皇妃が捨てられたその後に   作:獲る知己

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皆さまお待たせいたしました。ようやくモニーク家の領地の情報が入ってきました!
 これで物語が先に進めます。


決意の騎士

 領地へと戻ったモニーク家の家臣に陪臣騎士達は覚悟を決めた顔持ちで活動を開始する。

 騎士であるリーグを始めとした、モニーク侯爵の側近騎士らは立ち寄った城にて老齢の家令に深々と頭を下げた。

 

「まことに、まことに申し訳ありません!! 我らがいながらアリスティア様は……っ」

 

 モニーク侯爵家保有の城塞。そこの最高責任者を務める家令は年並で一線を退いているが、彼ら古参の騎士達にとっては鬼教官と呼ばれた人物である。

 

 モニーク侯爵を幼い頃から支え、アリスティア様の成長をまるで自らの孫を見る様にしていた優しいお爺さんの顔は、今はない。

 

 本来なら隣国からの侵略に対し帝都を守る最終防衛ラインとして使用される城塞都市。その管理を任された彼は実質ではモニーク家で最も強い発言権を持っていた。本人の意思に反し。

 

「……情けない物です。主君を守れず、唯一の領主一族であるお嬢様も守れない。騎士として不出来この上ない」

 

「……」

 

 全盛期はともあれ、現在ではすでに還暦を越えた老人だ。現役の騎士であるリーグらと競えば確実に負けるだろう。

 しかし、目の前にいる人物の重々しい声を聞いただけで膝が震え上がる。本能的に目の前の老人に勝てないと体が反応しているのだ。

 

 無論、それはただの思い込みであるが、そう思わせるだけの覇気がある。

 

「しかし、それは私も同じ。主君を守れなかった惨めな騎士である私が言えた義理はないのでしょう。顔を上げなさい」

 

「……はっ」

 

 侯爵の時は本当に突然だった。我々の本隊は国境付近に派遣され、内々でアリスティア様が伏せていると連絡を受けた侯爵は最低限の護衛と共に帝都に寄ってから合流する予定だった。

 

 現場に到着した我々は違和感に眉をひそめた。

 宮廷には、緊急を要する案件であると連絡を受けたが、国境付近の町々を見ればそこまで急な用件とは思えない。

 確かに、中々厄介な諍いはあった。

 

 けれど、それはあくまで小競り合いという規模で、現場の辺境伯の軍勢だけで対処できたはずだ。仮に辺境伯に何らかの理由で軍を出せないのだとしても、周辺の貴族に助力を求めればいい。

 

 帝都に救援を求め、なおかつ緊急の案件であるようにはとても思えない。

 

 現に到着後に辺境伯に挨拶に向かえば、皇帝陛下直轄の第2騎士団である我々が来たことに酷く驚いていた。

 それも、このように早く起こしいただけると感極まった風で。

 

 緊急と言ったのはそちらではないかと聞けば、意味が分からないと小首をかしげる。

 

 これは、双方の認識に食い違いがあると気づき話を聞けば、辺境伯側はあくまでこの小競り合いで農作物に影響が出て、今年限りの税の引き下げを願い出たという。

 ブラフで物資の支援も要求したようだが、それは普段なら素気無く却下されている様な事柄で、騎士団の派遣が来るとは想定外と言っていた。

 

 そうなると、困る事が出てくる。騎士団の受け入れ準備ができておらず、仕方なく我々は周辺の村々に数人ずつ分散し仮宿とした。

 

 部隊の話し合いでは伝達ミスか何らかの不備であるだろうと予想され、しかし、後に来る侯爵に無断で部隊を引き上げる事もできない。

 なので、侯爵が到着したら指示を仰ごうと構えていた。

 

 数日が過ぎても侯爵は来ない。初めは親子水入らずで話す事もあるのだろうと多少の遅れは予想に入れていた。

 

 されど、予定していた日付を過ぎても侯爵は来ず、部隊から様子を見てくるように兵を派遣する。

 道中で合流するのであれば4日ほどかかるだろう。

 

 されど4日過ぎても侯爵も派遣した騎士も帰ってこない。これは流石に異変が起きていると物物しくなってきたとき、派遣した騎士が帰ってきた。

 

 しかし、周囲に侯爵はおらず。

 

