マスターハデス。
老体とは思えないその圧倒的な魔力や存在感はひしひしと感じられ、ナツ達を同時に相手にして余裕で立ってる辺りにはさすがと言わざるを得ない。
しかしここにいる全員がいくつかの戦闘で疲弊した状態。多く見積もっても本来のスペックの70%といったレベル。
自分もちょっと血を流したり走り回ったりしたので到底ベストコンディションとは言えなかったウィズだが、隣にいるラクサスはまだピンピンしている。
「ラクサス、カッコ良く出てきて悪いけど、割とキツいからデカいのは任せる」
「どうせ元からデカいのなんて撃てねーだろお前は」
ぬぐっ……
もっともなことをツッコまれて締まらないが、要はラクサスメインで戦おうというウィズの意思は伝わったらしく、その身に纏う魔力をひときわ強くした。
「その刀、ティア・レンドリーのものか。小僧の手にあるということは、あの女も倒されたということか。いや、実力的に言えば私に迫るやもしれなかったあれが負けるとは思えんが……」
分担を決めたところで不意にハデスの方がウィズの腰の真刀滅却を見てそんなことを言ってきたので、ティアがどれほど凄まじい師匠だったのかを改めて感じつつ、好き勝手にティアを語る輩は何だか気に食わない。
「どいつもこいつもわかったようにティアを語りやがって。ティアはオレの師で最強の正義の味方だ。テメェの物差しで測るなよ」
「ふん、あれの弟子だったか。ならばあの女の企みは小僧絡みだったと見て良さそうだな。しかしあれはダメだったぞ。腹に一物を含むには器が小さすぎた。漏れてしまって失笑ものだった……」
──ギィン!
昔から嘘が苦手な人だった。
それでも自分にゼレフを、アクノロギアを倒させるために記憶を奪って、最初から死ぬ覚悟で悪魔の心臓に身を置き敵となって戦ったあの人を笑うことは、許さない。
そんな感情を込めて抜き放った真刀滅却の一撃を魔法障壁で防いだハデスは、若いなとでも言いたげにウィズに笑ってみせる。
「この間合いでオレに勝てると思うなよ、老いぼれ」
「抜かせ小僧が」
初撃を悠々と防がれはしたが、それは真刀滅却の力を使って斬りかかってないからに過ぎない。
そうしたのはハデスに直接叩き込んでやりたかったからに他ならないが、それ以上にウィズはこの力を、あらゆるものを断ち切る力を多用したくないのだ。
強大な力にはそれ相応の対価が必要になる。
大魔法の原則から外れない選択も重い対価を払って毎回発動させている。
たとえそれが空振りに終わったとしても、1度真刀滅却に支払った最低限の対価は戻らないし、斬ったものによって追加される対価も多い少ないが変わってくる。
ハデスは妖精の尻尾を襲ったギルドのマスターで許せないが、それに自分が差し出せる対価は実質ないとさえ思っている。
もっと広い目。世界から見ればそんな価値もない小さな存在なのだ。
だからウィズはこの戦いでハデスにくれてやる対価は1mmたりともないと思い、真刀滅却の力は封印。
それでも以前までの選択とは比べ物にならない代物になってる今の選択なら戦える。それも確信していた。
真刀滅却は押し込めなさそうなので一旦引っ込めて距離を取ったウィズだが、入れ替わるようにラクサスが出てスピードで翻弄しながら背後を取ると、雷を纏った拳で殴りかかるがハデスはこれを難なく障壁で防御。
ラクサスのスピードを褒めこそすれ、ガキにしてはと見下した態度は変わらず、真刀滅却を納めて再度突撃したウィズは今度は選択でハデスの五感を奪うために右手に魔力を込めると、アズマもそうだったが一定以上の実力者になると選択の異常な気配にいち早く気付くらしく、ラクサスを押さえていたハデスもウィズの接近には1度距離を離してくる。
その時、ラクサスと無言のアイコンタクトで意志疎通をしたウィズは、再度ハデスの背後を取ったラクサスに合わせて挟撃を仕掛ける。
障壁を張られても選択ならば障壁に触れて込められた魔力を抜き取ることで突破可能。
一方が崩れれば隙が生じてもう一方も通るようになるのは道理。一撃の重さならばラクサスはウィズの上をいくため、そうなれば万々歳。
だが現実はハデスからすれば若造が立てた作戦。
見え透いた罠に嵌まるほど愚かではなく、2人の攻撃の瞬間に障壁を張ると見せかけて回避。
それによってウィズは常人離れした身体能力で止まれたが、スピードアップもしていたラクサスはそのままウィズに突っ込んで拳を叩きつけてきた。
それを右手で受けたウィズは、ラクサスの電気エネルギーだけを抜き取って拳は力技で受け止めつつ、左手から抜き取った電気エネルギーを放出。
完全なる意表を突いた攻撃は油断していたハデスへと命中し一瞬ではあるが硬直させることに成功。
その隙を見逃さずラクサスの拳を握ったまま勢いを利用してハデスへとラクサスを投げ飛ばすと、防御不可のところにラクサスの拳が命中。
更なる追撃をと思ったが吹き飛びながらハデスも魔法弾の弾幕で2人を牽制し距離を簡単に詰めさせなかった。
