縢れ運命!叫べ勝鬨!魔鎧戦線まどか☆ガイム   作:明暮10番

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お待たせしました。


甘美なるラスト・オン・スイーツ!

         III

   【Patricia は 委員長の魔女】

PATRICIA パトリツィア ぱとりつぃあ

 

第壱条

意義ノアル行動ニツイテハ、干渉ヲ禁ズ。

 

第弐条

無力ヲ悟ッタ場合、多イ方ヘト着クベシ。

 

第参条

手ヲ出サズ、声モ上ゲズ、第三者ニ徹ス。

 

第四条

決メラレタ事ニ異議ヲ唱エテハナラナイ。

 

第伍条

将来ノ為、捨テルベキモノハ捨テルベシ。

 

第陸条

以上ノ拘束ヲ生徒ハ黙ッテ遵守スルベシ。

 

改訂

・第壱条ヲ一部改訂。異議ヲ意義トスル。

・第四条ヲ一部改訂。意義ヲ異議トスル。

・第陸条ヲ一部改訂。校則ヲ拘束トスル。

 

ぱとりつぃあ パトリツィア PATRICIA

   【女魔の長員委 は aicirtaP】

         III

 

 

「よっしゃあッ!! 今だマミッ!!」

 

「ナイスアシスト、絋汰さん!」

 

 

 のっぺりと水色の塗られた空の下。学校机と椅子が降り注ぐ結界。

 マミの作り出した大砲が、上空に漂う魔女に向けられる。

 

 

「ティロ・フィナーレっ!!」

 

 

 机、椅子、青空さえも貫き、俯瞰していた魔女を叩き落とした。

 魔女の着ているセーラー服は炎上。結界内のあちこちに干された、同じセーラー服を巻き込みながら、地上に抱かれる。

 服はどんどんと燃え広がり、黒煙がもうもうと立ち込めた。

 

 

 

 

【目を背けたいから眺める。ならば少しは多い腕を差し出すべし】

 

 

 

 

 

 

 

 黒煙が晴れたと思えば、そこは夜の公園。現実世界だ。

 変身を解き、僅かに乱れた髪を直すマミ。その後ろ、バットを掲げたさやかが彼女と絋汰を讃えた。

 

 

「いやぁ! やっぱお二人は最強のコンビですなぁ!」

 

「もう! 見世物じゃないのよ、美樹さん!」

 

「一応、これはおめぇ〜の体・験・授・業だぞぉ?」

 

 

 絋汰が鎧武の姿のまま、彼女の額を突く。

 

 

「なにするんすかぁ! ちゃんと分かってますってばぁ!」

 

「分かってんなら、少しは危機感を持て! 危ない事に変わりはないんだからよっ」

 

 

 ドライバーからロックシードを外し、彼も変身を解除する。

 隣にトコトコと、キュウべえを肩に乗せたまどかが近付く。辺りをキョロキョロ、見渡していた。

 

 

「グリーフシードは見つからないですね」

 

「ここん所、ハズレばっかじゃない?」

 

『魔女が必ず落とす、と言う訳でもないんだ。こればかりは運だね』

 

「でも見返りにばかりで盲目になってはいけないわ。グリーフシードを落とさない使い魔も、成長すれば魔女になるのだから。何も知らない人たちを守る為、倒さないと駄目なのよ」

 

 

 賞賛や利得を受けずとも、守る為だけに戦う。

 マミのその精神は、絋汰の意思と同じようだ。それをまだ中学三年生が抱いている事に、彼は驚きだ。

 

 

「すげぇな、マミは……根っからのヒーローだな」

 

 

 思わず感嘆の意を口走り、聞いたマミが照れ臭そうに頰を掻いた。

 

 

「それを言うなら絋汰さんもですよ。わざわざ時間を割いて、私たちに協力してくださるのですから!」

 

 

 今度は絋汰が恥ずかしそうに頰を掻く。

 これ以外にやる事がないとは内緒だ。

 

