揺らされるママママインド   作:えたります

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9期カードプールだけと言ったな
あれは(9期以前のテーマの新規なら使えるかもだから)嘘だ


第2話

 漫然とデュエルに勝利する様があまりに異質だった。

 息子の零児は天才である。13歳にしてジュニアユースを制覇し、翌年にはユース選手権を制覇したことでプロデュエリストの資格を持っている。

 敗北とて両の手に収まるほどしか喫しず、社長の立場がなければストロング石島を差し置いてチャンピオンに最も近い決闘者の一人でもあった。

 

 赤馬日美香にとって彼こそが至上だ。三年前、夫は荒唐無稽な研究に没頭した挙句失踪。

 気まぐれで拾った義理の息子は、有能であれど物としての価値しかない。日美香に残ったのは天才的な頭脳を持ち、誰も寄せ付けない決闘の腕を携え、唯一血の繋がっている親族である零児だけだった。夫の失踪で自棄になった日美香が息子に依存したのは必定だったのだろう。

 

 だがそれでも───やはり満たされない。

 息子は日美香の期待通りに育ってくれた。いつか訪れる次元戦争においても、聡明な零児ならば勝算があるはずだと信じている。

 けれど、あの零児の不敗記録を崩落させ、両手に収まる程度の敗北を刻んだ少女───榊遊季の存在は看過できなかった。

 

「零児さん、彼女は……」

「今暫く、静観を」

 

 遊季の調べは、彼女がLDSに所属してから既に終わっている。

 父は当時の現役チャンピオンである榊遊勝。彼の失踪した途端に遊勝塾からLDSに飛び入りを果たし、一ヶ月もしないうちに塾内における戦果ポイントDP(デュエルポイント)を貯め、エリート組であるLDSの更に最上位層の『制服組』に上り詰めた。

 何より、遊勝塾時代にかの赤馬零児に敗北を与えた決闘者として有名だった手前、彼女にこぞって集るLDS生徒が多かったのも原因だろう。

 

 無論、合理的な観点で言えば、零児と同等の決闘者である榊遊季を囲えた事に不満はない。

 零児とて遊季にだけ敗北を喫しているが、榊遊季もまた公式試合で敗北を喫したことはないものの、零児とのプライベートでのデュエルにおいて何度か敗北を重ねている。殊更に零児が遊季に劣っているのではないのも理解している。

 だが感情と合理性が両立することも難しかった。公式戦での威光というのも世間体では見過ごすには惜しい。日美香の中で零児こそが至高であるという感情を払拭することは、殆どを失ってきた彼女にはあまりに残酷だ。

 かといって話題性も実力も、消極的とは言え人格も申し分のない榊遊季を放り出すのかと問われれば、日美香自身に悩みさえさせずに零児が止めてしまう。彼が望まないことを日美香が強いることはない。

 

 なればこそ、軽いちょっかい程度で済まそうと魔が差してしまった。

 あらゆる決闘者の特性を模倣する特技を持つ、義理の息子である零羅を差し向けようかと考えたこともある。人形のように無機質であるが、並みの決闘者を圧倒する実力を持ち、紛争地帯で育った経験から鋭い観察眼を持つ零羅なら、榊遊季に泥を塗ることができるのではないかと実行しようとし───零羅自身の尋常ではない様子から遂行には至らなかった。

 

「……かつて、貴方が零羅を榊遊季と戦わせようとしたことを覚えていますか?」

 

「え、ええ。覚えています……魔が差したとは言え、あの零羅があそこまで怯えるとは思ってもいませんでしたが」

 

 テレビ中継で行われているストロング石島と榊遊季の王座奪還戦から視線を外さず、零児は母に問うた。

 

 忘れるはずがない。デュエルマシーンだった零羅は発作を起こしたかのように痙攣し、息も絶え絶えに崩れ落ちてしまったのだ。それも、遊季にデュエルをすると伝えるよりも前に、榊遊季を零羅が初めて視認したかつての日。

 

 物として見ていた日美香も驚いた。いかに義理の息子を内心で卑下していても、ブルジョワの感覚でしか生きていなかった尋常なる人間でしかない日美香もまた、一定以上の良心の呵責はあった。それを差し引いても、零羅の実力にこそ物としての価値を見出していたのだから、日美香が瞠目するのは当然といえよう。

 

