ゴゴゴゴゴゴ……
島全体を揺るがすほどの地響きを上げながら、島の中央にそびえた天狼樹が根元から倒れていく。
キャンプ地を目指して走っていたウィズの目にもそれはハッキリと見えていて、その瞬間から身体の力が抜けるような感覚が襲ってきて足がもつれそうになる。
メイビスの説明からして天狼樹の加護とやらがなくなり、さらに力を奪われてしまっているのかもしれない。
自分がそうなら他の仲間も同じような状態になっているはずで、こんな状態で戦闘などままならない。
だがギルドの者だけに与える加護とやらがどうやって自分達を識別しているのかに疑問が沸いたウィズは、すぐに首にある紋章くらいしかないことに辿り着き、見えてきたキャンプ地に突入してから交戦中と見られる空間に割って入り立ち止まる。
着地したのは敵らしきリーゼントと眼鏡の男と力なく地面に這いつくばるフリードとビックスローの間。
フリード達の後ろにはキャンプのテントがあって、そこには同じように力なくよろめくミラ達と寝かされているエルフマン達。
「……ウィズ・クロームなのか……」
「こりゃたまげたぜ……」
そんな自分を見てフリードとビックスローは驚きと喜びを含む声を上げたが、そちらに反応するのは後回し。
突然現れたウィズに少し戸惑っていた敵を
「ミラ、敵の魔法はどんなものだ?」
「……自分の思ったものを具現化させる失われた魔法みたい」
「具現化の魔法。グレイの造形魔法の原型みたいなもんか」
ここでようやく敵と相対したウィズは、悠長に待っていた敵がそういった考察をしたところでわざわざ説明をしてくれて、具現のアークとかいう結構なんでもありな魔法だとか自慢気に話すが、ここで重要なのはウィズが相手の魔法に理解を得られるかどうか。
それをクリアしたウィズはその腰に差した真刀滅却に手をかけて構えると、敵はティアと真刀滅却にも気づいていたらしくペラペラと話し出す。
「お前が抱いていた女。ティアは剣術だけで俺達と並び立つまでに上り詰めてきた謎の多い女だったが、まさかやられて武器まで取られる愚か者だとはね」
「お前がティアを語るなよ」
何がおかしいのか笑いながら話す敵に怒りを禁じ得ないウィズはたったそれだけの言葉と威圧だけで敵を圧倒。
ウィズの威圧に当てられた敵はとんでもない恐怖を感じたのか、途端に警戒する素振りから例の具現のアークとやらで2体の禍々しい悪魔のような巨人を作り出しウィズに仕掛けさせる。
見るからに強靭な2体の巨人は左右から迫ってその拳を叩きつけてきたが、ウィズはその1つを右手で受け止めて撃力を抜き取り、即座に左手を当てて抜き取った撃力をぶつけて迎撃。
それをほぼ同時に2体に行なって吹き飛ばすと、意味がわからない現象を目にして動きの止まった敵を見据えて真刀滅却に改めて手をかけ最速の接近から最速の抜刀術で真刀滅却を抜き放ち敵を一閃。
今のウィズは感覚で動いていた時と違って、ティアから教わったものの全てを思い出し、理解した上で刀を振るっている。
その違いは目に見えるレベルであるのは言うまでもない。
敵の横を駆け抜けた先で2、3度真刀滅却を振ってから鞘にゆっくり納めたウィズは、もう後ろを見ない。
確実に斬られたと思った敵は少し固まっていたのだが、傷1つない身体を見て大笑いすると、倒れていた巨人達を起こしてウィズに仕掛けさせたが、巨人はウィズへと接近する途中でその存在が幻であったかのように消えていき消滅。
それには敵も驚愕し具現のアークで何かしようとしていたが、一向に何も起きないことに混乱する。
「無駄だ。今オレが斬ったのはお前が習得した具現のアークという魔法概念。それがなくなった今、お前はもう2度とその魔法を使えない」
「そ、そんな馬鹿げたことがあってたまるか! くそっ! くそっ! くそっ!」
名前も知らない敵ではあるが、自らの力の根源を絶たれた魔導士の脆さは見るに耐えない。
