SwordArtOnline Anotherstory<黒の剣士と可能性の賢者>   作:NoaH AlmalS

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皆さん、こんにちは。

世間では夏休みとやらのシーズンに突入しましたが、私は相変わらず部屋に一人でFGOやってます。

それでは、どうぞ。


第7刃 Absolute Terror Field

「このような時、まず第一に自分ではなく、相手の事を思いやる事が大切です。しかし、あまりに度の過ぎた思いやりは時に相手や周囲の人間を不快にさせる事があります」

 

「つまり、思いやりにも節度を持て、と?」

 

「そう言う事です。とは言え、僕も年齢=彼女いない歴の男なので、あくまで第三者からの一般論を語っているに過ぎないのですが」

 

「それでも十分役に立ってるぜ、先生は。それにお前さんは俺よりまだ若いんだからそんなに気にすんな」

 

「・・・」

 

「ど、どうした先生。そんなアホみたい面して」

 

「え?ああ、すいません。カウンセリングを行っているのは僕なのに、まさか相談者の方から諭されるとは。いえ、失敬。自分より人生経験が多い年長者の方に言うには失礼でしたね。申し訳ないです」

 

「だから気にすんなって。先生はちょいと生真面目過ぎんだよ。それに俺も大人なんだ。ちょっとした失礼ぐらい受け止めてやんぜ」

 

「そうですか。では、失礼次いでに一つよろしいですか」

 

「ああ、どんと来いっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これで僕に恋愛相談をするのは何回目なんですか、クライン」

 

「・・・・・」

 

 

 

...容赦ないな~。

 

そう思いながらコーヒーを啜る俺──キリトの視線の先では、白衣を纏い、眼鏡を掛けた白髪──本人曰く《透髪(とうはつ)》らしい──の青年ノアがうっすらと微笑み、そして相談者のクラインは先程の威勢はどこに行ったのか、彼は胸を張った姿勢のまま硬直しているという、何とも言えない状況だった。

 

 

 

 

 

~野武士帰宅後~

 

「しかしな、先生。さっきのはちょっと容赦なかったんじゃないか」

 

「あくまで事実を述べたに過ぎないし、彼に少し自粛してもらわないと、しつこくアプローチを受ける女性プレイヤーが不憫だ」

 

「ま、確かにな」

 

「一体自分がどれだけ他人様に迷惑かけたかという事を分かって頂くための薬だと、理解してもらえたら嬉しいね」

 

彼の今の格好──青基調のシャツに灰色のジーンズ、その上に羽織った白衣に少し細めのフレームの眼鏡を掛けた姿は本当の医者に見えるので、その言い分も分からなくもない。

 

しかし、そう見えるが故に、何か変な事を言ったりすると即座に手術と称した()()()を喰らいかねないと危惧する俺がいたりする。

 

「キリト、人をマッドサイエンティストみたいに思うんじゃない」

 

「す、すまん」

 

「まったく、取って食われる訳でもないってのに失礼な奴だなぁ」

 

こいつの戦闘センスを知ってる奴からすれば、そう思っても仕方ないと思う。

 

現在もこの浮遊城の攻略は進んでおり、現在四十四層の迷宮区攻略中と言ったところだ。

 

攻略の主力メンバーはKoBにDDA、風林火山やGT、そして一部のソロプレイヤー達である。

 

とは言え、この中で戦闘センスが特に冴えているのは各ギルドの幹部クラス以上のプレイヤーに加え、風林火山とGTのメンバー+ソロの極一部である。

 

だが中でも奴ら、KoB団長にして唯一のユニークスキル保持者《聖騎士》ヒースクリフと、目の前の青年《白の賢士》ノアは別格の強さを誇っていた。

 

ユニークスキル《神聖剣》を所持するヒースクリフはその圧倒的な防御力とプレイヤースキルで攻略組の前線を支えている。

 

現に、彼のHPが注意域(イエロー)になったのを見た事がないと言う事実が彼の伝説の一つとしてプレイヤー間で事あるごとに語られている程だ。

 

対してノアはダメージディーラーとしての技術が非常に高い上、防御もこなせば策士としても優秀という、防御極振りのヒースクリフとは反対に万能型と言われている。

 

こちらもボス相手に衝撃的な伝説を残しており、攻撃スピードと武器防御に秀でていた四本腕の巨人の放った超連続攻撃をすべて避けきった挙げ句、防御体勢を取った相手に《タブ思考制御》で剣が相手の武器に当たる直前に格納して、通り抜けたタイミングで再装備、攻撃を命中させるといった離れ技を見せつけ、これにはあのヒースクリフですら感嘆していた程である。

 

 

 

 

おまけに頭の良さと日本人はな離れした容姿も相まって、女性プレイヤーにかなり好評らしい。

 

 

 

 

 

この事実をクラインが知った時彼がどのような行動を取るかは想像に難くない...。

 

とは言え、ノアは親しい女性プレイヤーとそういう関係になった事はないらしい。

 

っと、話がそれたが、つまりは現在のノアが攻略組で重要な立ち位置にいるという事だ。

 

「...さて、行こうか」

 

「...行くってどこに」

 

「おいおいキリト。ちゃんとメッセージボックスは見てるのか。今朝KoBから攻略組メンバー全員に召集がかかってるじゃないか」

 

はぁっと、彼は呆れた表情を見せる。

 

「わ、分かってるよ、そんくらい。ちょっと聞いてみただけだ」

 

「こんな事で意地を張らなくても...。まぁ、そろそろ時間だし、とっとと行こう」

 

そう言い、彼はウィンドウを操作して白衣の代わりに外出用のローブを着、家を出て転移門広場に歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「諸君、突然の召集に応じてくれて感謝する」

 

と、赤いローブを身に纏った男──ヒースクリフがこの場にいる全員に語りかけた。

 

「それでヒースクリフ殿。話というのは一体どのような?」

 

