7年ぶり。いや、ウィズにとっては9年ぶりになる妖精の尻尾は、変わることなくマグノリアの街に佇んでいて、しかしマカロフと主要メンバーがごっそりといなくなったせいでかつてほどの活気が見られなかったが、それも仕方ない。
ビスカ達の話ではずっと死んだと思われていた主要メンバーが帰ってこなかった時は、皆が塞ぎ込んでギルドの経営すらままならない事態に陥ったらしい。
それでも腐ることなくギルドを守り続けたビスカ達と一緒にギルドの扉を開いて帰ってきたウィズ達は、信じられないものでも見るようなマカオやワカバ達に満面の笑みで「ただいま」と言えば、一斉に集まってきて泣きながらの歓迎を受ける。
中には知らない顔もあったが、喜ぶ一同から少し外れていたウィズの元に何人かの少年少女が寄ってきて、確認するように顔を見てくる。
「やっぱりウィズお兄さんだ!」
「ウィズ兄ちゃん!」
そう言って押し倒すように抱きついてきた子らに見覚えがないはずのウィズは混乱。
そんなウィズに遅ればせながら反応したマカオとワカバがもみくちゃにされるウィズにわかるように口を開いた。
「そいつらはお前さんがギルドにいた頃に面倒見てた街のガキ共だよ」
「ギルドが半壊状態になった時に威勢良く入ってきてな。ウィズがいたギルドが潰れるなんて嫌だっつってめちゃくちゃ頑張ってくれたんだよ」
そう言われてみれば、9年も経ってはいるがどこかしらに懐いていた子らの面影を感じて、皆が皆ウィズに会えたことで笑いながらもその目からは涙を流していた。
全員が魔法の素質があったわけではなかったはずだが、それでもギルドでやれることを精一杯やって守ってくれていたことには感謝しかない。
決してギルドのためにやってきたことではなかった。
だがそれが巡り巡ってこうしてギルドのためになったという事実はウィズにとって嬉しい誤算だった。
詳しく話を聞くと主要メンバーが抜けたことで仕事の量や質もずいぶんと落ちて、かつてフィオーレ最強のギルドと呼ばれた勇名も陥落し、今は別のギルドに奪われてしまったことまで聞いたが、そんなものはこれからまた頑張ればついて回るもの。
それから積もる話もたくさんあったのだが、今はやるべきこともあったので久しぶりにマグノリアに来てはしゃぐメイビスとマカロフと一緒に例のルーメン・イストワールのやらを拝むためにひっそりと移動を開始。
ギルドの地下深くに続く石の階段を降りた先にあった重々しい巨大な封印が施された扉の前まで来たウィズ達は、マカロフによって解除された扉を開いてその先にあったルーメン・イストワールを見る。
「これがルーメン・イストワール……」
広い空間の中央に鎮座していたルーメン・イストワールは、何がどうしてそうなっているのか、おそらく生きてはいないだろうメイビスの身体がラクリマの中へと入れられた状態で存在していた。
「メイビス……裸だな」
『そ、そういうのは反応してはいけないと思います! 意識はこれ自体に集中してください!』
事実ではあったのだが、恥ずかしそうに怒るメイビスは緊張感を戻すようにして自分の裸はいいからとルーメン・イストワール自体に集中させると、冗談のつもりだったウィズもちゃんとメイビスの話を聞く。
『これは理論上、無限の魔力を生み出す妖精の尻尾の最重要秘匿魔法。かつてゼレフと同様にアンクセラムの呪いによって不老不死となった私が、ゼレフのアンクセラムの呪いの矛盾の影響を受けて死した身体。心臓が止まったはずなのに、呪いによって半死人状態となった身体と、蘇生を試みていた2代目マスター、プレヒトの天才的な頭脳とが合わさって無限に魔力を生み出すようになってしまった偶然の産物です』
メイビスの説明に、マカロフさえ初めて詳細を聞いたのか唖然としていたが、無限に魔力を生み出す装置など危険以外の何物でもないし、これが世に出たら争いだって起きかねない。
だからこそこうして封印という形で秘匿されてきたのだろうが、そうなるといま霊体として存在するメイビスは厳密に言えばまだ完全には死んでいないのかもしれない。