 息も絶え絶えで青い顔をしている騎士は昼夜問わず馬を走らせた様子で酷く疲弊している。

 

 そんな騎士から途切れ途切れに告げられたのはモニーク侯爵謀反の疑いにて処刑というありえない報告だった。

 

 急ぎ帝都に変える準備を進めるも村々に移した部隊を呼び戻すだけでも数日かかる。

 

 しかし、そんな悠長に待っている事もできない。

 

 今いる騎士を連れ帝都に向かう。部隊の呼び戻しと派遣した騎士の介抱を辺境伯に願い出ると快く引き受けてもらった。

 滞在中に村々での力仕事に、害獣や盗賊の討伐を率先し行った事が功を奏し、辺境伯とは良好な関係が築けていた事が功を奏した。

 

 最低限の休憩を挟み帝都に駆け付けると、事態は我々の予想を遥かに凌駕した最悪となっていた。

 

 大逆人元皇妃アリスティア、皇帝暗殺未遂により投獄。

 

 いったいこれはなんの間違いか、とにかく我々は情報収集に紛争し、立ち入りを禁じられた宮廷には清書、陳情書、請願書などあらゆる手を使いアリスティア様の助命を願い出た。

 

 だが、我々はあまりにも遅すぎた。もしも、部隊の騎士が全員そろっていたのなら方法はもっとあっただろう。しかし、先行した我々はあまりに少数。

 

 その上、事情を知るにも宮廷には入れず、アリスティア様と面会はできず、周囲の協力を求められない。

 それに、どうやら我々には秘密裏に監視が付いているようだ。纏わりつくような気配を感じながらどうにかもがくが等々間に合わず。

 

 当日、処刑場に入る事も許されず我々は広場にて宮廷の仕官が両手に抱えるアリスティア様の変わり果てたお姿を見るしかできなかった。

 

 我らは監視の目をかいくぐりどうにか帝都を逃れた。向こうは我らが気が付いている事に気が付いていなかったのでやりようはいくらでもあった。

 

 世闇に紛れモニーク家と表立って繋がりのない相手に金を支払い馬を用意する。途中で、帝都に向かう部隊と合流ができ、あらましを話す。

 

 みんな嘆き悲しみ憤怒した。

 帝都に乗り込もうと意気込む部隊をどうにかなだめ目的地をモニーク侯爵領に変更させる。

 

 帝都にいたメンバーも本当はすぐにでも主君の仇を打ちたかった。アリスティア様の首を晒させたくなんてなかった。

 されど、このまま向かいて玉砕するだけ。

 

 それはいけない。それだけでは生ぬるい。主君を守れず、姫君を見捨てた我々も、忠義を捧げたモニーク家に対しこの様な仕打ちをする皇帝も、相応しい地獄がある。

 

 

「良き顔とは言えませんね。復讐に捕らわれた者の顔です」

 

 面を上げた我々の顔を見て老齢の家令はそう言った。

 されど、咎める事はしなかった。それもそのはずだろう。何せ皺だらけの細まった瞳に映るの我々と同じ顔を彼はしているのだから。

 

「ああ、なんとも歯がゆい事か。もう数10年若ければ私も戦場に向かったものを。年老いたこの細腕では足手まといにしかなりますまい。無念だ。我が人生においてこれ以上の無念はありますまい……っ」

 

「その無念、我らが引き継ぎます。決して、決して奴らを許す事はできませんっ!」

 

 我々家臣にとって主家でるモニーク侯爵は命よりも重い。

 

「我らが剣を捧げた主は憎っき皇帝ルブルスに有らず! モニーク家を愚弄する者共に天誅を! この身が朽ち果てようとも必ずや、主の無念を晴らして見せます!!」

 

 剣を天に向け決意を表明する。

 自分の周りにいるのは帝都に入り何もできず、ただただ無力にアリスティア様の死を見ている事だけしかできなかった面々だ。

 

 彼らも当然悔しいだろう。憎いだろう。

 みんなが皆同じ顔をしながら覚悟を示す。

 

「確かに貴公らの覚悟受け取った。私にできる事はそう多くはないだろう。されど、精いっぱいの助力を約束する」

 

 抜刀した剣をしまい、差し出された手を掴む。長年剣を握ってきた騎士の手で強く強く握られる手に痛みを感じながらお互いに全力で手を握る。


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