魔女が鎧武とバロンに接触する。
だが二人は食べられない。互いに身を翻し、魔女の両側より抜ける。
「ハァァアッ!!」
「ウラァッ!!」
挟み込みようにして、ソニックアローとバナスピアーを横腹に叩き込む。
魔女は痛がるように身体を捩り、顔面で地面を滑る。
それでもしぶとく態勢を整え直し、今度は空高く舞い上がった。
「降ろしてやるぜ!!」
ソニックアローを構え、弦を引っ張る。
スコープの標準を魔女に合わせながら持ち上げ、電子的な音と共に藤頭にエネルギーが集中。
上空で気を伺うお菓子の魔女。
弦を離し、光矢を発射。小さな身体では楽々避けていた彼女も、今の巨体では難しいだろう。
矢は直撃と同時に爆発し、その衝撃により魔女は目を回しながら落下。
その下で待ち構えるは、バロン。
「槍より、こっちの方が適任か」
即座に彼は、バナナロックシードを『マンゴーロックシード』に取り替える。
『マンゴー・アームズ!』
『
バロンの鎧が入れ替わり、闘牛のように垂れ下がった大角と優雅なマントの『マンゴーアームズ』に変化。
切り込みを入れたマンゴー果肉を模したメイス『マンゴパニッシャー』。
「ッシャアァ!!」
大きくそれを振り被り、降ってきた魔女を殴り付ける。
下へ降ったのに今度は水平に吹き飛ばされる。
ドーナツやマカロンと言ったお菓子を巻き込みながら、彼女は墜落した。
「ハァァアアッ!!!!」
突撃する鎧武。
集結し、立ち塞がる使い魔たちだが、ジンバーレモンアームズの前ではあまりにも無力。
「邪魔すんなぁ!!」
ソニックアローを上空に向け、即座に矢を発射させる。
矢は使い魔たちの真上で破裂し、小さな光矢をとなって雨のように降り注ぐ。
飲まれた使い魔らはたちまち平伏し、鎧武が突破した後に四散する。
言えども、魔女は敵を受け入れる気など更々ない。
「うおっ!?」
すぐ噛み付くのを辞め、身体を旋回させ、尻尾で攻撃。
空気を裂く音を響かせながら、太い丸太のような尻尾が鎧武に迫った。
『マンゴー・オーレッ!』
鎧武の頭部を高速で飛ぶ、エネルギー体。
それはバロンが投げた、マンゴパニッシャーだ。
オーラを帯びたマンゴパニッシャーは鎧武を迎え討つ魔女の尻尾に命中。彼へ直撃する事なく、巨大なマンゴーのオーラを纏い重力の増したメイスで、埋め込まれるように地中へ刺さる。
「それぐらい予想しろ!」
「くぅぅ! いけすかねぇ! こっちも本気を出してやる!」
武器が手を離れ、多少身軽になったバロンが鎧武を追い抜く。
彼は尻尾を磔にしていたマンゴパニッシャーの柄を握ると、それを軸として身体を浮かす。
「おおおおぉぉ……ハァァアァアァアッ!!!!」
一回転し、地面に足が付いたと同時に、遠心力を利用して引き抜き、間髪入れず当惑表情の魔女の顔面を殴った。
「トドメだッ!!」
歪められた顔で、宙に浮かされる魔女。
真下に付いた鎧武はレモンエナジーロックシードを、ソニックアローのソケットへセットした。
少し前、光実たちの方。
辺りが焦げた臭いで充満する中、目の前に突然現れた暁美ほむらへ、全員が釘付けにされる。
自分たちより、遠くにいる彼女。硝煙を背景に立つ彼女は、何処と無く超越者じみた雰囲気を醸し出していた。
「あ、暁美ほむら……!」
光実ではなく、彼女はマミを見据えていた。
その目には優越感だとか、憎悪の感情は全くない。無関心、呆気と言った、虚に近いものだった。
「……私は忠告をした」
遠く、魔女と戦闘中の鎧武とバロンを眺める。
バロンのマンゴパニッシャーが宙を舞っていた最中だった。こちらから手出しせずとも、彼らは魔女を倒すだろう。
「彼らがいなければ、弱い貴女なら間違いなく死んでいたわ。巴マミ」
裁判官のように、淡々と事実を述べるだけ。感情はなく、客観的な事実。やはり光実からして、歳不相応な理性の強さだった。
だがその態度は、さやかにとっては傲慢に見えたのだろう。抱いていたキュウべぇをまどかに押し付け、ほむらに詰め寄る。
