FAIRY TAIL~選択者の軌跡~   作:ダブルマジック

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妖刀と魔手

 刀は脅威にはなり得ない。

 ティアと対峙してウィズがまず思ったのはそれだった。

 いや、ウィズにとってあらゆる武器という道具は武器足り得るだけの能力を持たせないことが可能だから。

 刀ならまずは最大の攻撃力である切れ味を選択で抜き取り、次に鈍器となった(なまく)らから強度を抜き取ってしまう。それでもう刀は武器としての機能を失う。

 だからこそ臆することなくティアに突っ込めたウィズではあったが、記憶にないとはいえティアは自分の師匠であり、同様に選択の魔法を習得している。

 そのティアがどうして武器足り得ない刀を主武器にしてウィズに使おうとするのか。

 抜刀に合わせて刀に触れようとしていたウィズはその直前でその疑問が浮上し、躊躇うことなく抜刀し横一閃を放ってきたティアから出かけた右手を引っ込めて空振らせると、1度距離を取って額に流れた汗を拭う。

 

「良い判断ね。そのまま右手で刀身に触れていたら、その腕が吹っ飛んでたわよ」

 

「その刀に秘密があるのか?」

 

「これも昔教えたんだけど、やっぱり記憶から抜け落ちてるのね」

 

 刀を鞘に納めながら、そんな記憶にないことを言われてウィズも困惑してしまうが、昔教えたという刀の秘密をティアは何故か話してくれる。

 

「この刀の銘は両断刀『真刀滅却(しんとうめっきゃく)』。かなり特殊な金属を使って打たれた刀身には魔法無力化(マジック・キャンセラー)が常時展開されてる。つまりあらゆる魔法はこの刀に干渉できない。別名『魔導殺しの妖刀』」

 

 滅茶苦茶な刀だ。

 それほどの刀を何故ティアが持っているのかわからないが、問題ないと思っていた刀がどうすることもできない代物となると、クロスレンジでしか戦えないウィズにとって完全に分が悪い。

 しかも相手は自分と同様に選択の魔法まで使える魔法の師匠。魔手と呼べる右手と対魔の刀。この2つを潜り抜けてティアを倒すとなるとウィズでもかなり苦しい。

 

「何で刀のことを?」

 

「言ったでしょ。私は戦うのが嫌いだって。これでもあなたがまだ仕掛けてくるなら、今度は斬る。そうなりたくないならこの島から立ち去りなさい。去る者を追うほど私達も暇じゃないわ」

 

「黒魔導士ゼレフの完全復活。そんなものにそれほど重要な意味があるってか?」

 

「…………そうね。ゼレフが復活すれば、この世界を揺るがす何かが起きる。それほどの脅威が今、この島にあると思うとゾクゾクするでしょ? 私はその力に触れてみたいの。その圧倒的な力で全ての争いを止める。それが私の目的」

 

「それは恐怖による力での支配。そこに真の平和はない」

 

「評議院が所有するエーテリオン。これも1つの恐怖政治よ。結局のところ力には力による抑制が最も効果的なのは歴史が証明してる。だからゼレフの圧倒的な力はこの世界に必要なのよ」

 

 狂気の沙汰だと、ウィズは素直に思う。

 いったい何がティアにそこまでの結論に至らせたのか、記憶のないウィズには想像もできなかったが、平和を謳うティアの言うことはなんとなく間違ってはいないのかもとも思える。

 しかし平和というものが皆がいつも笑って生きられる世界だと思っているウィズには受け入れられない。

 力による圧政は人から真の笑顔を奪う。そんな笑顔を、自分が知る人達がするようになった世界など、見たくもない。

 

「…………だとしたらやっぱり相容れないな。世界の争いを根絶なんて不可能かもしれない。でもそんな力による支配にすがるほど、オレ達は未来に絶望していない」

 

「……あなたも、理不尽な争いで村を焼かれ親を亡くした孤児だったのに、そんなことが言えるのね」

 

「…………そのオレを拾ってくれただろうあんたには感謝すべきなんだろう。魔法を教えてくれたことにも、感謝すべきなんだろうよ。そういう優しさもある今の世界を、何で否定するんだ」

 

「……やめましょう。何を言っても私とあなたではわかり合えない。それなら戦って勝って意志を通す。悪魔の心臓にとって厄介なあなたを、倒す」

 

 これだけのやり取りではティアという女はほとんどわからない。

 昔の自分なら、記憶を奪われる前の自分ならば、今のティアに賛同するような気持ちがあったのかもしれない。

 だが記憶を奪ったということは、きっとティアと衝突するようなことがあったのかもしれない。今のように、ティアの目の前に立ちはだかったのかもしれない。

 何もわからない自分に腹が立ってくるが、奪われた記憶はティアが持っている。

 ならばたった1度。左手でティアに触れることさえできれば、選択のリセットでティアの中の奪われた記憶を取り戻せる。

 そうするためにはティアを倒さなければ不可能だろう。だから踏み込まねばならない。あの魔手と妖刀の待ち構える死のクロスレンジへと。

 

「…………ふっ」

 

 2つを完璧に潜り抜ける策などない。

 元々身体能力の強化はティアにも適応されているから、能力的には五分。それに妖刀があるティアにわずかに分があるが、一太刀目を躱すことさえ出来れば刀を振れない超至近距離まで行き五分の勝負に持っていけることを意味する。

 集中するのはティアの抜刀のタイミング。そこさえ見切れば躱せる。

 短く息を吐いて再度ティアへと突っ込んだウィズは、鋭く抜き放たれた真刀滅却を下に躱して左手を伸ばし記憶の奪取に挑んだ。

 が、鋭敏な反射神経が視界の横に消えたティアの左腕が元来た軌道を戻ってくることを感じ取り、咄嗟に右手でナイフを抜いて迫った真刀滅却の刃に当てて直撃を逃れるが、意図も簡単に砕けたナイフに驚く暇のなく横っ飛びから即座に立ち上がり刃を無くしたナイフを投げ捨てる。

 あまりに強引な技だった。

 抜刀によって加速した腕を振り切る前に止めて即座に切り返して振るってきたのだ。

 選択による身体能力の向上。それ任せの力技だが、それができてしまうだけの強化には同じ恩恵を持つウィズも納得がいく。

 あれほどの剣撃をタイムロスなく振られると接近も糞もない。だが力技は強引な技だから力技なのだ。それを永遠に振り続けられる人間は存在しない。

 そう考えてティアに今のを使わせ続ける持久戦に持ち込もうと決めた直後に今度はティアから抜刀したまま接近してきて、こちらから攻める前提で動くつもりだったウィズはこれに対応が後手となる。

 刀は普通、両手持ちが基本だが、ティアはそれも常識外れの左腕1本で振り回す。これは選択者として理にかなった形で、こうして右手が空くことで選択の使用も可能になるのはウィズとしては最もやりづらい戦法。

 とにかく攻めに転じたティアは厄介極まりなく、木の棒でも振るように速く振るわれる真刀滅却は躱すので精一杯。

 よしんば接近のチャンスができても右手の魔手が待ち構える二段構えは遠距離攻撃もなく主導権を握れないウィズでは鉄壁に近い。

 

「(ヤバイ……このままだと押し切られる……)」

 

 どんどん踏み込んでくるティアに後退しながらの回避しかできないウィズは、段々と悪い体勢になりつつあることを感じて大きく距離を取りたかったが、強く踏み込む隙さえない猛攻についに足がもつれる。

 それを見逃さずここぞとばかりの鋭い振り下ろしで転びかけるウィズに容赦なく斬り込んだティアの剣閃は、無情にもウィズの身体の中心を走った。

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