縢れ運命!叫べ勝鬨!魔鎧戦線まどか☆ガイム   作:明暮10番

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切りの良い所まで、こちらを集中的に進めます。
活動報告の恥ずかしいSSは兎も角。


誘惑の薔薇園!決めろ無双斬り!

 さやかもまどかも、大きな一軒家に住んでいるらしい。

 お金持ちなんだなとか考えながら、まずはさやかを送り届ける。

 

 

「そんじゃ、絋汰さんもまどかも、また明日!」

 

 

 彼女の家は暗く、鍵を取り出してから帰宅。

 

 

「親御さんは遅いのか?」

 

「共働きみたいですよ。一人っ子だから、家も一人の時が多いって言っていました」

 

 

 家に帰れば必ず姉がいた絋汰とは、大違いだ。

 兄弟姉妹がいると一人っ子を羨ましがるものだが、パチっと物悲しく点けられた美樹家の電気を見ると、自分は待ち人がいるだけ恵まれているのかもしれないと思ってしまった。

 

 マミにしてもそうだ。だからこそ絋汰はそう思ったのかもしれない。

 

 

「まどかの所もか?」

 

「私の家はパパが専業主夫でして。弟もいますし、家に帰ればいつも誰かいるんです」

 

「……そっか」

 

 

 昔に両親を亡くし、姉と二人で暮らして来た彼にとって、真の意味で羨ましい家庭だ。

 羨ましく思うと同時に、幸せに愛されて育てられたまどかを微笑ましくも感じられた。

 

 

「絋汰さんは一人暮らしですか?」

 

「俺か? 俺はネエちゃんと。恥ずかしいけど、まだ自立出来ていなくて」

 

「お姉さんとですか! そう言うのも楽しそうですね」

 

「確かに楽しかったなぁ」

 

 

 姉は厳しくもあった。

 絋汰に大人としての責任感、仕事の意義を教えてくれた。彼より経験の多い姉に、気ままなフリーターだった絋汰はよく言い負かされた。

 

 でも優しくもあった。

 昔も今も、姉からは愛されて育てられたと感じ、生きて来れた。

 人を信じ抜ける優しい彼の性格は、そんな姉の愛に影響されたとも思っている。厳しい言葉も、彼を思っての事だとも理解していた。

 

 

 

 

 

「…………楽しかった」

 

 

 それも既に、過去の懐かしい話。

 今はその全てが、今までの普通が崩壊してしまった。

 友達も姉も攫われ、バラバラになっている。また元に戻れるのだろうかと、絋汰は不安を感じずにはいられない。

 

 

「…………そ、それより!」

 

 

 空気がしんみりしかけたと感じ、慌てて会話の軌道修正を図る。

 

 

「今日はなんか、大変だったな。いきなり怪物とかに襲われたり、魔法少女になれるとかさ」

 

「なんだか、とても濃い一日だったような……」

 

「それでさ、まどかは……やっぱ、契約を結ぶつもりなのか?」

 

 

 魔法少女の話は魅力的だ、同時に生半可な気持ちで受ける物でもない。

 それは似た境遇を経た、彼だからこその想い。覚悟のほどを聞いておきたかった。

 

 

 絋汰の質問に対し、まどかは少し俯いて考え込んだ後、迷いを滲ませ苦笑い。

 

 

「……まだ迷っています」

 

「だろうなぁ。そんなすぐに決められるもんじゃなぁ」

 

「でも……」

 

「ん?」

 

 

 胸も前で拳を握りしめる。

 

 

「私、とっても弱くて。さやかちゃんとか、ママとか、いつも守られていて」

 

 

 迷いのない、純粋な笑みを見せた。

 

 

「……こんな私でも誰かの役に立てるとしたら……それはとっても、嬉しいなって」

 

 

 彼女の笑みに見覚えがあった。

 みんなの為に、みんなを守る為にいつも頑張って来てくれた、『幼馴染』の子。

 底抜けに優しく、決して諦めない、あの子。

 

 

「……な、なんか、恥ずかしい事言っちゃいましたね」

 

「…………いや」

 

 

 頷きながら、彼も笑みを見せる。

 

 

「とてもカッコいい。素敵な考えだ!」

 

 

 

 

 そんな話をした頃には、まどかの家の前まで来ていた。

 腕時計を見る。時刻は七時、少し遅い時間だ。

 

 

「親御さん心配しているだろ?」

 

「連絡していなかったからママ、怒るかなぁ……」

 

