縢れ運命!叫べ勝鬨!魔鎧戦線まどか☆ガイム   作:明暮10番

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失われた力、勝鬨と極!されど鎧武、出陣!

 町を巡った絋汰。やはり彼の知る沢芽市ではない。

『ヘルヘイムの森』の侵食も無く、次いで『インベス』『オーバーロード』の存在もない。

 

 更には沢芽市から飛ばされた訳ではなく、この世界の人間は沢芽市の惨事を知らず……そもそも、『沢芽市』と言う町が、この『見滝原市』になっている事実さえ発覚した。

 

 

 根拠は川の形が一致している事と、沢芽市にあった一定の建造物がこの町にも存在した事だ。

 

 

 絋汰は今、馴染みの『ドルーパーズ』前に来ている。店構えも場所も、沢芽市と全く同じ。

 

 

「……よぉし!」

 

 

 意気揚々と店内に入る。

 内装も全て、レジスターの位置からスタンドグラス、中央にあるフルーツバスケットを囲うカウンター席まで一致。

 勿論、物だけではない。人も同じだ。

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

「阪東さん!?」

 

 

 店長である『阪東 清治郎』その人が、パフェを作っている最中だ。

 思わず駆け寄り、自身を指差しながら詰め寄る。

 

 

「え? なに? なに!? え?」

 

「俺ですよ! 葛葉絋汰!! ここでバイト……いや、殆ど舞が入ってくれていたけど! どうなってんですかコレ!?」

 

 

 阪東の表情には、当惑しかなかった。

 

 

「……え? 誰? 知り合いだった?」

 

 

 嘘とは思えないほどの、唖然とした顔。

 絋汰も似た顔で唖然となる。

 

 

「……俺を、知らない?」

 

 

 近くを通りかかった店員にも瞬時に駆け寄る。

 

 

「い、い、い、イヨちゃん! 俺! 俺!」

 

「キモ……近付かないでください」

 

「えぇ……」

 

 

 冷た過ぎるあしらわれ方で、心が折れかけた。

 絋汰が後釜として入る前にバイトとして雇われていた女性だが、絋汰を知らないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のいた世界とは、似て非なる世界。

 追いつかない理解に苦しみながら、トボトボと魂が抜けたように町を歩く。

 

 

「どうなってんだよ……ミッチと貴虎……ネェちゃんにみんなが危ないってのに!」

 

 

 ヤキモキとした思いを持ちながらも、どうしようもない。

 走っていた途中で意識を手放し、気付けばここにいた。明らかに人智は軽く越している事態。

 

 

 人智は越していると言えば、もう一つの緊急事態だ。

 

 

「……しかも……これもどう言う事だよ」

 

 

 懐から出したのは、錠前のような物と、鍵のような物。

 その二つは、まるで錆びでも出来たかのように茶色く染まっていた。

 

 不吉な見た目の通り、力も失っていた。

 

 

「『カチドキ』と『極』が使えない……これじゃ、『アイツ』に勝てねぇじゃねぇか!」

 

 

 それ以前に、邂逅する事も出来やしない。その点は幸いなのか、この場に飛ばされた事が不幸なのか。

 

 

 

 

 懐からもう一つ、錠前を出す。

 こちらは鮮やかな橙色で、力を保っているようだ。

 

 

「……いや、まだ俺には力がある。それだけが救いだな」

 

 

 錠前を握り締め、確固たる意思を燃え上がらせる。

 弱者であっても、無力ではない。力ある限り、彼は戦い続けられる気概を抱いていた。

 

 それは幾多も経験した戦いの中で得られた、強い精神力。そしてチャンス。未熟から着実に、成熟へと進んでいた。

 

 

 

 

「……しっかしなぁ。俺に何が起きたんだぁ?」

 

 

