お台場。
ここにイナズマジャパンの合宿所『お台場サッカーガーデン』があるんだ。アジア予選開始まで1週間もあるんだ。まだまだ強くなって試合に挑めるんだね。
駅前でリフティングしながら、そこへ向か……
「ここはどこだ?」
「ねぇ、一之瀬君だよね?」
俺と同じ水色のジャージを着た、桜色の髪の少女が話しかけてくる。
「さくらじゃないか、おはよう!」
「よ、呼び捨て……うん、おはよう!」
一度なぜか一歩引かれたけど、笑顔になって挨拶を返してくれた。
「ところで、合宿所ってあっちだよね? もしかして道に迷った?」
周りをキョロキョロ見渡してみると、駅前の広場の外周をぐるぐる歩き回っていたみたいだ。
「ごめん、案内してもらえると嬉しいかなー。」
「いいよ!」
―――はぁー、なんか調子狂うなー
前を歩いていく彼女の背中を追いかけながら、リフティングを続ける。
「それって、リフティングだよね? よく歩きながらできるね。」
「アメリカにいた頃からずっとやっていたし、もう癖になっているかな。」
「へぇー、どうして日本、日本代表に?」
「俺って1人ぼっちでサッカーやってたところを義兄さんに拾われたんだ。アメリカに住んでいたんだけど、カズヤさんの両親は日本にいるから日本国籍になってるんだよね。」
「それって……」
「カズヤさんって『フィールドの魔術師』って呼ばれるMFなんだ!!ボールコントロールが上手くて、カッコいいシュートでハットトリックを決めるんだ!」
「お義兄さんのこと、大好きなんだ?」
「もちろん!……お、これがスタジアムか。」
屋内に入ると、ゲートを抜けた先には真新しいフィールドが広がっている。それに、天馬たちもすでに集まっているようだ。
俺たちも準備運動をしていると、監督が来る。
「松風。練習を始めろ。」
「はい!……みんなサッカーで大切なのは体力づくり。特に持久力はとっても大事なんだ!」
キャプテンである天馬に続いて、2つのゴール行き来するシャトルランのように、走り始める。サッカー経験者である俺たちや運動部にいた人たちは、悠々とこなしているんだけどね。
「はぁはぁ……」「ぜぇぜぇ…」
「2人とも、自分に負けるな!」
「ハァーハァー……」
「好葉。遅れても大丈夫。自分のペースで最後まで走り抜こう!俺も付き合うよ。」
天馬は、そんな彼らへ話しかけていって元気づけていく。
「いったん休憩でーす!」
マネージャーである葵の声で、何人かがへたり込むようにその場で座っていく。サッカー以外の運動部に所属していても『走る』ことに慣れていない人たちはかなり堪えたみたいだ。
井吹に至っては、俺たちと競うように追ってきていたからね。
続けて、
パス、ドリブル、シュート、そしてキャッチングを、4人で教えながら練習していく。
瞬木ですら、慣れないサッカーで今は肩で息をしている。
「今日の練習は終了でーす! ホームエリアでご飯の時間まで休んでくださいね!」
監督は何も言わず去っていく。
俺たちは地面と一体化するメンバーが歩けるようになるまで待って、宿舎へとゆっくり向かっていく。後方を付いてきている神童は特に気難しい顔をしているね。剣城や天馬も思いつめている。
「アハハ……サッカーって大変だね。」
「どうだった?」
「私も、新体操で体力をつけたつもりだったんだけどね。一之瀬君ってば、ピンピンしてるじゃない?」
「慣れてないことをすると体力を使うからね。生まれた時からボール持っていた気がするし。ボールはともd……お、ここもサッカー場なのか!」
「良い眺め!」
「ここは『ヨットハーバーグラウンド』。サッカーガーデンにある2つのスタジアムのうちの1つですね。」
宿舎の目の前、海浜公園にも真新しい芝のサッカーフィールドがあった。海に面していて、心地よい風が吹いていて、ここでサッカーをするのは気持ちいいだろうね。眼鏡をかけていて、情報収集が得意なDFの真名部が教えてくれる。
自室に荷物を置いて、夕食を食べて、ミーティングが終わった時には、
「もう、日が暮れているのか。……よし!」
今日も、月は見えない。
目を閉じ、胸に手を当てる。
俺の背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。
―――薄黄色の長い髪の兎人
「それって……?」
「化身。大会では禁止だけど、使ってあげないと可哀想だし。……って、さくらじゃないか。」
すでにゆったりとした私服に着替えていて、さくらが街灯に照らされていた。
結んだ髪を解いていて、夜風に靡いていた。
「えっと、ボールを持って宿舎が出ていくのが見えて。」
―――私よりも輝いていることが嫌。
「そうなんだ。」
「ねぇ……私たちって足手纏いなんだよね。だから、こんな時間に練習するんだよね。」
―――どうせ一之瀬君だって、一番じゃない私なんて。
「俺にはサッカーしかないから。俺が繋がりを作れる『唯一』だから。俺は誰よりもサッカーで輝く。」
―――化身は泣いていた
意識がバラバラなイレブンにとっては、1週間は泡沫のように流れていった。