椅子にちょこんと座り、無表情でこちらを見下ろす。
女児が抱いて眠るような小さなぬいぐるみのようだ。
ブカブカの袖をだらりと座席より垂らし、ぼんやり。
それはマミたちを見ているのか、眼前にあるケーキを眺めているのか。
「あれ、魔女?」
「なんか、可愛らしいっすね」
「見た目で騙されちゃ駄目よ」
お菓子の魔女はこれまで見た魔女たちより、幾分か人間に近く、マスコットキャラクターじみた雰囲気があった。
しかし狡猾で残虐な性質は、今までの存在と何ら変わらない。
フラッと腕を掲げると、配下の使い魔たちが龍玄とマミの前に立ちはだかる。
『さやか、君は隠れていよう。だが窮地の時は契約してね』
「じゃあ、マミさんとお兄さん、お願いします!」
さやかの離脱を見届けた後、マミはソウルジェムを、龍玄はもう一つのロックシードを掲げる。
「使い魔を直線で切り拓くよ! 道が出来たら、魔女へ!」
「お願いします、光実さん!」
マミのソウルジェムは輝きを放ち、彼女を包む。
同時に龍玄も、ロックシードの錠を外す。
『キウイ!』
ソケットのブドウロックシードと入れ替え、鎧を変える。
『LOCK・ON!』
『ハイーッ!』
『キウイ・アームズ!』
『
弦楽器と銅鑼の音と共に、龍玄はキウイを模したキウイアームズとなる。
銃だった武器も変わり、二枚の乾坤圏『キウイ撃輪』を構えた。鋭い刃をぎらつかせ、前に突き出した。
「おぉっ!? キウイになった!?」
『形態を変えられるようだね。ロックシードの変更でスタイルに富んだ戦闘が可能みたいだ。本当に興味深いよ!』
マミも変身を完了し、銃を構える。
使い魔の集団がとうとう攻撃を開始。先陣を切ったのは、龍玄だ。
「はぁっ!!」
乾坤圏を使い魔相手に振り回す。
車輪のような形状である事を利用し、その攻撃はまるで舞を舞うかの如く。
斬る、回る、振る、突き刺す、どんな動きをしても彼の刃は使い魔に直撃し、裂いた。
「おっと!?」
それでも数の多さに押されてしまう。
彼の攻撃を抜け、飛びかかる一匹。
しかし龍玄に一矢報いる事は出来ない。マミの撃った魔法弾を受け、敢え無く消滅。
「気を付けてください!」
「凄い……! ありがとう!」
マミのアシストと龍玄の猛攻。使い魔たちは次第に押されて行く。
「一気に行くよ!!」
『キウイ・オーレ!』
ロックシードを二度カッティング。
龍玄に緑色のエネルギーが満ち始め、キウイ撃輪に纏わりつく。
エネルギーの充填を確認した彼は、身体を大きく捻り、振り回す。
「はぁぁぁッ!!」
振られたキウイ撃輪よりキウイ型のエネルギーが幾多に乖離し、不規則な軌道を描いて使い魔らに降り注ぐ。
避けようのない複雑な軌道。直撃と同時に、しめやかに爆散。
立ち塞がった使い魔たちの軍に、魔女への突破口を開く。
「マミちゃんッ!!」
「ありがとうございます!!」
龍玄を飛び越え、海を割るかのように開いた突破口を脅威のスピードで走り抜ける。
途中それでもマミに食いつこうとする使い魔もいたが、袖口、背中、足から出現したマスケット銃に撃ち抜かれた。
とうとう群れを抜け、魔女の鎮座する椅子の下。
椅子の足は高く、遥か上空にいる彼女に向け、マミは一斉射撃を敢行。
「ふっ!」
マミを中心に、まるで花を咲かすかのように地面からマスケット銃が発生。
その一本一本を手に取り、撃つ、撃つ、撃つ。
マスケット銃の性質上、単発。しかし多くをかなりの速度で撃ち続ける事により、濃厚な弾幕を展開。
黄金の光弾は真っ直ぐ中心に、魔女にかかる。
「うわぁ、綺麗……!」
さやかがそう漏らすのも無理はない。
遠目から見れば、流星群が空へ昇って行くように見えた。
しかし魔女は見た目通り、小さく身軽な身体を持っていた。
ふわりと浮遊し、弾と弾の微妙な隙間を縫って即座に回避。単発ならば兎も角、あれだけの弾幕を抜ける辺り、かなり能力の高い魔女だと気付かされる。
「早い……!」
機動力の高さはマミにとっても、驚嘆に値した。
そも、マミとお菓子の魔女との間にはかなりの距離がある。どれほど弾幕を張ろうが、距離によるインターバルが回避の余裕を与えてしまっている。それは銃弾にせよ、拘束リボンにせよ適用される。
近付かなくてはならないものの、縦横無尽に飛び回る魔女をどう捕らえたものか。
「マミちゃんッ!!」
『キウイ・スカッシュ!』
使い魔と戦う合間に、龍玄は一枚のキウイ撃輪を魔女目掛けて投げ飛ばす。
オーラを纏いながら高速回転し、大きな弧を描きながら魔女に向かう。