 意識を失う寸前を何とか思い出そうと、歩道橋の手摺に凭れながら想起に耽る。

 本当に急だった。『ミッチ』と『貴虎』を探しに、町を走っている最中に突然。

 身体の力が抜け、視界はブラックアウトし、思考も止まった。気付けばベンチの下で倒れていたのが全て。

 

 

「あ〜……全然思い出せねぇ〜……実は夢とかじゃねぇよなぁ〜……」

 

 

 ベターなやり方だが、頰を抓る。痛かった。

 そもそも受ける風、照る太陽光の暖かさ、靴底から感じる地面の感触、歩道橋下を通る車の音……五感の全てが夢とは思えないほど、リアリティに感じ取られている。

 

 

 

 

「……綺麗な町だな」

 

 

 緑に溢れ、芸術品のような建造物が並ぶ。

 自然と調和のとれた、街全体が絵画とも思えるベストバウトばかり。そういった物には無頓着な絋汰だが、人間の本能的な美意識を擽るかのようで暫し、見惚れた。

 

 

 

 

 そうだ。文明にも、自然にも蹂躙されない、共生された町なんだ。

 

 

「……この町のように、沢芽市も……みんなも……また戻れるハズだ」

 

 

 自然に蹂躙された、憐れな町。

 だが、絶対に見放す訳にはいかない。

 例え世界に、類似していてもっと安全な場所があったとしても、そこは別の場所。自分の生まれ故郷は唯一無二。

 楽しいも、悲しいも、涙も喜びも全てを培った、自分のルーツ。捨てるなんて絶対に出来ない。

 

 

 だからこそ、彼は帰らねばならない。町を、人を、守る為に。

 

 

「……とりあえず! 沢芽市にあった場所を巡ってみるか! 何か、糸口が見つかるかもしれない!」

 

 

 自分の長所は、長々と悲観にならない事だと自負している。

 持ち前のポジティブ思考で道を切り開くんだと、両頬を叩いて気合を入れた後に踵を返す。

 

 

 

 

 

 この時の彼は気付いていない。『カチドキ』が、微かに明滅していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う」

 

 

『駆紋 戒斗』は、自身を絶対的な強者と捉えてやまない。

 弱者を嫌い、己を向上させる事に余念がない。

 身体を、能力を、地位を、意思を。自分に値する万象を高める事が最早、自分の価値だとも考えている。

 

 

「……ここは……!?」

 

 

 河川敷にて座る姿勢で気絶していた彼は、ゆっくり目を覚ます。

 見慣れない光景、全く違う場所。瞬時に立ち上がり、辺りを見渡した。

 

 

 

 足元に何かぶつかる。サッカーボールだ。

 

 

「すみませーん! お願いしまーす!」

 

 

 数メートル先に、小学生程度の男子たちがいた。ランドセルを纏めて置いている辺り、放課後らしい。

 

 

「…………」

 

 

 柄にないと思いつつも、たかが蹴って渡す程度は造作もない。サッカーもかなり久しぶりで、懐かしさもあった。

 それ位ならばと彼は足を上げ、サッカーボールを蹴りに入る。

 

 

 

 

「くぁっ!」

 

 

 爪先がボール横を掠りもせず、彼は空を蹴る。

 謎に回された左腕と、一方でピンと張られた右肘と言う情け無いフォームまで晒して。

 

 彼はダンスに関しては一級品のキレとセンスを持っている。

 ダンス一筋に打ち込んで来た。

 それ以外のスポーツはからっきし。サッカーなんていつ振りだろう。

 

 

 

 

「………………」

 

「え?」

 

「……なに見ているんだ、小僧」

 

「……え?」

 

 

 醜態を直視されても弁解せず、屈辱を表さず、腕を組んで構える。

「俺に指図するな、さっさとボールを取りに来い」と言わんばかりの態度。男子はポカンと、棒立ちになるしかなかった。

 

 

 

 

 

「そぉらっ!」

 

 

