僕の名はルブリス。千年の歴史を誇る帝国の皇帝だ。
本来ならば誰もが
この国において僕の始まりは、僕の関知しない所から始まった。
それは神のお告げだ。
カスティーナ帝国千年の歴史には度々このお告げが登場する。お告げの内容に規則性や統一性はなく、共通点は当代の皇帝とその治世に関わる重要な事柄という事だ。
ただ、間違いないのは告げられた事柄はすべて現実になるし、そのお告げと相反する現実を作り出してしまった時、帝国に厄災が降りそそぐ。
なので、神からの神託を感知する教会と、帝国において絶対の権勢を誇る皇帝は神の意志にそうよう尽力する事が重要な仕事となる。
僕は皇帝として、神に選ばれた運命の后である異世界からやってきた少女、美優を妻とし父の治世を超える善政をひき、いずれは帝国を世界最大の大帝国にする事が運命なのだ。
それなのに、全くもって不忠極まりない愚か者どものせいで僕の計画がだいぶ遅れてしまった。
本当ならあのいけ好かない女の領地なんて今すぐに潰してしまいたいというのに。
父の代より第一騎士団の団長をしているラスは僕の意思に反し、モニーク討伐を半年以上先にするという。
しかも、優秀であるという触れ込みの新たな宰相も使い物にならない。僕の意思をくみ取るどころかラスに賛同する始末。
やはり、所詮は自分より年下の弟より劣る無才ということか。
フン。
まぁいい。造反なんぞを企てた愚か者どもよ。今のうちに精々調子にのっておくがい。雪解けには、貴様らも貴様らの領民もあの女同様に断頭台に送ってくれる。
・・・
市井において教会というのは神様を奉り祈りをささげる場所であり、時々神様のありがたいお告げがされる神秘的で不思議な詳細はよくわからない場所である。
分からないという事でより神聖さが際立ち信仰を集めるのだが、逆によくわかっていないからこそ、その信仰は脆い。
帝都市民の中でもすでにモニーク領の反逆は噂されている。
モニーク領の姫君であり皇族であるアリスティアが公開処刑され1年にも満たないのだ。誰もが反逆の理由が公開処刑であると認識している。
「よう、文屋さん。新しいネタはないのかい?」
ここは帝都の中に多く出店している喫茶店の1つ。茶色いコートに色あせた帽子を被る青年は声をかけてきた喫茶店のマスターに曖昧に笑いコーヒーを注文する。
「新しいも何も例の話で持ちきりさ。お貴族様達がどうするのかは分からないけど、戦争は起こるだろうね」
「そいつは景気のいい話じゃないな」
市民にとって雲の上の存在である貴族の動向は正直に言ってしまえばよく分からない。日ごろから足を使ってネタを集め記事を発行する新聞屋であっても圧倒的な格差がある貴族らと懇意になることはない。
貴族の新聞を出すときは上から予め決まった内容が下りてくる。取材も調査もなくただただ言われた記事を書く。それがこの時代において正しいメディアの在り方であった。
だからといい、彼らにあるのは純粋な好奇心をそぐ事をできるわけでもない。
「そっちこそ何かいいネタはないのかい?」
「そうだな……戦争云々は分からないが今は、教会の方がきな臭いらしいぞ」
喫茶店とは、暇人共の憩いの場であり交流の場である。茶を飲みながらあーだこーだと愚痴を言ったり情勢を語ったり、ほぼほぼ不毛な駄弁り合いの場である。
故に、1日中喫茶店にいるマスターは下手な情報屋よりも面白い情報をもっていたりする。
「戦争が起こるなら教会だって祈祷だなんだのって忙しいだろうけど、きな臭いってのはどういう事?」
好奇心が刺激された青年はそっとテーブルの上に硬貨を乗せる。
マスターはそれを受け取ると無言でポケットの中にしまい青年にもっと近づくように手招きをした。
「なんでも皇后様について帝都の中央教会と地方の教会で意見が分かれてるらしいぞ」
教会という組織も一枚岩ではない。
特に、神のお告げに直接かかわる中央の教会と、あくまで祈り捧げる事しかできない地方教会では劣等感やら優越感といった人間臭い理由の対立が起こりやすい。
地方教会は、中央教会が神のお告げを改変したのではないかと抗議を上げている。それに伴い地方の貴族達も皇室と中央教会に不信感を持っているらしい。
「神のお告げ通りに皇后様を迎えたのにどうして戦争なんか起こるのか、そもそも皇族の処刑だって何十年以来の珍事だよって話だ。国が荒れるのは中央教会が余計な真似をしたからだってな」
「……つまり、地方の連中はお告げにあった皇后様はアリスティア様だってことか」