「それについてはこれから話すつもりだよ、エル君」

 

穏やかな、しかし謎めいた笑みを浮かべてヒースクリフがエルさんの問いかけに答えるがその顔を引き締め、

 

 

 

 

「先日午後6時頃、我々の調査班が迷宮区でボス部屋を発見した」

 

と言い放った。

 

それに広間に集まったメンバーがどよめくのを感じるが、その中に不安を感じさせる響きが混じっていたのはすぐに分かった。

 

 

 

「ここからの詳しい説明は副団長のアスナ君が行う。アスナ君」

 

「はい。ここからは私、KoB副団長のアスナが説明をします」

 

ヒースクリフに呼ばれ、前に出てきた彼女は早速資料を皆に配り、説明を始めた。

 

 

 

「今回のボスの名前は《Joker・the・2B・judgementer》。HPゲージは三段で総量は推定2,700,000程度。姿は死神型で、大型の鎌を一本ずつ両手に装備しています。攻撃方法は鎌による攻撃の他に何らかの特殊攻撃があると考えられます」

 

と、資料に書かれた内容を淡々と彼女は読み上げ一呼吸置いた後、ここまでで質問はないかと皆に問いかけた。

 

「今回のボスはゾロ目層のFB(フロアボス)な訳だけど、特殊ギミックがある可能性は?」

 

とオーロが言うと、周りからも同様の意見が上がった。

 

 

 

 

 

 

SAOのフロアボスはその層の数値によって特殊なギミックを持っていたりする事がある。

 

その代表的な例が《Q.P.(クォーター・ポイント)》、そして、第十一層、第二十二層等の《ゾロ目層》である。

 

十一層ではここでは特殊な遠距離武器に分類されるモーニングスターを使用するオーク、二十二層は釣り上げないと戦闘すら始まらない大型の肉食魚、そして三十三層は吹雪の吹き荒れるインスタンス・マップに強制転移を喰らい、その嵐の中に潜むボスの白兎三十三体を探しだして倒さないといけないという、はっきり言って面倒くさいモノばかりである。

 

そして、四十四層はと言うと、

 

「現時点ではまだ判明していませんが、恐らく二本の鎌が関係しているのだと思います。視認しただけなので、確実性はありませんが、片方の鎌に特殊なエフェクトがかかってるのが確認できました」

 

 

 

「.....だから、《2B》なのか」

 

と、ノアがアスナが出した答えにポツリと呟く。

 

「2Bがどうしたんだ、ノア」

 

「ああ、もしかするとアスナ君の言ってるギミックが鎌に関係するというのは多分正しいかも知れない」

 

「ノアさん、どうしてそう考えたんですか」

 

と俺やアスナを始め、他のメンバーも疑問符を頭上に浮かべている。

 

 

 

 

「このボスの名前の《2B》という部分にどこかで聞き覚えがあると思った人はいませんか」

 

「「「???」」」

 

その場の全員が考え込む中、

 

 

 

「...あっ!シェイクスピアねっ♪」

 

と、彼の言葉に金髪の細剣使い──シルヴィが反応する。

 

この一言でアスナやエルさん等「あぁ~」と納得する人が出始めたが、俺も含め他の奴らはピンとこない。

 

「知らない方に説明させて頂くと、シェイクスピアの劇に『ハムレット』という作品があって、登場人物のハムレット王子が言ったセリフの冒頭に《To be not to be》というフレーズがあります。恐らく、このフレーズには《to be》という語句が二回使われているので、掛け合わせて《2B》という訳です」

 

「茅場も洒落た真似をするなぁ。まぁ、これの意味をすぐに理解したオメェもヤバいんだがな」

 

と、クラインがこぼす。

 

「それでノア。意味は何なんだ」

 

 

 

 

 

「直訳は『あるべきであるべきでない』だが、むしろ『()()()()()()()』と翻訳される事が多い。この場合、後者の意味で使われていると考えている」

 

「つまり、特殊ギミックは《即死》能力ってことなの!?」

 

 

「いや、流石に即死はないと思う。だが、一撃で致命傷になりうるダメージやデバフを食らう可能性は十分に考えられる」

 

「そして、鎌が二本ある、ジョーカーという個有名である事から、どちらか一方が致死の刃であるか、もしくはランダムに切り替わるかのいずれかである事でいいかね、ノア君」

 

と、今まで傍観に徹していたヒースクリフがうまくまとめる。

 

これは彼も同じだったらしく、首を縦に振って肯定の意思を示した。

 

 

 

そしてその後、各パーティーの役割分担や攻略開始時刻等を確認し、解散となった。

 

 

─────────────────────

 

「にしても、四十四層でこんなギミック持ったボスが出てくるなんて趣味が悪いよ、ホントに」

 

「まぁ、四のゾロ目だとどうしても死を連想するし、この層のmobだって基本的にアンデッド系の奴らばかりだったからしょうがない」

 

「フォウ、フォウ」

 

と、少し物憂げなカエデとやや諦め顔のノアに、少し心配そうなフォウ。

 

 

 

いつもボス戦では意気込み十分なカエデがこんな感じになってるのは、《死》がタブーのSAOでそれを連想させるボスと戦うからだろう。

 

実際俺もそんのモンスターと戦うのは気が引けるが、そんな後ろ向きな姿勢ではボスを倒すのはおろか、逆に殺られそうだ。

 

そんな面持ちの俺達を見たノアが喫茶店に入り、俺達もそれに続いた。

 

 

大通りから少し離れた寂れた通りにあるそこは、外見こそ周りと同じく寂れていたが、中は以外に綺麗で、俺達は窓際のテーブル席に座った。

 

すぐにNPCウェイターがやって来て、俺とノアはコーヒー、カエデはアールグレイを注文した。

 

 

 

数分後、運ばれてきたそれを飲み、一息吐くとノアが口を開いた。

 

「今回のボス戦が不安か、二人とも」

 