 戒斗の横を擦り抜け、サッカーボールを蹴る人物。

 ボールは綺麗な曲線を描き、上手く男子の元へ届けられた。

 

 

「ありがとうございまーす!」

 

 

 手を振り感謝し、仲間の元へと戻って行く。

 それを受け取り軽く手を振るのは、紅い髪の少女。中学生くらいか。

 

 

「はぁ〜……全く形からなってないったらありゃしない。ズブの素人ってのバレバレ。流石にアタシもドン引きよ?」

 

「……フンッ。スポーツなんぞ、数多ある手段の一つに過ぎん。俺は俺で、俺にとっての手段で勝負するまでだ」

 

「……おっ? なんか面白そうな兄ちゃんじゃん」

 

 

 威風堂々とした戒斗に、少女は興味を示したようだ。

 

 

「じゃあお兄さんは何か、得意な事でもあんの?」

 

「ダンスだな」

 

「意外だねぇ、ダンスかぁ。踊ってみてよ」

 

「断る。意味がない」

 

 

 少女は意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

「実はダンスもからっきしじゃないの? ダンサーにしては身体ガチガチだったじゃん!」

 

 

 彼は煽りに乗るような男ではない。

 

 

「何とでも思え。無闇に力を誇示する奴は弱者に他ならない」

 

「お?」

 

「それに身体が硬い事とダンスの技量に関係はない。一般常識だ」

 

「…………ほぉ〜ん」

 

 

 少女の目には、好奇の念が込められていた。

 最近の人間は腑抜けばかりだと思っていた彼女にとって、戒斗の存在は好意的に映っていた。

 

 

「……いいね。兄ちゃん、気に入った。どう? 仲良くならない?」

 

 

 差し伸べられた手を、戒斗は踵を返して無視する。

 

 

「馴れ合う暇は俺にはない」

 

「……釣れないねぇ〜」

 

「それより……ここが何処か言え」

 

 

 戒斗の質問に対し、少女は怪訝な顔を見せた。

 

 

「もしかして、兄ちゃん迷子?」

 

「そんなもんだ。言え」

 

「堂々過ぎるだろこの兄ちゃん……」

 

 

 しかしその態度は嫌いではない。同時に、この強者ぶる男が転落する様を見てやりたいとも思えた。

 内心で面白がりながらも、少女は取り出したポッキーを咥えながら、教えてやる……だけではなく、導いてやる事にした。

 

 

 

 

「ここは『風見野』。兄ちゃん、こんな所より『見滝原』に行けば?」

 

 

 彼女の案内に、戒斗は足を止める。

 

 

「……見滝原?」

 

 

 知らない場所だと思いつつも、含みのある物言いに興味を示す。

 

 

「見滝原は隣町で、すっげー近代的な町なんだ。『最強』もいる」

 

「最強……? なんのだ?」

 

「ある分野でさ。アタシも一応、それの参加者って訳。詳しくは隠すからな、口止めされてんだ」

 

「……まるで後ろめたい事があるような言い草だな?」

 

 

 振り向き、少女と向かい合わせになる。ポッキーを齧りながら、不敵に笑っていた。

 

 

「ともかく、見滝原は何もないここと違って、色々ある。人や情報に溢れている。兄ちゃんのような人にはうってつけの町だと思うよ」

 

「……確かに。行く価値はあるな」

 

「だろ? あの橋を渡って暫く歩けば到着だ。遠くに見えるビルを目指せばすぐだな」

 

「……貴様の正体が分からんが、今は知る必要はない。だが感謝する」

 

 

 再び踵を返し、次は芝生を踏み潰しながら見滝原市への道を歩み始めた。

 背後では、呆れ顔の少女。

 

 

「感謝ってのは、キチンと『ありがとう』って言うモンじゃねーか。あのサッカー坊やみたいにさぁ?」

 

「………………」

 

「あっ、無視しやがった……」

 

 