「そりゃ怒るだろ……あぁいや、怖がらせるつもりはないけど」

 

「お酒飲んでたら大丈夫だけど……」

 

「それもどうなの」

 

 

 急いで門前まで駆ける。絋汰が見送るのは、そこまでだ。

 

 

「そんじゃ、多分また明日か? お疲れー」

 

「うん、お疲れ様でした!」

 

「さてと……」

 

 

 

 

 彼も去ろう歩き出した時、

 

 

「……あのっ!」

 

 

まどかが呼び止めた。

 

 

「どうした?」

 

「あの……これを絋汰さんに言っても仕方ないかなって思いますけど」

 

 

 表情に不安が現れている。

 

 

「……ほむらちゃんの事」

 

 

 キュウべえを襲った、黒髪の魔法少女。

 意外な事に、彼女からその話を持ちかけた来た。

 

 

「暁美ほむらが、どうしたんだ?」

 

「その……」

 

 

 言いにくそうに目を伏せた後、ジッと絋汰と視線を合わせる。

 

 

 

 

「……ほむらちゃんを、助けてあげて欲しいんです」

 

 

 

 困惑の表情を見せる絋汰。

 突然、ほむらの事を助けて欲しいと言われ、当惑するのは当たり前だ。

 

 

 しかしキッと、凛とした目をしたまどかを見て、喫驚は無かった。

 

 

「あの子を……? どうして……」

 

「そ、それじゃ絋汰さん! また明日!」

 

「へ? お、おい!? まどかぁ?」

 

 

 一頻り話して恥ずかしくなったのか、そそくさとまどかは戸口に走る。

 呼び止める暇もなく、気付けば家の中に入ってしまった。

 

 

「……いきなりどうしたんだ? まどか……」

 

 

 釈然としない気持ちを抱えながら、絋汰は夜の街に身を翻す。

 

 

 ポケットから、使えなくなったカチドキと極を取り出した。

 力が戻っていないかと期待したが、変わってはいない。

 変わりはしないものの、二つを月に照らし合わせる。綺麗な三日月だ。

 

 

「……そう言えば俺、帰る家ないんだよな」

 

 

 渋い顔で再びポケットにしまう。

 

 

「…………何処で寝よ?」

 

 

 人生初のホームレス生活に途方に暮れながら、眠れる場所を探して足を進める。

 

 

 

 ポケットにいれたカチドキが、また光っている事には気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝を迎える。

 太陽の光を浴び、目を覚ます。

 まだまだ冷たい朝の気配、少年はゆっくりと起き上がる。

 

 

 乱れた髪を整え、着ていたブラウンのコートの襟を正す。

 

 

「…………え? ここは何処?」

 

 

 立ち並ぶビル、一方で西洋の街並みのような住宅街、浮かぶ飛行船の液晶にある『ようこそ、見滝原市へ!』の文字。

 少年はぽかんと空を見ながら、自分が横たわっていた芝生の上より立ち上がった。

 

 

 

 

「見滝原……?」

 

 

 ポケットに触れた時、彼は落し物をしている事に気付き、慌てて探し拾い上げた。

 それは『ブドウのロックシード』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に絋汰も目を覚ました。

 

 

「……身体イテェ!」

 

 

 公園の滑り台の上。過去最悪の目覚めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やる事のない彼は街をブラブラ巡った。

 不思議な街だ。殆どの場所でタッチパネルが使われ、無駄のない洗練された形状のビルが見える近未来都市の側面がある。しかし片方にはオランダやイタリアのような、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ商店街だったりシーパークだったりと、異国情緒な風景もあった。

 

 さぞや観光映えする街だと、感嘆せざるを得ない。自分も住むなら、これくらい綺麗な都市に住みたかったと羨望を起こす。

 

 

「お金はキチンと、円なんだな」

 

 

 持っていたお金で、腹は満たせた。初日から路頭に迷うなんて事は避けられたが、このままでは一週間も保たない。

 早い所帰る目処を立てなければ、この世界で野垂れ死だ。それだけはどうしても嫌、絶対に嫌、死んでも嫌。

 

 

「……おっ。時間だな」

 

 

 生活面での恐れはあるが、約束をすっぽかす理由にはならない。

 午後四時、学校の終わる時間。絋汰はマミの行き着けだと言う、待ち合わせ場所のカフェへ走り出した。

 場所は街を巡って把握している。迷う事なく、彼はそこへ向かう。

 

 

 

 

 