「...まぁね。今回の層のボスに死神タイプをチョイスされたらさ」

 

「...俺も同じだ。ここが普通のゲームだったらそーゆー仕様なのかって思うだけで終わるけど、SAOじゃ話が違う。頭では迷信だ、気にしすぎだと分かってるけど、やっぱり信じちゃうもんなんだな」

 

「それは僕も同じ。不安より自信を覚えている奴なんて、それこそ《聖騎士》ぐらいだろうな」

 

と、珍しく弱気な発言をするノア。

 

 

 

「珍しく弱気だな。どうしたんだ」

 

「まぁ、ちょっと疲れててね」

 

「それって、探偵業(お仕事)に関する事?」

 

「あぁ、ちょっと気になる事があって」

 

「どんな事を調べてるの?」

 

「...今はまだ言えない」

 

 

...珍しいな、本当。

 

俺達に対してこんな感じなのは今までなかったのに。事実、鍛冶を除く全生産系スキルの上位互換である《アイテム創造》の取得条件が判明した時にはアルゴより先に教えてくれた程だ。

 

そんな事を考えていると、カエデが何かに気づいたかのようにハッとした顔になると、

 

「ノア、あなたまさか...」

 

「な、なんだカエデ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう好きな人ができたの!?」

 

 

 

「「・・・・」」

 

...。いや、どうしてそうなる。

 

いやまあ分からなくもない。ないけども!流石に話が飛躍し過ぎだろ!

 

ほら見ろ、ノアの目がどんどん冷たくなってるぞ!

 

「...カエデ。どうしてそんな結論に至ったかの経緯を言って見ろ」

 

「え?違うの?」

 

「違うに決まってるだろ!」

 

「えぇ~、ホントにィ~?」

 

「本当だ」

 

「ノアやキリトって結構モテそうなのになんでそんな色恋沙汰とは無縁なの?」

 

「お、俺もか!?」

 

なんか飛び火してきた!?

 

「そりゃそうだよ。ノアはお医者さんっぽい探偵っていうイメージがカッコいいって評判だし、キリトは女顔で可愛いから」

 

「それだけでよってくる女の子は外見しか見てなさそうなのだが...」

 

「...ははっ、俺、やっぱ可愛い枠なのか...ははは」

 

何て言うか、男としてのプライドが深く傷つけられた気がする。

 

 

 

「それはともかく、君達は大丈夫なのか」

 

「うんっ!ノアとキリトからかったら緊張は少しほぐれたと思うよ」

 

「・・・・・」

 

「...ま、まぁ、経緯はともかく、不安要素が少しでもなくなったのなら良かった」

 

そう言い、ノアはNPCを呼んでケーキを4つ注文した。

 

何故4つも、と思ったが、その疑問はすぐに解消された。

 

「ほら、フォウ君」

 

「フォ、フォウ~♪」

 

どうやら、フォウの分も頼んでたらしい。

 

彼がフォークを口元に持っていくと、ノアに似た色の毛並みを持つ小動物はパクパクとケーキを頬張り始めた。

 

「やっぱりフォウちゃんは可愛いね。どこかの鈍いご主人様とは違って」

 

「カエデ。どこの誰が鈍いご主人様なのか参考までに聞いても良いかな」

 

「・・・・(微笑み)」

 

「・・・・(無表情)」

 

「「よし、表に出ろ(出ましょう)!」」

 

「...お前らって、本当に仲が良いんだな」

 

 

二人の喧嘩、もといじゃれあいを見ていると、自然とそんな言葉が出てきた。

 

「・・・」←ノア

 

「・・・///」←カエデ

 

「そりゃまぁ、もう一年の付き合いになる訳だし、パートナーとして仲が良くない訳ないとおm...。どうした、カエデ」

 

「ふぇ?い、いや何でもない!///」

 

「?そうか」

 

何故かあたふたしているカエデに対し、いつものポーカーフェイスに戻って平然と言ってのけるノア。

 

...なんかよくわからん。

 

 

 

「二人とも、ケーキを食べたのならとっとと行こう」

 

「もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?」

 

「それもいいかも知れんが、ちょっと用事があってね」

 

「どこに行くんだ?」

 

「黒猫団。あそこの裁縫師は腕が良いからな」

 

 

「あぁ~、サチのとこか~。ってことはもしかしてサチの事が──」

 

「いい加減にしないと、アルゴにいろんな情報ばらまかせるぞ」

 

「す、すいません」

 

「・・・・・」

 

少しイライラ気味の声を聞いたカエデは即撤退。

 

その後、サチに新しいローブや布装備をもらった俺達は

各々のホームへと帰り、明日の攻略の為の準備をした。

 

 

 

 

 

 

~A.D.2022 10/15 A.M.9:00~

[第四十四層迷宮区ボス部屋前]

 

「諸君。今日はボス攻略に参加してくれて感謝する。では、ボスの事前情報についての再確認だが──」

 

迷宮区ボス部屋前にある巨大な両開きの扉。その前に悠然と立つ《聖騎士》ヒースクリフ。今は、ボス攻略前の最終確認が行われている。

 

ダメージディーラーの俺とカエデは今回も攻撃特化班のA班。ノアもいつもならダメージディーラーをやっているのだが、今回のボスはギミックが非常に厄介という事もあり、ヒースクリフと同じく、タンクを集めたD班所属となった。

 

因みに、A班にはGTの三人が入っており、アスナは指揮とサポート担当のF班、クライン率いる風林火山の面々は俺達と同じく攻撃担当のB班になっている。

 

この編成は万能型(オールマイティー)のノアや指揮と攻撃双方に長けているアスナ等一部を除いて、あまり変化がない。

 

それだけこの編成は安定しており、ソロの俺達でも十分に立ち回れる程にレイド全員の練度は高い。

 