 我の強い男である戒斗の態度に、少し不満に思いながらも、橋を渡る彼をまじまじと観察している。

 全く容赦のない、悪い笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

「……まっ。見滝原は『魔女の巣窟』さ。情け無く食われちまうか生き残るのか……そこだけが楽しみだな!」

 

 

 ポッキーをもう一本、咥えた。

 

 

 

 

 強者を装いつつも、所詮は普通の人間。アタシに敵いっこないさ。

 少女はそうほくそ笑むが、彼女は知らない。戒斗には、『力』がある事を。

 

 

 懐から取り出した『錠前』を握り、彼は真っ直ぐ見滝原市を見据える。

 

 

「……何があったのかは分からんが……何故だ、俺はこの町に行かねばならない」

 

 

 奇妙な予感に突き動かされながら、一歩一歩と道を行く。

 気付けば空は、東の方から橙色になりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなぁーーんもねぇぇぇえ!!」

 

 

 駅前のベンチ。絋汰は倒れ込んでいた。

 この世界での沢芽市が見滝原市だとして、色々と巡ってみたものの、成果はゼロ。

 見知った顔の人物がいれば話しかけてみたが、絋汰の事は誰一人として覚えていなかった。

 

 

「どぉーすんのオレー! 帰る家ねぇぞー!」

 

 

 時間だけが過ぎて行くのみで、もう夕方。

 試しに自分の家のある場所に行ったものの、姉はおらず、全く知らない人物が住んでいた。つまり、彼の言う通り帰る家無し。

 

 

「一気にホームレスかよぉ……これ、どうすんだ……」

 

 

 帰る当てがない事がこれほどまでに厳しい事だとは。

 心に冷たい風が吹き、もう大声あげて泣き叫びたいほどだ。

 

 

「……兎に角だ! 兎に角! 兎に角、元の世界に帰る方法を見つけないと……」

 

 

 とは言うが、世界を移動したなんて経験があるハズない。ましてや生還した事例も聞いた事がない。

 一体、異世界にどうやって順応すれば良いんだ。虚しく自分を鼓舞こそすれど、お先は真っ暗。

 

 

「…………異世界に通じる『クラック』とかねぇかなぁ」

 

 

 そんな長いさえも口ずさむほど、内心参っていた。

 ベンチから身体を起こし、暗くなりつつある町を見やりながら、明日からの展望を考え続ける。

 

 

「……明日は、隣町にでも出るか。どっかで、この町の捜索に見切りをつけないとなぁ」

 

 

 心が折れては、限りなく低い可能性も掴む事が出来ない。考えうる可能性は、素人なりに考え動こうと、決心した。

 

 

 

 

 

『…………誰か』

 

 

 何処かで、か細く弱った声が聞こえた気がした。

 

 

「え?」

 

 

 最初は空耳かと思った。

 耳を澄ませど、会社帰りの人々の雑踏だけが響く。

 

 雑踏、ただの雑踏。

 電車が来る時間となり、駅前は帰りの客たちで埋められた。

 改札口から真っ直ぐ家へ。決められたレールに沿うように、人々は絋汰の横を抜けて家路を急ぐ。

 

 

 

 やはり空耳か。そう納得した瞬間だった。

 

 

『……助けて』

 

 

 また聞こえた。子どもの声だ。

 

 

 

 

 

『誰か……助けて…………』

 

 

 

「助け……誰か、助けを呼んでいるのか!?」

 

 

 絋汰は居ても立っても居られず、声のした方へ走り出した。

 場所を計り知れなくなれば、また声がして彼を誘う。

 

 

 駅前を通り、帰りの客たちの波を逆走し、無機質な夜のビル街へ。

 

 

『助けて……』

 

 

 声はどんどんと近付いて行く。場所は改装中の、デパートのパーキングタワー。

 

 

「ここか……でも、この声、誰も聞こえないのか……?」

 

 

