──もう守られてばかりの子供じゃない。
そんな声が、後ろから聞こえた気がした。
ハデスの特大魔力砲の直撃の瞬間、ウィズは心のどこかでまだナツ達を守る立場にあると思っていた。
だが違う。ナツ達ももう誰かを守るだけの力を持っている。守られてばかりだったあの頃と同じではない。
なら託そう。この思いの全てを。守られてやろう。成長したその背中に。
頼もしくなったナツ達にちょっと嬉しい気持ちが込み上げたウィズは、それでもここは譲れないと最後の力を使って右手で魔力砲のエネルギーを抜き取り別方向へ放出するが、全てというわけにもいかずいくらか漏らす。
それをラクサスが肩代わりすることで後ろのナツ達への攻撃は完全シャットアウト。
直前にラクサスもナツに残りの魔力を託しているのが見えていたから、あとは信じるだけだ。
巻き起こる爆発に包まれてついに倒れたウィズとラクサスだったが、その2人の横を抜けてハデスへと歩み寄ったナツは、ラクサスから受け取った雷の力を吸収して炎と雷の魔力をその身に纏う。
「……でっけェ背中に、なったじゃねーか……」
「ありがとな、ウィズ、ラクサス。お前らの思いは、俺が受け取ったぞ!!」
まだまだ勢いだけのようにも見えるナツだが、その勢いを通す力は間違いなくナツ自身の実力があってこそ。
会った頃は自らの炎すらちゃんと扱えなかったナツが今、ラクサスの雷さえコントロールして立つその姿にちょっとだけ安心したウィズは、倒れたままで心でナツの背中を押す。
──行け!
「うぉぉおおおおお!!」
この場の全員。いや、ギルドの思いを背負ってハデスに立ち向かっていったナツは、力技でハデスに猛攻を仕掛けていき、ありったけの魔力を放出しながらハデスを圧倒。
凄まじい攻防を繰り広げて距離が開いたところで残りの全魔力を使って魔法を繰り出した。
「雷炎竜の……咆哮ぉおお!!」
ラクサスのブレスとも比較にならない炎と雷の特大ブレスはハデスのみならず戦艦の装甲の壁をぶち抜いてなお直進し遥か彼方へと消えていき、その跡には力なく倒れるハデスの姿。
本当にありったけの魔力を使ったナツはそれで力尽きて倒れてしまうが、その身体をルーシィがなんとか受け止める。
そのあと動けないウィズの身体を起こして支えてくれたエルザに、落ちていた真刀滅却を拾って返してくれるグレイとも少しだけ会話してから、ラクサスもウェンディが介抱し場が落ち着きかける。
「マカロフも恐ろしいガキ共を育てたものだ」
その時だった。
倒れていたはずのハデスがむくりと起き上がって、その内に秘めた魔力を徐々に解放し始める。
まだ底があったのか。
そんな表情を浮かべただろうウィズ達をあざ笑うようにずっと右目にしていた眼帯に手をかけたハデスは、魔導の深淵の力を解放。
底知れぬ恐怖がウィズ達を襲い、皆が動けなくなる中で、禍々しい闇の兵隊を作り出したハデスは、もう容赦はしないといった雰囲気で悪魔の目とかいう真っ赤に輝く右目の光を強くする。
絶望すると人はこんな顔をするのか。
まるで他人事のように肩を貸してくれていたエルザから伝わる身体の震えを感じつつ、超感覚で目の前のハデスとは違ったものを感じていたウィズは、どうにも気になるそれを無視できず、しかし目の前の状況も放っておけないとあって、短く息を吐いてからエルザから離れて1歩進み出て鞘に納めた真刀滅却に触れる。
「まったく……これじゃまだまだガキ扱いは卒業できねーぞ。俯くなお前ら。絶望は心の内から湧く諦めの心。恐怖は絶望に引き寄せられる。だから絶望するな前を見ろ。俯きそうになったら隣を見ろ。そこには自分を支えてくれる大切な仲間がいる。そして今、お前らの前には誰の背中がある?」
カッコ良い台詞など柄ではないし、あまり得意でもない。
だが誰かがみんなの進む道を照らさなきゃならないなら、それは自分がやらなきゃと立ち上がったウィズに奮い立てられ、背中越しではあるが上を向いたナツ達の気配を感じてから、真刀滅却で鋭い抜刀を放った。
その狙いは皆が困惑するもので、ウィズは真刀滅却で足下の床を斬り抜いて下への空間を作り出したのだ。