だが弾幕さえ抜けた彼女が、かなりの速度とは言えマミより遠い距離から来たそれを避けられない訳がない。
身体を揺す振りながら、余裕でキウイ撃輪の軌道線上から離れる。
「撃って!!」
「クレー射撃ね!!」
マミは即座にしゃがみ込み、銃を固定させるように構えてから引き金を引く。
魔女が避け、キウイ撃輪がその横を抜けようかとした時、弾は撃輪に見事命中。
その衝撃によって軌道は上向きに変わり、魔女の避けた先へ。
軌道が変わった位置と魔女との間に距離は殆どない。
不意打ちのような二人の連携。流石の魔女も反応する事が出来ず、マミによって軌道修正された龍玄のキウイ撃輪を食らう。
「ナイスヒット!!」
「ナイスアシスト!!」
それでも何とか身を捩り、頭部両断は避けられた。
しかし右半身が切断され、動揺でもしたのか落下する。
「お出ましなのに、早速ご退場願うわよ!」
マミは左手を掲げると、裾下より一本のリボンが射出。
落下中の魔女へ上手く絡まり、とうとう拘束に成功した。
「ドウドウ!……大人しくしていなさいッ!!」
それでも暴れる魔女だが、マミは椅子の足へ彼女を引っ張り上げた。
椅子に当たったと同時に魔女に巻き付けたリボンは椅子の足にも巻き付き、完全に固定。磔となる。
「これで終わりよ!」
マミを銃口を向ける。
魔女との距離、ほんの五メートル。絶対に外さない位置。
トドメの一撃の、引き金を引いた。
「よし、切れたぞ!」
ほむらから受け取った日本刀で、彼女に纏わりついていたリボンを全て切除する。
「君は一体、何者で…………ッ!?」
身体が自由になったと同時だった。目の前にいたハズのほむらが突然消滅した。
見渡した時、なんと彼女は遠い位置を走っている。瞬間移動だ。
「あんな場所に……一瞬だと!?」
それからはまるで、ビデオのコマ送りのように彼女は明滅を繰り返し、その度に遠く遠くへ消えて行く。
異常な光景、有り得ない能力。貴虎は面食らうものの、ほむらを追う事に決めた。
「……オーバーロードではないにせよ、特殊な力を持っている事は確かなようだな」
日本刀を再度握り締め、お菓子の道を走る。
全てがスローモーション。
マミに迫る巨大な影。
撃ち抜かれ、沈黙したハズの魔女……の、抜け殻。
小さな人形のような魔女の口から現れた、本体。
まるで切り分ける前のロールケーキのような身体。その黒い身体を伸ばし、白い顔には場違いなほど明るい笑顔を貼り付けている。
口はガパッと開かれていた。ギザギザの鋭い歯はギロチン。
それは子供が幸せそうに大きなお菓子を頬張ろうと、幸せそうに頑張って口を開けようとしているかのようだ。
何を食べようとしているのかと言えば、マミの頭。
魔女は、彼女にかぶりつこうと、眼前に迫っていた。
「…………え?」
引き金は引いた、マスケット銃は単発式、二発目はない。
魔女とマミの距離は二メートル、回避のインターバルさえない。
二機目の銃を召喚するにも、隙なんか与えてもらえない。
差し迫る歯、舌、口蓋垂。
使い魔に集中している龍玄、まだ気付いていない。
マミ、なす術はない。
魔女の口が、閉じ始めた。
「マミぃーーッ!!!!」
響く絋汰の叫び。
横から現れた彼がマミを押し出し、魔女の口から逃れさせる。
『オレンジ・スパーキング!』
鎧武に魔女が噛み付こうとした刹那、彼の鎧が頭部に畳まれる。
元のオレンジ型に戻ったそれを、ガブッと噛んだ。
勿論、噛み千切れるハズはない。魔女は鎧を噛んだまま、停止する。
「絋汰さん!?」
「うおおおおおおおお!!!!」
魔女が状況を把握しようとする前に、頭部の鎧が急速回転。
噛み付いたままの歯と歯に火花を散らせながら、削り取る。これには魔女も敵わない。
「お、お兄さん!? 後ろ!! 後ろ!!」
「え?……えぇ!? なにあれ……絋汰さん!?」
驚くさやかと龍玄を他所に、回転する鎧を押し付け魔女を押し込む鎧武。
「食らっとけぇぇぇッッ!!」
ロックシードの錠が外れると、鎧はミサイルのように射出された。
それは魔女の口内に突っ込み、彼女を弾き飛ばす。カートゥーン調の涙を流しながら、魔女は後ろへ飛び、地面に落ちた。
「絋汰さん!? マミさん!?」
「無茶をする奴だ……」
バロンが魔女を警戒する内に、まどかはマミの元へ走り寄る。
マミはその場にへたり込みながら、茫然自失と言った状態だ。放心したまままどかと、アンダースーツ状態の鎧武を見る。
「大丈夫か、マミ!?」
「か、鹿目さん……絋汰さん……? なにが……魔女が、魔女に、食べられかけて……!?」
ブルブルと震える手。
隠して来た恐怖が、もう抑えきれないほどに噴出した。
