物事は、迅速に運ばねばならない。
それが、さとうの出した結論だった。
しょうこの親が警察に捜索願いを出したのは確かだろうが、警察がどの程度まともに捜す気になるかどうかはわからない。親との関係がうまくいっていない高校生なら、家出したとみなされる可能性も高いだろう。
もちろん、希望的観測だけでものごとを薦めるのは危険だ。だから、さとうはこの城を捨てることにした。しおとの話し合いは難航したが、既についている。あれは大変だったが、それにより自分たちの愛はより深まったのだから結果としては良かった。さとうはそう認識している。
叔母さんとの話し合いはもっと面倒だったが、協力はとりつけられた。必要な物資を調達し、バイト先の後輩からは二人分のパスポートも手に入れた。そしてついさっきは二人きりの結婚式もあげた。何よりも幸せな、甘い時間。
さとうは小さなため息をついて、奥の部屋のドアを開けた。しおにはこちらに来るなと言ってある。これからすることを、見せるつもりはなかった。
しょうこは相変わらず、アトリエだった部屋の床に横たわっている。触れてみたところ、まだ息はあった。放置しておいた間に死んでしまうかなとも思っていたが、意外としぶといようだ。
だがどのみち、この状態なら動けまい。念のために縛ってあったが、縄はほどいておく。どういう結果になるかわからないが、マイナス要素は排除しておかなければ。
さとうはこのお城に火を着け、しょうこごと焼いてしまうつもりでいた。そのためには、しょうこの死因は焼死が望ましい。どの程度焼けるかはわからないが、万が一通報されるのが早かったりしたら、骨になるまで焼けないかもしれない。身体に、不自然な傷跡を残したくなかった。殺されたのだとすぐにわかってしまっては、時間稼ぎとしては不適切だろうから。
衣服はそれよりも先に、自分のものに着せ替えてあった。しょうこの衣服は先に焼却炉で焼き捨てた。どの程度繊維が焼け残るかはわからないが、念には念を入れておきたい。
できれば丸焦げになってくれるとありがたいのだが。
「ごめんね、しょうこちゃん」
聞こえてないのはわかっていて、あえてつぶやく。
「でもしょうこちゃんが悪いんだよ。私の幸せを壊そうとするから」
一番大切なもののために、他のものは切り捨てる。もう少し時間が遅くなったら、しおを連れて、家を出る。逃げる時間を稼ぐために、火を点けるのは叔母に頼んだ。二人で空港に行って、日本を出て、そして――。
いつまでも、二人で幸せに暮らすのだ。
私はどうにも疑問なんですが、さとうの叔母さんって本当に叔母さんなんでしょうか? いえ、血の繋がりがないとかではなくてその逆「叔母ということになってるけど本当は生みの母」だったりするのではないかと……。
充分ありえる話だと思うんですよ。未成年のうちに妊娠してしまって、気がついたときはおろせなくなっていて、仕方がないから産んですぐに既婚者の兄だか姉だかの養子に出した可能性もあるんじゃないかと。
アンドリュースの小説に学生時代ハマっていたせいですかね、こういうことを考えてしまうのって。ついでに言うと、アンドリュースだったらこれに「兄と妹の近親相姦で生まれた子供」というコンボをほぼ確実に叩き込んでくるだろうなあ……。