だが、勿論これまでずっとこうだった訳でもなく、元々は現在最大のギルドである《軍》がパーティーの大半を占めていたが、第一のQPで半壊し、ギルマスのディアベルと副長のキバオウが攻略組からの撤退を宣言したことで、当時規模の小さかったKoBとDDAが台頭してきて現在の攻略組の構図ができあがる事となる。

 

 

 

「では諸君、今回もボスを打ち倒し、下で待っている者達に希望を与えよう!全ては、解放の日の為に!」

 

と、攻略開始前のお決まりのセリフをヒースクリフが高らかに紡ぎ、俺達は一斉に「「「「オー!」」」」と叫んで、開かれた扉に向かって駆け出した。

 

 

 

 

ボス部屋に入ると、赤い光が上から俺達を照らし出した。

 

見上げると、どうやら天井が夜空になっているらしく、星が瞬く中天には紅い月が煌々と光を放っている。

 

その月を背にするようにして、奴はゆっくりと姿を現した。

 

事前情報通りのボス《Joker・the・2B・judgementer》はフードの奥の髑髏の眼窩に宿らせた鬼火を光らせ、歯をカタカタ鳴らせると、こちらに突進してきた!

 

(ッ!速い!)

 

死神タイプらしく、浮遊して滑るように移動する奴は思いの外素早い。

 

部屋の反対側にいた曲刀使いに一瞬で接近した奴は両手に装備した片手鎌を交差するように振り抜いた。

 

すると、どうしたことか。プレートアーマーを装備した彼は一撃目の鎌の攻撃を受けてもあまりダメージが通らなかったのだが、二擊目──報告にあったエフェクト付きの攻撃を喰らった途端、1/5程のHPがごっそり削られ、HPバーの上に初めて見るデバフアイコンが表示された。

 

それは十字架と髑髏を合わせたようなもので、アイコンのすぐ横に何かの数字が表示されている。

 

《5》

 

「な、なんなんだよこれはぁぁぁ!」

 

と、アイコンの不気味さに危険を感じたのか、死神に対して、曲刀5連擊ソードスキル《クレイジー・モア》を放つ。

 

濃いオレンジの光を宿らせた刀身は5回全て死神に吸い込まれるようにヒットし、死神のHPバーの一段目の1割を削りさった。

 

その上、喰らった死神にノックバックが発生し、大きくのけ反った。

 

やはり、耐久性はほとんどなさそうだな、と思った次の瞬間───

 

「があぁぁぁァァァァ!!」

 

と、そのプレイヤーが悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

慌てて、彼のHPバーを見ると数字が《0》に変化しており、約8割残っていたHPが一気に危険域(レッド)にまで減っていた。

 

一体何が、と思った瞬間にはボスは体勢を立て直しており、止めを刺すべく鎌を振り上げた。

 

 

俺が間に割り込もうと駆け込んだがギリギリ届かず、致死の刃は彼の命を刈り取るべく、その体を切り裂こうとし──、

 

ガキキィィィン!

 

間に割って入った白い光に阻まれた。

 

 

その光──ノアは一角獣を模した紋章の入ったマントをたなびかせ、白地に灰色のラインが入った同じく紋章入りの金属防具が、布装備の上で月明かりを反射させている。

 

その手にはモンスタードロップの片手剣《ディメンジョン・スレイブ》と、PM(プレイヤーメイド)の盾《クレムリ・ガーダー》が装備され、それが鎌の一撃を受け止めている。

 

「今の内に下がって回復を!」

 

「あ、ああ、感謝する!」

 

そう言って彼が壁際まで後退するのを確認すると、盾を使っておもいっきり跳ね上げる。

 

 

バランスを崩した相手に片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》で追い打ちをかける。

 

何時かの《ソード・オブ・ポワゾン》みたく、《トキシティ》特性を持つ《ディメンジョン・スレイブ》はジョーカーにLv.4ダメージ毒を与え、更にHPを削っていく。

 

タンクがダメージディーラー兼任してどうすんだと言いたいところだが、実際再び体勢を立て直したボスの攻撃をパリングで最小限に抑えており、その合間を縫うかのようにソードスキルを叩き込む。

 

 

とはいえ、いつまでも彼に任せっきりでは俺達の立場がない。

 

「俺達も行くぞ!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

「「「了解!!」」」

 

俺達A,B両班は側面もしくは背後からの攻撃を開始した。

 

俺は横から片手剣7連擊《デッドリー・シンス》で切り裂き、カエデが反対側から片手槍6連擊《アルファ・レイン》で突き刺す。

 

シルヴィとエルさんは同時に背後から細剣5連擊《ニュートロン》で風穴を開ける。

 

「シルヴィ、スイッチ!」

 

「エルの嬢ちゃん、スイッチ!」

 

更に、後ろからオーロとクラインが二人とスイッチし、

それぞれ片手剣6連擊《サテライト・レイ》、カタナ3連擊《緋扇》を放つ。

 

さしものボスも、高レベルプレイヤーの連続多段ソードスキルを喰らい、HPバーの一段目を全損し、二段目の3割を削りきった。

 

が次の瞬間、

 

ギ、ギシャアァァァァァァ!!

 

と、叫び声を上げた。すると、先程見たモノと同じデバフが今度は部屋にいる全員に付与された。謎のカウントは今度は《7》となっている。

 

(本当に何なんだこれは?)

 

そう疑念に感じていると、

 

 

 

 

 

 

 

「皆、強力な攻撃を使うなっ!」

 

と、ノアの声が響いた。その声に反応し、プレイヤーだけでなく、ジョーカーまでが彼に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このデバフは恐らく《反撃の呪い》の類いだ!多分こちらの攻撃で与えたダメージに応じてHPを減らしていくモノだと思う!」

 

「「「「「!」」」」」

 

マジかよと、毒づいたが確かにそうかもと頭の隅で納得する。

 

あの時、曲刀使いのHPが急激に減少したのは高威力の多段ソードスキルを使ったからだとすると、説明がつく。

 

だが、何故ノアはそれに気づけた?

