「結局、深谷への殺人、しょうこちゃんへの殺人未遂、建造物放火で起訴、ですか……」
「仕方がない。何しろ自供があるんだ。松坂さとうが深谷を殺したという証拠は何もないしな」
「わかっていたこととはいえ、ため息が出ますねえ……」
「まあな」
「ところで五島さん、実家にあさひ君を住ませることになったんですって?」
「最初は実家の予定じゃなかったんだがな。あの日は時間がなかったし、神戸は行くところがないっていうし、とりあえずのつもりで一晩実家に泊まらせたら、父が関心を示して」
「娘が二人とも実家を離れちゃったから、寂しかった、とかですか?」
「どうだろうな。どうなるかわからんが、しばらくのところは実家で下宿させようと思っている。父には彼が被虐待児で不安定だとは話してある。働き口の方は、近江食堂で面倒みてもらえることになった」
「あさひ君に勤まりますかね? あの子、包丁持ったことなさそうですけど」
「今のとこ、主な仕事は皿洗いと調理場の掃除だ。初日は皿を割ったとかでへこんでいたそうだがな」
「大丈夫かしら……」
「これで潰れるようなら、それまでの奴だ」
「まあ、そうですけど」
「といっても、あの境遇を考えるとまともに育っていると言えるし、できれば潰れてほしくないというのが本音だ。ある程度落ち着いたら、通信制の高校を薦めようと思っている。高校くらいは出ておかないと、色々きつい」
「五島さん……」
「なんだ?」
「意外と面倒見良かったんですね……」
「なんというか、ちょっと放っておけん気がしてな。本来、あまり介入しない方がいいのはわかっているんだが。このまま放っておいたらあの子、間違いなく転落人生コースだろうし」
「人間ですもの。時には、情に流されたりもしちゃいますよ。流されすぎたらあれですけど」
「それは昔、私がお前に言った台詞なんだが」
「うふふっ」
「ところで葉山、飛騨を松坂みつのところに連れて行ったそうだな」
「あ、はい」
「飛騨は大丈夫だったか?」
「うーん、大丈夫、とは言えませんねえ。あの子、けっこう鋭いんだなって、あらためて思いました」
「というと?」
「しょうこちゃん、具体的に何を話したのかまでは言いませんでしたけど、終わったあと、泣いてました。松坂みつが松坂さとうからいろんなものを吸い取ってしまったって」
「ふむ、それは……」
「虐待されてたのを感づいたんでしょうね……。あれは魂の殺人です。内容が性的なものかどうかまでは、ちょっとわかりませんけど……」
「それがありえない、と断言できないのが辛いな。そして虐待は連鎖する。松坂さとうが神戸しおを虐待する可能性は高い。くわえて、幼い子供は自我が定まっていないから、すりこみや洗脳がたやすい」
「あさひ君が警察をもっと信用してくれていれば、良かったんですけどね。八歳の子が行方不明って話なら、警察も身を入れて探すのに」
「今まで誰も助けてくれなかったんだ。周りはみんな敵だと思っていても無理はない。それに加えて世の中の仕組みをろくに知らない。飛騨があいつを説得して、警察で証言させただけでも驚きだ」
「カラッポ、か……」
「葉山、どうした?」
「しょうこちゃんが言ったんです。松坂さとうは叔母に吸い尽くされてカラッポになってたんだって」
「ふむ」
「神戸しおも、母親からネグレクトを受けていた。あの子もカラッポに近い状態だったんでしょう。カラッポなもの同士は惹かれあうことがあるんです。でも、もとからカラッポな人間は、決して互いを埋めあえない。最初のうちはよくても、そのうちに奪い合うようになっていく」
「ああ」
「戻っては、こないでしょうね……」
「運が良ければ向こうの警察に逮捕される可能性もあるが……どうだろうな。言葉もできない、身元を証明するものもない。利用されるか、えげつない犯罪に手を染めるか、どう考えても平坦な人生は送れないだろう」
「あの二人には、言えませんね……」
「そうだな……」
「せめて祈りたいです。しょうこちゃんとあさひ君の二人は、人生を立て直してやっていけますようにって」
「現時点では厳しいとしか言えんな。……大人は子供を守ってやらなくちゃならないのに、それができない奴が多すぎる」
「だからこそ、祈るんですよ」
あさひの行き先、他所も考えたのですが結局こういう形に。
当初の予定ではここはもっとあっさりしてたのですが、最終的にこうなりました。