『いえ、私はもう死んだ人間です。このような身体になって、周りの生命を奪ってしまうようになった時の絶望は今でも思い出す度に全身が震えます。処分することもできないこの身体をどうすることもできないまま時は流れましたが、ようやくあなたに会えた。私を解放してくれる存在。ウィズ・クロームに』
懇願するような。待ちわびていたような語りでウィズを見るメイビスは、本当に救われたいと泣いていた。
その涙がウィズの心にはずしりと重くのし掛かってきて、本当はどんな理由であれルーメン・イストワールの解放は断るつもりでいたのだが、これは無視できそうになかった。
アクノロギアはゼレフによって倒された。
そしてこの7年でゼレフ書の悪魔で構成されていたという闇ギルド、冥府の門もゼレフの手によって消滅させられ、そこの長、マルド・ギール・タルタロスの持っていたENDの書もすでに回収済みだと本人が話していた。
このあとマグノリアの外でナツ、ガジル、ウェンディの滅竜魔導士がゼレフから全てを聞く約束をしているが、それを終えたらゼレフは自ら命を絶つと言っていた。
ティアが討てと言った存在はこれで全て消え、世界にはひとときかもしれないが平穏が訪れるだろう。
あとはティアの願いである精一杯生きることがウィズのできる孝行だったが、それも叶わなそうになった。
「…………メイビス。これを斬れば本当にあんたは救われるんだな」
『はい。やって、いただけますか?』
「じゃあ、その暁には消える前にデートしてくれよ。友達として、最後の思い出をプレゼントしたいからさ。2人っきりが恥ずかしいならギルドのみんなでバカ騒ぎをしよう。それからちゃんと見送らせてくれ」
『……あなたは本当に優しいのですね。私も最期はみんなに笑顔で見送られたいです』
「ってことでじいさん、早速で悪いけど騒ぐ準備を頼むな。みんなに言えばすぐできるだろうし」
「まったく……しょうがないのぅ。いっちょパアッと盛大にやるとするかの!」
──覚悟は決めた。
だから最期にそんな約束をして2人を笑顔にしたウィズは、目の前のルーメン・イストワールへと1歩前に踏み出して真刀滅却に触れて構える。
「じいさん、メイビス。こんなオレをここにいさせてくれて、ありがとう。このギルドにいられて、本当に幸せだった」
だがやはりこれだけは言わないとと最後の最後で本音を口にしてしまったウィズは、それで嫌な予感がしてマカロフに止めるように言ったメイビスの叫びを無視して真刀滅却を抜刀。
ティアに教え込まれた高速の抜刀術は一切の障害に阻まれることなくルーメン・イストワールのメイビスの身体を通過し、その身体にかけられたアンクセラムの呪いを断ち切った。
──強大な力にはそれ相応の対価が必要になる。
真刀滅却を使ったあらゆるものを断ち切る力はあまりに強大な力ゆえ、それを使用する回数にも限りがある。
最初に使ったのは悪魔の心臓の煉獄の七眷属の1人。
その時に断ち切ったのは具現のアークという魔法概念。
あれは仲間を助ける目的もあったが、どれほどの対価を要求されるのかを確かめるためにあえて使用したが、ここでは予想よりも多くの対価は取られなかった。
2度目はゼレフのアンクセラムの呪いを断ち切った時。
これがマズかった。
ここで支払われた対価はウィズの予想を遥かに越えてしまい、もうどうすることもできないレベルになってしまった。
その状態での3度目はナツの中のエーテリアス。
これがとどめになった。
この時点でもう、ウィズが支払える対価はほとんどなくなってしまった。
そして今、支払える対価の足りない状態でアンクセラムの呪いを断ち切ったウィズを待つ結末……
ウィズが支払ってきた対価。それは『自らの寿命』に他ならなかったのだ。
そうしてルーメン・イストワールを断ち切ったウィズは、足りない対価を自らの死を対価にして支払い、真刀滅却の刀身、その根元に刻まれていたウィズの寿命のタイムリミット『6Y147D12H23M52S』が全部0で埋め尽くされ、真刀滅却を振り抜いたウィズは力なく倒れていった。