X781年。
子供の成長というのは早いもので、ガキだガキだと言っていたナツ達もだいぶ凛々しい顔つきになってきて、依頼でもマグノリアから遠出して活躍するようにもなってきていた。
ウィズは相変わらずのギルドでの立ち回りだったが、もうそれをとやかく言うような仲間は誰もいないし、たまに来る街の子供の無償の依頼にもナツ達は暇なら文句も言わず手伝うくらいには諦めていたりした。
そんないつも賑やかなギルドにも新しい魔導士が入ってきて、ふらりとやって来たチャラい男、ロキは今日もその見た目通りのナンパをギルド内の女性陣にしていたわけだが……
「ねぇエルザ。今夜だけでもいいから2人きりで食事なんてどうかな?」
「お前もしつこいなロキ。私はそういったことに興味がない。食事ならば皆が一緒にいる方が楽しいだろう」
「僕がどうしてエルザだけに声をかけてるかをちゃんと汲んでほしいんだけどね……1度だけ! 1度だけでいいから!」
「その口説き文句をもう周りから何度か聞いている気がするがな」
色恋沙汰とは今まで無縁だったエルザを相手にしつこくしているものだから、ウィズもそろそろあれな雰囲気を感じて読んでいた本をテーブルに置きスタンバイ。
「エルザともっと仲良くなりたいんだよ。もちろん男と女という意味で、ね」
「いい加減にしないかぁああ!!」
ついにエルザの沸点が限界を越えて爆発。仲間であろうとあまり容赦なく拳を握ってロキをボッコボコに殴り始めてしまい、周りも顔が原型を留めなくなってきて「やべぇロキが死ぬ!」と慌てるが、いち早く救済に入ったウィズはエルザの後ろから振りかぶった拳を掴んで止めたが、怒りで興奮気味のエルザは反対の手の裏拳でウィズの顔面に一撃。
殴ってから相手がウィズだとわかったエルザはそれで我に返って全力の土下座を披露したが、殴られて顔だけ横を向いていたウィズは、ギチギチとその顔を元の正面へと戻してビクビク震えるエルザをこれ以上ない笑顔で見る。
その間に瀕死のロキはナツ達が救出し全員がウィズとエルザの近くから異常なほど離れて口を閉じる。
「……あー、おかしいな。つい最近S級魔導士になったはずの子から、何の非もないのに殴られたぁ」
「ひぃ! す、すまないウィズ! その、我を忘れて勢い余ってだな……と、とにかくすまない!」
「すまないと思ってるなら1回くらいロキと食事してきな。それができないなら……」
「りょ、了解した! 喜んで食事にでも何でも行くぞ! さぁロキ! 行こうじゃないか!」
今まで目に見える怒りを面に出したことのないウィズだからこそ、その笑顔が恐怖でしかなかったエルザは超素直に言うことを聞いて介抱されてるロキを連れて行こうとしたが、あれだけボッコボコにされればロキも2人きりで食事などする気も失せてしまい、どうしようみたいな空気でウィズを見た。
「ん、じゃあ今夜はうちで夕食だな。丁度ミラ達とも約束してたから、そこで準備と後片付けをやってくれればチャラにしてやる」
別に困らせるつもりもなかったウィズは、まさかのロキのキャンセルで少し考え直してからそんな提案をすると、横から長女のふざけんなの声が上がったが無視。
それで許されるならと笑顔になったエルザは最後にもう1度ウィズに謝罪してロキの介抱に協力していった。
「あの時は本当に死ぬかと思ったよ……」
「お、お前だってしつこいのが悪いんだぞ。私は自慢ではないがあまり我慢強い方でもないのだし……」
長々と続く話の中でようやく自分が出てきたと思ってルーシィが呼んでもいないのに勝手に出てきた獅子宮のレオことロキは、話がちょっとしたトラウマ事件に触れたことで額に大量の汗が噴き出ていて、エルザも悪いとは思いつつも全部自分が悪いとも思っていなくてちょっと反抗し、どっちもどっちだなぁとか思うルーシィ達だった。
「ていうか相変わらず自由過ぎよロキ。出てくるならいきなりはやめて」
「サプライズの方がルーシィもドキドキしてくれるだろ?」
「あーはいはいドキドキしました。それでそのあとの夕食は無事に終わったの? なんか昔のエルザとミラさんって仲悪かったって話だし」
「ん、それはだな……ウィズもいたからミラとはなんともなかったのだが、どうにも私は家事の方があれでな。後片付けの時に皿を2、3枚割ってしまってな。追加でミラ達全員のマッサージをさせられてしまった……」
ロキがルーシィと契約してからはその扱いにもだいぶ慣れて口説き文句を流してから話を元に戻せば、恥ずかしそうにそう話したエルザはこの話は終わりとさっさと畳んでしまい、ちょっと面白いものが発掘できそうだっただけに残念そうにするルーシィ達も本筋とは違うので素直に受け入れてまた耳を傾けた。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
しばらくして、ギルダーツが100年間達成されたことのない、帰ってきた者もいないS級クエスト。通称『100年クエスト』に挑戦する意思をマカロフへと表明し、その旅立ちの日が訪れた。
実にギルダーツらしくお使いでも行ってくるような軽さではあったが、クエストに挑んで帰ってきた者がいないというだけにギルドのメンバーは不安を隠せないでいた。
そんな中で本人はシケた顔すんなよと皆に言って、唯一明るく見送っていたナツには土産話を持って帰ると約束して旅立って行ってしまった。
これが皆が知るギルダーツの五体満足でいた最後の姿となろうとは誰も予想はしていなかったわけだが。
この旅立ちの前日にウィズはたまたまギルダーツと2人で話す機会があって、その時にもう話すことは話したので改めて何か言うこともなかったが、そこで話したことも別段変わったことでもなかった。
「まっ、おっさんくらいの人ならある日ひょっこり帰ってくるんだろうし、10年とか留守にしたら忘れられるぜ?」
「がははっ。そりゃ困るわな。んじゃサクッと終わらせて帰ってくるかね。その時にはナツ達もガキ扱いできなくなってりゃいいんだがな」
「……知ってるかおっさん。歳の差ってのは絶対に埋まらないんだ。だからおっさんがおっさんである限りオレらはずっとガキなんだよ」
「んな理屈の話してねーだろ! お前は頭良いのか悪いのか時々わかんねーよなホント!」
酒も交えながらにしたそんな他愛ない会話。
ギルダーツがどうしてこのタイミングで100年クエストに挑もうと思ったのかとか聞きたいこともあったが、男がそうと決めたことにとやかく言うのは失礼な話。
だからウィズはいつものように送り出した。ギルド最強の一角を担う男の帰還を信じて。
そのギルダーツが旅立って数ヶ月が経過し、今年もS級試験が行われる時期に差し掛かると、張り切るメンバー達の姿をのほほんと見るのが定番となったウィズは、そのやる気を年間通して出していれば忙しなくしなくてもいいのにとか思っていたが、やる気のない自分が言うと火に油になるので黙って読書に勤しんでいた。
幸い今年の試験はウィズに声がかかることもなくかなり他人事で終わったのだが、帰ってきた面々の中でミラがS級になったと話した時のドヤ顔は忘れようとしても忘れられなかった。
エルザに1年遅れでS級になったミラ。これでもう自分がとやかく言うことも少なくなるかなと思い始めていたウィズだが、とうとうその重い腰を上げる時が近付いていた。