 テラス席に向かうと、既に三人と一匹がいた。

 

 

「遅かったか?」

 

『まだ二十分しか経ってないよ』

 

「そこは今来た〜とか言ってくれよ……」

 

『宇宙から見れば誤差の範囲さ』

 

「お前の中のスケールどうなってんだよ」

 

『それより、今日は僕にとっても楽しみだよ。是非、君の力を存分に発揮してくれ』

 

「ホント、お前はブレないよなぁ。まぁ、この力でそっちが楽できるなら喜んで……」

 

「ちょちょちょちょちょ、絋汰さん絋汰さん……!」

 

 

 キュウべえとの会話を、大慌てでさやかは止める。

 不思議そうな顔をする絋汰に、周りを眺めてもらった。

 

 テラス席に座る何人かの人間が、危ない人を見る目で絋汰を見ていた。

 

 

 

「な、なに?」

 

「きゅ、キュウべえは普通の人に見えないって忘れたんですか……? これじゃ絋汰さん、JCの前で一人ベラベラ喋り出す変な人ですって……!」

 

「……あっ!?」

 

 

 慌てて絋汰は、携帯電話をイヤホンマイクで話していた風を装う。

 何とか不信感からは逃れられた。

 

 

「言えよ……!」

 

『凄くナチュラルに話すから忠告が遅れたよ。魔法少女の素質がないのに僕を見て、話せる辺り、やはりあの力の影響かもしれないね』

 

「冷静に分析してやがる……」

 

 

 絋汰が席に着いたと同時に、「さて」とマミが話を切り出した。

 

 

 

 

「それじゃっ、『魔法少女体験コース』……まずは第一弾、いってみましょうか?」

 

 

 緊張が伺えるまどかと、昨日とは違い自信満々そうなさやか。

 

 

「どうしたさやか? メチャクチャやる気満々じゃねぇか」

 

「へっへっへ……あたしかて、学習する人間ですよ……実は家から、武器を持って来ましてね!」

 

 

 席の背凭れにかけていた、細長いケース。

 それから大体は察していたが、中から金属バットを取り出した。

 

 

「親の物ですが、倉庫に眠っていた物を拝借してきました!」

 

「うん……まぁ、意気込みはいいわね」

 

「さやかちゃんはいつも豪快だよね……」

 

 

 関心のような呆れたような、そんな視線を受けるものの彼女は気にしない。

 次に絋汰が、まどかを指差し話した。

 

 

「護身用の物は大事だ。まどかも何か、持って来たのか?」

 

「え!? あ、ええっと、私は、こんなの考えてみましたっ!」

 

「考えてみた?」

 

 

 学生鞄から取り出したノートを開くと、魔法少女のイメージイラストが描かれてあった。

 フリル付きでファンシーな、少女趣味全開の衣装。頭のリボンから爪先、背面の様子まで描かれている拘り様。武器は弓。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………どうかな?」

 

「……んふふふふ……」

 

 

 さやかとマミは声を顰めて笑い出す。

 

 

「……さー! マミさん、行きますかー!」

 

「そうね、行きましょう!」

 

「まどか。今の内にそれは処分しとけ。四年か五年経ってから見ると、死にたくなるぞ……?」

 

「こ、絋汰さんまで酷いですよぉ!?」

 

 

 斯くして、魔法少女体験コースが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女を炙り出す方法は一つかつ、簡単だ。

 マミのソウルジェムの光を頼りに、それをダウジングとして魔女の結界を探す。

 

 

「地味ですね……」

 

「だから後は統計ね。魔女はそうそう動きたがらないから、その場所では事件が多発するわ。そういう場所を事前に調べて、優先的にチェックするのよ」

 

「尚更地味っすね……」

 

「何事も経験よ。慣れれば何処にいるのか、手を取るように分かるわ!」

 

 

 今の内、絋汰は戦極ドライバーを懐から手に持っておく。

 まどかに抱かれているキュウべえの反応は早かった。

 

 

『僕的には今から変身してくれても構わないよ!』

 

「一度所構わず変身してさぁ……メチャクチャ怒られたんだよなぁ……」

 

「確かにあの姿じゃ、目立ちますよね」

 

 

 まどかは昨日の彼の姿を思い出す。

 

 

「でも、なんだか、可愛いデザインでしたね! オレンジがテーマっぽくて!……あっ、私も何かテーマを決めようかな」

 

「ま、まぁ、ほどほどにな?」

 

『その子のイメージが、魔法少女の姿に影響される場合もあるからね。今の内に練っておく事は必要だよ』

 