 零羅が自身より強いものに恐怖するならば、それは零児にも当てはまるはず。そして現に、零児と遊季の実力が拮抗しているのだから、恐怖の所以となるには信憑性がない。

 では、遊季の何を恐れたというのか……いや、日美香は既に理解している、実力だけでなく、榊遊季が並の決闘者を圧倒するその淵源を。それを言うに憚れるからこそ、日美香は今まで自覚するのを避けている節があった。

 

 しかし、息子はどうして嬉々として語るのか。あの化け物をどうして、そんな好奇に満ちた眼差しで視界に入れることができようか。

 

 強かな息子がなによりも愛しく、自らを相対的に塵芥へと零落させられる化け物がなによりも悍ましかった。

 

「零羅とて感情は乏しくとも人の範疇にすぎません。それは私も、貴方もです。ですが、彼女は───遊季は違う。彼女は決闘の先を、勝利の先に得るものを望んでいる」

 

「それは、誰もがそうではなくて?」

 

「ええ、たしかに私や遊季だけでなく、決闘者の誰もが決闘に誇りを持ってはいるものの、それが手段であると理解しています。しかし彼女が特殊……貴方の言を借りれば異質であるのは『決闘での勝利』に誇りを持っていることでしょう」

 

「敗北に意味はないと考えているのですか?」

 

「違います。敗北()()()()()()()と考えているのです。現に彼女が全力を出した姿を()()()()()()()のですから」

 

 全力を出していないのは零児とて同様。しかし()()()()()()()()()など傲慢に過ぎるのでは───と、逡巡した瞬間に、意識が逸れていたテレビから歓声が巻き起こった。

 

 画面に映し出されていたのは、数刻前に弟である榊遊矢が誕生させたペンデュラム召喚を、彼女自身が決めた姿がある。

 心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。まさか、こんな切り札を隠していたのか。だとしたら今までの勝利すら、時の運でなく全力でない状況での勝利であったというのか。

 

 日美香が驚愕し、零児へと困惑の色が浮き出たままの相好で視線をやると、

 

「嗚呼、やはり。それも()()()()()()()とはな……!」

 

 最愛の息子は、見たことがない笑みを貼り付け、ただ一心にその一部始終を目に焼き付けようとして嗤って(微笑んで)いた。

 

 その姿の、なんと愛しいものか。なんと凄惨たるものか。

 

 日美香はその時に初めて自覚した。

 己は誤っていた。いつから? 榊遊季をチャンピオンの舞台に祀り上げた時? LDSへの入塾を許可した時? 榊遊勝や夫が失踪した時? 榊遊勝がチャンピオンになり、その姿に零児が憧憬を抱いた時? 己が、赤馬の名を背負った時だろうか。

 

 ただ一つ言えるのは、自身に唯一残されていたと思い込んでいた希望を一番最初に失っていたというだけである。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

『強カードが決闘者を酔わせるのではなく、その本性を暴くだけなのだ』

 

 ……なんて名言があるらしい。作者は超絶美少女な現舞網チャンピオンのY.S.である。

 確かに私は天才ですから? 汎用エクストラが無くても勝率10割(非公式を除く)ですし? それはもうDPを稼ぎまくりングなわけですよ。

 

 苦節16年、パックをちぎっては丁寧に保管したりちびっ子に譲ったり、別にイキる事もせずカードを大事にする決闘者だったかつての日々。その善業が漸く報われたと言えましょう。

 

 塾生としても個人的にもお世話になってる赤馬えも〜んに頼んでDPと賞金をカードに変換してもらった私の手には、最高級レアカードが4枚も手元にありました。

 

幽鬼(ゆき)うさぎ

チューナー・効果モンスター

星3/光属性/サイキック族/攻 0/守1800

 

浮幽(ふゆ)さくら

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

灰流(はる)うらら

チューナー・効果モンスター

星3/炎属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

屋敷わらし

チューナー・効果モンスター

星3/地属性/アンデット族/攻 0/守1800

 

 まさかの全部ピンですが、全てが手札で発動できる誘発即時という強カードなのです。

 幽鬼うさぎは効果が発動した表側カードの破壊、灰流うららは主にデッキに関する無効効果で屋敷わらしは墓地に関する無効効果です。これを手札から相手のターンに発動できると言えば環境に取り残された人達でも強さがわかるでしょう。

 もっと簡単に言えば手札から使える罠であり、チューナとしても使えるモンスターでもある。うん、強すぎますね。

 

