ギルドの地上に戻ってみると、さっきまでのお祝いムードから一転しバタバタとギルドを出ていく人がいたり、祭りの打ち合わせをしていたりと動きがあった。
何事かとウィズ達がギルドを出ようとしたストラウス姉弟を捕まえて話を聞くと、7年も音沙汰なく留守にしていた家が心配で様子を見に行くとのこと。
ギルドの寮暮らしだったエルザやレビィといった面々は残っていたメンバーが勝手ながらに部屋の掃除やらをやってくれていたとかで慌てた様子はなかったが、賃貸などのミラ達は怪しいところだ。
それを聞いて一瞬オレもかと思ったウィズだが、そういえば9年前からマグノリアに家はなかったのでホッとする。
しかしギルドに復帰したからにはまた新しい住居が必要なので、そっちの方も考えなきゃならないと思うとため息が漏れてしまった。
ナツとガジルとウェンディはゼレフとの約束通りに話をしに行ってしまったようで、望むならウィズにも話をするとは言ってくれていたが、何事にも知りすぎると良くないことはある。
それを決めるのは話を聞いたナツ達であり、3人が話してくれる時が来たら、その時に聞いてあげればいいのだ。
そんなわけでやることのあるミラ達とは違って暇になったウィズは、夜に改めて集まって盛大にやることになった祭りの準備の手伝いに回り、街を見て回りたいと言うメイビスも連れて買い出しやらに動いていった。
ルーメン・イストワール。メイビスの本体とも言うべき身体にかけられたアンクセラムの呪いはもう断ち切られて、メイビスをこの世に縛る足枷は外れた状態になってはいたが、長い年月を霊体で過ごした影響か、そうすぐには消滅しなかった。
本人が言うには気合いで居座っている状態とかなのだが、そんな問題なのかと疑問はある。
身体の方は後日、改めて天狼島の方に埋葬してほしいとの要望だったので、ギルド総出で弔う予定。
それも遠くない未来の話なので、残り少ないギルドのみんなとの思い出を作ろうとメイビスもとても楽しそうにしていて、街を歩けば自分が食べられるわけもないのにあれが美味しそうだのこれが美味しそうだのとウィズに興奮気味で言ってきたが、ギルドの紋章を持たない人にはメイビスの姿は見えないので反応するとイタい人と思われそうでリアクションに困っていた。
食材や飲み物をあらかた買い終わって、気付けば荷車に山のように積むことになったそれを引いてギルドに戻ろうとしたウィズだが、この買い物の間にかつてお世話になった人達が覚えてくれていたようで、復帰祝いだなんだと色々と貰った結果がこれだが、9年経った今でも覚えていてくれる人がいたのは相当に嬉しく、それが顔に出てメイビスにからかわれたのは言うまでもない。
そうしてギルドに戻ってみると、中では準備が着々と進んでいて、ウィズの材料の到着でいよいよ本格的な準備が始まった。
その中でどさくさに紛れて酒樽をくすねようとするギルダーツとカナのバカ親子に制裁チョップをかまして止めて、戻ってきたミラ達やその他料理の出来る人員が張り切って調理を開始。
すっかり日も暮れて空腹のバカどもが騒ぎ出した頃合いにひとまず第1陣の料理を出してみると、マカロフの乾杯の音頭が間髪入れずに来てバカ騒ぎが開始される。
早速料理を巡っての喧嘩があちこちで始まりかけるが、それを見越してホールのど真ん中にどっしりと陣取ったウィズは喧嘩腰の声に反応してギラリと鋭い眼光で睨んで喧嘩を未然に防ぐ。
しかしそれすら見越して動く輩も数人いて、ご機嫌取りのように酒を注ぎに来る奴ら──グレイやエルフマンなどウィズの怖さを知ってる連中──が酔わせてしまおうと悪い顔をしていたが、一緒に酒を飲んだ記憶もほとんどないから知らないのだろう。
ウィズが酒にめっぽう強いことを。
それこそウワバミのカナと同等レベルなので、ちまちま注いだところで足しにもならないが、面白いので黙って思惑にハマってやっていた。
傍では楽しそうにメイビスが雰囲気に酔って頬を赤らめていたが、ガールズトークの匂いを嗅ぎ付けてそちらへとお邪魔したりと自由気ままな様子。
そんな中でゼレフとの話を終えて戻ってきたナツ達が入ってくるなりテンション高めで参加してきて、いきなり食べ物を奪い合って喧嘩を始めたので、1度おしおきしてガジルやウェンディ、ルーシィといった新規組にその恐ろしさを教えてやって席に戻ろうとしたら、ギルドの入り口で入るかどうか迷うゼレフの姿を発見。
おそらくは話を終えてナツ辺りが一緒に来いとか言って強引に連れてきたはいいが、場違いな自分がいていいものかと足踏みしてる状況。
