縢れ運命!叫べ勝鬨!魔鎧戦線まどか☆ガイム   作:明暮10番

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貴虎、入院するってよ。

 暗い世界に、薄い赤の光が差し込む。

 それは自分が目を閉じていると気付き、彼は瞳を開く。

 

 

 白い天井、アルコールの匂い、右腕の鈍い痛み。

 彼は病院にいる事を、知覚した。

 

 

「…………病院か?」

 

 

 身体を起こす。

 長く眠っていた為、倦怠感が強い。それでも強い痛みは少なく、右腕にある注射針以上の物はない。

 彼の着ていたボロボロのスーツは着替えさせられ、涼しげな院内服。身体には包帯が巻かれていた。

 

 

「……生きている?」

 

 

 意識を失う寸前が、脳を突き抜け追憶される。

 

 

 

 衝撃と、身体の許容を超える痛み。

 仮面越しからではない、自分の肉眼で見た、曖昧な最後の光景。

 

 

 

 自分の幻影、自分の影、自分の過ち、自分の家族、自分の弟。

 自分に容赦のない、決定的な一撃を食らわせた、白い戦士。

 

 

 

 スローモーションのように、その光景を一目見た。

 そのまま世界は反転し、暗転し、身体は冷たい水に埋まった。

 暗闇の中で、自分は必死にもがいた。

 死ぬ事よりも、もう一度、弟の顔を見たかった。

 仮面に隠された、弟の顔を見たかった。

 そして、救いたかった。

 

 

 

 

 次に現れた映像は、その光景から一転。

 黒髪の少女が、自分に話しかけた。

 すると狂うほどの痛みが、和らいだ。

 彼女は背を向け、夜に消える。

 声をかけようとした所で、気力を果たした身体は眠りについた。

 何をしたかは分からないが、何かをしてくれた。

 

 

 

 

 

 彼は、記憶から戻る

 

「俺は……光実と……そして、少女に…………」

 

 

 世界はどうなった。

『知恵の実』は、ヘルヘイムは、オーバーロードは……光実は、葛葉絋汰は。

 

 

 

「………………」

 

 

 ベッド横にかけられた、ナースコール。

 即座に手に取り、ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絋汰は、通勤通学の会社員や学生らで行き交う、朝の大通りにいた。

 流れる人の波より外れた、消防用ポンプの上に腰をかけて。

 

 

「………………」

 

 

 戒斗との会話が想起される。

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女の契約での『願い』で、元の世界に戻る。それしか方法はない」

 

 

 それだけ告げ、歩き去ろうとする彼を絋汰は止めた。

 

 

「待てよ戒斗! じゃあ、あの子らを利用しろってのかよ!?」

 

「難点は、俺たちが別世界の人間だと信じるかどうかだな」

 

「そう言う問題じゃないだろ!!」

 

 

 彼の肩を引き、目線を無理やり合わせた。

 戒斗はいつも通りの、あの冷めた目のまま。

 

 

「別に騙すつもりはない。叶えたい望みがないなら、俺らの為に使えと要求するだけだ……他の望みが出る前にな」

 

「願い事はたった一度なんだ!……戦いの義務を負わされるんだ。彼女らの意思で、彼女らが叶えたい願いを叶えさせるべきだろ!」

 

「良く聞く話だな。使える物を出し惜しみし、最後まで腐らせる……弱者の考えだ。使える物は、使えるべき時に使わせてやれ」

 

「だが……!」

 

「それに望みを言うのはあっちだ……つまりは向こうの意思になるな、葛葉」

 

 

 掴む絋汰の腕を逆に掴み上げ、戒斗は鋭い目付きで睨む。

 

 

「……未来のお前なら分かるだろ。俺は、ここで燻っている暇はない。魔女とやらを倒し続けた所で、俺の……お前の理想すらも訪れない」

 

「………………」

 

「……分かったなら、あの二人を説得しろ。お前の方が信頼されている」

 

 

 腕を離し、また踵を返して絋汰の元から去る。

 

 

「お前はどうすんだ!?」

 

「別の魔法少女の候補を探す」

 

「どうやって!?」

 