 そして浮幽さくらちゃん。前述の3人も可愛いし可愛いし強いが、彼女こそが私にとっての本命です。彼女は簡単に言えば、自分と同名のEXデッキのモンスターをお互いに確認し、相手のEXデッキにそれがあれば全て除外するというもの。

 そして私のデッキは言わずもがな、父の影響を受けた《魔術師》でした。そして同様に弟である遊矢も《EM》や《魔術師》や《オッドアイズ》を主流としたデッキです。

 

 要するに、対弟メタです。鬼畜生と言われようが、弟に負けたくないという大人気(おとなげ)ない気持ちから、大人気ないコネを行使して手に入れた珠玉のカード達でした。

 あとやっぱり可愛いし、可愛いし、可愛い。妹も欲しいと思っていたので、私の超常ぷぅわ〜を勝手に使って実体化している彼女達と自室で戯れては癒されています。結構な頻度で三途の川へと誘い込まれていますがね、そこはデュエルマッスルと超常ぷぅわ〜で何とかなります。

 

 ……そう、DPを荒稼ぎして更には賞金まで頂いているのにこの4枚が限界だったのです。賞金の半分は我が家に渡しました。原因はやはり、荒稼ぎしたと豪語してもDPで補えなかったという事実でしょう。

 

 決闘で勝てばDPを貰える。単純だが、実力が拮抗するLDSではやはり荒稼ぎ出来る人物など数人しかいない。その一人に私は含まれていますが、流石に私も他の荒稼ぎ連中も決闘だけに没頭するわけにはいかないのです。

 塾である以上講義があります。理論、戦術、戦略、知識。それらと一般教養を含めて決闘者は一流になっていくのです。素行が悪く実力があっても、やはり彼等が頂点になることはありません。現に私や……この榊遊季(強調)と零児くんのように実力も人格も優れた人間が上に行く世界なのです。つまり私は零児くんと同じステージに立ってるんですよ!(強調)

 その点で言えば、ストロング石島もまた潔く意外にも博識で……何よりもデュエルマッスルに秀でた御方でしたね。

 

 ───デュエルマッスル。アクションデュエルが主流の一つとして確立する以前から、スタンディングにおいても精神と肉体を高める為に必要とされました。

 私達決闘者は決闘に勝利する事こそが至上の目的。そのため、決闘外でも努力を怠らず日々精進しています。

 私とて例外では無く、奇術も決闘も体力と精神が必要です。その二つがあって初めて技術の取得に移れます。

 例の前世の記憶など宛になりません。何故プロデュエリストのドローする姿が美しいのでしょうか? 私を含め、殆どの決闘者は誰しもがドローの練習に臨んだことがあるのです。ドローの練習によって我々はデュエルマッスルを極め、デッキとの絆を築き、運命力を高めなくては無数の決闘者達の中に埋もれてしまうのです。

 

 そんな決闘には欠かせないデュエルマッスルは、アクションデュエルのリアルソリッドビジョンの第一人者であるLDSで、特に力を入れている事業の一つであります。

 なんと丸々複数の階層を水泳、トレーニングルーム、陸上競技、球技、その他諸々……と、一つにつき一階層を設ける富豪っぷりです。印税羨ましい……。

 

 そんな私は幽霊少女四姉妹をデッキに入れたまま───トレーニングルームで指一本で逆立ちをしていました。

 

「……」

 

『ふむ、さすが我が器に選ばれたことはある。この程度の事は造作もないか』

 

「……」

 

『だがしかし、お前はいつもぼうっとし過ぎだ。勝利に執拗にならなければ、我から言わせれば覇王など遠く及ばん。もっと一点だけを見つめよ』

 

「……」

 

『ほう、瞑想も同時に行うか。より運命力を鍛えるには些か性急だが、効率はいい。なれば我の言う通りに───』

 

 10分経ったので辞めました。

 

 スポドリ! スポドリ! 冷えてるか〜! (氷入れてるので)大丈夫ですね、バッチェ冷えてますよ。

 

「ふう……」

 

 至極、集中しずらかった。

 この居候の厄介さの通り、私はデュエルマッスルの修行に支障をきたしていました。

 

 記憶と比較すると華奢な絶世なる深窓の美少女(自称)が、細腕の人差し指一本で全体重を支えるのはあり得ないらしいのですが、優れた決闘者ほど肉体強度が高いのはこの世界ひいては私にとっては常識です。

 

 とはいえ、どちらかと言えば精神力を費やす瞑想を行なっていたので汗は吹き出ています。

 

 居候の小言を聞き流し、柔軟剤の香りがするタオルで拭っていると、デュエルマッスルで鍛えられた第六感が後背からやってくる気配を察知してくれました。

 

「精が出るな遊季」

 

 ……この声だけで、私はどっと疲れが増した。

 なんで基本的に他人をフルネームや名字で呼ぶ貴方は、私の下の名前を普通に言うのですかねぇ。これでも貴方のファンクラブの方々に、明日刺されるかもって結構不安なんですよ!