 

 

 

 現状、絋汰は光実と共に、マミが敵視する暁美ほむらと協力関係にある。

 グリーフシードの提供、対価として食料の供給。女子中学生に養われている事も、マミの敵と裏で組んでいる事も、どちらにせよ口が裂けても言えない秘密。

 

 

 ほむらの言った『事実』。

 内容は別として、何かを知っている事は確か。もしかすれば、絋汰らがこの世界に来た手掛かりを握っているかもしれない。

 

 

「目的もなく奔走するより、見つけた可能性を賭けて行動した方が良いですよ」

 

 

 光実の言葉を受け、今もほむらにグリーフシードを渡している。

 勿論、マミらとの魔女退治は別だ。これは絋汰の意思からだ。二人で倒した魔女のグリーフシードに関しては、彼はノータッチ。

 個人的に発見し、見つけて倒した魔女の物のみをほむらに流していた。

 

 

 

 

 

 ここまでほむらに渡したグリーフシードは二つ。ノルマの十個まで、なかなか遠い。

 魔法少女体験コースの手伝いをしている間は、光実が魔女捜索・退治に出ている。戒斗は今も見つからない。

 

 

「二人とも、願い事は見つかった?」

 

 

 彼女の質問に対し、まどかとさやかの二人は申し訳なさそうな顔になる。決まっていないようだ。

 

 

「文字通り一生に一度の願いだからな、よおく考えろよぉ?」

 

「そう言われますと余計に悩むんすよ絋汰さぁ〜ん」

 

『願いの内容が、魔法少女の能力に関係してくる。その点も含めて、良く考える事だね』

 

 

 思い出したかのようにキュウべえは耳をピョコンと動かした後、マミに質問をした。

 

 

『お手本と言って良いか分からないけど、マミの願い事を話してあげたら? 勿論、差し支えなければ』

 

「……ッ」

 

「あ、そう言えば……聞いてみたいかも」

 

 

 マミの朗らかな表情が一瞬、影がかかる。

 彼女の感情の変化に気付いたまどかは、慌てて訂正に入る。

 

 

「あ、す、すみません! あの、言いにくいなら別に……」

 

「願い事が能力に関係するなら、銃が関係している……んー? マミさんがミリオタとかには見えないし……」

 

「ケーキ作りとサバゲーが趣味とか、ギャップがあり過ぎだろ」

 

「銃好きの趣味はないわよ……いいわ。話してあげる……けどっ」

 

 

 見上げた視線の先には、街の夜景に照らされた時計塔。

 時刻は七時に迫りつつある。

 

 

「今日は遅いわね。明日にしましょ。とりあえず言える事は……考える時間があるだけ、良く良く考える事ね」

 

 

 含みのある言い方。

 深く聞いてみたい気に絋汰はなったが、何処か寂しげに微笑む彼女を見て質問を飲み込んだ。それはさやかもまどかも同様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、そこで解散となる。

 夜道を中学生だけで歩かせるのは危ない、絋汰が付き添いをしてくれる。運動神経には昔から自信がある為、暴漢通り魔なんでもかかってこい。

 

 帰路につこうとする四人だが、まどかに抱かれていたキュウべえが彼女の腕を抜けて、地面に降り立った。

 

 

『マミ、悪いけど僕は少し出るよ』

 

「どうしたの? キュウべえ?」

 

『僕にも仕事があるからね』

 

「魔法少女の勧誘? なら付いて行くわよ、暁美さんが出るかもしれないし……」

 

 

 悪いオバケのような扱いにされているほむらに、絋汰としては少し複雑な気持ちだ。

 

 

『大丈夫。勧誘ではないよ。グリーフシードの回収さ』

 

「それは大事ね。気をつけてね、キュウべえ」

 

『ありがとう、マミ。まどかやさやかも、願い事が決まったら是非呼んでね』

 

 

 それだけ言い残し、キュウべえはテテテと駆け、暗闇に消えた。

 