 

そう思い彼のHPバーを見ると、すぐに疑問は解けた。

 

彼のHPは注意域まで低下しており、カウントも《3》にまで減少している。

 

先程まで彼のHPは8割以上あったので、流石にこんな減り方をしていると、否応なしに理解してしまう。

 

(自分自身を実験台にしたのか!?)

 

元から思ってたが、アイツは他人を犠牲にしたり、責務を負わせるのを酷く嫌うところがある。

 

それ自体は尊い事に聞こえるが、裏を返せばそれは自己犠牲を厭わない事に他ならない。

 

以前にも、アラームトラップの仕掛けられた部屋に俺とカエデを含めた3人で閉じ込められた時に、自分のHPを顧みず、俺達を護る為に一人剣を振るい、全て倒し切った時にはHPが5%に満たない程まで減っていた。

 

助けられたとはいえ、こんな危険な真似をした彼にカエデが激怒し、後に話を聞いたシルヴィとエルさんの3人で説教をされていたのは記憶に新しい。

 

 

俺の隣に来てるカエデが気づいたのかどうかはこのあと分かるだろう。それより今は、

 

「A,B両班はカウントがゼロになるまでは攻撃は低威力を維持!HPがイエローになったらすぐに後退!」

 

と、司令塔(アスナ)から指示が飛ぶ。

 

 

その直後、俺達は移動した死神を追って、再び駆け出した。

 

奴に接近した瞬間、威力を限界までセーブした低威力攻撃を七回叩き込む。

 

ノアの言った通り、HPが減りこそしたもののあまり大きくはない。

 

そして、カウントがゼロになったメンバーから順に再び高威力ソードスキルの嵐をお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

 

~30分後~

 

漸く、奴のHPは残り1割となった。

 

途中から鎌による攻撃+デバフ付与の頻度が高くなり、おまけにジョーカーというだけあって、分身での撹乱、エフェクト武器の変更等のギミックを多用してきた。

 

その上、最後の一段になったところから、奴は全体デバフを頻発し、なかなかデカイ一撃を加えれなかったが、サポート班の投げた麻痺毒ナイフがヒット、スタンして漸く動きを止めたところを、袋叩きにしたところだ。

 

「ノア!LA決めるぞ!」

 

「了解!」

 

 

 

最後の一撃を決めるべく、俺達は剣を肩の高さで平行に掲げ、限界まで引き絞る。

 

既に盾を格納し、左手の片手剣オンリーとなったノアと線対称になるように構えた右手の剣からジェットエンジンを連想させる轟音が響き始める。

 

 

 

徐々に音量を増大させていくそれは限界に達すると、ライフルに撃ち出される弾丸の如く、己の体を加速させる。

 

片手剣単発重突進技《ヴォーパル・ストライク》

 

片手剣ソードスキルでありながら、両手槍の約二倍の射程を誇る高威力の剣の弾丸は真っ直ぐにジョーカーの胸に吸い込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かのように思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣が奴の体を貫く直前、奴の体から飛び出した()()()がHPを余さず奪い去り、ジョーカーは俺達のとどめを受ける事なく、その体をポリゴンの欠片へと変化させた。

 

「.....え?」

 

「一体何がどうなって!?」

 

「何だよ、これ!?」

 

周りから驚きの声が上がるが、俺はそちらに意識を傾ける事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

何故なら、俺とノアの目の前──ジョーカーがいた空間には、()()()()()()()()()()()()()()が出現していた。

 

茅場晶彦がデザインしたモンスターは全てが何らかのテーマに沿って忠実に作られていたが、コイツはそんな事は知らないと言わんばかりの異形だった。

 

 

全身がビニールシートのような見た目の緑混じりの黒い皮膚で覆われており、骨と皮しか無いようなシルエット。

 

所々骨らしき結晶が表面に浮かび上がっており、胸部にはそれらに守られるかのような位置にある血の如く、赤黒い球が浮き出ている。

 

また、首から上に相当する部分がなく、代わり(?)に赤黒い球の上ら辺に骨を削って作ったかのような白い仮面がついていた。

 

 

 

 

明らかに《異質》。それ以外の表現方法は《気持ち悪い》とか、《吐き気がする》とかしか、思い浮かばない。

 

「オ、オーロ、エル。あそこに立ってるのは何?」

 

「わ、分かりません。オーロ殿は何か...」

 

「す、すまん。俺もアレが何なのか分からない」

 

「な、何なのよ、アイツ」

 

「本当に何が...」

 

と、奴を視認したプレイヤー達が次々に戸惑いの声を上げる。

 

(そうだ、名前!奴の名前は...!)

 

漸くその行動を実行に移し、俺はそのモンスターのまで名前を確認する。

 

 

 

《Sachiel・The・3rd・Angle》

 

第三の天使、だろうか。個有名に見覚えがないのでフルネームが分からない。

 

と、そこまで考えて漸く横に攻略組きっての知識人がいる事を思い出す。

 

彼──ノアにアイツのフルネームを読めないか聞こうとs...

 

 

 

 

「・・・・・・・サキエル」

 

「...え?」

 

俺が疑問を発するより早く、俯いた彼は固有名であろう名詞を呟くと、奴に向かって駆け出した。

 

「ハアァァァァァァァ!」

 

口から気合いを迸らせ、彼は再び《クレムリ・ガーダー》を装備した状態で片手剣7連擊《デッドリー・シンス》を放つ。

 

その時、先程から俯いて表情が見えなかった彼の顔がはっきりと見えた。

 

その顔に出ていたのは()()()()の表情だった。

 

普段、時々キツい口調になるが本気で怒る姿を見せた事のない彼が、こめかみに青筋を浮かばせて眉間に皺を寄せているその表情(かお)は、一番付き合いの長い俺ですら恐怖を覚える程のモノだった。

 

だが、何故だろうか。あれほどの怒りに混ざって、悲しみや虚しさがあるのはどうして───。

 

そこまで思考が及んだ瞬間───、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュピィィィィン!!

