やはり俺の青春にデジモンが居て、俺がDATS隊員なのはまちがっているのか? 作:ステルス兄貴
放課後の奉仕部の部室に一人の訪問者が来た。
それは先日のテニスコートでの騒動の関係者でもあり、八幡、由比ヶ浜のクラスメイトである葉山隼人であった。
入って来た葉山の姿を見て、雪ノ下は顔を歪める。
普通の女子であるならば、葉山程のイケメンが来れば喜びそうなのに‥‥
自分に対する罵倒や葉山に対するこの態度から、雪ノ下はもしかして同性愛者なのではないかと疑ってしまう八幡であった。
「いやー、部活がなかなか抜け出せなくて、こんな遅い時間になっちゃったんだけど‥‥」
葉山はこの時間に奉仕部を訪れた前置きを語る。
とは言え、彼は先日のテニスコートでの騒動で部活内では地位を失っている。
恐らく、その失った地位の回復の為、色々根回しをしているのだろう。
「能書きはいいわ。早く用件を言ってもらえないかしら?葉山隼人君」
しかし、雪ノ下はそんな葉山に対して、嫌っていますオーラ全開でさっさと要件を話せと言う。
八幡が奉仕部へ初めて来た時、此処が何部なのかクイズを出したくせに、今回は葉山の前置きをバッサリと切る雪ノ下だった。
雪ノ下の性格を理解しているのか、葉山は早速依頼について話した。
「あぁ、実はこれのことなんだけど‥‥」
葉山は自分の携帯のメール画面を見せてきた。
その途端、由比ヶ浜は顔を顰める。
八幡と雪ノ下も彼の携帯の画面を覗き込む。
すると、そこにはある人物達に対する悪口が書かれていた。
『戸部はカラーギャングの仲間とゲーセンで西校狩り』
『大和は三股している最低の屑野郎』
『大岡はラフプレーで相手校のエース潰し』
それは所謂チェーンメールと言うヤツで、悪口を書かれていたのは葉山グループに所属男達の悪口だった。
先程、由比ヶ浜にもこれと同じ内容のメールが送られてきており、彼女はそのメールを見て顔を顰めたのだった。
「ねぇ、ハチマン、チェーンメールって何?」
ノワールが先程から出ているチェーンメールとは一体何なのかと訊ねてくる。
「ああ、チェーンメールってヤツは、受信者に対して他者への転送を促すメールの事だ。メールの最初か最後に『このメールを何人の人に送ってください』といった内容が書かれている。つまり、メールの内容を不特定多数の人に伝えて広めたいと言う意図が含まれている。まぁ、ほとんどデマばかりだから相手にするだけ無駄だ」
八幡がノワールにチェーンメールとはなんぞや?という質問に答えた中、八幡の最後の『相手にするだけ無駄』というフレーズが気に入らなかったのか葉山が僅かに顔を歪めた。
「最近送られるようになって、それからクラスの雰囲気が悪くなっているんだ。それに俺の友人の悪いことを言われるのは腹が立つからな」
(クラスじゃなくて、お前のグループの雰囲気だろう?お前のグループ=クラスじゃねぇだろう。此処は過疎化が進む分校じゃねぇんだぞ)
葉山はちょっと事態を大げさに誇張して言っている。
そうした方が、雪ノ下が依頼を受けてくれやすいと思っているのだろう。
「だから止めたいんだ。あっ、でも別に犯人を捜したいんじゃないんだ。なんとか事態を丸く‥‥誰も傷付かない方法を知りたいんだ。頼めるかな?」
(バカかコイツは?誰も傷付かない方法が本当にあると思っているのか?大体、お前らのグループ内の揉め事だろうが、それをグループ以外の人に頼っている時点で、お前はリーダー失格じゃないか?本来ならば、これはリーダーたるお前が中心となって動くべきなんじゃないのか?)
葉山の依頼内容を聞いて呆れる八幡。
「つまり事態の収拾を図ればいいのよね?」
「ああ、そうだね。出来るかな?」
「では、犯人を捜しましょう」
(まぁ、それが手っ取り早いな)
八幡も今回については雪ノ下の意見に賛成した。
「うん。それで‥‥えっ?なんでそうなるんだい?」
しかし、葉山は納得できない様子だ。
「チェーンメール。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分は顔も名前も出さずに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意が拡散するのが悪意とは限らないのがまたタチが悪いのよ。だから、大元を根絶やしにしない限り効果はないわ。ソースは私ね」
「実体験かよ‥‥」
(じゃあ、顔も名前も出して堂々と人に罵倒暴言を吐く、お前の行為は最低じゃないのか?)