「あのキュウべぇとか言う、気味の悪い生き物だろ。お前が言うには、人間の言葉が理解出来るらしいからな」

 

 

 キュウべぇと結託し、探すつもりだろうか。

 確かにキュウべぇならば戒斗の要求を飲むだろう。寧ろ、魔法少女を増やすよう立ち回ってくれる協力者、互いに徳だ。

 

 

 

「…………戒斗……」

 

 

 

 もう呼び止めたって、彼は止まらない。

 高架下を抜け、街の中に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶から抜け出し、朝の大通りに戻る。

 

 

 確かに戒斗の言う事は筋が通っていた。元の世界を見捨てる事は出来ない上、絋汰も仲間や家族……救うべき人間がいる。

 こんな所で、魔法少女の体験コース補助なんて役目をやっている暇はないハズだ。

 

 

 魔法少女の願い事ならば、確かに帰る可能性はある。キュウべぇも、「素質による」と言っていた……つまり素質さえあれば、何でも叶えられる訳だ。名声を手に入れられるとも。世界を超えるなど途方もないが、不可能ではない。

 

 

 

「……いや、やっぱ並行世界を超えるなんて無理だろ。キュウべぇも予想外だろうし……」

 

 

 悩んでいた彼は、近付く足音と呼ぶ声で我に帰る。

 視線の先にはまどかと、さやかと……もう一人知らない少女がいた。お淑やかそうで、やや癖のある髪。

 

 

「絋汰さん、奇遇ですねぇ! おはよーございまーす!」

 

「おはようございます!」

 

「おう、おはよっ!……えっと、友達か?」

 

 

 絋汰が聞くと、彼女はぺこりと綺麗な会釈をした。育ちの良さが伺える。

 

 

「初めまして、『志筑 仁美』です。お二人から色々伺っていますよ」

 

「あぁ、そ、そうですか。これは御丁寧にどうも〜……」

 

 

 余りのお嬢様オーラに、絋汰は大きくお辞儀して屈服する。

 その様子を、まどかとさやかは笑った。

 

 

「あっははは! 絋汰さん、これじゃどっちが歳下か分かりませんぜ!」

 

「う、うっせぇ、さやか! お前はもう少しお淑やかになれ!」

 

「流石に大声で笑うのはないかな……」

 

「そうですわね。さやかさん、是非一度私が淑女らしさをご教示いたしましょうか?」

 

「あ、あれ? 今度はあたしがマウント取られてる?」

 

 

 

 

 学生らしい、ワチャワチャとした会話。

 

 

「最近お二人とも、非常に仲睦まじくて……禁断の愛と疑っておりますが、絋汰さんご存知ないですか?」

 

「は? 禁断の愛?……そう言う関係だったのか」

 

「だから違うっての! 絋汰さんも間に受けないで!?」

 

「も、もう! 仁美ちゃんったら!」

 

 

 

 

 将来の心配は置いておき、目前の幸せを噛み締めるような笑顔。

 

 

「そう言えばさ、こないだメチャクチャ美味いフルーツパフェの店見つけたんだけど、どう!?」

 

「行ってみたいですね! 予定が合うのかが悩みですけど……」

 

「イチゴのパフェがいいなぁ、食べたいなぁ」

 

(多分、トルーパーズだな……この世界じゃまだ穴場か……)

 

 

 

 

 無機質な通学路に血を通わせるような、賑やかな雰囲気。

 

 

 

 

(……この二人は、二人なりで考えるべきだ。俺らの事情を挟むべきじゃない)

 

 

 一つの願い事と、一生の戦い。釣り合いなんて馬鹿らしいほど、二つは大事だ。

 魔法少女にならないのも選択、願い事を引き換えに責務を負うのも選択。なるかならないも、何を叶えるのかも、他人が介入して良い訳がない。

 

 絋汰は幸せなこの世界の、無垢なこの笑顔を見守る事にする。

 彼が元の世界に帰るまでの間。

 

 

 

 

「……あっ」

 

「……ゲッ」

 

「あら」

 

 

 各々、何かを見つけた反応。

 絋汰も前を向く。そこには見覚えのある人物。

 

 

「ほむらちゃん……と?」

 

「転校生……と、アレ? だ、誰あの美少年?」

 