話の発端は教会が元々あった『アリスティア様が皇子殿下と結ばれる』というお告げを勝手に変えて美優を皇后に迎えた事で厄災が起こっていると、言い出したらしい。
「俺は初めっから少しおかしいとは思ってたんだよ。だってよ、皇后様は泉の中から突然現れたって話じゃないか。流石にそれはないだろう」
「あー…まぁ確かに俺もその記事を書いてるとき役人に何度も確認したからな」
神のお告げがある世界。そんな世界であっても異世界から突然人がやってくるなんて事は普通にありえない。
そんな話を真面目にしてる奴がいるなら精神の病気を疑う。
「だけど、その話って皇帝陛下が承認のはずだろ?」
ただし、それは普通の一般人がしたらの話だ。相手が権威を持つ貴族。それも国で一番偉い人がそうだと言っている。
青年は疑いながらも、皇帝陛下という絶対の証人がいる事で記事を書いた。
陛下の名前はすさまじく、荒唐無稽であり、普通に発行していれば三流のゴシップと鼻で笑われる内容のメルヘンな記事は市民に受け入れられた。
今では、演劇として人気を博しているし、当時の平民たちは流石特別な皇族の花嫁は特別なんだと浮かれ、戴冠式に出席した皇后様に対して満面の笑みを向け、盛大な花吹雪と共に拍手を送ったものだ。
これで我が国の繁栄は間違いない。神のお告げの特別な花嫁様と生まれながらに神のお告げがされた特別な皇帝陛下が結婚される。
帝国万歳! 皇后様万歳!! 皇帝陛下万歳!!!
―――しかし、いざ現実に戻れば繁栄どころか国が荒れる事が間違いなく保証されてしまった現状が残る。
「それだよ。お前も見ただろ皇后様の髪色を」
「ああ、遠くからでもわかる珍しい色だったな。少なくとも俺は皇后様以外であの色の髪を見たことはないよ」
「これもあくまで噂なんだがな、実は皇后様は異国の平民で教会が布教してる辺境の地から連れてきて陛下に献上した娘だったらしい。それを、陛下は随分と気に入り自分の妻にするために教会に嘘のお告げを認可させたって話だ」
どこの世界においても教会とは基本的に自らの神以外の宗教を異端ととらえ、神様を広める布教活動を行う。
そこには、服を着る文化すらない未開の民族や海に閉ざされた島国などもある。そんな遠く離れた民族らは当然自分たちと異なる姿形をしていて、この国では珍しい黒の髪も見たことはないけどあるかもしれない。少なくとも異世界から来たという理由よりも、遠く離れた他国出身といった方が信憑性が高い。
当時は陛下の言葉を素直に信じ、特別だと思い込むことで目をつぶってきた美優のこの国の住人とかけ離れた姿も冷静に辻褄を合わせれば、この世界の外という不確かな物を使わづとも説明がつく。
「それは、確かに……説明はつくけど少し荒唐無稽じゃないか」
「俺も全部が全部正しいとは思ってないよ。所詮ただの噂だしな。でもよ、今にして思えば色々とおかしな部分もあるだろ。特にアリスティア様の処刑理由。だってあのモニークの姫が嫉妬で皇帝陛下を殺そうとするか?」
広く知られた神のお告げにおいてアリスティアの存在は非常に大きく取り上げられた。神のお告げを広く認知させたい皇宮。そのためには当人らの記事を書くのが一番早い。が、皇子の記事なんておいそれとかけるはずもない。
なので、当時の新聞は侯爵令嬢であったアリスティアを褒めたたえる記事を多く発行し、その際にモニークという家の在り方も取り上げられた。
忠誠のモニークの名はすでに貴族だけの呼び名ではない。平民の多くにも認知されている。
だからこそ疑問する者も多くいた。
「処刑の時もそうだったけどみんな言ってるぜ、あのモニークが!? てな。それに家のかみさんが言ってたんだけどな、男は浮気した本人を恨み、女は浮気相手を恨むもんなんだってよ。アリスティア様が皇后様を殺そうとするならまだしも、皇帝陛下を殺そうとするなんて下手くそな演劇みたいだって言ってたぜ」
「そいつはなんとも、女は怖いね」
「違いない」
青年とマスターは互いに肩をすくめ乾いた笑みを作り出す。
これは、意味もない不毛な喫茶店でのワンシーン。けれど、これと似たような話は帝都内どこにでもあふれていた。
皇帝本人も教会も貴族の誰もが知らない所でジワリジワリと彼らの権威にひびが入る。
本当は、ラス公爵側の2人の息子の話をする予定でしたが、書いてる途中で新しい話が更新され没になりました。
設定がある程度出てない話の2次創作の痛い所ですね。
これからも、できる限り原作と矛盾がないように手探りで頑張ります。
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