「マミさんは弱くない! 今だって銃を構えて戦おうとしていたじゃん!!」
「本当にそうかしら?」
「なに……!?」
光実たちから離れた時、マフィンの裏から出現した使い魔。さやかに襲いかかる。
「うわぁ!? どっから出てくんのぉ!?」
「さやかちゃんっ!?」
「マミちゃん、撃って……」
だが、使い魔は突如として横一文字に真っ二つとなり、散々となった。
その後ろに立つは、日本刀を構えた男。
「…………え……!?」
「……こんな状況で、警戒は怠るもんじゃない」
残心。
ゆったりと構えを解いて行き、落とした腰を上げ、彼は垂直に立つ。
見窄らしい格好に見えたが、異様な覇気が彼の質を高めているように思える。気高く、純粋な気質が、鋭い目と厳しい表情から伺えた。
一番近くにいるさやかよりも、初めて顔を知ったまどかやマミよりも……一番彼の姿に狼狽えていたのは光実だった。
構えていたハズの腕はダラリと下がり、衝撃からか感動からかは分からないものの、身体が無意識に震えていた。
ここで出会うハズはないと思っていた人物。
それは男の方も同様だった。彼もまた龍玄の姿の光実だけを見ていた。
厳しかった表情が、ふっと緩んだ。
「……光実……お前なんだな」
「兄さん……?」
遠く、閃光と酸味の強い匂いが、全てを包み込んだ。
オレンジロックシードをカッティング。
『オレンジ・スカッシュ!』
お菓子の魔女へ標準を合わせたソニックアロー。
一直線に、輪切りのオレンジとレモンのエネルギーが交互に出現し、魔女への攻撃経路を示した。
甘さのない、酸っぱいフルーツ。眼前に広がるレモンを、ただ彼女は眺めるしかなかった。
『レモン・エナジー!』
弦を手放し、エネルギー矢を発射。
尖り切り、鋭く伸びた矢は超速で飛ばされ、オレンジとレモンを貫く。
貫く度に更にエネルギーは増大し、最後のレモンを抜けた時には、恐怖的な破壊力を孕んでいた。
その、無比の一撃が、魔女の鼻先に叩き込まれる。
一瞬身体を潰した魔女は、流し込まれたエネルギーが内部で放電したかのように、膨れ上がり爆発した。
激しい爆炎と閃光、そして鼻をつく硝煙の臭いの代わり、お菓子の甘さをも凌ぐ爽やかな酸味の効いた匂いが漂う。
その香りを最後に、戦い走り抜けたお菓子の世界は見えなくなる。
【何でもねだりの欲しい物は一つ。届かなくたって無垢に、一途に、求め続ける】
儚い斜陽の橙色と、無臭な都市の空気。その二つが、現実世界に戻れた事を悟らせる。
病院の駐輪場には、二人の少女と二人の魔法少女、三人のアーマードライダーに一人の男。
それぞれがそれぞれの思いを募らせ、衝突させ、感情を現す。
「兄さんも、この世界に……来ていたの……!?」
あまりにも信じられず、仮面越しではなく肉眼でと、ほぼ無意識にロックシードを取った。
『LOCK・OFF』の音声と共に果汁が滴り落ちるように鎧は消え、元の呉島光実の姿を見せる。
光実の感情としては、素直に感激出来るものではない。寧ろ困惑の色が強い。
尤もだ。彼は今まで、不信と憎悪を抱いていた人物。完璧で、地位もあり、強く、賢く……自分なんかよりもずっと先の人物、コンプレックス。
彼への反抗が光実を、その彼が嫌悪するビートライダーズ入りに向かわせる要因だった。勿論、それは兄にも絋汰らにも隠していた事。冷静になれば、この状況は自分の素性が明るみになってしまうのではと恐れた。
光実の感情は複雑で、彼も混乱に陥っている。それは貴虎にも見て取れた。
だが『この時間軸の貴虎』は、光実の知る冷酷な人間ではない……冷酷な人間を装う彼ではない。
「……光実……ッ!!」
「兄さ……!」
握っていた日本刀を捨て歩み寄り、感極まった貴虎は光実を抱き締める。
「良かった……! また、お前に会えた……!!」
希望の見えない、独りぼっちと思われた異世界。
不和のまま、理解し合える事もないまま別れてしまった弟との再会。彼にとっての希望を、強く抱き締めた。
「た、貴虎!? 貴虎も来てたのか!?」
「誰だ?」