八幡は顔も名前も出さずに人を中傷する行為が最低だと言うのであれば、堂々と人を罵倒する雪ノ下の行為は最低の行為に部類しないのかと疑問視する。
「とにかくそんな最低な人間は確実に滅ぼすべきだわ。私は犯人を探す。一言言うだけでぱったりやむと思うわ。その後どうするかは貴方の裁量に任せる。それでいいかしら?」
「ああ、それでかまわないよ‥‥」
雪ノ下の勢いに押されて葉山は渋々と了承した。
(葉山の注文も無茶苦茶だが、雪ノ下も雪ノ下だな‥‥依頼人の依頼を自分の都合の良い様に変えていやがる)
雪ノ下と葉山のやりとりを見ていて、相変わらず雪ノ下への依頼に対する言動は問題がある。
「それでそのメールが来るようになったのはいつ頃かしら?」
方針が決まり、まずは問題となったチェーンメールが何時頃から始まったのかを訊ねる雪ノ下。
「確か、先週だったかな?そうだよな?結衣」
「うん。先週から始まったと思う」
「先週から‥‥その時に貴方達のクラスで何かなかったかしら?トラブルや揉め事とか‥‥」
「いや、特にそれと言って無かったと思うよ」
「うん、これと言って揉め事や喧嘩は無かったと思う‥‥あっ、でも確か職場見学のグループ分けがあったかも‥‥もしかして、そのグループ分けが原因かも」
「どういう事かしら?由比ヶ浜さん」
「こういうイベントのグループ分けは後の関係がナイーブになる人がいるから‥‥」
(正直、俺には分からない世界だし分からない問題だな、俺は誰と組んでも後でボッチなるし、一色は学年が違うし、材木座はクラスが違うからな)
「それで、葉山君はこの中に書かれている三人の内の誰かと行くつもりなのね?」
「ああ、正式にまだ誰と行くかは決めていないけど、多分、この三人の誰かと行く事になるだろうな」
(っ!?なるほど、そう言う事か‥‥)
葉山のこの発言を聞いて、八幡は何かに気づいた。
そして、
「あっ!あたし、犯人わかったかも」
由比ヶ浜も八幡同様、このチェーンメールを送りつけてくる犯人が分かったと言う。
「どういうことかしら?由比ヶ浜さん、説明してくれるかしら?」
雪ノ下は由比ヶ浜に説明を求めてきた。
(おいおい、由比ヶ浜でもさすがに分かったのに、なんでお前は分からないんだ?‥‥でも、コイツは俺以上のボッチだから分からなくても仕方がないか‥‥)
「職場見学はさ、三人一組だから、隼人君と一緒に回りたいと言っても一人余っちゃうじゃん。残ったその人は結構きついと思うんだよね‥‥自分だけがハブられちゃったって‥‥」
「そういうものなの?でも、これではっきりしたわね。犯人はこの三人の内の誰かね」
犯人はまだ分からないが、容疑者はかなり絞られた。
しかし、
「まっ、待ってくれ。幾らなんでもそんなことありえないだろう。だって悪口を書かれたのはこの三人だぜ。あいつらは流石に違うだろう?」
葉山は同じグループの中に犯人がいるとは思いたくないのか雪ノ下の推理を真っ向から否定した。
デジモンの力を使えばもしかしたら、犯人のアドレスを逆探できるかもしれないが、それは違法行為であり、そもそも雪ノ下がそんなことを容認するとは思えない。
彼女は自分の正論‥まっすぐなやり方以外を認めない性格の持ち主だからだ。
「バカかお前は?そんなの自分に疑惑の目を向けないためのカモフラージュに決まっているだろうが。まあ、俺だったらあえて軽く書いて一人に罪を擦り付けるけどな」
八幡が葉山の推理を否定しつつ、もし自分だったらの意見もそこへ付け足す。
「ヒッキーってすこぶる最低だね!」
「ほざけ、でもまぁ、俺にはそもそもそこまでして取り合う様な奴は‥‥あっ、居たわ、一人‥‥」
「えっ?誰?もしかしてあたし?」
「バカ、ちげぇよ、戸塚だよ、戸塚」
八幡が取り合ってでも一緒に行動したい人物が自分ではなく、戸塚だった事に少しやきもちを妬く由比ヶ浜で、彼女は頬を膨らませる。
「とりあえず、その三人の事を詳しく教えてくれるかしら?」
雪ノ下は葉山からメールで悪口を書かれている三人について訊ねる。
「ああ‥戸部は俺と同じサッカー部だ。見た目は金髪で悪そうに見えるがムードメーカだな。文化祭や体育祭なんかに積極的に参加している。いい奴だよ」
「……騒ぐことしか能のないお調子し者、と」
「‥‥」
いきなり雪ノ下の罵倒節が炸裂した。
まだ直接会っても居ない人に対して特徴だけで罵倒するなんてやっぱり彼女の性格には問題があるとしか言えない。
葉山も雪ノ下のいきなりの罵倒に絶句し顔を引き攣らせている。
「どうしたの?続けて」
しかし、当の本人は「何か変なこと言った?」みたいな表情している。
雪ノ下の罵倒は常に無意識の内に出ているのだろうか?