「お兄さん……ではありませんか? 恐らく……」

 

 

 

 

 制服姿の暁美ほむら。そう言えば彼女とは二回目だと、絋汰は思う。

 

 

 いや、その絋汰の認知は随分遅れてからのものだ。

 ほむらの存在に気付いた瞬間、彼の思考はほむらの隣を歩く少年に集中した。

 

 向こうも同じだ。動かしていた足が止まり、大きく目を見開き、呆然とした表情。

 

 

 

 

 呉島光実だ。

 

 

「絋汰さん……!? 絋汰さん!!」

 

「ミッ……チ? ミッチィ!?!?」

 

 

 

 

 膠着した絋汰をよそに、光実は颯爽と駆け寄り彼の手を握る。

 

 

「今、ミッチって言いましたね!? 僕の知っている絋汰さんなんですね!?」

 

「ミッチなんだよな……俺の知る……!? お前も来てたのか!?」

 

「えぇ、えぇ、絋汰さん……! 僕もう、一人ぼっちかと……!」

 

「あーあー泣くな泣くな! 募る話もあるだろうし、兎に角……」

 

 

 

 彼をあやしながら、ハッと辺りを見渡す。

 冷めた目のほむら。

 驚愕顔のさやか。

 赤面のまどか。

 興奮気味の仁美。

 

 

 

「これが、禁断の愛……!?」

 

「ちげぇよ!? ミッチ、一旦離れようミッチ!!」

 

 

 

 誤解を受けた朝方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戒斗は公園。平日の為、殆ど人がいない。いるとしも朝の運動に来た老人たちで、長居はしなかった。

 ポケットに手を入れ、指先でロックシードを弄りながら何かを探していた。

 

 

「…………何処にいる。良い話があるぞ」

 

『探しているのは僕かい?』

 

 

 茂みからキュウべぇが飛び出した。

 戒斗の足元まで近寄り、見上げて来る。種が猫が狐か分からない以前に、こののっぺりとした顔が苦手だ。

 

 

 

「ここだったか。通学路で候補を漁っていると思っていたがな」

 

『もうみんな、授業中だよ。流石に授業中じゃこの僕でも』

 

「魔法少女の契約に協力してやる。候補の場所を案内しろ」

 

『……おや?』

 

 

 キュウべぇの尻尾が、興味深そうにピョコっと上がる。

 話が微妙に噛み合わない事と、彼の食い気味な話し方に違和感。

 

 

「望みをこっちの考えるものにするなら、誰でも魔法少女にしてやる」

 

『断るよ』

 

「悪い話じゃないハズだが」

 

『……なるほどね』

 

 

 試しに話してみた「断る」に、戒斗は無反応だ。

 彼は、キュウべぇは見えているが『声が聞こえていない』様子。

 

 

「分かっているのか分かっていないのか、不気味な奴だ。鳴き声すらあげれんのか」

 

『いや、理解しているよ』

 

「……やっと話したか」

 

 

 戒斗にも聞こえるように、キュウべぇは力を調整した。

 初めて彼の声を、もとい喋る事に気付いた戒斗だが驚きはない。予想でもしていたかのようだ。

 

 

『驚かないのかい?』

 

「人語を喋れない生き物が、人間と契約出来るか」

 

『成る程! 論理的な考えだ! 言われてみればそうだね!』

 

 

 敢えて自分から聞こえるようにした、とは言わない。

 キュウべぇは彼の提案と、彼から伺える野望の気配を感じたからだ。一々注意するのは野暮。

 

 

 

 

『それで、魔法少女を誰でも契約を結ばせるって話だったね。あと、君の望みを……かい?』

 

「俺の求める望みで契約させる。その為に信頼を勝ち得て、納得させる算段だ」

 

『他人の為に願いを行使する事例は沢山あるよ。統計上、その人にとってなくてはならない人物が選ばれるから……相当な信頼関係が必要だ』

 

「別に全ての奴にするつもりはない。素質があり、自我の甘い人間を使う。それならばかなり楽だろ。貴様は、そんな人間を紹介しろ」

 

『成る程。それなら随分と早く済みそうだね。自我の弱い少女はなかなか判断を決めかねるから、僕としても大助かりだ!』

 

