イナズマイレブンGO-魔術師の弟子-   作:狩る雄

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第21話 宝玉の氾濫

 

0vs1

静かな先取点を奪われ、試合再開。

 

瞬木の俊足を活かしたドリブルが上手くいっていて、

点数では負けているけれども優勢に思える。

 

「キャプテン!!」

 

「ああ!魔神 ペガサスアーク!!」

 

化身の手に乗り天馬は、飛んでいく。

「ジャスティスウィング!!」

魔神の拳とともに全力シュート。

 

 

相手のキーパーは水色に輝く。

「私のソウルをお見せしましょう。」

黄色イルカのような生き物が憑く。

 

「ソウルストライク!!」

イルカの水鉄砲でボールは弾かれる。

 

 

キーパーが転がしたボールを瞬木がカットする。

―――どいつもこいつも俺の足ばっかり引っ張りやがって!

 

「もらうぞ!」

今まで動きのなかったカイザがスライディングでボール奪う。

 

「なにっ!」

―――おい、お前ら早くボールを取り返せ!

 

「これが最強の力だ!アクセル!!」

 

天馬たちMFを越えて、

DF陣すら越えて、

すでに井吹の目の前。

 

「あれってまさか、フェイと同じ!」

「いつのまにっ!」

 

黄金の光の円錐が展開される。

跳びこむようにボールを両足で蹴りつける。

「ゴルドスマッシュ!!」

黄金の流星がゴールに向かってくる。

 

「くそっーー!!」

必殺技を出す間もなく、せめてもの抵抗に手を伸ばした。

 

 

 

これで0vs2

前半終了のホイッスルが静寂の世界に鳴る。

 

 

 

 

作戦の確認を交えるときも雷門の4人の表情は晴れない。

かくいう俺やさくらも思いつめたままだ。

 

 

***

 

向こうのベンチで一悶着あったみたいだけれど、

ヒラリがMFの位置に入って後半開始。

 

試合はどんどん縺れていく。

俺たちの動きは読まれ、瞬木だけが活躍して孤立させられている。

 

「こうなったら私がソウルで……」

 

ソウルを発動させようとした市川の前に、カイザは立ち塞がる。

 

「やらないぞ。アスタリスクロック!!」

浮かび上がった6つの岩が合わさるときの衝撃でブロックされてしまう。

 

 

さらに、今まで手加減をしていたカイザがフィールドを駆け始めた。化身やミキシトランスを使っていないにも関わらず、それ以上の実力を見せつける。

 

 

「私が止めてみせる! 月華の魔導士ラヴィニア!!」

 

「ほらよっ。」

 

「えっ…?」

化身必殺技を出す準備をしていたところに、ヒラリへパスされてしまう。

 

水の刃をさくらに向けて飛ばす。

「ジャックナイフ!!」

 

「え?……きゃあ!」

外したと見せかけて背後から切り裂かれ、化身がゆっくりと消えていく。

 

「敗け…ない…。」

それでもなお立ち上がろうとした。

 

 

 

「へぇー。おいお前、合わせろ。」

「指図しないで!」

 

カイザが3つに分裂させ、ボールは赤黒いオーラを纏う。

「「ジャッジスルー3!!」」

ヒラリが分裂したボールをさくらに向けて蹴りつける。

 

 

ルビーの輝きを放つ。

「くそっ、ソウルストライク!!」

 

カーバンクルが俺に憑き、加速。

さくらを救いだしたが、俺は膝をついてしまう。

 

「貴重な一回を使ってしまったなァ……」

 

「はぁはぁ……」

「フェイ……」

 

 

「どうして…さくらを…執拗に狙った?」

 

目の色が暗くなって嗤っている、彼を見上げる。

 

「Yes,それはお前の力を使わせるためだ。それが勝つためのスマートな作戦だったんだよ。お前さえいなければサザナーライレブンはこのまま勝てるからな。つまり、危険な目に遭ったのは一之瀬ルーフェイってやつのせいなんだよ。」

 

 

この力が『鍵』と黒岩監督が言ってくれたことが嬉しかった。

この力がみんなの勝利のために使えることが嬉しかった。

この力がさくらを守れて嬉しかった。

 

でも、

この力がさくらを心配させた。

この力がさくらを傷つけるきっかけとなった。

 

視界が揺れていく。

かつてクリムゾンスマッシュで義兄さんを傷つけたこと。

 

ドス黒い真紅が頭を過ぎる。

 

透明の心が、黒に埋め尽くされていくような―――

 

「お前はそこで立ち止まってな。」

 

全身から全部の力が抜けていった。

 

 

瞬木は駆け寄って来る。

 

「一之瀬 大丈夫か!?」

―――なんで勝機無駄にしてるんだよ

 

「きゃーははは! 『大丈夫か』だってー! もういい加減仲間ごっこやめちゃってよね。」

 

「なにを言っている!?」

―――おいまさか

 

相手のキャプテンの目つきが変わる。

 

「あんたがチームメイトのことどう思ってたか、おトモダチに発表しちゃいまーす。『どいつもこいつも俺の足ばっかり引っ張りやがって』『お前ら早くボールを取り返せよ』とかとかー?」

 

「ま、瞬木?」

「今の…ホントなのか?」

 

「なんだよ…お前ら…。そうさ、俺はそういうヤツなんだ。だからなんだ!!悪いのか。人なんて信用できるわけない。いいヤツを演じていただけさ。それが俺なんだ、瞬木隼人なんだ!!なんか文句あんのかよ!!」

 

それは初めて聞いた瞬木の本音だった。

 

自然とサッカーの試合は中断され、静寂が訪れる。

寂しさのある海の底だけれども、水の音は涼しく心に入っていく。

 

天馬が口を開いた。

 