 

「あいつ、俺だけノータッチかよ……」

 

「まぁ、キュウべえが興味津々なのはそのベルトみたいだし……それ、あたしも変身出来ます?」

 

「残念だが、これは俺以外変身出来ないからな! どうだ羨ましいか!」

 

「なにを得意げに……ふん! 近い未来、あたしも魔法少女ですからね、全然!」

 

「さ、さやかちゃんも絋汰さんもやめなよ……」

 

 

 四人はまた和気藹々とした雰囲気の中で、街灯の並ぶ道を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 キュウべえは絋汰らと離れた後、公園の溜め池に来ていた。

 柵に座り、彼を待っていた戒斗に会いに。

 

 

「どんな具合だ?」

 

『マミの欲を煽る、だろ? 願い事を話させるように取計らったよ。明日には君の思い通りになるかな』

 

「願い?」

 

 

 キュウべえも柵の上にバランス良く立ち、戒斗の隣で静止する。

 

 

『彼女は孤独の人さ。強い孤独を抱えた少女なんだ。そのルーツこそ……彼女が魔法少女となった願い事にある。二人を何としても引き入れたいって思いを強くさせるなら、とても都合が良いんだ』

 

 

 願い事の内容に戒斗は興味はない。結果として、マミの欲を煽れたならば上出来だ。

 

 

『それより、もう一つの仕事をさせてくれないか』

 

「あぁ……持っていけ」

 

 

 ポケットに手を突っ込み、目の前に放った。

 

 

 

 それらは全て、グリーフシード。

 しかも一個二個ではない。五つ、六つもある。これまで戒斗は魔女狩りを続けていた。

 

 

『凄い闘争心だ! 君が女性で、魔女少女だったらさぞ立派な戦士になれただろう!』

 

「二度とその気持ちの悪い喩えを言うな。軽いウォーミングアップに他ならない……張り合いもないほど、魔女は弱い」

 

『でも意外だね。君ならば無駄だって切り捨てて、こんな事しないと思っていたけど?』

 

「…………」

 

 

 キュウべえの見解を無視し、戒斗はその場を後にしようと歩き始めた。

 彼の後ろで、キュウべえはグリーフシードを咥え、上へ放り投げる。それは上手く背中の丸い模様の中心に落ち、そこへ吸い込まれて行った。こうやって彼はグリーフシードを回収する。

 

 

『君とは是非、仲良くなりたいものだね』

 

 

 キュウべえの誘いにも似た言葉に、吐き捨てるように戒斗は呟いた。

 

 

 

 

「……それだけは二度と言うな」

 

 

 夜は深まって行く。不穏に、怪しげに、悲しげに、美しく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、昼下がり。そこは病院の廊下。

 明日には退院の出来る貴虎。院内服からスーツに着替え直し、喉が渇いたので自販機コーナーまで歩いていた。

 上着はズタズタに切れている為、ズボンとシャツ姿。仕立て直すにも金が無い。金が無いので、気絶するほどだったに関わらず、彼は病院を早々に退去させられる訳だ。

 

 しかし別に、移動に支障はない。身体の傷は殆ど治癒していた。

 気絶する寸前に見た、黒髪の少女だろうか。何者か知りたいと共に、恩を返したい気持ちもある。

 目的がなく、あとは野垂れ死ぬだけの未来。彼はそれだけをしたかった……恩を返すにも、金銭が発生したら何も出来ないが。

 

 

「…………」

 

 

 金が無いのに、何故自販機コーナーに行くのか。

 彼の身の上に同情した隣の患者の、見舞いに来た人から千円を恵んで貰ったからだ。

 一度断りを入れたが、好意に甘えて受け取る事にした。

 ビジネスの世界において、相手の好意の拒否ほど、失礼な事はない。根っからの管理職精神が、ここでも現れてしまった訳だ。

 

 

「……さて。延命でもするか」

 

 

 何を飲み、寿命を延ばすか。自嘲気味に貴虎は呟きながら歩く。

 