悪態をつく敵に振り返って歩いて近づいていくウィズに、ついにうろたえ始めた敵は後退りをするもつまずいてコケて、命乞いでもするようにウィズに言葉をかけるが聞く耳持たないウィズは無抵抗な敵に全力の右拳を振り下ろして一撃で仕留めると、呆然とするミラ達の元へと歩いていき、全員がまだ無事なことに改めて安堵の息を吐いた。
「全員無事で良かった……」
その安堵から今まで気合いだけで動いていたウィズは、それだけで止めていた出血がたたってそこで力尽き倒れてしまった。
次にウィズが目を覚ました時には、自分の顔を覗き込む青い髪の少女の顔が目の前にあって少々驚くが、自分の身体の傷がある程度治癒された上で措置がされていることに気づき身体を起こすと、さっきはいなかったマカロフが隣に寝かされていて、力が戻ったらしいミラ達が一斉に自分を見てきて、ナツやカナの姿もあった。
まだ姿の見えない仲間達もいるが、誰がこの島に来てるか把握してないウィズは、ここにいない仲間をミラ達に尋ねながらフリードに預けていた紋章を戻す。
それによるとあとはエルザとグレイに、新顔のジュビアとか言う子だけがいないようで、ギルダーツもいるらしいがあのおっさんは心配するだけ無駄なのでいいかと楽観。
悪魔の心臓の幹部、煉獄の七眷属も4人までは撃破を確認したとのこと。
あと3人かと思いつつ、ギルダーツが戦ってるっぽいブルーノートも撃破してる前提で考えてあと1人、ギルドマスターであるハデスも残ってることと最大の脅威の存在を念頭に立ち上がったウィズは、再び真刀滅却を携えて行動しようとするが、やはり皆、ティアの亡骸が気になるのかウィズを見てくる。
「全部終わったら話す。その人はちゃんと弔ってやりたいから、少しの間そこで寝かせてやってくれ」
「おいウィズ。マスターハデスをぶっ倒しにいくんだろ? だったら俺も行くぞ」
状況は落ち着きつつあったものの、まだ安心してもいられないため、ウィズの言うことはもっともと仕方ない雰囲気が出るが、ナツはそんなウィズについてくるようなことを言って、それに賛同するように新顔のルーシィとウェンディも立ち上がった。
「お前らはまずエルザ達と合流しろ。オレはちょっと別行動でやることがある。オレにしかできないことだ」
「あの、ウィズさん。別行動はいいんですけど、その後は一緒にマスターハデスを倒してくれますよね?」
「ああ。必ず合流する」
まだ余力を残して動けるメンバーはどうやらナツ、ルーシィ、ウェンディくらいのようで、油断もできない状況なのでここを守る人員としてフリードとビックスロー、ミラ、リサーナは残して燃えてきたナツ達と別行動で移動開始。
ハデスのいるだろう戦艦に向かったナツ達とは別に、この島の酷く淀んだ場所を超感覚で探ってみたウィズは、まだいくつかあるその中で特にドス黒い場所に狙いを定めて全速で駆ける。
道中、そこだけが朽ち果てたような生命の死滅した場所を発見し足を踏み入れたウィズは、そこで横たわる男を見つけて近寄り様子を見ると、すでに息はなく目立った死因が不明だったが、近くにもう2人、横たわる少女がいたのでそちらも確認すると、2人とも気絶しているだけのようでひと安心。
一応木の傍に寝かせておいたが、見知らぬ青い髪の少女にギルドの紋章があったので、この子がジュビアに違いないかと確信し、もう一方には悪魔の心臓の紋章があることから煉獄の七眷属である可能性があった。
放置もできなかったが、少しずつ遠ざかる淀んだ気配も追わなきゃならないため、2人を改めて離して寝かせてから移動を再開したウィズは、その先にいた黒髪の男を視界に捉えてその足を止めると、向こうもウィズに気づいて振り返り相対した。
「黒魔導士ゼレフで、間違いないな」
「君も、僕を求める愚かな人間かい?」
質問に対する答えは新たな質問で返されたが、否定をしてこなかったことから、目の前の人物がゼレフであることは間違いないようだった。
「違うな。オレはお前を終わらせに来た男だ。師の思いも乗せて、お前を斬る」