だとしたら、社会でかなり苦労する。
世の中正論や馬鹿正直だけではやっていけない。
多少の嘘や社交辞令も必要だ。
「あ、ああ‥‥大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりとしたマイペースさと、その静かさが安心させてくれるっていうのかな。寡黙で冷静ないい奴だよ」
「反応が鈍く優柔不断、と」
「‥‥大岡は野球部で人懐っこくいつも誰かの味方をしてくれる。人の上下関係にも気を配れるいい奴だよ」
「人の顔色を伺う風見鶏、ね」
「‥‥」
何か見ていて葉山が気の毒に思えてくる。
(俺からすれば雪ノ下、お前は『現実を見ない理想主義の毒舌女』だよ)
雪ノ下の事を雪ノ下風に言うのであれば、きっとこんな感じだろう。
「誰が犯人でもおかしくないわね」
(まぁ、確かに‥‥どいつもこいつも葉山の顔色とご機嫌を窺って、彼に取り入って自分を偉く見せようよしている奴ばかりだからな‥‥その為には同じグループの連中を貶めるのも平気でやりそうだ‥‥そんなにコイツの隣に立つことが良い事なのか?)
八幡としては先日のテニスコートの乱入も含めて、今回の依頼と言い、このリーダー失格な人物と一緒に居る事のステータスせいを全く理解できない。
「葉山君の話だと参考にならないわ。二人は彼らのことをどう思っているの?」
「俺は、クラスは同じでも基本、戸塚以外はアウト・オブ・眼中だからな」
「ど、どうって言われても……」
同じグループに所属する由比ヶ浜でさえ、言葉に詰まっている。
(仲間じゃねぇのかよ、コイツ等‥‥)
そうは思ってもまだ二年生が始めって数カ月‥‥そこまで親しい間柄でもないのかもしれない。
でも、普段からバカ騒ぎしているのだから何か一つぐらいは気づくこともあるだろうに‥‥
「じゃあ調べて貰えるかしら?グループ決めの締め切りは明後日だけから一日猶予があるわ」
雪ノ下はそう言うが由比ヶ浜は顔を俯かせた。
自分のグループの粗を探ることに抵抗があるのだろう。
(おいおい雪ノ下。クラスが違うってだけで、お前は調べないのかよ。例えクラスが違っても聞き込みくらいはしろよ。自分は指示して『はい終わり』か?)
やっぱり雪ノ下の依頼に対する真剣さはなかった。
そもそもいろはが言うようにこの教室に引きこもり、依頼者がくるのはただ黙って待っている姿勢である限り、世界を変える、人を助けるなんて事は出来ない。
自分の足で外に出て何か困っている人がいないか?
自分はこんな活動をしているとピーアールしなければ、誰も寄ってこない。
やはり雪ノ下の言っていることは現実を知らない箱入り娘の理想でしかないのだろう。
翌朝、八幡は学校へ通学している最中、彼の自転車の後ろには妹の小町が乗っており、彼女は話を振ってきた。
「お兄ちゃん!小町が乗っている時に事故に遭わないでよ。小町まだ病院のお世話になりたくないから」
「それなら、後ろに乗らなきゃいいだけだろう。それに今の小町の発言だと、俺一人の時は事故に遭ってもいいってことか?」
「実際にお兄ちゃん、事故ったじゃん」
「否定はしないが、あれは自転車に乗っての事故じゃないからな」
「そういえば。お菓子の人とは会った?」
「はぁ?お菓子の人ってなんだよ?俺、知らないんだけど?」
「お兄ちゃんが助けたラブラモンのテイマーさんだよ。態々家にお菓子を持って来てくれたんだよ
「えっ?なにそれ?俺、聞いてないし、お菓子も食べてないぞ。どういうことかな、小町ちゃん?」
「えーっと‥‥ごめんね!お兄ちゃん。大好き」
(コイツ全部お菓子を一人で食いやがった!!)