 

 マミがソウルジェムの光を見ながら、絋汰に話しかける。

 

 

「その戦極ドライバーやロックシードは、どちらで手に入れられたのですか?」

 

「拾ったんだ。まぁ、これは前世代機で、今は新しいベルトがあって使われなくなったな」

 

「でも、使い魔たちと対等以上に渡り合える辺り、凄い力ですよ。持て余すべき物ではないですね」

 

 

 インベスがいない今、この力は対魔女の為に割り当てるべきなのかもしれない。

 戦極ドライバーを見つめる。バックル部の向かって右手には、変身後の自分の横顔が浮世絵風に描かれている。

 一種の刻印付けであり、このベルトはもう絋汰以外の人間には使えない。つまり、彼しか代わりはいないのだから。

 

 

 

 

 すると、ソウルジェムの輝きが突然増した。

 

 

「……近いわ」

 

 

 マミの表情が、一気に凛々しいものとなる。絋汰が何度も見て来た、戦士の顔だ。

 彼女は魔女の場所を特定したようで、ソウルジェムを手の中に握り、「こっち!」と皆を誘導しながら駆け出した。

 

 

 

 華やかな表通りから離れ、薄暗い路地裏の世界。

 そこを抜けると、ぽつぽつと寂れた建物が現れ始める。

 

 

 マミが立ち止まったのは、廃ビルの前。

 人通りはなく、まさに『負のスポット』らしい佇まいだ。

 

 

 

「……お、おい! 上を見ろ!」

 

 

 絋汰が指差したのは、ビルの屋上。

 暗い顔のスーツ姿の女性が、手摺を乗り越え塀の上に立っていた。

 

 

「……え? まさか、あの人……!?」

 

「ま、待て!? は、早まるなぁ!!」

 

 

 彼の呼び掛けも虚しく、女性は躊躇もなく頭から飛び降りた。

 階数は十階、間違いなく死ぬ高さ。

 

 

「あっ……!」

 

 

 落下点へ駆ける絋汰と、ショッキングな光景に立ち竦むさやかとまどか。

 

 

 一人、マミだけが落ち着いていた。

 

 

「大丈夫!」

 

 

 ソウルジェムを掲げると、マミの身体は黄色い光に包まれた。

 制服姿だった彼女は帽子、服、スカート、靴の順に変わって行き、光が晴れた後には昨日の魔法少女姿。

 

 女性は五階の位置まで落ちていた。

 マミはその彼女目掛けて手の中で溜めたエネルギーを放出する。

 

 

「はっ!」

 

 

 エネルギーは黄色いリボンとなり、何処までも伸びて行く。

 そして女性まで到達すると優しく彼女に巻き付き、速度を落とさせる。

 

 

 ゆっくりゆっくりとなって行き、地面に着く頃にはトサッと軽い音が鳴る程度だった。

 

 

「スゲェな魔法少女!……おい、大丈夫か!?」

 

 

 駆け寄った絋汰は、安否を確認する。

 呼吸はしており、怪我もなく、気を失っているだけ。三人に安全な合図送り、まずはホッと一息。

 

 

「ちょっと失礼」

 

 

 マミは女性の襟元を下げ、頸を見せてやる。

 白い肌の上に、禍々しい色をしたタトゥーのような印が付けられていた。

 

 

「『魔女の口づけ』……やっぱりね」

 

「魔女の……口づけ?」

 

「詳しい話は後にしましょ」

 

 

 魔法でマスケット銃を創り、後ろに控えるさやかとまどかへ向き直った。

 

 

「魔女はビルの中よ! 追い詰めましょう!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 衝撃的な展開に飲まれていた二人は、彼女の発破で気を持ち直す。

 絋汰も立ち上がり、意気揚々とベルトを装着した。

 

 

「なら俺もッ!」

 

『オレンジ!』

 

 

 ロックシードを開き、ドライバーのソケットにセット。彼も変身だ。

 

 

『LOCK・ON!』

 

『ソイヤッ!!』

 

『オレンジアームズ!』

 

『花道・オン・ステージ!!』

 

 

 空間を開けて権限したオレンジアームズを頭から被り、『アーマードライダー鎧武』へと変身を遂げた。

 いつ見ても凄まじい変身だ。

 

 

「……昨日、ちょっと思ったんですけど、音楽が派手ですよね……『花道オンステージ』って、何なんですかね……」

 

「開発者の趣味だ。おかしいだろ?」

 