 

 院内は綺麗だ。ガラス張りの壁からは暖かい陽光が入り込み、芸術作品のような街並みを展望出来るようにする。

 ふと階下を覗き込めば、車椅子を押して貰い景色を楽しむ者や、制限はあるだろうがリハビリの一環として外で遊んでいる子どもと言った、患者たち。

 

 芝生に転がる者、ベンチで話す者、ゲームをしている者、急ぎの用事なのか慌てて走る医師。

 文句の付け所のない、平和な世界。貴虎としては、絶望的とも思えたその平和を今一度眺められる事が、幸せにも思えた。

 

 

 しかし、悔いはある。もう一度、光実に会いたい。

 願わくは、光実をこの手で救い出してみたかった。

 

 

「…………」

 

 

 過ぎった後悔を打ち消そうと頭を振り、景色を眺める事を辞めてまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「もう一度チーズが食べたかっただけなのです」

 

 

 

 

 背後から声が聞こえた。幼い、童女の声。

 だが子どもらしからぬ、生気のない声。

 貴虎は振り返った。

 

 

「チーズ?」

 

 

 立っていたのは、やはり女の子。年齢は小学生ぐらいだろうか。

 春色のワンピース、絹のように整った銀色の髪。

 俯き気味で、表情は分からない。

 

 

「……迷子かい?」

 

 

 内心で貴虎は困っていた。子どもとの付き合いは全くと言って良いほど皆無だったからだ。

 子ども嫌いと言う訳ではないが、どう接すれば良いのかが分からない。とりあえず声を柔らかくし、語りかける。

 

 

「親御さんと逸れたのか?」

 

「…………」

 

「……そう言えば、学校はどうした?」

 

 

 時間的にはまだ、高校どころか小学校さえ授業の時間。

 

 

「……いないのです」

 

「なに?」

 

「いなくなったのです」

 

「いなくなった?……もしかして、親が?」

 

 

 昨日、聞いた話がフラッシュバックする。

 死んだ女性と、残された子どもの話。まさかと思い、彼は尚更どう声をかけようか迷う。

 

 

「……不幸、だったね。その、どう言葉にすれば良いか……」

 

「………………」

 

「……だが、母親は見守ってくれている。だから君も、立ち直る……のは、難しいかもしれないが……少しずつでも」

 

「忘れられるハズないのです」

 

 

 少女が顔を上げた。

 どんよりと、暗く、黒く、暗澹とした深淵の目。

 陽光さえ反射させないような、底無しの目だ。

 無表情に近い状態で彼を見る。貴虎は愕然とし、目を逸らせず。

 

 

「その目は……!?」

 

 

 最後に見た、弟の姿がブレる。

 

 

 

 

「もう一度、一緒に、チーズが……」

 

 

 

 甘い香りが、辺り一面に燻る。

 最後の、お菓子の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

【願え願え、探せ探せ。絶対に離さない、絶対に見つけろ】

【ぱ・パ・PA・pa・破・по・ПO・吧・ぱルMEja〜野・peЖAー迺】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さやかは病院に入って行く。しかしすぐに、彼女は出て来た。

 

 

「早いね。上条くん、会えなかったの?」

 

「都合悪いんだってさ。失礼な奴〜」

 

 

 ムスッと不機嫌顔を見せたさやかだったが、まどかと目を合わせる瞬間には笑顔になっていた。

 

 

「帰ろっか」

 

 

 時刻は夕方。下校中の生徒が見え始める時間帯。

 入院している幼馴染のお見舞いに来たさやかだったが、今日は諦めて帰る事になった。

 

 

「………………」

 

「さやかちゃん?」

 

「ん? あ、ごめんごめん。なんか、ボーってしてた」

 

 

 黙って病院を出た彼女が心配になり、まどかは声をかけた。

 気丈そうに微笑む彼女だが、やっぱり影が拭えない。

 

 

「上条くん、治ると良いね」

 

