FAIRY TAIL~選択者の軌跡~   作:ダブルマジック

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遭遇は気まぐれに

 X780年。

 ウィズが妖精の尻尾にやって来て早2年。

 相変わらずウィズの行動パターンに変化はなく、マグノリアから全く出る気配も、その実力の一端すら見せることもなくのらりくらりと過ごしていた。

 エルザ達もこの2年でだいぶ成長し、肉体面もそうだが何より精神面での成長が見られて、ナツ達の相変わらずな喧嘩にも冷静に対処できるようにはなって、ミラも自分が楽しむためのイタズラをめっきりしなくなっていた。

 それはウィズの献身的なお説教やらが功を奏したかは不明だが、子供の成長を見守る親みたいな立場のウィズとしては嬉しいことなのでどうでもいいことだった。

 

「それにしても暑い……」

 

 そして今年もS級試験の時期となって、今年はいよいよエルザとミラが候補として名を連ねたのだが、ウィズは今年もその候補には落選。

 当然それを気にするようなウィズではないので他人事のようにマカロフの話を聞いていたのだが、今年の試験は妖精の尻尾の聖地と呼ばれる『天狼島』で行われると説明があったあと、その試験の試験官の1人としてウィズが強制指名され、現在は船を利用して試験に携わるメンバーと一足先に天狼島へとやって来ていたのだが、天狼島のある場所は年間通して温暖な気候のため冬に突入したマグノリアとの温度差は酷いの一言。

 常夏と呼べる気候にすでにやる気のなくなりかけていたウィズだったが、ようやく見えてきた天狼島の全容に暑さも吹っ飛ぶ。

 島の中心から生える超巨大な樹木。さらにその傘の部分には新たな大地が小さな森を形成している。

 言うなれば島の上にさらに島があるのと同じだが、ここまでの熱帯で森の葉が紅葉に近いのは何か理由があるのかとついつい考えてしまう。

 そんな天狼島に降り立ったウィズは、同じく試験官として来たギルダーツの案内で島を簡単に散策。

 ラクサスはさっさと持ち場へと行ってしまって素っ気なかったが、年々お祭り騒ぎばかりのギルドにフラストレーションが溜まっていってるようで少々不穏な空気がある。

 いつか爆発しないかと不安ではあるものの、根っこの方ではギルドを大切に思ってるのはなんとなく伝わってくるので何か言ったりはしていなかった。

 そんなわけでギルダーツの案内は割と適当だったものの、もうすぐエルザ達受験者達もマカロフ先導のもとやって来るので、この島にあるという初代ギルドマスター、メイビス・ヴァーミリオンの墓の場所だけ聞いてギルダーツとも分かれそれぞれ指定された持ち場へと移動を開始。

 そのわずかな時間でメイビスの墓へとやって来たウィズは、なかなか厳かに作られたその墓に創始者へと持ってきた酒を開けてかけると、この島へとやって来た時から感じる不思議な力に意識を集中させた。

 

「なんだろうな。漠然としかわからないが、ずっと温かいものに包まれてる感じだ。これはあんたの力なのか、初代」

 

 独り言のように呟いた言葉に、当然ながら反応するものはない。

 それもそうだろう。ここにはいま自分しかいないのだし。誰か答えたらそれこそ幽霊……

 

『加護は私の力ではなく、この島の中心にそびえる天狼樹の力によるものですよ』

 

 さて、持ち場に行きますかと思考を切ったところで唐突にそんな聞いたことのない少女らしき優しい声が聞こえて、声のした後ろへとそぉっと振り返ると、そこにはウィズよりも圧倒的に幼く見える少女が笑顔で立っていて、今の言葉からウィズはすぐにその正体に辿り着く。

 

「メイビス・ヴァーミリオン……か」

 

『面白い方ですね。初めて見る方ですが、もうこの島の加護に気付くなんて』

 

 あり得ないことではあるが、ちゃんと意思疏通ができる辺り目の前の人物が1つの存在として成り立っていることを認めざるを得ない。

 幽霊というのは初めて見るウィズだが、メイビスに関しては不思議と恐怖を抱くことはなく、なんかすんなりと受け入れられたので大したリアクションもなく少し考えてからスルーすることにして持ち場へと行ってみる。