 そう言えば行き交う人々は誰一人として反応していなかった。

 雑踏の中かつ弱々しい声色とは言え、聞こえても良い声量のハズ。事実、絋汰は聞こえ続けていた。

 

 

 

 

「……よしッ」

 

 

 考えるより先に、動くのが彼だ。誰かが助けを求めている、これは事実だ。

 

 絋汰は暗く、夜の街の明かりのみが光源となっているパーキング内を突き進む。

 

 

「おーい! 誰かいるのか!?」

 

 

 呼び掛けながら進むが、声は途端に止んでしまった。

 もしや手遅れか。嫌な予感が心中を支配する。もう間に合わないのは嫌だ。

 

 

 

 

 

「こっち!! 早く!!」

 

「た、確か、こっちから入って……!」

 

 

 次に来たのは、二人の女性の声。聞き覚えがあった。

 

 

「こっちだ!! 何があったんだ!?」

 

 

 絋汰は必死に呼び掛ける。その呼び掛けは、静まり返ったパーキング内で、一際大きく認識されただろう。

 彼の声に気付いたようで、駆ける足音はこちらの方へ近付いて行く。

 動き回るより待った方が良いと判断し、やっと絋汰は足を止めた。

 

 

 

「た、たすか……アレッ!?」

 

「お、お兄さんって……!?」

 

「……あれ? 君たち……!」

 

 

 絋汰も少女二人も、互いに見覚えがあった。

 二人にとっては、朝に起こした男、絋汰にとっては起こしてくれた少女たち。

 

 桃髪の少女と、ボーイッシュな少女だ。何故か桃髪の方は白いボロボロのヌイグルミを抱いてはいたが。

 

 

「ここで、何してるんだ?」

 

「あ、あ、あの! こ、こ、この子、怪我してて……!」

「すみません! 助けてください! コスプレ通り魔に襲われたんです!!」

 

「コスプレ通り魔ぁ!?」

 

 

 凄いパワーワードに持っていかれたが、何か恐ろしい存在に襲われているようだ。

 

 

「……兎に角、君たちは逃げるんだ! ほら、この先が出口…………」

 

 

 絋汰は振り返り、逃げ道を指し示す。

 

 

 

 

 

 

 だが不思議な事に、そこに道なんてなかった。

 不気味に歪んだ、壁が切り立っている。

 

 

「で、出口って……てか、お兄さんどっから来たんですか!? ここ、袋小路じゃ!?」

 

「はあ!? おい、どうなってんだ!? 最近のパーキングって、聖剣伝説の迷宮みたいになってんのか!?」

 

「んな訳ないじゃないですか!!」

 

 

 奇妙な事はまだ続く。

 壁はどんどんと伸びて行き、三人に覆い被さるように広がり、途端に真っ暗に染まり、道となった。

 道は極彩色のトンネルに変貌し、自動的に奥へ奥へと誘って行く。

 

 

「ど、ど、どど、どうなってんだ!?」

 

「な、なにこれぇ!? 悪い夢なら覚めてよ!?」

 

「わ、わわ……!!」

 

 

 トンネルは不可解な柄と、不気味な絵が飾られた額縁だらけに。

 それが超高速で過ぎ行く先が、出口。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極彩の長いトンネルを抜けると薔薇園だった。

 工事現場のフェイスが並ぶ。黒と黄の警告色テープが張り巡らされる。

 延々と登る鉄骨の塔。燦々と降る『立入禁止』。

 

 底に薔薇が咲き乱れる。無臭の紅い薔薇が点々と並ぶ。

 空に飛び交うは、蝶の群れ。

 髭の生えた綿飴の頭をした、蝶の群れ。

 

 

 不気味な歌を歌いながら、降り注ぐ看板の間を縫ってこちらへ向かう。

 

 

 

 

「嘘……!?」

 

「な、何これ……!? 冗談……でしょ!?」

 

 