 

 

 

と謎の音が発生し、目の前で彼が不自然に──()()()()()()()()()()かのような姿勢で止まる。

 

否、実際ソードスキルは続いており、彼の腕は奴──サキエルに刃を食い込ませようと力を込めている。

 

しかし、サキエルは先程とは何も──いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を展開した意外は何もせず、最初と変わらぬ姿勢をとっていた。

 

(な、何なんだ、アレ!)

 

こんなエネルギー・シールド(仮)で攻撃を防ぐモンスターなんて聞いた事がない。

 

しかも、見る限り時間制限はないらしく、そんなのこのゲームの根本を揺るがしかねないモノだろうと思わざるを得ない。

 

「キリト!!ヒースクリフ団長!!」

 

と、依然フィールドとのせめぎあいをしているノアが俺とヒースクリフに声を掛ける。

 

もう一年以上になる相棒の声で、俺は彼がなにを求めているのかを理解した。

 

ヒースクリフも同じらしく、こちらも初めて見せる険しい表情を俺に向けると、

 

「行こう、キリト君」

 

と、ただそれだけを言い、ノアの下へと駆け出した。

 

俺もノアの横に着地するように飛び込みつつ、《ヴォーパル・ストライク》でノアの剣がシールドに接しているその一点を貫かんと突き出す。

 

そこに更にヒースクリフも右手の十字剣に赤い光を宿らせて、剣を突き出す。恐らく、《神聖剣》のソードスキルであろうその一撃は俺達の剣とほぼ同じ部分に突き出し、次の瞬間、

 

 

 

 

グジュッ!

 

と、肉を引き裂くような音を立てて、謎のフィールド(?)が破れる。

 

そのままの勢いで俺達の攻撃は続行され、奴の仮面の周りの皮膚を3人の剣が切り裂いた。

 

そして、奴はたった一段しかないHPバーの約1割を失っていた。

 

 

 

このまま攻撃を続ければ、と思った直後、右肩にドスッと鈍い衝撃が響く。

 

そちらに視線を向けると、肩には桃色に発光するパイルらしきものが深く突き刺さっていた。

 

「グッ」

 

と、俺の左からも呻き声が聞こえ、見るとノアの左肩をも、ソレは貫いていた。

 

HPを確認すると、後少しで一万に届く程まで高くなっていた俺とノアのHPは一撃で3割強も削れていた。

 

(一撃でこんなに!?)

 

そのせいで思考が僅か程ではあるが停止し、そのせいで反応が遅れた。

 

「「グゴッ!」」

 

掌から生やしていたパイルを手から切り離すや否や、サキエルは俺達に回し蹴りを喰らわせた。

 

 

 

 

その細い足からは想像もできない程の強烈な衝撃をくらい、壁際まで吹っ飛ばされる。

 

そのまま壁に激突し、痛みこそないものの、背中から響き渡る鈍い衝撃。

 

衝撃でクラクラする視界をなんとか落ちつかせると、

 

「キリト君!」

 

「ノアッ!」

 

と声が聞こえ、次の瞬間肩に先程とは異なる、パイルが引き抜かれる感覚が走る。

 

それによって、レッドまで落ちていた俺達のHPの減少は止まる。とはいえ、もう10%にも満たない程には減っていた。

 

俺はパイルを抜いてくれた人──アスナの方を見ようとしたが、その前に頬に硬い物が押し付けられた。

 

 

 

 

「「ヒール!」」

 

コマンドを唱えた瞬間、頬の硬く冷たい感触は破砕音とともに消え、同時に俺のHPは右端まで瞬時にフル回復する。

 

どうやらノアもカエデに回復してもらったらしく、既に立ち上がっている。

 

「アスナ君にカエデ、ありがとう。助かった」

 

「サンキュー、アスナ、カエデ」

 

「どういたしまして。それより...」

 

「アイツは何なの?」

 

 

 

アスナとカエデ、いつも強気な彼女達がこちらに心配と不安が入り混じったかのような視線を向けてくる。

 

「ノア。お前何か知っているんじゃないのか」

 

と、白髪の青年に問いかける。

 

「....すまないキリト。今は話せない。それより今は──」

 

そう言い、彼はサキエルの方へと目を向ける。

 

その先では、先程攻撃を受けなかったヒースクリフが一人でサキエルを相手取っていた。

 

その異形の怪物は切り裂かれた仮面周辺の皮膚を押し退け、その奥からもう一枚の仮面を覗かせていた。

 

それで自己修復が完了したとでも言うのか、HPが回復するだけでなく、HPバーも二段に増えているというおまけまでついて来ていた。

 

一方のヒースクリフは依然HPを安全圏に保っているが、相手がエネルギー・フィールドも回復させたらしく、彼の攻撃はことごとくがその虹色の波紋に防がれてしまっている。

 

「団長ォォォォ!!」

 

と、突然KoBのハルバード使いが奴の右斜め前方から奴に突撃した。

 

《神聖剣》の能力についてあまり詳しくは知らないが、少なくとも攻撃に特化しているハルバードの方が火力は高いだろう。彼がヒースクリフの援護に入れば、恐らくあのフィールドも突破できるはず。

 

 

 

 

 

...だけど、なんだ。この頭にチリチリとくる違和感は。

 

 

 

その時、ヒースクリフに対してパイルを射出して攻撃していたサキエルが突然ハルバード使いの方を向く。

 

「ッ!ダメだ、避けろ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

一体どういう事だと聞こうとしたその瞬間、サキエルの仮面の目が光り、

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「グアァァァァァァ!」

 

(ビ、ビーム攻撃!?)