それに気付いて手を差し伸べようとしたら、いち早く気付いたナツが近寄って強引に腕を引っ張って中へと入れると、ギルドの全員に聞こえる声で話す。
「なぁみんな! こいつは……ゼレフは俺の兄ちゃんだった! つーか俺もウェンディもガジルも実は400年前の人間で……うーんと……なんか色々言われたんだが、そんなわけでゼレフは俺の家族だから、参加してもいいよな?」
爆弾発言の連発だった。
しかしナツはそんなことは些細なことで、ゼレフが自分の家族だから祭りに参加させたいとそこを強調して言うと、驚くタイミングすらくれなかったナツに口をあんぐりさせていた面々もそれは追々といった雰囲気で顔を見合って「当たり前だろ」と返せば、呆然としていたゼレフの腕を引っ張ってナツは仲間達の輪の中に一緒に入っていった。
そこからのバカ騒ぎは一層の賑わいを見せて、悪酔いした女性陣が男どもを尻に敷いて顎で使いもう修羅場だったが、喧嘩とかではないのでグレイ達の止めてくれの言葉も完全に無視したウィズは安全圏でメイビスやマカロフ、ギルダーツと談笑しながら、これもいち早く危険を感じて避難していたミラも酒を注ぎながら話に加わっていた。
そのまったりとした輪の中に今の今までナツの道連れを食らっていたゼレフがよろよろと抜け出してきて加わると、ミラから水をもらいつつぐったりするが、そんなゼレフの姿にウィズ達は思わず笑ってしまう。
笑われて良い気分はしないのでゼレフも少しムッとしはしたものの、久しく味わってこなかった賑わいが心地よかったのか騒ぐナツ達を1度見て笑ってからウィズ達と顔を合わせる。
「君達には話しておくべきかな。僕が作った国。イシュガルの西にある大陸を統べるアルバレス帝国。この全戦力を以て僕はアクノロギアを討ったが、本当はこの戦力をどう扱うか迷っていた。アクノロギアを討つために人類の味方となるか、はたまたそのどちらとも滅ぼすために人類の敵となるかを。ウィズに会うあの日まではね」
いきなりスケールの大きな話を切り出してきたゼレフだが、その口調は非常に穏やか。
それはもう過去の話だと、そう言いたげなゼレフに誰も口を挟まなかったので、ゼレフもそのまま話を続けた。
「いつかこのイシュガルにも侵攻するつもりではあったけど、その必要もなくなったかな。姿は見えないし声も聞こえないけど、メイビスの非常に穏やかな存在も感じる。彼女の解放もしてくれたんだね、ウィズ」
「やった後に泣かれて怒られたけど、まぁ一応はな」
「ん? その辺の事情はわからないけど、とにかく僕はもうあの国でどうこうしようという考えはなくなった。それに伴ってイシュガルが密かに警戒していた脅威になり得ないことを国王として先日に宣言した。今後は両国で友好的な国交が成せればと思っている。今は僕の副官にあたるオーガストを中心にそっちの上層部と色々と話し合いがされているはずだが、どう転ぶかは今の段階ではわからないかな」
完全に戦意というか、戦うという選択を捨てているゼレフのここ7年の動きに、本当に悪名高い黒魔導士としての姿が見えなくて驚くが、そうなるだけの変化だったのだ。
ウィズが断ち切ったアンクセラムの呪いという生き地獄からの解放。
時間の流れから外れるような不老不死はその人の精神すら徐々に破壊していき、ゼレフも壊れる寸前だった。
「それでも戦争という選択は絶対にしない、だろ?」
「そうだね。いざこざや確執は生まれてしまうだろうけど、国が違うだけで皆等しく人間であることに変わりはない。大事なのは歩み寄ろうとする意思さ」
「……400年分の重みがあるねぇ」
「茶化さないでくれ」
同じ人間なのだからわかり合える。
ゼレフの言うことにメイビス同様クサいことを言うなぁと思いつつ、妙にカッコ良いゼレフを茶化して場の空気を和らげると、互いに会話ができないメイビスとゼレフがそれでも互いの顔を見合うように笑った瞬間、この2人を救えて良かったと心から思ったウィズだった。
「そうそう、近々フィオーレでは最強のギルドを決める大会が開かれるけど、君達も出てみたらどうだい? この7年でギルドの勢力図も変わったから、新鮮なものではあると思うよ」
話も一段落したので明るい話題をと意外に気が利くゼレフは唐突ではあったがそんなことを言うので、最強ということに拘ってはきてなかったマカロフも乗り気ではなかったが、優勝賞金が破格のものであると聞くと豹変。
ギルドも右肩下がりの成果なのは聞き及んで知っていたからこそお金は必要なのだが、現金というかなんというかで少々呆れ気味のウィズだったが、早速大会への参加表明を騒ぐ奴らにもしてしまったので、これからもまだまだ退屈しなさそうだなと思うのだった。