 

『な、何ですか! どうして私を見てそうやって無視して行けるのですか! 初代ですよ! あなたの所属するギルドの創始者ですよ! 何で死んだ人間がーとかないんですか!?』

 

「いやあの、オレも忙しいんですよ。話だったらオレよりも人生経験豊富なギルダーツっておっさんがいるんでそちらにどうぞ」

 

『私はずっと過去の人間ですから、無闇に人の前に姿を晒すことを避けてきたんですぅ』

 

 なんだか無視したら勝手に歩いて横をついてきたメイビスに、なら何でオレには姿を見せるんだと思うものの、自分の反応に頬を膨らませたメイビスが意外と可愛らしくて、このまま素っ気なくしても仕方ないかなと思って会話に応じてみる。

 

「では初代。どうしてオレに姿を見せたんですか?」

 

『メイビスで構いませんよ。若しくはメイビスちゃんでも可です』

 

 ようやく会話に応じたウィズに機嫌を良くしたメイビスだが、良い歳してるはずの人間がちゃん付けを要求してきたことになんか冷めてまた無視して早歩きしたのだが、どういう原理か腕に引っ付いて離れなくなったので仕方なく名前で呼ぶに留めて話を再開。

 

『普段の私ならたとえギルドの方にでも姿を見せることはありません。ですがあなたは例外です。あなたからは何か不思議な魔力を感じ取りました。それはおそらく、失われた魔法(ロストマジック)とは違う別系統の……イシュガルに根付く魔法の流れを汲まない魔法』

 

 そこから出た話はウィズも全然理解が及ばなかったが、どうやら自分の異質な魔力に興味を抱いて接触してきたみたいなことはわかったため、とりあえずそれに納得しておいたウィズは、辿り着いた自分の持ち場で受験者が来るのを待つ間、話し相手としてメイビスを横にいさせてあげる。

 

「オレも正直なところ、自分の魔法に関してはわからないことの方が多いんだ」

 

『変なことを言いますね。ではどうやって今の魔法を?』

 

「んー、まぁ幽霊になら話してもいいかな。オレはさ、記憶喪失なんだよ。つってもそんな深刻な話じゃなくて、『ある人物に関しての記憶のみを抜き取られた』って話。オレの魔法は残念なことにそれができちまうからな……」

 

 メイビスに倣って落ち着く場所に腰を下ろしたウィズは、そうして自分のことについてを口にするが、まだ自分の魔法についてもよく知らないメイビスには漠然としか伝わらなかったらしく首をかしげられる。

 

『なるほど。その記憶を抜き取った方というのは、あなたに魔法を教えたお師匠様ということでしょうか』

 

「さすが。正確にはそうかもしれないって話になっちまうんだけど。何せその人に関してはすっぽり頭から抜け落ちてる状態だからな。わかってることはその人の名前と容姿、性別にオレと同じ魔法を使えるってことくらい。今は居場所すらハッキリしないが、不穏な噂は耳にしてる。だからオレはその人に会わないといけない。そして虫食いのように抜き取られた記憶を取り戻す。そのためにオレはギルドを……」

 

 と、そこまで口にしたところで話すのをやめたウィズ。

 そこから先を言ったら自分はもうギルドにいる資格はなくなる。いや、すでにいる資格などないのだが、それでも言葉にしてしまうのはダメだと踏み留まった。

 そうしたウィズの話に真剣さを含んだ顔で考え事をしていたメイビスは、どうすることもできない事情かもしれないと思ったのかその顔を上げてウィズを見る。

 

『どういった経緯で貴方から記憶が抜き取られたのか。推測し得るだけの情報が不足していますからなんとも言えませんが、あなたが自分の魔法に関してある程度の理解があるということは、その人はあなたに必要最低限の情報は残していったはず。そこにはその人なりにあなたを想う気持ちがあったと考えられますね。それは優しさなのか、或いは……慈悲や償いか』

 

「少なくともオレはその人と5年ほどは一緒にいたはずで、そのくらいの年月の記憶が見事に虫食い状態にある。あの人がどんな理由でオレから記憶を抜き取ったにしても、ずっとこんなモヤモヤしたまま気持ち悪いのは御免だ。だから必ず見つけ出して取り戻すんだ。オレの大切な記憶を」

