さとうの叔母さん:松坂みつ
1208号室にいた絵描きの男性:深谷そら
としています。
なお、刑事さんのシーンは刑事ドラマを参考に書いています(リアルにそんな知り合いいないし事件に巻き込まれたこともない)
「葉山、ちょっといいか? 少し話したいんだが」
「はい、大丈夫ですよ」
「……さてと、さっきのお嬢ちゃん、飛騨しょうこちゃん。あの子の話をどう思う?」
「特に妙なところはないと思いますね。ほぼ申告どおりではないでしょうか? 部屋に入った瞬間に殴られて気絶したのでしたら、それからのことを憶えていなくても仕方がないでしょうし」
「うん。あの子の話に大筋で嘘はないと思う。……だがこの事件の全貌の方は、どうもいまいちよくわからない」
「そうですね」
「今の話だと、飛騨しょうこがバイト仲間で友人の松坂さとうのところに行くと、叔母さんから、何故かさとうは縁もゆかりもない人間の住んでいる部屋にいると言われ、部屋を訪ねたら何故か殴られて気絶して、おそらくはそのまま閉じ込められて、あげくその部屋に放置されたまま放火されたということになる」
「ええ」
「飛騨しょうこは怪我の具合からみて、あのままだったらそのままそこで焼け死んでいただろう。だが、これまた何故かあの部屋を訪れた神戸あさひによって助け出された」
「あの子……」
「うん?」
「神戸あさひ君ですけどね。飛騨しょうこちゃんとつきあっているのでは? さっきのしょうこちゃんの表情は、恋をしている女の子のものでした」
「相変わらず甘ちゃんだな、と言いたいところだが、私もそれは可能性が高いと思っている。消防士からも、必死になってしょうこを助けようとしていたと証言が取れてるしな」
「あさひ君がもっと色々喋ってくれていればもっと確認が楽なんですけどね」
「警戒心バリバリでこっちを睨んでいたから、厳しそうだな。容疑者ではないから、強引な手は使えないし」
「しょうこちゃんが行き先をあさひ君に伝えていたとしたら、あさひ君の行動はわかります。連絡が来なくなったので、探しに行ったのではないでしょうか」
「まあ、それはありうるな」
「お姫様を助けるナイトみたいですね、ふふっ」
「アホな妄想はいらん。まあ、そうして考えると、しょうことあさひの行動は辻褄があう。問題は『しょうこを殴ったのは誰か』そして『本来の住人を殺したのは誰か』だ」
「うーん……」
「どうした、葉山?」
「五島さん、この事件、もう犯人が自供してるんですよね。このまま解決にしちゃってもいいのでは?」
「放火に関しては、確かに出頭した松坂みつの反抗だろう。軽油のレシートも、ガソリンスタンドの防犯カメラの映像もあるし、彼女があの日着ていた服からは軽油の飛沫が検出された。だが、彼女がしょうこを1208号室に招き入れる必要がない。なんでわざわざリスクを負う?」
「でも、松坂みつは全部自分がやったって言ってるんですよ」
「……はあ。なあ、葉山。お前、あいつがまともだと思うか? ありゃどう見ても異常者だ」
「あの人がおかしいのは確かですけど……ううっ」
「どうした?」
「思い出したら、吐き気が……」
「ここで吐くなよ。掃除が大変だからな」
「もう、五島さん! あれを見てしまった私の身にもなってくださいよ。一種のホラーですよ。おぞましい……」
「よしよし、大変だったな」
「全然心がこもってない!」
「……とにかく、あれはきっぱり忘れよう。なかったことにはできないが、現在、松坂みつの取調べは主に私たち、それ以外でも女性が行うってことで意見が一致しているし」
「最初からそうしておくべきでしたよ……」
「松坂みつがあんな奴だなんて、誰にもわからなかったさ。それより、話を戻すぞ。1208号室の住人、深谷そらを殺したのは、いったい誰だ?」
「自供どおり、松坂みつでは?」
「動機は?」
「……殺してくれって頼まれたからって、松坂みつは言ってますが」
「事実だと思うか?」
「いいえ……。いくらなんでも無理があります。本人がそう信じ込んでる可能性はありますが。イカれてますから」
「ではなんだと思う?」
「可能性が高いのは、痴情のもつれ、ですかねえ。松坂みつはそうとう男性関係が激しかったわけですし、刺されてもおかしくはないのではないでしょうか?」
「その場合、刺されるのは松坂みつの方だろう」
「もみあいになって、思わない結果に」
「それで……どうする?」