 

いや、正確には別の()()なのだろう。しかし、発生地点で十字架のような形状を持って直立するそれは限りなくそれに近いものに違いない。

 

「ビ、ビーム出せるなんて、最早チートじゃない」

 

魔法が存在しないSAOにおいて、それに類似する特殊攻撃はせいぜいブレス程度で、発射からのタイムラグがなく、任意の座標を指定し攻撃できるビームは使える者にとっては非常に大きなアドバンテージとなりうるが、そうでない者にとっては使用者への圧倒的な不利、つまりアンフェアな状態になる。

 

これは製作者の茅場にとって、彼の掲げるフェアプレイと言うモットーを崩し、いや、崩されかねないモノだ。

 

故に、人間側(プレイヤー)システム側(モンスター)のいずれかがその能力を獲得するだけで、この世界(ゲーム)のバランスは崩壊し、立ち行かなくなる。

 

カエデの言う通り、俺達は今、その異常(チート)に直面している訳だ。

 

「キリト、あの光線はどうやら奴の見ている方向にしか発射できないようだ」

 

と、観察を続けていたノアが口にする。

 

俺が思考を働かせていた間、何人かのプレイヤーが奴に攻撃を仕掛けたみたいだが、正面から突撃した全員が怪光線の反撃を受けていたらしい。

 

「全方位から攻めるっていうのは?」

 

「残念だけど、その手はあまり意味がなさそうだよ、カエデ」

 

と、包囲攻撃を提案したカエデにアスナが否定的な意見を返す。

 

その視線の先で、先程のプレイヤー達がカエデの言うようにサキエルを包囲し同時に攻撃したが、そのことごとくが奴のフィールドに弾かれる。

 

 

 

「攻撃をかわす手段はできたにせよ、攻撃が通らないんじゃ...」

 

周りの空気が一気に重みを増す。

 

本来のボスは倒したのにこの様じゃあどうしようもない。

 

何か、何か策は...!

 

 

 

 

 

 

...いや、待てよ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

...もしかして!

 

「ノア、俺達の最初の攻撃は何であの護りを貫通した?」

 

「何ってそりゃ、高攻撃力のソードスキルを一点に集中させ..た...から...」

 

と、冷静に状況証拠から判断するノアの声が珍しく掠れる。

 

「......まさかアレの破り方に気づくとは」

 

「?何か言ったか?」

 

「いや、何でもない。...多分、これがあのフィールドの破り方に違いない」

 

「だったら──」

 

「ああ、あのタイプのフィールドもう一度貫通すれば、恐らく回復しない。だから、最大出力のソードスキルを一点に集中させれば、勝算はつく」

 

攻略組一の策士のお墨付きをもらい、彼の隣に並び立つ。

 

だが、それは俺だけでなく、

 

「私も行くよ、キリト君」

 

「もちろん、私も」

 

と言いながら、アスナとカエデも並び立つ。

 

ノアが少し呆れ気味に、しかし、信頼の籠った声で「君達は...」と低く呟いたがすぐに攻撃の構えに移り、

 

 

 

「ファイブカウントで仕掛ける!」

 

と、声を張り上げた。

 

その声で3人は各武器スキルの高威力突進技の構えを取る。

 

 

 

 

 

 

「4」

 

初期モーションをシステムが認識し、刀身に光を与える。

 

 

 

 

 

 

 

「3」

 

俺とノアの片手剣はクリムゾンレッドの輝きを帯び木枯らしのような音をたて始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「2」

 

アスナのコバルトブルーに輝くレイピアと、レモンイエローの光を放つカエデの槍は、それぞれが発するキンキンという音が大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

「1」

 

それぞれの内包するエネルギーと発生する音が、徐々に臨界に近づき──

 

 

 

 

 

 

 

「GO!!」

 

達した瞬間、三色四人の刃の弾丸が撃ち出される。

 

 

 

「「「「ハアァァァァ!!」」」」

 

 

 

各々の口から気合いが迸り、そのままサキエルに接近した弾頭(刃の先端)はフィールドに衝突し、虹色の波紋を発生させながらせめぎあいを起こす。

 

しかしそれも一瞬、一点に突進系ソードスキルを集中させたエネルギーがフィールドのエネルギーを上回ったのか、先程よりも大きな音を立てて破れ、刃の侵入を許した。

 

四発の獰猛な刃の弾丸はそのままの勢いで、アスナのレイピアとカエデの槍が奴の両腕を切断し、俺とノアの剣は中心の赤い球体を刺し貫いた。

 

その瞬間、奴のHPが一気に8()()も減少し、

 

ギャアァァァァァァァァァ!

 

と人のような悲鳴を上げる。

 

(あの赤黒い球体、やっぱり弱点だったか)

 

とはいえ、この減り方はあまりに異常としか言い様がない。そこさえ潰せば倒せるという確信もできたが。

 

「ノア!」

 

「ああ、キリト!」

 

互いに名を呼び合い、相棒との意志疎通をし、次の行動を理解する。

 

再びソードスキルの構えを取るが、今度は先程使った《ヴォーパル・ストライク》ではなく、別のスキルの構えを──、

 

 

 

 

 

その瞬間、仮面の目に再び光が宿る。

 

(しまったっ!さっきのビーム攻撃か!)

 

瞬間、引き伸ばされた思考の中で瞬時に判断する。

 

ここから発射まで一秒あるかないか。至近距離のここからの回避は不可能。

 

(まずいっ!)