「文句なんかないよ。」

 

「なんだって…?」

 

「瞬木は自分が嫌だったんだ。ちゃんと信用したいのにそうなれない自分が嫌だったんだよ。本当は誰よりも人と繋がりたいって思っているはずさ。だから、本音を聞かせてくれてありがとう。」

 

「『ありがとう』……?」

 

「ああ!悪い心なんて誰にでもある。だけどそれを乗り越えて受け入れるんだ。いいとこも悪いところも全部ひっくるめて、瞬木隼人だ!!ぜーーーーんぶ!俺の仲間の瞬木隼人だーーーっ!」

 

 

『太陽のような心地いいアズル』は輝く。

 

「な、なんでなの!あいつらのアズルなんで壊れないの!?」

 

 

 

「フェイ、君は強い力を持っているのは知っている。でも、人は傷つけないなんてことはできないんだ。君が傷つける気がなかったとしても、無自覚に誰かが傷つくこともあるものさ。」

 

一度、言葉を区切る。

 

「必要なのは自覚なんだ。例えば、どうでもいい相手なら傷つけたことにすら気づかないかもしれない。でも大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じるんだ。誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ。さくらを護るためにフェイはアクセルを使ったんだ。だから、フェイは大切なときに力を使えるんだ。君の力を使いこなせるって俺たちは知っている。」

 

 

気づけば、

目の前に優しい顔がある。

 

柔らかい太ももから温もりを感じて、

優しく撫でてくれる手から温もりをくれる。

 

ずっと昔に感じた温もりと似ているけれど、違う温もり。

 

頬が熱くなる。

 

「私の『夢』は世界で一番輝くこと。新体操でもそう。サッカーでもそう。それでね、与えられた《夢》が『夢』になったのは、あなたのおかげなの。さっきもあなたが力を使って助けてくれたのよ。だからね…」

 

『ありがとう』

 

俺の、

今まで溜め込んでいた涙が全て溢れる。

 

「さくら……」

 

俺をゆっくりと立ち上がらせながら、青い光を纏っていく。

「フェイは無茶するのをやめないもんね。だから、今度は私があなたを支えてあげる。宇宙で一番輝いているから、私を見てて……。」

―――『一番星』の横で優しく輝く、私の『お月様』

 

可憐であって、勇ましくもある桃色のカモシカが憑く。

 

 

 

「くそっ、立ち直りやがったか。アスタリスク……」

岩が浮遊していく。

 

崖を跳び越えるほどの跳躍を見せる。

「これが私の全力全開!ソウルストライク!!」

勢いよく角でカイザを吹き飛ばす。

 

 

「あんたムカつくわね!」

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

 

カモシカの鳴き声が響き、新体操のリボンを手にする。

「リボンシャワー!!」

ヒラリの周りを星の軌跡を描きながら舞って、躱す。

 

 

「フェイ繋いで!!」

 

「ああ!」

 

 

パスを受け取ってアメジストの輝きを放つ。

「これが俺のもう1つの全力全開!」

体躯のいいキャットが俺に憑く。

 

 

「お前だけにはやらせるかよ!!アクセル!」

 

「ソウルストライク!!」

アクセル状態でさらに素早い動きで、カイザをドリブル突破。

 

 

「さくら!」

 

ボールを受け取ってその場で華麗に回ると、星の軌跡を描く。

「マーメイドスマッシュ!!」

カモシカの力強い蹴りでシュートが出される。

 

「ソウルストライク!!」

イルカの水鉄砲を弾き飛ばし、ゴールが決まる。

 

 

パン

 

お互い歩み寄って、ハイタッチ。

 

「ナイスシュート!」

「アシストありがと!」

 

オーストラリア代表との試合のときよりも、ずっと気持ちいいサッカーがさくらとできた。

 

やっぱり俺はさくらの隣でサッカーをするのが好きなのだろう。

さくらの輝いている姿を誰よりも近くで見ていたい。

 

 

「2人ともすごかったぞ!」

 

「キャプテン、ありがと!」

「天馬も励ましてくれてありがとう。」

 

 

彼は笑顔で頷いてくれる。

そして、天馬には葵が近づいていく。

 

「ねぇ天馬。」

 

「試合中にどうしたんだ、葵?」

 

「天馬ってホントにキャプテンとして頑張ってるね。チームメイトを導いて、支えてくれる。この1年いろんなことがあったよね。天馬はサッカーを救って、時空を救ってくれて、今度は宇宙を救おうと頑張ってる。でも、天馬って肩に力が入りすぎていると思うの。もっと天馬らしさを出してもいいと思うの。」

 

「それは…」

 

「希望を繋ぐんでしょう?その先で必ず剣城君や白竜君は助けられる。だから大丈夫。なんとかなるさ♪」

 

「……そうだね!うん、なんとかなるさ、だね!!」

 

「みんなが天馬を支えてあげるから。もちろん私も!これからも一緒に頑張ろう、天馬!!」

 

神童さんからキャプテンを託された。

アーサー王にリーダーとしての資質を問われた。

今のチームでは『キャプテン』として頼られることが多くなった。

 

だから、

気づかないうちに『俺らしさ』が薄れていったのかもしれない。

 

 

((もう迷わない。道を示して導いてくれる大人がいる。もし立ち止まっても支えてくれる仲間がいる。そしてたとえ挫折しても立ち上がらせてくれる女の子がいる。繋がりこそが一番自慢できることなんだ。だから迷わない。明るい未来を創るために『先のステージ』へ進み続ける。))

 

「「よし、全力全開でサッカー楽しむぞーーーっ!!」」

 

なんて自分勝手な発言なのだろう。

でも大切な女の子たちはやさしく微笑んでくれた。

 

 

 

 


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