「葉山、今日は非番だったんだし、無理してこなくてもよかったんだぞ」
「あんな話聞いたら飛んできちゃいますよ」
「と言われてもなあ。もう事態は収束してるし、とくにお前ができることはない」
「ん~、まあそうなんですけど、五島さんの意見を訊きたいこともあって」
「明日まで待てばいいだろう」
「うっ、それはそうなんですが」
「まあ、もう来てしまったのだから帰れというつもりもない。どっちから話す?」
「えーと、私の話の前に、まずそっちの詳細聞かせてもらえます?」
「ん、ああ。伝えたとおり、松坂みつが拘置所からの脱走を図った……というより、松坂みつを拘置所から逃がそうとした奴がいた。光瀬という若い巡査なんだが。おかげで拘置所は大騒ぎだし、署内も大騒ぎ」
「なんだってまた光瀬巡査はそんなことを?」
「本人は黙秘を貫いているが、同じ交番に勤務している横井という巡査が喋った。以前、松坂みつのところに行ったことがあるとな。そのときに、松坂みつは光瀬を誘惑したらしい」
「うっ……」
「吐くなよ」
「吐きませんよっ! 吐き気はしますけど! で! なんで光瀬と横井は松坂みつのところに行ったんですか?」
「異臭がするという通報があったそうだ」
「あのゴミ部屋なら異臭もするでしょうねえ」
「横井によると、ゴミしかなかったらしいが、そのときに松坂みつが光瀬にちょっかいを出していたとかで、そのときは戻ったが、たぶんまた松坂みつのとこに行ったんじゃないかと言っていたな」
「で、光瀬はあっさりふらふらと松坂みつの誘いに乗ったと。バカですね」
「まあ、バカだな。懲戒免職は免れんだろうし」
「それで、松坂みつはこの件についてはなんて?」
「『頼んでない』だそうだ。光瀬も、自分の一存で逃がそうとしたと言っている」
「ほんっと、救いようがないバカ」
「それは認める。拘置所に拘留されている被疑者を逃がそうとするとはな。一生を棒に振ってどうするんだ、あいつ」
「にしても、松坂みつって何者なんですかねえ。私には気持ち悪い人にしか見えないんですが」
「お前にしちゃ辛辣だな。何者なのかは私にもわからん。……この分だと、起訴のときもなにかやらかすんじゃないかと心配になる」
「そういや、その起訴、いつごろになりそうです?」
「検察はとっと起訴したいみたいだな。本人が罪状を認めているんだから、と。まだ余罪がありそうだから、とは言ってあるが」
「あの人のことだから、裁判の席で『自供は嘘です。脅されました』とか言い出しませんからね?」
「ありえない、と言えないのが怖いな。とはいえ、物証も多いし覆ることもないだろう。で、葉山、お前の話は?」
「ああ、それなんですけどね。神戸あさひ君をみつけたので、彼を連れてしょうこちゃんのお見舞いに行ってきました」
「そういや、施設を脱走したんだってな。……よくみつけたな」
「ラッキーでしたよ。以前に目撃情報があった公園にまたいたんです。あそこが寝場所なのかも」
「ふむ。で、何か話したのか?」
「あさひ君からは、特に何も。ただ、しょうこちゃんとのやりとりを見ていて思ったんですが、しょうこちゃん、たぶん、本当は何があったのか憶えています。憶えているというか、思い出したというか」
「根拠は?」
「残念ながら、今のところは勘だけです」
「勘、ねえ……自分を殺しかけた人間のことなんか、庇わなくていいだろうに」
「あの年頃の子は難しいんですよ。ひとつ間違うと精神状態がグチャグチャになるし、親も教師も信用できない、信頼できるのは友達だけなんてのもよくある話だし」
「だからってなあ」
「五島さん、この事件、どうなるでしょう?」
「このままだと、松坂みつを起訴して終わりだな。物証があるし自供も取れてるから有罪なのは確かだろう。松坂さとうの方の関与を示すものは現時点では特にないから、家出人扱いだ。飛騨しょうこが証言すれば、殺人未遂で手配できるだろうが。彼女を説得できるか?」
「しょうこちゃんの証言を取れるかどうかは、わからないですねえ……あの子もあまり人を信用しないタイプのようです。おまけにあの年頃は、友達に対して忠誠みたいな感情を抱きがちだし」
「間違っているとき、それは間違いだと言ってやるのも、友達の役目だと思うがな」
「怖いんですよ。自分の周りの世界が壊れてしまうのがね。子供にとって、世界というのは狭いものなんです。本当は世界は広いのに」
光瀬巡査どうしてるんだろうな~と思ったらこういう結果に(汗)
なんというか、こういう想像しかできなかったのよ。