「そりゃ、治して貰わなきゃあたしが困るっての。バイオリン聞かせる云々の話が有耶無耶になっちゃうし!」

 

「凄く上手いもんね。また聴きたいな」

 

「あたしは聴き飽きるほど聴いたけどなぁ〜。いやぁ、幼馴染はツライわぁ」

 

「もう、冗談でも言っちゃ駄目だよ!」

 

「へいへ〜い」

 

 

 笑い合う二人、しかしまた暫しの沈黙。

 それはさやかが何かを話そうと、言葉を探していたからだ。まどかはジッと、次の言葉を待つ。

 

 

 

「……ねぇ」

 

「なぁに?」

 

「もし……さ。もし、あいつの手が治らなかったら……」

 

 

 自信家の彼女らしからぬ、しおらしい声。

 

 

「…………その時はさ。あたし……」

 

「……さやかちゃん?」

 

「あいつの為に願っても……願えるのかな」

 

 

 まどかが声をかけようとした瞬間、それは第三者の声で飲み込まれる。

 

 

 

 

『可能だよ。前例もある』

 

 

 キュウべえだ。

 

 

「うわぁ。かみしゅつおにぼつって奴だな!」

 

「それ神出鬼没じゃ……」

 

『その人の事を願ったとしても、それもまた君の願いだ。でもこの手の類の願い事は少ないかな。みんな自分の願い事ばかりだからね』

 

 

 その話を聞き、さやかは僅かに目を見開いた。

 少し、思いが揺らぐ。

 

 

「可能なんだね、キュウべえ」

 

『願い事が出来たならここでも受け付けるよ。僕としては早い方が良いからね』

 

「それは急かし過ぎぃ!……まぁ、可能性の一つとしてね?」

 

「で、でも、さやかちゃん……」

 

 

 期待の眼差しを向けるキュウべえの後ろに、誰かが並んだ。

 

 

 

「甘いな」

 

 

 

 戒斗だ。

 良い印象を持たない二人は、彼の登場に対して思わず身構えてしまった。

 

 

「あの時のバナナ!?」

 

「バロンだ。そして名前は駆紋戒斗だと……もう忘れたのか?」

 

「…………甘いって、なんですか?」

 

 

 鼻で笑った後、キュウべえを跨いで二人の前まで近付く。

 厳めしい顔付きと雰囲気も相まって、まどかはすっかり怯えてしまった。そんな彼女を守るようにさやかは睨み付け、前に立つ。さしずめ魔王を前にした、お姫様と騎士のようだ。

 

 

 自分は悪役かと面白がりつつも、戒斗は続ける。

 

 

「そのまんまだ。折角得られる力が、他人の為の物だとは勿体なく感じないのか?」

 

「……あたしの勝手じゃないですか。願い事はあたしが決めるんです、あたしが決めた願いです」

 

「自分で決めた気になっている時点で甘いと言っている」

 

「……なんですって?」

 

 

 顎を上げ、さやかを見下すような下目遣い。それがまた、彼女の神経を逆撫でるが、彼は容赦を知らない。

 

 

 

 

「お前は自我がない。自我がないから他者に縋り、自分の存在を確認しているだけだ」

 

 

 彼の片方の口角が、サディスティックに釣り上がる。

 

 

 

 

 

「所詮、自分の為でしか他者に干渉出来ない」

 

「ッ……!」

 

 

 打ちのめされたように、さやかは立ち尽くした。

 戒斗に食ってかかろうとも、恨み節を呟く事すらも出来ない。

 

 

 

 言うだけ言って踵を返す彼に、キュウべえは彼とのテレパシーで話しかける。

 

 

『魔法少女の決意付けに協力してくれるんじゃなかったのかい?』

 

(あの女は対象外だ。あくまで鹿目まどかのみと言う話だったハズだ)

 

『この話を鹿目まどかの前でしている時点で同じ事だよ! それに君は自我の弱い少女を狙っていると言っていたよ! 目的が見えない!』

 