 完全にパニック陥った二人は、地面に腰を抜かす。その地面さえも、レッドカーペットのように縦横無尽に唸っているが。

 

 綿飴頭が三人目掛けて突進する。敵意を持って、襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 万事休すか。

 しかしこの理不尽で絶望的な状況においても、凛と立つ一人の存在がある。

 

 

「俺の後ろに隠れてろ!!」

 

 

 葛葉絋汰だ。

 

 

「お兄さん……!? あ、危ないよ……!」

 

「大丈夫だ余裕だ! あんな弱そうな虫!」

 

「虫っぽいけど、おば、オバケで……!」

 

 

 桃髪の制止を気にせず、彼は何かを取り出して見せた。

 

 

 綺麗な艶の入った黒い、ベルトのバックルのような物。右側に変な刀の装飾がある。

 どう見てもオモチャだ。

 

 

「な、なんですかソレェ!? この状況で変になっちゃった!?」

 

「俺は真面目だッ!! いいから見てろ!!」

 

 

 絋汰は、それを腹部に当てる。

 側面部からベルトが射出され、ぴったりのサイズでバックルは固定された。

 

 

 そしてそのまま、『錠前』を取り出す。橙色の、丸いフルーツのような意匠。

 

 

『オレンジ!』

 

 

 上部のボタンを押すと、錠前が音声と共に開く。

 ここに来て更に意味の分からない事態。二人は完全に思考停止に陥っていた。

 

 

「お、オレンジ?」

 

「変身ッ!!」

 

「へんしん!?」

 

 

 当惑する声を無視し、絋汰は錠前を天に掲げた。

 

 

「オラッ!!」

 

 

 その状態のまま、バックルのソケットにセットする。

 

 

 

 

 

 

 

『LOCK・ON!』

 

 

 ジッパーの開くような音が上から聞こえる。

 見上げるとそこには、空中にジッパーが付けられ、パカっと開かれていた。穴の向こうには極彩色の空間を邪魔する、深緑の森が広がっていた。

 

 

「え、えぇぇぇぇ!?」

 

「な、なに!? あれなに!?」

 

 

 法螺貝を抜き鳴らす音と共に、穴の向こうから丸い、大きな金属製のオレンジが降りてくる。

 ゆっくりゆっくりと下降して行き、それは絋汰の頭上に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 刀の装飾を倒す。刃が錠前に当たり、割った。

 

 

『ソイヤッ!!』

 

 

 遅鈍とした動きだったオレンジは、急速に落下し絋汰の頭に被さる。

 同時に彼の着ていたチェック柄の服とジーパンは変貌し、藍色のタイツ姿に早変わり。

 

 

 二人がその変貌に驚くよりも前に、綿飴頭の群れはもう眼前まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

『オレンジ・アームズ!!』

 

 

 だが、十はいたその群れは、一瞬で弾け飛ぶ。

 芳しい、柑橘系の香りとエネルギーと共に。

 

 

 

 

『花道・オン・ステージッ!!』

 

 

 二人の前にいたのは、先ほどまでの青年ではない。

 奇抜な橙色の鎧に身を包み、細い剣とオレンジを半月型に切ったような刀をそれぞれ両手に携えた、謎の戦士。

 

 頭頂部のヘタを含め、フルーツを思わせる意匠。刀と同じく半月型に切ったオレンジの形をした複眼は、キッと空の蝶を見据えていた。

 

 

 

 

 

「さぁ! ここからが俺のステージだッ!!」

 

 

 重厚な鎧とは反し、身軽で驚異的な跳躍力で飛び上がる。

 綿飴頭を数匹、斬り捨てた。




仮面ライダーローグとムルシエラゴのクロス、『COCODRILO ー ココドゥリーロ ー』、
仮面ライダーファイズとストライク・ザ・ブラッドのクロス、『555EDITION「PARADISE・BLOOD」』も宜しくお願いします。
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