鎧武とバロンも変身を解除し、貴虎の元へ駆け寄る。
二人に気付いた貴虎は光実から離れ、顔を合わせた。
「駆紋戒斗……葛葉絋汰……」
「え? な、なんで兄さんは絋汰さんを……って、なんで絋汰さんも知っているんですか!?」
「ん? 光実、知らないのか?」
絋汰は光実に未来の出来事を教えていない。絋汰と貴虎の和解は、光実の知るもっと先の未来の話。
大慌てで誤魔化す。
「あー……その、あれだ! 実は古い知り合いで……」
「いやいやいや、あり得ないですって……!」
「ね、ネェちゃんがユグドラシルの社員でさ!」
「……ユグドラシルの人って知っていたんですか?」
ビートライダーズを「屑」と罵っていた貴虎が絋汰を知る訳がない。
苦し紛れのバレバレの嘘だが、次の嘘を思い付く前に戒斗が口を挟む。
「俺たちは全員、同じ世界から来たが……時間はバラバラのようだ」
「か、戒斗! またお前はすぐバラす!!」
「え……時間が、バラバラ?」
「時間は別……成る程。道理で光実は何も知らない訳か……」
話が進められるアーマードライダー組だが、その間に現れたのは暁美ほむら。
貴虎が捨てた日本刀を再度拾い上げ、盾に仕舞い直す。
「これの入手、わりと大変なのよ。手荒に捨てないで」
「あぁ……すまない。つい……」
「貴虎、ほむらと知り合いなのか?」
「彼女に命を救われた……恩人だ」
「救った訳じゃない。単なる気まぐれ」
魔法少女から中学生の姿に戻るほむらだが、いつの間にか詰め寄っていたさやかに肩を掴まれる。
「あんた……! あの使い魔がいたの、わざと隠していたでしょ……!」
「結果的に彼に救われていたでしょ?……あの程度の使い魔に腰を抜かす癖に、良く結界に入ろうと思えたわね」
「あんたがいなくたってマミさんが!!」
「マミが? 貴女の後ろで震えている彼女が?」
ほむらの言葉を聞き、さやかは瞬時に振り返る。
自分たちの背後、襲いくる使い魔に銃を向けて戦おうとしていた巴マミ。
さやかの目に映る彼女は、銃を持っていた手を震わせ、その銃さえ地面に落としていた姿だった。
「……マミ、さん?」
「……え? 私、なにして……!?」
自分の状態に気付いていなかったのか、銃を手放していた自身に動揺する。
彼女も変身を解く。解いたと同時に、地面にペタリと座り込んだ。
「大丈夫かマミ!? どうした!? やっぱ、怪我とかして……!?」
「葛葉、気付かないのか? 怪我なんかじゃない。その魔法少女は『恐怖』している」
戒斗の言う通りだ。マミに外傷は全くない。
あるのは深い恐怖による、トラウマ。それが彼女の戦意を削ぎ、銃を離させた。
「これで分かったかしら。貴女の盲信する巴マミは、こんなに脆い存在なのよ」
「でもマミさんは、あたしとまどかを助けてくれて……!」
「自身さえ恐怖するほど危険な場所に、みすみす誘っていたのは誰かしら? それで魔女への恐怖を削いで、無謀な行為に走らせたとすると、マミのした事は単なる自己満足に……」
淡々と述べ続けるほむら。
怒りを滲ませ始めるさやか。
絋汰が止めに入ろうとしたが、それを手で制して諭したのは、貴虎だった。
「それ以上言うのはやめなさい。恩人とは言え、他人の侮辱は許されない」
「兄さん……?」
「光実、お前はあの子を……君が私を理由は何であれ救った恩人であるように、その子にとっても恩人である事は事実だ。それを否定する権利はないハズだろう?」
極めて理知的な、冷静な物言い。
「……言い過ぎた。けど撤回だけはしないわ。それもまた事実」
「全く反省しない訳ね、ほむら……!!」
「落ち着け君……今日は色々あった。お互い、今は一先ず距離を置こう。それで良いか?」
ほむら自身もそのような諭され方は慣れていないようで、居心地の悪さと話し辛さを感じさせながら、提案通りその場を後にしようと背を向けた。
それだけでさやかの溜飲を下げられたかは分からないが、彼女も突っかかる事はしなかった。
