皇妃が捨てられたその後に   作:獲る知己

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少し短めで、後半に続きます。


天才の兄。新宰相ベリータ

アリスティア元皇妃が処刑され一月が立ちました。

 市民の間では皇后様を暗殺しようとしたモニーク侯爵共々死罪され、これで帝国は安全だ。神に愛された我らが皇帝陛下と皇后様が平穏へとお導きくださる。といった話が流れています。

 

 そんな話を聞き、私は常々思います。

 羨ましいと。

 

 時として無知というのは幸せな事です。何も知らなければ彼らは平然と崩れ欠けの橋の上でお祭り騒ぎをできる事でしょう。

 

 おっと、自己紹介がまだでしたね。

 私はベリータ新宰相。新といってもルブリス皇帝と同時期に就任したのでかれこれ3年ほどになりますが。

 

 周囲よりは天才アレンディスの兄。または、敏腕宰相ルースの息子と呼ばれております。

 扱いが前方のおまけです。まぁ、それも仕方のない事です。

 

 自身で言うのもなんですが、私の弟は天才であり私は凡才。我が敬愛すべき父は長年にわたり前皇帝に仕えた敏腕であり、私は年若い未熟者。

 身の程を知っていればこそ弟や父のおまけとして扱われてもなんとも思わないのですよ。

 

 そんな私がなぜ新たな宰相をしているかというと、2つの要因が重なった結果です。

 

 まず1の要因。

 我が父ルース・デ・ベリータが過労にて倒れました。

 

 前皇帝陛下が崩御され、宮廷内の仕事を一任しておられた父は無理が祟り倒れたのです。幸い命に別状はありませんがこれ以上の政務は無理と医者から判断され宰相職を辞さなければならなくなったのです。

 

 次の要因は弟である天才アレンディスです。

 数々の新法案を作り、実行してきた自他ともに認める天才である弟は滅法貴族からの人気がないのです。

 

 数年前に起きた暴徒騒ぎに発展した増税案の改善策として弟が作った新法案は、貴族の嗜虐品に税をかけるというものでした。

 この法案のおかげで無事に暴徒は鎮圧した後にも、財政は持ち直すことができました。けれど、その代わりに贅沢品に税をかけられた貴族達に嫌われたのです。

 

 事が事だけに表向き反発する者はいませんが、弟が父の後継として宰相になっても反発が起こるのは予想されます。

 そんな2つの要因が重なった結果、父の代わりに私が宰相になりました。

 

「まぁ、政変時のごたごたが片付いたら弟に任せる事前提の就任ですけどね」

 

 誰もいない執務室で1人愚痴ります。

 

 要するに中継ぎが私の仕事なのですよ。

 今は政変時は色々な事がゴタゴタしますからしばらく時間を置き、貴族たちの感情を鎮め政治が安定したら弟に席を譲る。

 

 一見すると弟が座る席を温めるだけの情けない兄ですが仕方がないのです。私は凡才で弟は天才。自分の身の程を知る私に異論はありません。

 

 本物の天才が身近にいて幼い頃から差を見せつけられれば劣等感なんて感じません。諍いは同じレベルの者同士でしか起こらないとはよく言ったものです。

 

 次元が違う相手には立ち向かう事すら念頭できなくなるようです。

 

 まぁ、宰相という重圧が伴う責務を早々と抜けられる事をよしとしましょう。

 いずれは領地経営の一部を賄い、妻と子供たちとのんびり暮らすつもりです。

 

 長々と私なんぞの事をお話しましたがそろそろ本題に戻りましょう。

 

 何も知らない平民の皆様は実に平和そうで何よりです。宮中は未だに大混乱の真っ最中だというのに。

 

「宰相様! 次の資料をお持ちしました」

 

「そこにおいておいてください」

 

「宰相様! 西方面の地方貴族から説明の要請が……」

 

「後に対応します」

 

「宰相様!」

 

 先ほどからひっきりなしに私の執務室にやってくる士官たち。

 

 今現在の皇宮では見慣れた光景です。かれこれ私も2日ほど碌に寝てませんし、頭が少し痛いですね。

 まったくもって笑えない状況です。

 

 ある意味でこれも分かり切った問題なのですが、アリスティア元皇妃様は皇后美優様の分の仕事に加え皇妃であるご自身の仕事に、ルブリス皇帝陛下の一部の仕事まで普段から処理されていました。

 そんな方がいなくなられて今まで通り順調に業務を回す事は大変難しいのです。

 

 市民や一部の貴族の中ではアリスティア様を口悪く言うものもいますが、すべての人間がそうではないのです。特に彼女を擁護し親身になっている者の筆頭は我々宮中で働く文官です。

 

 宰相というのは肩書は立派ですが、所詮は皇帝陛下を支える裏方。それは他の文官も同じです。地味で花がない堅実で実力主義の集まりこそが帝国を支える宮廷士官です。

 

 我々の意識は他の貴族と違い身分や血統よりも実力が物をいいます。

 

 当たり前ですね。

 机の前でペンを持ち書類仕事をするのに見た目の華やかさや血筋など不要なのですから。

 

 なので、皇后としての事務仕事を一切せずに慰問やパーティーなどしかお顔を出さない美優様よりも、常に早く正確な仕事をされるアリスティア様に人気がでるのは至極当たり前の事なのですよ。

 

 そんなアリスティア様が処刑された。

 

 はい、結果として我々宮中の文官たちのテンションは非常に低く、そこにアリスティア様の処理していた仕事が回ってきてさらにテンションダウン。

 どうしても皇族にしかできない物は決算や通達が来るのにも時間がかかり皆イライラしています。

 

 処理できる皇族がルブリス皇帝だけしかいないので仕方がないのですが、皆の不満は日に日に増すばかりです。

 さらに、ルブリス皇帝陛下が何をお考えか分かりませんがモニーク侯爵を処刑された事で、その処理にも尽力せねばならず仕事は増えるばかりです。

 

 さらにさらに、その事で貴族の多くからの問い合わせの処理に紛争しなければなりません。

 

「さ、宰相様! 文官の1人が急に倒れ……」

 

「医務室に運びなさい。その者が受け持っていた仕事は一度こちらに持ってくるように。その後、新たに分配します」

 

 こんな事も珍しくなく対処できるようになりました。なんせ誰かが倒れるなんて日常茶飯事ですから。

 

 これで市民の多くは安銘だの平和だのを謳うのですからつくづく無知というのは羨ましい。

 死屍累々のこの状況は確実に国政に負担をかけます。

 まったくもってなぜこうなったのか甚だ疑問です。

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