 

「ああ、零児くんですか……今日はもうお仕事は終わりましたか?」

 

「ハズレだ。元々今日は非番、我が社は週休2日を徹底している」

 

「……その割に、土曜日に残っている事が多いのでは?」

 

「私だけだな。因みに残業をしているのではない。次の事業の要件定義書を作成していただけだ。仕事を残すようでは他人に週休2日を与える事など出来るはずもない」

 

 なんで彼は未来の仕事で残業してるの?(素朴) というかそれは残業じゃないの? なに? 今のプロジェクト納期間に合うからマルチタスク余裕? コイツに嫁いだ奴勝ち組ですね。

 

 少しドヤ顔でメガネをクイッと上げる彼こそ、赤マフラー社長こと赤馬零児である。LDSの理事長である赤馬日美香の実子にて、代表取締役でもあります。私と同年代にして凄いとか最初思ったけど、最近はこう親しくされて自分の惨めさが浮き彫りになっている。因みに靴下は履いてないのに足は臭くないから凄い。細胞レベルでデュエルマッスルの一人です。

 

 そんな彼はいつもと違い、短パンにコンプレッションウェアという出で立ちでした。つまるところ、零児くんもトレーニングしに来たのでしょう。

 

 

 

 

 

 ……トレーニングの服装に逆重力マフラーが棚引いているのは無視しますか。

 

「しかし見事な倒立だった。この私でもつい見とれてしまうとは……ふむ、筋肉の付き方もバランスよく、体幹を崩さないように維持しているようだ。脊椎に歪みがないということは、普段の姿勢に意識を割いている証拠。改めて敬意を表す」

 

 と、私が関わりたくない理由がこれです。やたらとそれらしい分析をされてじっと見つめられるのです。最初は気恥ずかしさをごまかすのに必死でしたが、こうもねっとりと……迫真とした獣の眼光で見据えられては何かしらの危機を感じます。

 こんなんでもうら若き乙女なので。

 

(それにしてもズァーク、貴方さっさとカード創造の研究に勤しみに行きましたね……)

 

 居候がやけにおとなしいと思ったら、カード創造のための研究に没頭するため私の深層意識のどこかに行ってしまったようです。もう一人の私の真実の扉にたどり着かれたら洗脳されそう。()

 

 しかし目の前には私を逃がさんと凝視するハンターがいる。対する私はか弱き乙女、何とか舌戦に持ち込まなければいけないが、骨が折れる相手であるのも事実です。

 

「……それにしても零児くんは酔狂ですね。このような1生徒に声をかけるなど」

 

「一目置く生徒はいるさ。しかし皆平等に扱う、相応の立場を求めるならば実績を出さなければならない。それらを鑑み、君は十分な立場だと思うが?」

 

「恐縮です……ですが、どうやら社長はデスクワークで酷使した腰を労わるべきかと。のちの業務に支障が出るのでは?」

 

「そこまで柔ではないとも。伊達にリアルソリッドビジョンのシェアを伸ばしてはいないさ」

 

「そうですか……てっきり他の生徒に()()をしていたので、零児くん自らが動くには苦があるのだと」

 

「……言伝、だと? それは何処から───」

 

「さあ、プライベートの守秘は人権尊重の一環かと。契約書にもそんな事は書いてありませんし……私とて、貴方が沢渡シンゴとやらに何を頼もうと、私の知る由もありませんので」

 

 そう、私は覇王の残滓を逆探知して、今現在の弟がどんな目に遭っているのかリアルタイムで把握していた。

 

 そもそもが怪しすぎる。だって零児くんは、普段なら自分から会いに来る時に何かしらの目的が絶対あった。わざわざ世間話のために立ち寄るなんて非合理な行動をする人間ではない。だというのに今回は世間話を装っている。

 恐らく確証がないから疑念を持たれるだけだと思ったのでしょうが、私と居候の超常ぷぅわ〜に弟を巻き込んでの情報戦は部が悪いですね。

 