「……これだけ言っておくわ。魔法少女は決して、希望だけの存在じゃない……次の瞬間に絶望に食われかねない、命を賭す存在……何も考えていない人間が、生半可な気持ちでなろうとするものじゃない」
彼女の残した言葉は、魔法少女になる事への忠告と戒めにも聞こえた。
歩き出し、駐輪場を出ようとするほむら。
「ほ、ほむらちゃん!」
何故かまどかは呼び止める。
足を止め、顔を向けるほむら。
「……なに? 鹿目まどか」
「……ほむらちゃんも、誰かの為に戦っているの?」
「……どうしてそう思うの?」
ほむらの疑問に、まどかは少し戸惑うように俯いた後、言う。
「分からないけど……そう思うの。ほむらちゃんは、実は優しくて……」
「まどか。前にも言ったハズよ。貴女は魔法少女にならず、普通でいたら良い。大切な人がいるのなら尚更……」
「ほむらちゃんだって大切だよ!!」
まどかの告げた言葉。
その言葉を受けたほむらは一瞬……まどか以外の人間には気付けないような一瞬……悲しげで辛そうな顔を見せた。
とても弱々しく、いつもの凛とした表情とは違う、別の顔。
まどかがその表情に驚いている間に、彼女はふいっと顔を背け、そそくさと立ち去った。
「……まどか! あんな奴の事、どうだっていいじゃん!」
「さやか、よせ!……とりあえず、落ち着こう。なっ?」
絋汰が必死にさやかを宥める傍で、光実は座り込んでいたマミを起こしていた。
誰かの支えがないと立ち上がれなかったが、彼女も落ち着きを取り戻して来たのか、自身で立ち歩きする自体は問題ない。
「す、すみません……あの、本当に……」
「ううん、気にしないで……怖いのが普通の感情だよ」
「……ありがとうございます」
光実なりの励ましだが、マミを立ち直らせるまでには響かない。
表情に影を落とすマミを心配しながらも、そんな彼らをまた心配そうに見つめる貴虎の姿に気を取られた。
まさか兄が、ここまで慈悲ある人物だとは。先程、戒斗から別の時間軸云々と言われたが、何かが彼を変えたのだろうか。
「……まどか。また学校で会ったら、ほむらと話しといてくれ」
「そ、そのつもりです、絋汰さんっ」
「ありがとな。あと……って、戒斗!?」
ほむら同様、一行から立ち去ろうとする戒斗。
必死に呼び止めて駆け寄る絋汰だが、投げ渡された物に驚き足を止められる。
「グリーフシード……あの魔女のだ。そこで怯えている魔法少女に渡してやるんだな」
「……何度も言っておくぞ。今度まどかたちに詰め寄るなら、俺も本気でかかる……!」
「……なら、俺も本気で取り掛かるだけだ」
久々に会い、波乱を呼び込んだ駆紋戒斗もまた、夕焼けの街に消えて行く。
早速戻り、まどかに忠告を与える。
「まどか。俺たちの話は気にすんな……自分の願いを、探してくれ」
「………………はい」
納得されていない。戒斗が彼女に与えた一撃は決定的なようだ。
このままではまどかは、自分たちの為だけに願いを行使し、戦いの運命に囚われてしまう。それだけは何としても避けたかった絋汰は、再度説得を続けようとする。
だがその口を止めたのは、さやかだった。
「その……聞き間違いじゃないと思うけど……同じ世界からだとか、時間がバラバラだとか言っていたけど……ど、どう言う意味なんですか?」
「時間に関しては僕も聞きたいですよ、絋汰さん……」
隠していただけのツケが、回って来ていた。
説得よりその前に、キチンとした説明を果たさなければなるまい。そう考え、絋汰は渋面となる。
まどかへの影響、貴虎との再会、マミの恐怖、ほむらの謎、戒斗の陰謀……喜ぶべき事より、先行きへの不安が多い。
絋汰のそんな気持ちや戸惑いを察した貴虎は、溜め息吐きながら空を見上げる。
遠い空より、夜が顔を出す。次第に橙色を、夕闇に溶かして行く。
未来の暗示なのか、センチメンタルな杞憂なのか。ただ現状は、とても幸先が悪い。そう、貴虎は感じ取った。
そして貴虎の脳裏にある光景。一人の子どもの、闇に染まった目。
彼は気付いていない。その子もまた、魔法少女だったとは。