「…………あの辺りか」
「貴様、まさか!!」
その空間を覗き込んだウィズは、超感覚で感じるこの戦艦のハデスに匹敵する魔力を捉えて真刀滅却を逆手で持つと、何かに気付いたハデスがウィズを止めようと動き出すがもう遅い。
真刀滅却を空間に全力で投げ放ったウィズは、わずかな隙間を通って寸分の狂いもなく目的のものに到達した真刀滅却を感覚的に確認。
瞬間、ハデスが纏っていた禍々しい魔力は霧散してしまい、右目の悪魔の目とやらも光を失って元に戻る。
「行け!! フェアリーテイル!!」
『おう!!』
前を向かせた。希望も見せた。
これで自分がすべきことはやったと思ったウィズは、本当に限界でその場に膝をついたが、自分を追い越してハデスへと走るナツ達の勇ましい姿を捉えてから床に崩れて意識を手放した。
ガヤガヤと騒がしい声で目覚めたウィズ。
目覚めてすぐに誰かの膝の上で寝ていることがわかったが、目を開けた瞬間にゲシゲシ、と上から額にチョップが振り下ろされてちょっと焦る。
「な、何だ!? 誰だアホっ!」
「アホはウィズでしょ!」
手が邪魔で誰のチョップかわからなくて思わず声を荒らげてしまったが、返ってきた声で誰かわかったので、確かめるように手を尻に持っていき鷲掴みすると、今度はチョップじゃなくてグーハンマーが振り下ろされて顔面を潰される。
「もう! ウィズのエッチ!」
「元気そうで何よりだよ、ミラ」
冗談もそれくらいにしてミラの膝の上から起き上がったウィズは、いつの間にかキャンプ組も合流してこっちに負けないくらい騒いでいるナツ達を見て全てが終わったことを悟り小さく笑うと、それに気付いたナツ達が一斉に顔を向けてゾロゾロと近寄ってきて、その迫力に圧されてミラに抱きついちゃったウィズは何事かと皆の顔を見る。
するとナツ達はなんだか怪しい笑顔でニヤけてから、それぞれ1発ずつウィズを殴り始めて、ミラもそれがわかってたからか即座にウィズを差し出して退避してしまった。
「バッ! 怪我人に何すんだバカどもが!!」
『バカはどっちだ!!』
ボコスカと殴られながら意味不明なナツ達に文句を言うも、即答でバカを返されて思考停止したウィズだが、全員が殴り終えて無事死亡しウェンディの治癒の魔法をかけられながら事の成り行きを見守っていた笑顔のマカロフが口を開いた。
「いやぁ悪いウィズ。儂はやめるよう言ったんじゃが、皆1発は殴らないと気が済まないと言って利かんくてな」
「だったらその止める気なかったような顔だけはやめてくれないか……」
目は口ほどにものを言うとはこの事で、自分の知らないところで何を言おうとわからないが、それでもわかることはあるもの。
そんな止める気のなかったマカロフにツッコミつつ、ミラが差し出した手を握って立ち上がったウィズは、ズラッと並んだ家族と相対する。
『おかえり、ウィズ』
「…………ただいま」
かなり遅くなったが、ようやくその一言を言わせてくれたみんなに感謝しつつも、やっぱり殴られたことには理不尽さが拭えなかったのでお返しとばかりに阿修羅の顔になったウィズが意味深に右手をワサワサさせたことで全員その場から逃亡。
やべぇ、ウィズが怒ったぁ!
ギャアギャアと騒ぎながらキャンプの方へと元気に走り出したナツ達の底なしのスタミナには呆れるしかなかったが、逃げていくナツ達を見ながら近寄ってきたマカロフは、回収してくれたのだろう真刀滅却を返しつつマスターとしてウィズに言葉を贈った。
「お前さんがいてくれて良かった。おかげでガキ共がああして笑えておる」
「オレだけの力じゃないだろ。ギルドの……家族の絆が勝ったんだよ」
マカロフも心からの言葉だったのだろうが、そんな感謝をされると照れ臭いので事実をクサイ台詞で返しつつ2人して、にかっと笑って終わらせるが、近くでムスッとしていたラクサスを見たマカロフは「お前は破門中じゃがな!」とか言っていて、それにラクサスも「わかってるっての!」と怒鳴り返し、その辺の事情について知らないウィズは首をかしげたのだった。