「おい、奇襲はなんとなくわかったが、投げ飛ばすとこはいきなりすぎるぞ」
「いやいや、ラクサスなら対応できると思って」
視線をハデスに向けたまま振り向かずウィズへと文句を言ったラクサスに、こちらもラクサスの先にいるハデスに焦点を当てたまま軽い感じで返し仲が良いのか悪いのかよくわからないコンビは立ち上がってきたハデスを見て再び集中。
「若造にしては骨があるといったところか。だが若造の枠から抜けはせん」
目に見えるダメージはない。
どういう身体なのか不明だが、その頑丈さは高い魔力が成せる技かと考察しつつ、受けに回ってるハデスが攻めに転じてくる気配を敏感に感じる。
「ラクサス、迷わず突っ込め。フォローはオレがしてやる」
「俺に命令すんじゃねーよ」
そして言うが早いか先手必勝といった勢いでハデスが動く前に動いたラクサスに合わせてハデスも攻撃を始めて、魔力弾の雨あられがハイスピードで動くラクサスを襲い、そのラクサスとは常にハデスを挟撃する位置取りで忙しなく動くウィズ。
常に挟撃の形はやられる側からすると意識が分散してやりにくい。
さらにラクサスとハデスを直線で結ぶことでラクサスの外れた攻撃を選択によってカウンターしハデスの意識を逸らすこともできていた。
それらをすることでラクサスをフォローするウィズの動きはまさにファインプレーと呼べたが、ラクサスのスピードと動きがえげつないのでウィズのスタミナが並外れているとはいえ徐々に底をついていく。
肩で息をし始めたウィズはとうとう足をもつれさせて動きが1度止まると、連携の乱れを見切ったハデスはここぞとばかりにラクサスに猛攻を仕掛けて四方八方に跳んでいたラクサスも床へと叩き落とされてしまった。
そのラクサスに重力系の魔法を使い、それと同時に周囲に範囲型の魔法陣を展開。ラクサスを仕留めるべく本気の攻撃が炸裂する。
その直前に真刀滅却を抜いて動けないラクサスに投げ込んだウィズは、真刀滅却の魔法無効化で魔法陣の破壊を狙ったが、間に合ったかどうか際どいタイミングで禍々しい魔力の爆発は起こってしまい、ラクサスの姿が見えなくなってしまった。
すぐにその中から雷を纏ってラクサスが出てきて大技を放って隙があったハデスの背後から一撃飛び蹴りを食らわせる。
ウィズの近くに着地したラクサスだったが、やはり無傷とはいかなかったのか片膝をついて崩れる。
一方のハデスはまだまだ余裕といった感じで立ち上がって善戦したウィズとラクサスを見てくるが、疲弊しただけでダメージを負ったわけではないウィズはラクサスと交代するように前に出て床に刺さる真刀滅却を見るが、戦闘中に回収は難しい距離。
「ほう、まだやるか。ではその勇気に敬意を評して、これをくれてやろう」
そう言ってハデスが繰り出したのは両手を銃に見立てて、その指の先から出す圧縮魔法弾。
先ほどのラクサスへの牽制にも放っていたが、威力は数倍にはなる圧縮率。
しかし魔法弾ならばウィズは避けるまでもない。その全てを選択で受け取ってそっくりそのままカウンターで迎撃。
そう思っていたが、今までの戦闘でウィズの魔法にも認識がなされていたハデスは、今の位置関係がウィズにとってマズイことをわかってて放ってきた。
放たれたあとにそれに気付いたウィズは、迫る魔法弾の雨を全て右手で処理して1発たりとも後ろへと逸らさずに返すが、ハデスに狙いを定めてる余裕などなくほとんどが見当違いの方向に飛んでしまう。
ハデスの狙いはウィズの魔力の枯渇と、後ろに倒れていたナツ達を守らせること。
その2つが同時に狙われてはもう、ウィズにはどうすることもできない。
「くっそ……ラクサス!!」
「わかってる! 雷竜の、咆哮!」
限界が来る前にハデスの手を止めなきゃとラクサスに叫べば、ラクサスも体たらくを見せられないと雷のブレス攻撃を放つが、鎖のような魔法で真刀滅却を柄で拾って攻撃軌道に放ったハデスは真刀滅却の魔法無効化を知っててやっていて、ラクサスの雷ブレスは真刀滅却によって無効化されてしまい、その間ハデスの手も少なくはなったが止まることはなかった。
そんな攻撃が1分ほど続き、ようやくハデスも大きく息を吐いて攻撃を止めると、その時にはもうウィズの魔力はほとんどが底をついて、捌ききれなかった魔法弾のいくつかをそれでも後ろへと逸らさないためにその身に受けてボロボロになっていた。
「やりおる。敵ながらその意地は称賛に値しよう」
「……うるせぇよ、老いぼれが……」
さすがに全弾を処理し切るとは思ってなかったのか、ハデスも少々驚いた雰囲気でウィズを見たが、まだ悪態をつくウィズに最後とばかりに特大の魔法を放つ準備を始め、その範囲にはラクサスも入ってしまっていて、さらに後ろのナツ達も巻き込まれる可能性が高い。
「さらばだマカロフの子らよ」
考える暇もなく撃ち込まれたハデスの魔力の奔流は、一瞬でウィズを巻き込んでしまい、ナツ達の叫びが周囲に木霊したのだった。