(………………)

 

 

 次の言葉は心中ではなく、足元にいるキュウべえへ声として伝えた。

 

 

「自我無き者が力を得た所で、鬱陶しいだけだ」

 

 

 その声は勿論、まどかやさやかにも届く。

 

 

 

 

「自我自我って、自分の事だけ考えれば自我なの?」

 

 

 怒りを孕んだ、さやかの声。

 戒斗は「待っていた」と言わんばかりに、二人に顔を見せずにほくそ笑んだ。

 

 

「あたしは自分が強い人間だなんて思わない。あんたの言う自我も、もしかしたら弱いかもしれない」

 

「さやかちゃん……」

 

「でも、他人を助けるんだって願いも、立派な自我だ!……あたしは誰かの役に立ちたい、そして恩に縋ったりしない……絶対に譲らないから、これだけは」

 

 

 戒斗の思い通り。彼はさやかの声が望みだった。

 キュウべえは相変わらず無表情のままだが、動揺したかのように彼へ急いでテレパシーを送る。

 

 

『さやかの想いを引き出そうとしたんだね。かなりリスキーだったけど、上出来だ! 親友の言葉を聞いたのなら……』

 

 

 さやかの言葉は、まどかに響いている。証拠に、彼女を見るまどかの目は、輝きを帯びていた。

 皮肉な事だ。さやかの精神論は、自我の弱い者ほど効く。彼女の憧れを、引き上げさせられた。

 

 

『君は凄いよ! さやかが反論してくるって読めていたんだね! 良く、誘導出来たものだ!』

 

 

 

 

 戒斗は誰にも聞かれないよう、ポツリと呟く。

 

 

「……似ている奴がいたからな」

 

 

 彼はまた振り返る。さやかの敵意を一身に受けたまま。

 

 

「お前の言う自我、或いは強さは分かった」

 

「だったらさっさと、どっか行ってくれない?」

 

「ならばそれを証明してみせろ……来い」

 

「……へ?」

 

 

 

 戒斗は後ろの門から病院の敷地を出ず、左側に向かって歩き出した。その先は駐輪場だ。

 訳がわからないが、ここまで啖呵を切ったのならば付いて行くしか他はない。先々進む彼の背中を、まどかとさやか、キュウべえが追いかける。

 

 

 

 駐輪場にはひと気が無い。ストッパーに並べられた自転車を横目に、壁の横を行く。

 戒斗の後ろを付いてきていた二人だが、彼の目的地に着いた時、揃って驚嘆の声をあげる。

 

 

「えっ!?」

 

「こ、これって……!?」

 

「あぁ。そうだ」

 

 

 

 

 

 壁に埋め込まれたそれは、禍々しい黒を纏っている。

 心臓の鼓動のように暗黒の光を放ちながら、まるで種から芽が出て来るかのように漆黒のオーラが現れる。

 

 

 紛う事なき、グリーフシード。

 

 

『大変だ……孵化しかかっているよ!』

 

「な、なんでこんな所に……!?」

 

『魔力の侵食が始まっている……結界が出来上がるまで時間がない!』

 

 

 狼狽えるまどか、分析をするキュウべえ。

 

 

 

 その後ろ、戒斗はさやかを見遣り、さやかは戒斗を睨む。

 

 

「あんた……! 見つけて放置していたなんて……!!」

 

「勘違いするな。孵化し、魔女が出たら倒すつもりだった……それより」

 

 

 腕を組み、威圧感を醸しながら、続けた。

 

 

 

 

「魔法少女でもない無力なお前が、この状況をどうする? 見過ごせば、孵化した魔女はどっかに行き、お前に害はない。だが立ち向かうのならば……」

 

「………………ッ」

 

 

 さやかは大事な人の為、決心する。

 もう甘いだなんて、思わせるものか。

 

 

 

 

 

「……まどか。マミさんを呼んで来て。あたしはここで、コイツを見張るよ」

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