 

『私は応援くらいしかできませんが、あなたの記憶が戻る日を願っていますよ。えっと……』

 

「ああ、名前……ウィズ・クロームっていうんだ」

 

『じゃあウィズ。次に会う時は楽しい思い出を聞かせてくださいね』

 

 そう言って立ち上がったメイビスは、ニコッと可愛い笑顔を見せてからすぅっとその姿を消してしまい、もう少し話をしても良かったのにと思ったのだが、それよりも先にこっちに近付いてくる気配に気付いて腰を上げると、姿を現したのは今年の受験者の1人であるミラだった。

 

「うげっ! ウィズかよくそっ!」

 

「あからさま過ぎるだろその反応はよ」

 

 今回ウィズに与えられた試験は『到達者選別のための障害となること』。

 それはS級になるために必要な素養を見極める大事な役目だが、マカロフはそれがウィズにはできると踏んで任せたのだから手抜きはできない。

 試験の全容はウィズも把握していないが、自分の担当がかなり序盤であるとは聞いていたのでそこまで厳しい選定基準を設けるつもりはなかったが、物理的に押し切られてもそれはそれでクリアになってしまうとあって実に面倒臭い。

 

「でもまぁ良い機会だよな。ずっと謎だったウィズの実力を見れるんだからな!」

 

 試験ではウィズやギルダーツと当たらないルートもあるとかないとか流しで聞いていたので自分を引き当てたミラも1度は運のなさを嘆いたものの、開き直ってやる気を出すと磨いてきた接収を発動し悪魔の力を全身へと具現させる。

 サタンソウル。それがミラの今の形態になるが、まさにその様相は空想上の悪魔のように髪は逆立ち、四肢を鋭利で凶悪なものへと変え、太い尻尾も生えている。

 ここからさらに翼まで生やして飛行も出来るようだが、木々の生い茂るこの空間では出すことはないかと予想しつつ、やる気満々のミラにどうしたものかと考える。

 普通に当たると身体能力が超強化されてるミラの攻撃は防御もままならない。

 しかし考えがまとまる前にミラは恐ろしいスピードでウィズへと接近して豪腕を振るってきてしまい、あまり余裕もなかったので仕方ないかとその豪腕を紙一重で躱してすれ違いのカウンター気味に右手でミラの腹を通過。

 選択でミラの中の悪魔の力を抜き取って強制的に接収を解除すると、その力を拾った石へと移して勢い余ってすっ転んだ生身のミラへと近寄ると、とりあえず腕を極めて身動きを封じてから言葉を贈る。

 

「ただ闇雲に突っ込んでくるだけじゃ脳筋バカでしかない。力は申し分ないが、それを扱うお前の心がまだ未熟すぎるな。オレの魔法がどんなものかわかっててこの結果は呆れるぞ。本当はもう少し試すつもりだったが、必要なくなったな。ミラ、お前はここで脱落だ」

 

「また説教かよ。もう聞き飽きたんだよそういうの!」

 

「強いだけの魔導士はいつか力に溺れる。オレはミラにそうなって欲しくない。強さと優しさを兼ね備えた、そんな魔導士になってくれ。そうなればS級なんてすぐになれるはずだから」

 

「…………」

 

 相変わらず話を聞いてくれないミラではあったが、大事な試験でこれだけは言わないとミラのためにならないと真剣に言葉をぶつけた。

 その真剣さが伝わったのか、腕を放したウィズに何も反論してこなかったミラは、黙って渡された石を取ってまた接収し体内に取り込むと、S級試験に落ちて悔しかったのか見えない角度で涙を拭ったのだった。

 

「(その悔しさがあれば来年は大丈夫。その力は強大だけど、ミラならきっと上手く扱えるから。だからもっと賢くなれ)」

 

 あまりあれこれ言ってもまた機嫌を損ねかねないので、それ以上のことは心の内に留めてミラの頭をポンポンと触ってから、島に設置された拠点へと一緒に歩き出した。

 そしてこの年の試験ではエルザが見事S級へと昇格を果たした。

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