「数日かけて死体をバラして捨てようとしたって、松坂みつは供述してますね」
「だが捨てきらないうちに、しょうこがやってきた。犯行を見られた松坂みつは口を封じるために、飛騨しょうこの殺害をもくろみ、ついでに火をかけて証拠を隠滅しようとした」
「ありうる話だと思いますけど、五島さんは何が引っかかってるんですか?」
「さっきも言ったが、松坂みつの動きがおかしい。何故、しょうこを1208号室に行かせるんだ? 姪ならいないと追い返せばすむ話じゃないか」
「1208号室に行かせたのが嘘だったとか? いえ、それはないですね。しょうこちゃんも1208号室に行ったことは認めています。それに、そこにさとうがいたとも」
「それに、しょうこは松坂みつがついてきたとは言ってない。松坂さとうとは友人かもしれんが、みつの方とはとくに親しくもないだろう。1208号室までついてこさせるとも思えない。松坂みつがしょうこを殴ったとは考えにくい」
「ええ」
「さて、一方で、みつの姪のさとうは行方不明だ。……私は、しょうこを殴ったのはさとうだと考えている。それに、深谷殺しもだ」
「えっと……どういうことですか?」
「推測になってしまうが、1208号室の住人である深谷と松坂さとうの間に、なんらかの接触があったと私は見ている。援助交際か、真面目な恋愛か、それはわからん。とにかく、二人には関係があった。それから、何かしら行き違いがあり、さとうは深谷を殺害。隠蔽のためにさとうが死体をバラしていたところを、やってきたしょうこが目撃。さとうは口封じのためにしょうこを殺害しようとした――あるいは、しょうこに罪を着せるつもりだったのかもしれない。松坂みつは姪が深谷と交流しているとは知っていたが、殺害してしまったとは知らず、さとうが部屋に行っているのも交流のためだと思っていて、故にしょうこに居場所を教えた。しょうこに現場を見られたさとうはしょうこの動きを封じ、そのあと処分に困ってみつに泣きつき、この事件が起きた」
「……うーん、確かにそれっぽいですけど、それならなんで、松坂みつは、全部自分がやったなんて言ってるんでしょう?」
「姪への愛情?」
「あのイカれた人にそんなものあります? 305号室の状態といい、行動といい、無茶苦茶ですよ、あの人」
「愛情云々はさておき、なんらかの事情で姪を庇っている可能性はあるだろう。……ん? ちょっと待ってくれ。携帯に連絡が入ってる。……ああ、はい、はい……」
「どうしたんですか?」
「ああ、いくつかわかったことがある。松坂みつだが、火事の前の日にさとう名義の預金を解約している」
「え?」
「たぶん、逃亡資金用だな。それと、さとうのバイト先のカフェの宮崎すみれって子が白状した。さとうに頼まれてパスポートを貸したそうだ。……バカな子だ、まったく」
「パスポートに逃走資金? ということは海外逃亡? 時間を考えると、もう逃げちゃってそう……」
「だな。そして疑問が増えた。宮崎すみれが貸したパスポートは自分のものだけでなく、妹のもだそうだ。……誰だかわからんが、松坂さとうには、『連れ』がいる。妹は小学生だそうだから、その『連れ』もまだ小さな子供だ。そして、彼女には該当する年齢の血縁者はいない」
「……じゃあ、その子はいったい誰?」
「わからんな。情報が少なすぎる。松坂みつをもう一度取り調べよう」
「気が重いです……」
「話すのは私がやる。葉山は後ろで調書を取っててくれればいい」
「あの人の話を聞いてると頭が痛くなってくるんですよ」
「そのときは例のお題目を唱えてろ」
「あれはお題目じゃないですっ!」
書きながらまたしても疑問に思ったのですが、さとう名義の個人的な資産ってあったんですかね? 彼女は両親を亡くしていて、それが病死だったのか事故死だったのかは不明ですが(事故死っぽい気がします)それだと、両親の遺産とか保険金(現代日本に生きてるのなら入ってないというのは考えにくい)とかあるはずなんですよね。なので、叔母さんが作中でそのお金を彼女名義の預金にして、それを解約して渡してくれたという設定にしてあります。
あの叔母さん、色々問題ある人ですが、さすがに「後見人であるのをいいことに、姪の資産を使い込む」というのはやらん気がします。もちろん、学費とかをそこから出している可能性はありますが。
葉山刑事がボヤいている取調べ室のできごとは……まあ、想像はつくと思います。そういうことです。