 

このまま食らえば、布装備オンリーの俺と最低限の金属装備しかないノアは間違いなくHPを5割以上持っていかれるのは確実だ。

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...避けられないなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

「キリト君!」

 

「ノアッ!」

 

次の瞬間、俺達を光が包み込む。

 

そして、HPがゆっくりと、しかし、確実に減少し始める。

 

 

 

 

 

3割、減少中。

 

 

 

 

 

4割、変わらず。

 

 

 

 

 

5割、ペースが落ちたが、まだ止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

6割、依然減少中。しかし、技後硬直解除。

 

 

 

 

 

 

6割5分、停止。

 

その瞬間、再びソードスキルの構えをとっていた俺達の剣に再び光が、しかし今度は色がアイスブルーだ。

 

 

 

 

片手剣3連撃重攻撃スキル《サベージ・フルクラム》

 

 

 

俺とノアの蒼い刀身は球体を貫くと、更に奥に押し込み、そこから手首を180゜回転、上に振り抜き仮面もろとも上の肉を三等分にする。

 

3連撃でありながら、4連撃の《バーチカル・スクエア》や《ホリゾンタル・スクエア》よりも高い火力を内包する攻撃を、同時に二回喰らって過度の衝撃に耐えかねたのか球体は粉々に砕け散り、次の瞬間、HPが全損したサキエルは一瞬硬直した直後、その肉体を爆散させた。

 

 

 

 

 

俺とノアは視界を埋め尽くした不気味な白い光しか見えなかったが、後にクライン達に聞いた話によると、サキエルのいたところには、巨大な光の十字架が墓標のように直立していたらしい。

 

SAOの他のモンスターとは異なる消滅現象が終わるとノアがポツリと、何かを言ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の瞬間、()()()()()()

 

 

 

(次は何だ?)

 

この場の全員が身構えたが何も起こらず、俺の視界に現れたのはLAを獲得した旨を知らせるメッセージだけだった。

 

 

 

 

 

 

  ~翌日~

 

昨日はその後、C、D両班に四十五層の転移門有効化(アクティベート)を任せ、その他の班は一時KoB本部に帰投する事になった。

 

しかし、そこからが大変だった。

 

何処からかこの異常事態を嗅ぎ付けてきた情報屋の対処に追われたり、攻略組の各ギルドマスターに今回の攻略に参加した主要メンバーを加えた緊急の会議が開かれたりと中々に忙しかったが、一番(精神的に)疲れたのはその後だった。

 

 

 

ジョーカー戦とそれに続くサキエル戦において、俺とノアは大活躍ではあったものの、自分の命を顧みない危険な戦闘を行ったとして、アスナとカエデの二人にこってり絞られた。

 

特にカエデの怒りは凄まじく、ノアが無茶していたのはお見通しみたいだった。

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

~回想シーン~

 

「前にも言ったよね、あんな無茶しないでって!」

 

「...すいません」

 

「本当にバカじゃないの!ここじゃ、一回でも死んだらそれでおしまいなんだよ!」

 

「....本当にすいません」

 

「どれだけ心配したと思ってるのよ!」

 

「...面目次第もございません」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「...ぇっと、カエデ、さん?」

 

「心配....させないでよ...」

 

「....え」

 

「本当に...心配....したんだから...」

 

「エ...ぁ...えと...その...」

 

「おいおい、女の子泣かせるたぁ、いい度胸してんなぁ先生y──」

 

「クライン、ちょっと黙れ」

 

「お、おぅ。分かったからキリト、俺に剣を向けないでくれ」

 

「..........(泣)」

 

「カエデ.....」

 

「........(泣)」

 

「カエデ、ごめんな、心配かけて....」

 

「...本当、だよ....(泣)」

 

「それとありがとな、僕の事、心配してくれて」

 

「.....うん」

 

ドサッ

 

「ちょ、ちょっと、カエデ!?」

 

「少しだけ、このままでいさせて...」

 

「って、周りに結構ギャラリーがいるんだが...」

 

「けど、今は...こうしてたい...」

 

「...///分かったよ。僕のせいで泣かせてしまったんだ。その責任くらい、取らないとな」

 

「ん、ありがと」

 

「「「「(ジーッ)」」」」

 

「え、えっと、どうしました、皆さん?」

 

「いや、こっちの事は気にしなくて───」

 

「おい先生、いっぺん死んでこい」

 

「誰かクラインを摘まみ出してくれ」

 

「え!?いや、や、やめろぉぉぉぉ!」

 

「...何だか騒がしくなっt──って、カエデさん。そんなにしがみつかれると、身動きが取れないんですけど(汗)」

 

「...もう少しだけ、このままでいて」

 

「...はい」

 

~回想シーン終~

 

 

 

 

その後、なんやかんやあって一旦解散となり、今は再びKoB本部に集まっていた。

 

俺の隣にいるノアはいつもの白ローブに眼鏡で学者然とした態度をとっていたが、反対側のカエデの様子が少し変だった。

 

服装はいつもと変わらない青いシャツに白基調のローブ、空色のスカートに黒いブーツだったが、透けるような白に少し桃色の混じった顔はいつもより紅く、ノアの方を見て少しソワソワしている。

 

...まぁ、昨日のアレが原因なのは理解できるからそっとしておくとして、...そろそろだな。

 

 

 

 

「それではノア君、前へ」

 

「はい」

 

ヒースクリフに呼ばれたノアは俺の傍を離れ、彼の立つ広間の奥の階段前に行く。

 

「失礼します、《ノア探偵事務所》のノアです。と言っても、皆さんは多分ご存じだと思いますが」

 

と、苦笑混じりに挨拶をするノア。

 

 

その姿は10~20代の青年そのものなのだが、彼が表情を引き締め眼鏡をクイッと上げると、途端にベールがかかり、見えなくなる。

 

 

その次の瞬間、彼の紡いだ言葉は俺達が求め、そして、その想像の上を行く、とんでもない情報だった。

 

「今回皆さんにお集まり頂いたのは言うまでもなく、先日の第四十四層ボス攻略戦において突如介入してきたハイネームドモンスター《使徒》についての事です」

 

 




今回も戦闘シーンを上手く表現できませんでした。申し訳ございません。

とはいえ、自分にしては中々早い間隔で投稿できたのは良かったです。

最近は気温も非常に高くなってきているので、皆さんも熱中症には十分に注意しつつ、夏をお過ごし下さい。

それでは、お読み頂きありがとうございました!

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