八幡の怒りを含んだ言葉に小町は彼の背中に笑顔で抱き付いて来た。
「くっ‥‥可愛いから許す。だからもっと抱き付いてくるんだ小町!」
「はぁ~これだからお兄ちゃんは‥‥そう言う事はいろはさんに言いなよ」
「ん?なんでそこに一色が出てくるんだ?」
「お兄ちゃんの鈍感‥‥あっ、そう言えばそのお菓子の人も総武って言っていたし学校でお礼を言うって言っていたよ‥‥あっ、学校についたみたい。じゃあね、お兄ちゃん」
小町は自転車から降りて自分が通う中学校の敷地内へと消えていった。
(ラブラモンのテイマーが俺と同じ学校?でも、誰だ?今までお礼を言われてなんかないし‥‥まさかあのラブラモンのテイマーはやっぱり、由比ヶ浜なのか‥‥でも、まぁいいか、今更、事故の事を蒸し返そうとは思わないし‥‥)
学校に着いた八幡は早速、件の三人の様子を窺っている。
彼らはパッと見は仲よさげには見えるが、その仲はなんか違和感がある。
すると突然、視界に手が現れる。顔を上げると、
「おはよ、八幡」
文字通り其処には天使が居た。
「あ、ああ‥おはよう」
朝一番に戸塚に話しかけられた。
もうあんないびつなリア充どもより戸塚の事を観察したい。
勿論すみずみまで‥‥着替えから、トイレも全て‥‥
「あのさ、八幡は職場見学行く人はもう決めたの?」
「いや、まだだ。俺は残ったメンバーの所に入るつもりだったしな」
(そう言えばメンバー決めが残っていた‥‥)
「そっか。それで、僕もまだなんだけど……」
(むっ?これはチャーンス!!)
「だったら、俺と組むか?」
「えっ?いいの?」
「お、おお。いいぞ!!むしろ戸塚ならウェルカムだ!!」
「ありがとう!」
(よっしゃあ!!今日は朝からツイてるぜ!!)
八幡は、表面上はおちついているが、心の中ではガッツポーズをして狂喜乱舞していた。
しかし、いつまでも浮かれている訳にはいかないので、八幡はあの三人の動向を窺っていた。
そして放課後、この日はいろはも奉仕部の部室に来ていた。
「そう言えば、二年生の先輩方はもうすぐ職場見学ですね。皆さんはどこに行かれるんですか?」
いろはが八幡たちに職場見学で其処へ行くのかを訊ねる。
「あたしは、組んでいる人がDATSに行きたいからDATSよ」
「俺は役所か警察署とかに行こうかと思っている」
由比ヶ浜はやはりDATSへ行こうと思っており、八幡はと言うとDATSではなく、役所か警察署へ職場見学に行きたいと言う。
「あれ?先輩、DATSじゃないんですか?」
いろははてっきり八幡もDATSかと思っていた。
「いや、公務員とかだと安定しているし‥‥」
「でも、先輩は既にDA‥むぐっ‥」
いろはが八幡は既にDATSにて働いている事を言おうとした時、八幡は慌てていろはの口を塞ぐ。
「俺がDATS隊員だと知っているのは学校の教師陣だけだ。コイツ等が知ったら、ギャギャ騒ぐだろうが」
八幡がいろはに黙っていろと言うと彼女も首を縦に振る。
「ゆきのんは何処に行くの?」
「‥‥よ‥」
「えっ?」
「ち‥ば‥‥よ‥‥」
雪ノ下はボソボソと自分が行く職場見学の場所を呟き始める。
「えっ?何?よく聞こえない」
「‥‥千葉県庁よ」
雪ノ下は悔しそうに自分が行く職場見学の場所を言う。
彼女も本当は由比ヶ浜同様、DATSへ行きたかったのだろう。
(俺としちゃあ、そっちの方が羨ましい)
反対に八幡は千葉県庁へ行く事が決まっている雪ノ下を羨んだ。
もし、DATSへ行けば、自分がDATS隊員だとバレて色々と面倒そうだったからだ。
とは言え、八幡は雪ノ下と違い、まだ職場見学の場所が決まっていない。
彼としたら、職場見学の場所がDATS以外の場所に決まる事を祈るしかなかった。
その時、
コンコン‥‥
奉仕部の部室の扉をノックする音がした。