

 

「失礼。私はアズマ。悪魔の心臓、煉獄の七眷属の1人である」

 

「そうかよ。オレは妖精の尻尾のウィズ・クローム。これからお前を倒す男の名だ。忘れるなよ」

 

 見るからに強そうな相手、アズマだが、全く負けるイメージのないウィズはミラとリサーナを手で下がるように促してから、自分の記憶にないほどの戦意をむき出しにしてアズマへと突撃。

 選択の恩恵によって身体能力が人並み外れてるウィズのスピードに少々驚いたようなアズマだったが、すぐに迎撃に動いて種子の爆弾のようなものを撃ち込んできた。

 並々ならない動体視力。それを生かして飛んでくる種子爆弾の1つ1つを右手で触れて爆発力を抜き取っては別の種子爆弾に入れ、それをまとめて抜き取りと繰り返して全ての種子爆弾から爆発力を抜き取ると、それを拾った小石に入れて適当な場所に放ってしまってアズマへと肉薄。

 殺気にも似た威圧感でアズマに迫ったウィズは、その右手で視覚を抜き取ろうとするも、圧倒的な存在感を持った右手に恐怖したのか大きく後退したアズマは、その額に大量の汗を滲ませた。

 

「何者だ、お前は……」

 

「さっき言っただろ。お前を倒す男だ」

 

 直前に右手の効力を見せていたとはいえ、警戒が早かったアズマにちょっと感心したウィズだが、選択の致命的な弱点に気付かれる前に勝負を決めないと勝算が落ちる可能性があったので、考える余裕を与えないよう再び接近。

 アズマは右手への警戒が強くなり意識の半分以上が右手にいっていた。

 それを直感的にわかったウィズは回避に動くアズマに右手を意識させたまま、右手でフェイントを入れて回避を誘導。即座に繰り出した左手の拳がアズマの顔面を捉えて怯ませると、畳み掛けるように右足のかかと落としで地面に叩きつける。

 当然そこで終わるほどウィズも甘くないので、跪くアズマの下顎を左足で蹴り上げて無理矢理起こすと、左手で顔を掴んで右手を振りかぶる。

 

「『五感消失(ファイブ・ダウン)』……」

 

 それはある意味で死ぬよりも恐ろしい生き地獄を与える神罰。

 1度の選択で五感の全ては抜き取れないが、左腕を中継点に右手をアズマと左腕を行き来させることでタイムロスを可能な限りなくし2秒とかけずに相手の五感を奪ってしまうウィズの必殺。

 見えず聞こえず感じず匂わず味わえず。人として持つ感覚が機能しない恐怖は実際に味わった者にしかわからないが、自分が今どうなっているかもわからなくなる恐怖は想像を絶するものだ。

 その恐怖を与えるべく右手を動かしたウィズだったが、直前で後ろからミラの「避けてっ!」の叫び声で反射的にアズマから左手を放して身体を後ろへと反らして紙一重で迫っていた横一閃の斬撃を躱し、バック転で距離を取り崩れたアズマの後ろから迫っていた新たな敵に目を向けた。

 

「あなたには重要な役目があるのでしょう。こんなところで遊んでないで任務を遂行しなさい」

 

「……助かったのだよ」

 

 その敵は抜刀した刀を鞘に納めながら、持ち直して立ち上がったアズマにそう言ってどこかへと行かせてしまい、それを止めようと動きを見せたウィズだったが、目の前の敵は一切の隙もなくウィズに睨みを効かせて動きを止めてしまう。

 

「妖精の尻尾に入ったのね。孤独なあなたが人の輪の中に入るなんて意外だったわ」

 

「……それが弟子に対してかける言葉なのか、ティア・レンドリー」

 

「ふふっ、そんな実感はないでしょうに」

 

 地面に届きそうなほど黒く長い後ろ髪をポニーテールにし、豪華絢爛な赤を主体にした着物。それを上半身部分を脱ぎ帯で止め、サラシを巻いたキツそうな女、ティア・レンドリーは、その腰に白の鞘に納まる刀を携えてウィズの首の紋章を確認して言葉をかけるが、ようやく会えた師匠に対してウィズはずいぶんと冷めた感じで接する。

 

「そうしたのはあんただろ。悪いがオレがここにいるのは偶然じゃない。ずっと探してようやく見つけたんだ。だから返してもらうぞ、オレの抜き取られた記憶をな」

 

 グッとその拳を握ってそう宣言したウィズにティアは無言。代わりにやれるものならといった雰囲気を全身から発する。

 そして事情を全く知らないミラとリサーナは、ウィズの言葉にどう反応するべきなのかと立ち尽くすが、そんな2人に振り返ることもなくウィズは言葉をかける。

 

「ミラ、リサーナ。出来るだけ休みながら拠点を守ってくれ。ここはみんなが集まるはずの場所。そこに誰かいないと苦しいからな。オレはこの人の……ティアの相手をしなきゃならない」

 

「ウィズ……聞きたいことがたくさんあるんだから、ちゃんと戻ってきて」

 

「約束か。了解した」

 

 現状、戦闘になるかもしれないティアの相手は消耗したミラとリサーナでは荷が重いと判断し、拠点の防衛を任せてティアに移動するように首で示してから森の奥へと進んでいき、ティアもミラ達に少し視線を向けたもののすぐに外してウィズについて移動していった。

 

「(自分の都合は無視したかったが、この状況で接触されたら仕方ない。ティアがどんな目的で動いていようと、妖精の尻尾に仇なす敵になるなら、全力で倒す)」

 

 移動しながらにここからどうするかを決めたウィズは、黙ってついてくるティアへの警戒を最大のまま少し開けた場所に出てから距離を開けて改めてティアと相対する。

 

「何で黙ってついてきた。消耗してるとはいえあの2人を放っておく理由もないだろ」

 

「これでも慎重な方だから。あの2人に手を出したらあなたが黙ってなさそうだったし、多対一ってのも神経使うしね。それに私、戦うのって嫌いだし」

 

「なら退け。オレも記憶さえ返してもらえれば事を荒立てるつもりはない」

 

「……残念だけどそれはできないわ。あなたに記憶が戻られると困るのよ。私の目的を果たすには、あなたの記憶は邪魔になる」

 

「なら仕方ないな。それで納得すると思ってたなら、バカにしすぎだが」

 

「そうね。割と聞き分けの良い子だったけど、これと決めたことは曲げない子だったものね……来なさいウィズ。あなたが私の前に立ちはだかるなら、この手で斬って捨てる。そう、決めていたから」

 

「ならオレは無理矢理取り戻させてもらう。あんたに奪われた、あんたとの日々の記憶を!」

 

 互いに譲れない想い、覚悟がある。

 ならばもう、どんな言葉を重ねても意味はない。

 相容れない師匠との立ち合いにウィズは心のどこかで本気になれないと思っていた。

 しかし目の前にいるティアがその目に鋭く突き刺すような殺気を秘めて自分を倒すため腰の刀に手をかけた時、退けない覚悟がウィズを本気にさせた。

 ──そして師弟の激突は始まる。

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