奥歯がガチガチと鳴り、表情は無いのに涙が溢れる。脳裏には魔女の凶悪な歯が現れ、消えない。
その手を、まどかはギュっと握る。
「マミさん」
「…………鹿目、さん?」
「……独りなんかじゃ、ないんですよ……」
まどかの言葉も、遠くの地響きで掻き消されてしまう。
目を回す魔女が、のろのろと起き上がったからだ。
構えるバロンの隣に、使い魔を倒し切った龍玄も合流する。
「あ、あれが本体だったのか……!?」
「……貴様も来ていたのか」
「……え? あ、戒斗さん、ですよね? 本当に来てた……」
何気にこの世界で初顔合わせの二人。
そんな二人を抜けて、鎧無装着状態の鎧武が更に前に立つ。
「ミッチ! まどかとマミを頼む! あいつは俺が倒すッ!!」
「魔女は張り合いのない連中だが……奴は骨がありそうだな。俺が倒す」
鎧武、バロンが並び立つ。先程まで互いに争い、刃を交えた二人だが、共通の敵を前に私情は挟まない。
「さっきまで喧嘩していたのに……」
「分かりました絋汰さん!……立てる? マミちゃん」
「うぅ……すみません……光実さん……」
マミを立たせ、まどかとその場を離脱する龍玄。
気を取り直した魔女が、頰を膨らませて怒った表情で二人を睨む。
ポップなデザインで可愛らしい魔女、しかし獲物を食らわんとする凶暴な生物である事には変わりない。一瞬の油断もしない。
「おい戒斗!! 俺はやっぱり、まどかの願いを使うのは反対だ!!」
「この状況でも言うか。場を弁えろ、目の前の敵に集中しろ」
「……だから戒斗。お前に力を見せ付ける為に……俺はこいつを、解禁する!」
「……なに?」
鎧武は戦極ドライバー左部の、自身の横顔が描かれたプレートを取り外す。
空いたその箇所へ嵌め込まれた物は、『ゲネシスコア』。
「貴様、それは次世代機の……!?」
「お前ん所の時間じゃ、見せるのは初めてだよなぁ戒斗」
次に取り出した物は、『レモンエナジーロックシード』。
オレンジロックシードが正位置にある状態で、ゲネシスコアのソケットにそれをセットする。
『レモン・エナジー!』
『LOCK・ON!』
空に二つ発生したクラック。
一つはオレンジ、もう一つは『レモン』。
『ソイヤッ!』
カッティングブレードを落とすと、その二つの鎧は鎧武の上で、一つに混ざり合う。
『MIX!!』
『オレンジアームズ!!』
『花道・オン・ステージ!!』
黒と銀を基調とした、重厚さと優雅さを感じさせる鎧。
それは頭にセットされると、ゆっくりと展開する。
『ジンバぁあ〜、レモン!』
『ハハァーッ!』
陣羽織と鎧が合体したかのような姿。見慣れた、フルーツをモチーフにしたであろうデザインは輪切りのレモン模様のみに留められた、正統派とも言える雅やかで強固な姿。
これこそが次世代機『ゲネシスドライバー』の力を得た鎧武、『ジンバーレモンアームズ』。
通常状態でも事足りており、使用を控えていたジンバーレモンを……戒斗への一つの宣戦布告として解禁した。
まどかたちを守る意思を明確に表明する為に。
「ふ、二つ!? 二つ出て来て……え!? 一つになった!?」
『これには何も言えないよ。なんて拡張性なんだ』
さやかとキュウべえのいる場所に、マミたちを連れた龍玄がやって来る。
まどかとさやか、親友の二人はやっと再会出来た。
「さやかちゃん!! 怪我はない!?」
「平気だけど……マミさん、大丈夫ですか!?」
「……えぇ。心配かけたわ」
「でも、ウカウカしてられないよ……!」
再び使い魔が広場へ集結を始める。
四方八方からゾロゾロ顔を出し、さっさと離脱しなければ取り囲まれてしまいかねない。
「マミちゃん、戦える?」
「……はい。大丈夫です」
キウイ撃輪を構える龍玄、マスケット銃を向けるマミ。使い魔は彼らを排除しようと、襲い掛かる。
「まどかちゃん、さやかちゃん! 僕らの後ろにいて!! マミちゃん、行くよ!!」
「その必要はないわ」
「……え?」
途端、蜂の巣となり消滅する、使い魔たち。
何が起きたのかを確認するより前に、迫りつつあった使い魔の群れを爆炎が包む。
背後であがる爆発を前に立つ、鎧武とバロン。だがそれに気を取られる余裕はない。
二人の様子を伺うように浮遊していた魔女だが、ペロッと舌を出し、大口開けて突撃。
「……良いだろう。貴様の力……意思とやら、見せてみろ」
「……さぁ! ここからが俺のステージだッ!!」
バロンはバナスピアーを、鎧武は『ソニックアロー』を掲げ、迫るお菓子の魔女を迎え討つ。
甘味の世界での一大合戦は、最終局面へと向かう。