「あら、確か沢渡シンゴとやらはあまり素行がよろしくないようで……弟のカードを強奪されでもしたら、あまりに不憫なので様子を見に行きましょうか」

 

「カードを強奪とは穏やかな話ではないな」

 

「穏やかなお話がお好みで? 私はヴァイオレンスな物語にこそ冒険があると思いますが。仕事柄、退嬰は倦まれますもの」

 

「さて、君の弟と沢渡シンゴがどうなっているのか。私達では知る由もないのだが」

 

「……では、賭けをしませんか?」

 

 と、私はすぐ側にあった二つのランニングマシンに視線をやる。

 そのランニングマシンは天下のLDSだからか、決闘盤(デュエルディスク)が装着してある。そして私と零児くんは共にスポーツウェアを着ているのだから、やる事は一つでしょう。

 

「賭けとは?」

 

「簡単な事です。私は弟を助けに行きたいけれど、貴方は見逃す気はない。無視するには零児くんのお母様の目が厄介なので……私が勝てば、あくまでペンデュラムの実戦データ()()にしてください。逆に零児くんが勝てば私のP(ペンデュラム)カードを全て渡します」

 

「……些か、短兵急ではないか?」

 

 こっちは遊矢にズァークの片鱗出させて猿ヒグルミの犠牲者を出したくねぇんだよ。(半ギレ)

 

「貴方達から仕掛けて何を今更。それに急がなければいけない理由もあるので……」

 

「君の言う沢渡シンゴに関しては認識していないが、榊遊矢もまた君の薫陶を受けている以上、心配は無用だと思うのだが……まあ、この機会は願っても無い。いいだろう───ランニングデュエルといこうか」

 

 メガネを相変わらずクイッと上げる零児くん。短パンにスポーツウェアの赤マフラー姿で悠然とランニングデュエルマシーンへと登る姿は、ぶっちゃけ変態に見えなくもありません。私からデュエルを誘っておいて何ですが。

 

 しかし妙に違和感がある。わざわざ沢渡シンゴとやらに遊矢と戦わせる意図と、私がPカードを渡すと伝えた時の無欲さ。零児くんの経営者たる(さが)からして、建前は装っていてもペンデュラムのデータは欲しいはずだ。

 ましてや私のPカードは、零児くんが何故か憧れているクソ親父と同じ魔術師カテゴリー。同日に広まったとはいえ、ペンデュラムの始祖である遊矢とも同じ。そんなカードを前にして零児くんは関心はあっても欲を見せなかった。

 

 そこから推測できるのは───このデュエルすら、零児くんにとっては思惑の内なのかもしれない。その真意を推し量るのなら、彼は、既にペンデュラムを修めている筈だ。

 

「さて、今回もまた非公式だが……君の全力をこのデュエルで見させてもらおう───」

 

「……デュエ」

 

「───デュエル! 私のターン! 私は()()()P()()()()()()()()()()《DD魔導賢者ケプラー》を召喚し、デッキから永続魔法『地獄門の契約書』を……」

 

「ちょおま」

 

 先攻宣言したもの勝ちはともかく! いや根に持ちますけどとにかく! 何でケプラーがPモンスターになってるんですか!?

 あれ、私や遊矢以外にもペンデュラムに書き換わったんですかねぇ……。

 

「ちょおま?」

 

「あっ、いえ……以前のケプラーは効果モンスターでは?」

 

「ああ、その事か。なに、君にペンデュラムの可能性を魅せられて燻っているほど私は枯れてはいない。ペンデュラム用に私が調()()()()

 

「は? いえ、どうやってその……」

 

「決まっているだろう。LDSは国からカードの開発を許されている。世間にも知られている筈だが」

 

「嗚呼、そうでしたね……」

 

 此処で前世の記憶による痛恨のミスが発覚したようです。

 調整能力に関して俺TUEEEの独自テーマは絶対に許さないと、私は固く誓いました。(ブーメラン)

 

 もう許さねぇからなぁ?