 

 キュウべぇは彼の提案を肯定した上で、「だけど」と続けた。

 

 

 

 

『君の願いはなんなんだい? 名声? 富? 或いは力かい?』

 

「俺らは別世界の人間だ。元の世界に帰る」

 

 

 戒斗は隠さず、ストレートに話す。

 一般的な目で見ればどちらも異質な存在だ。それに変に勘繰られるより、先に提示していた方が良い。

 

 

 キュウべぇは垂れかけた頭を、キュッと持ち上げた。表情はないが、強い関心を向けている。

 

 

『君たちは並行世界の人間って事かい!?』

 

「信じるのか?」

 

『あり得ない事象でもないし、更にこれで君たちの力にも説明が付くよ! 明らかに君たちの力、この世界とは一線を画した物だ……それに少ししか話していないけど、統計上君のようなパーソナリティの人間は冗談が苦手だからね!』

 

 

 とことんこちらを見透かしてこようとする。

 喋らない時も気味が悪いが、話せば尚も気味が悪い。

 

 

「何であれ、俺に協力するならそれで良い。一つ聞くが、世界を跨ぐほどの望みも叶えられるのか?」

 

 

 彼の質問に、キュウべぇは答えた。

 

 

『かなり難しい、途方も無い願いだと思うよ。こっちも全く事例がないからね』

 

「理論上、不可能ではないんだな?」

 

 

 戒斗もキュウべぇの性格を読めて来た。

 こう言うタイプは肯定か否定かしか言わない、言葉を濁す事を知らない正直者。

 今だって「かなり難しい」であり、「無理」ではない。

 

 

 

 

『確かに、可能だよ。莫大な素質を持つ魔法少女……ならばね』

 

「……その口ぶりでは、存在はするようだな」

 

 

 無表情なキュウべぇが笑った。

 

 

『歴代最高の素質を持つ魔法少女が、この町にいるよ。その子ならば、君の望みは叶えられる』

 

 

 淡々と続ける。

 

 

『しかも、君の言う自我の弱い少女ともピッタリだ!』

 

 

 戒斗は逸る気持ちを抑えながら、表面上は冷静を保ったまま。

 彼は元の世界に帰らねばならない。絋汰が話した未来を聞いた以上、その気持ちは強まっていた。

 

 

「……それは誰だ」

 

『彼女を手放すのはとても惜しい。君からの梃入れがあるなら、とても助かるよ』

 

 

 

 

 

 キュウべぇは戒斗を見上げながら、また目だけをニコッと笑わせた。

 随時無表情なだけに、その表情は怪しさを与える。

 

 

 

 

 

『「鹿目まどか」……昨日、僕を抱いていた、桃髪の少女だ。今後現れるか分からないほどの逸材だよ!』

 

 

 熱のこもった、話し口だ。

 

 

 

 

『……望めば、「万能の神」にだってなれる。君たちの世界線移動なんて、イチゴのヘタを取るより簡単な事だ』

 

 

 戒斗はキュウべぇの笑顔を見て、更に油断ならない相手だと気付く。

 しかしそんな事より、戒斗は掴んだ。元の世界に帰る、最善の方法を。

 

 

 

「……あの子どもか。一応聞くが、そいつ以外では?」

 

『いないね。もしかしたら、この世界中を見ても見当たらないかもしれない。鹿目まどか……しか、いないよ』

 

「そうか。礼を言う」

 

 

 そうなれば、まどかからの信頼を得ている葛場絋汰を、どうにか動かさなければならない。

 戒斗の考えは変わった。どうにかして、鹿目まどかから望みを託させるしかない。

 

 

 公園を去ろうとする戒斗に、キュウべぇは疑問を飛ばした。

 

 

『お礼と言うのは、「ありがとう」と言った定型文が必要だ。「礼を言った」の礼は感謝の概念を表す言葉であって、儀式的意味の礼は言っていないんじゃないのかい?』

 

 

 理屈的過ぎるこの白い生物は、何があっても好きになれないだろう。

 同時に、信用も出来ないだろう。一生かかったところで。




集中投稿は、一旦終了です。
また二作を進めますので、よろしくお願いします。
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