(ちょっと良いなって思っちゃった……)

 

「絋汰さんも変身した所で、突撃するわよ!」

 

 

 マミの先導の下、魔女の攻略隊は立入禁止看板を無視し、ビルの中へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 影から彼女らを眺める、一人の存在。

 四人が奥へ行った事を見計らい、こっそりと着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 魔女の結界前に来た。

 マミはさやかに近付き、彼女が構えていた金属バットに触れる。

 バットはマミのソウルジェムと、同じ輝きを放つ。

 

 

「気休め程度だけど、それで身を守れるわ。でも中は使い魔の群れ……私と絋汰さんから離れないでね!」

 

 

 そう言った後、彼女は会議室の扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホールは湾曲した。かの門前雀羅の廃墟を彩らねばならぬと変異した。

 隣に降りの階段があると思えば、それは行く先は廊下の上だった。

 奥に続く道があると思えば、自分たちの後ろに出ていた。

 一直線に進めると思えば、大きく曲りくねる。

 

 上も下も、右も左も、近くも奥かも曖昧な空間。

 ただ充満する、ケバケバしい薔薇の香りと蝶が、確実な存在として舞っている。

 

 

 

 

 

 

 ソフトクリームを重ねたような物に、蝶の羽根を付けた怪物が迷い人に襲い掛かる。

 四つの目で見つめ、丁寧に結わえた口髭をモゴモゴさせながら近付く。

 戦闘開始だ。

 

 

「さぁ! 本番よ!」

 

「よっしゃああ!! ここからが俺たちのステージだッ!!」

 

 

 それぞれマスケット銃と大橙丸を構え、敵に突っ込む。

 

 

 

 

「はっ! よっ!」

 

 マミは軽快なステップを繰り出し使い魔を翻弄。一発一発外す事なく弾を命中させて行く。

 

 

「オラァッ! どしたどしたぁ!」

 

 絋汰は近付く使い魔に対し深く腰を落として待ち構え、斬って斬って斬り捨てて行く。

 

 

 

 

 華麗なマミ、豪快な絋汰。

 まさしく魔法少女とアーマードライダーの、二つの戦い方の共同戦線だ。

 

 

 

 

 暫し見惚れていたさやかだったが、疼く気持ちを堪え切れずにバットを構えた。

 

 

「……まどかっ! 行くよ!」

 

「う、うん!」

 

 

 彼女も、マミと絋汰が取りこぼしてしまった使い魔へ、フルスイング。マミの魔法の効果もあり、近付く敵を薙ぎ倒して行く。

 

 先の二人の奮闘振り凄まじく、二人へは殆ど使い魔は来なかった。それでもさやかは「戦っているんだ」と清々しい気持ちになれる。

 

 

 

 

 マミはどんどんと魔女の方へ。

 それに伴い使い魔の数も増加。危険度も高まって行くが、それは魔女に近付いている証拠でもある。

 

 

「多いわね! 囲まれるわ!」

 

「これくらいなら任せろぉ!」

 

 

 絋汰は大橙丸を仕舞うと、代わりに無双セイバーを引き抜く。

 

 

『LOCK・ON!』

 

 そして、無双セイバーにあるソケットへ、バックルよりロックシードを移す。

 

 

『一!……十!……百ッ!!』

 

 

 一くらいごとのカウントアップと共に、刀身へ蜜柑色のエネルギーが集中。

 壮大な雅楽音が響く中、迫り来る使い魔たち目掛けて刀を振るう。

 

 

 

「ウラァアッ!!」

 

 

 彼が回転斬りを行うと、刀身より分離したエネルギーが四方円状に射出。

 それを浴びた使い魔たちは一溜まりもなく、直撃しては霧散した。魔女への道が開く。

 

 

「ワォッ! 絋汰さん、立派な使い魔ハンターですね!」

 

「うはっ……すっごい……!」

 

『凄まじいエネルギーだ! あの小さなロックシードからこれだけの力を抽出できるなんて! 是非、研究させて欲しい!』

 

「お前の勧誘相手は少女だろ!」

 

 

 ともあれ危機は去った。

 この先に、狂気の薔薇園の主がいる。本番はここからだ。

 

 

 

 その緊張感が、背後に迫る一人の影に、気付けなくしてしまった。

 

 

「……うん?」

 

 

 振り向くまどか。

 だがそこには誰もいない。気のせいかと、先行くマミらの背中を追う。

 魔女は目前だ。


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