 

「さあ、気を取り直していくとしよう。ランニングマシーンよ、加速しろ、誰よりも早く! 私は《DD魔導賢者ケプラー》の効果によりデッキから《地獄門の契約書》を」

 

「あっ、手札の《灰流うらら》の効果で無効にし……」

 

 (勝ったな)確信。

 

「では手札にあった地獄門を普通に発動しよう(冷静)」

 

 ……あ^〜ランニングマシーンで足元がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜(逃避)

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 高鳴る鼓動は恋にも似ていた。焦がれ、届かぬ恋情は募っていくばかりだ、

 

 榊遊季。勝利のみを見据える彼女の、鮮烈な決闘に私は憧憬を焼かれた。決闘者として彼女の圧倒的な力に焦がれてしまった。

 それは私がかつて憧れた榊遊勝とは全く性質が異なっている。圧倒的な運命力と、朧げな道筋を截然としたヴィアドロローサへと変質させる奇術は、彼女を『覇王』と讃えることに何ら不足していない。

 

 エンタメを大衆が望もうと、圧倒的な力というものに人々を惹きつける求心力があるのも事実だ。

 誰にも全力を見せない事を不誠実だと言う者もいる。そんな者達でも、己が榊遊季の全力を引き出せない事への悔恨からそのような言葉が出るのだから、やりきれない思いを口にするのは彼女に惹きつけられている証左だろう。

 

 力は孤独にさせる。

 かつての私もまた、母の期待に応え、父の荒唐無稽な行動を止めるため我武者羅に力を振るっていた頃があった。

 客観的にも、実績としても私は決闘者として一流だという自負があるし、そのための努力による裏打ちもある。けれども、榊遊季がいかに天才といえど、私は彼女との初めてのデュエルで惨敗した。その原因は、憧憬に焦がれている今だから理解している。

 

 彼女は力でエンタメを振るうこそすれ、決闘を楽しんでいる。勝利しか見ていなくとも、その勝利こそが人々を熱狂させると真に理解していた。

 目的ではなく手段を得る為の道程で盲目になっていた昔の私が勝てなかったのは道理だ。

 

 その後、私は初心に返り見事リベンジを果たした。

 しかし今でも思う。彼女の全力を引き出せずリベンジを果たしたとて、それは決闘者としての本懐を遂げていないのだと。

 

 今日のデュエルもそうだった。様子見の手札誘発をやり過ごし、場には三体の上級DDDモンスターを並べ、魔法罠を阻害し、契約書の制約を帳消しにし、次の自分スタンバイフェイズには相手と自分の魔法罠を消しとばす盤面にしていたはずなのに。

 

DDD剋竜王ベオウルフ

 

DDD神託王ダルク

 

DDD呪血王サイフリート

 

 その全てを、たった一枚のカードで崩された。

 

「『超融合』か……それにあの紫毒龍の召喚反応は早急に手を打たねばならないな」

 

 あらゆる障害を許さない絶対の力。そして敵のモンスターを蝕み己の力に変える毒龍。

 

『これだけは、あまり使いたくなかったのですがね』

 

 その時の彼女の憂いを帯びた表情の真意はわからない。

 

 ともかく、零児はその二つのカードを()()()()()()。以前の彼女の決闘データを遡っても存在せず、無数のモンスターの中でも図抜けた融合召喚反応を放った毒龍には、どこか既視感も感じた。

 

「融合……か。そしてあの毒龍の召喚反応……なぜ波長が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と似ている? 偶然か、いやしかし───」

 

 次元戦争まで時間は迫っている。だが不確定要素を孕んだままランサーズを発足するなど、聡明な零児が強行を採るはずもなく。

 かつての憧憬は、毒のように漠然とした焦燥となって零児を苛んでいた。

 

 それでも、

 

(ふっ……逆説的に考えれば、彼女の全力の一端に触れたとでも言うべきか。なればこそ、()()全力で臨むべき時も近いか)

 

 未来の存亡を背負っていたとしても、一人の決闘者としての求道精神は確かな昂揚を感じていた。




○榊遊季 オリ主
 汎用以外のテーマ(現地調達は除く)のオリ主だゾ。
 でもあんまりデュエルの決定打になるような使い方はしないようにします。
 本人はARC-Vを知らないのでペンデュラムはズァークの力=カードがオカルトで書き換わると思っていた。
 最近はランニングデュエルとサイクリングデュエルにハマっている。

○赤マフラー社長
 (靴下)履いてない人。デュエルスタイルに好意を評しているだけで異性のそれじゃない。
 まだまだ力を温存中。ぶっちゃけオリ主とも遊矢とも背負ってるものが違うから黒咲さんと並んで最強枠の一人(予定)。
 二次創作だと頼めばカードを用意してくれるドラえもん枠で扱われる人。

○榊遊矢
 沢渡シンゴ? とりあえず猿ヒグルミで(ry
 最近は姉に勝ちたいのでランク4に注目しているらしい。()

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