ラブライブ!Ω/UC 外伝 ラブライブ!アイランドスターズ!! 作:la55
とある建造伝 第1話
1989年、去年ごろから始まったバブル景気は今や絶好期を迎えていた。株、土地、そのほかすべてが値を上げていく。それにともない、町中にお金の嵐が吹き上がる。人々は物をみさかいなく買っていく。株、土地、絵画などなどを日本中、いや、世界中から本当にみさかいなく買い続けた。それほどこの時代を生きる人たちの金銭感覚はマヒしており、これから起こるであろう不景気のことすら忘れて今の時代を謳歌していた。
そんななか、東京に小さな建設会社があった。土居建設、のちに業界でも中堅企業として名をはせる会社であるが、1989年ごろはまだ下請けのさらに下の孫請けの地位でしかなかった。
そんな土居建設にもいつもの朝が訪れる。
「う~ん、気持ちいい朝ですなぁ。さあてと、今日も1日頑張りましょうかね」
と言って会社の外に出てきた人物、この人こそこの土居建設の創業者、そして社長の土居建造である。建造は東京で一旗あげようと5年くらい前に東京に出てきた若者である。そして、建造は東京に出てくるなり建設会社を興した。小さいながらも一国の主となった建造はこれまで大手建設会社の孫請けをせっせとこなしていくことで、まわりから信頼を得ていた。そして、バブル景気により、全国各地で建物、博覧会、などなどが次々と作られることにより、その仕事(ただし、孫請けだけど)を次々と獲得、時代の流れにのって今やその波にのろうとしていた。
そんな建造だが、大親友でなおかつ仕事のパートナーというべき若者がいた。
「おい、建造。また株を買ったんだって」
この男、名を清水大地、建造と同じくらいの年齢で、彼も建造と同じく地方の出身であり、その地方というのが、鹿児島県の南に浮かぶ島、九龍島だというのだ。彼も5年前に東京で一旗あげようと九龍島を出て東京に進出してきたのだ。そして、ほどなくして、たまたま入った居酒屋で建造と会い、お酒を飲んで意気投合。その際、建造が建設会社を興すと言ったので、自分が一緒に会社を盛り上げてやると言ったため、共同で土居建設を創立したのだ。その後、大地は営業で仕事を獲得し、建造が現場で指揮をとるという2人3脚でここまで会社を盛り上げていた。
「おうよ。株はどんどんあがっていく。安いうちに買って高くなったら売る。そうすればその差額がうちに転がり込んでくる。そうしてら、社員の福利厚生のたしになるからよ。今がその安い時期なんだぜ。今のうちに買わないと、将来高くなってからじゃ遅いんだぞ。絶対に損はしないよ。だって、今日も明日も必ず値上がりするからよ」
と、建造が言うと、大地はすぐに、
「そう言ってこの前はどこかの地方の知らない土地をあっさり買っていたな。知らないぞ。土地や株は絶対値下がりしないとしても、きっといつかは損するぞ。あんまり熱をいれるな。絶対に後悔しかしないからな」
と言うと、建造はすぐに、
「そんなの、心配しなくてもいいぞ。特に土地は絶対に値下がりしない。だって、値下がりするどころか、いつも値上がりしているしよ」
と、大地の肩を叩き安心させようとしていた。事実、このときは土地神話といって、土地は絶対にずっと値上がりするという安全神話というべき考えが広がっていた。それがこの時代の人々が次々と土地を買っていく現象を引き起こしていた。なので、建造が軽い気持ちで土地を買っていてもおかしくなかった。むしろ、土地を買って値上がりしたところを売れば、その差額分利益となる。むろん、土地は絶対に値上がりする、それがずっと続くとなればなおさらである。そんなことを信じて建造は土地を買っていたのだ。
そんな建造であるが、そのとき、大地にあることを言った。
「たしか、大地の夢って自分の島にリゾート地をつくることだったよな」
これには大地、
「そうよ。今や九龍島は人口が減っていくばかり。つい最近、島の人口が1000人をきったそうだ。それなら、九龍島でリゾート開発して一山当てれば、九龍島はもっと賑やかになる。賑やかになれば人口も増える。それをするためにリゾートを自分の島に作りたいんだ」
と、夢を語った。この時代、地方の衰退が問題化していた。東京などの大都市に人々、特に若者が地方から集まるようになると、それにより地方の人口が減り、結果、地方が衰退していく構図となっていた。そこで、全国各地で地域振興のためにリゾート開発が盛んに行われていた。たとえば、長崎のハウステンボスや北九州のスペースワールド、宮崎のシーガイア、北海道のトマムリゾートなどなど。そして、国もそれを見越してリゾート法をつくり、リゾート開発をする企業や地方を法律などで優遇していた。その結果、全国各地、いろんなところでリゾート開発という名の工事が盛んに行われていた。大地はその流れにのるかたちで島を盛り上げたいと思い東京に進出、そして、建造と出会った。そして、建造と一緒に建設会社を興し、大きくし、その会社の力で島にリゾート地を作ろうと夢見ていた。
そんな大地の夢について、建造は、
「そうか、そうだよな。男っていうのは地元に錦を飾りたいものだよな。まえにも言っているが、この俺も力を貸すぜ。絶対にこの会社を大きくして、おまえの地元、九龍島に一大リゾート地を作ってやろう。それがおまえの夢であり、俺の夢でもある」
と、大きな声で大地に言うと、大地、
「本当にすまない。やっぱ、おまえは俺にとって最高のパートナーだぜ」
と、建造を称えた。
その後、株価は1089年の年末に、今でも破られていない株価のめやすとなる日経平均株価3万8千円をつけた。むろん、土地もどんどん値上がりし、地上げも多発するなど、一種の社会問題ともなっていった。だが、人々は思っていた、これから先も土地や株は値上がりしていく、そして、この時間は永遠に続く、そんな幻想にとりつかれていた。このあとの悲劇を予見できずに、いや、その感覚すらマヒしていた、当時の多くの人々は。
が、夢幻はいつかははかなく散ってしまうものである。1990年3月、日銀はあまりにも急騰していた株価、地価(土地の価格)が実体経済、つまり本来の経済の姿とかけ離、れているとして、不動産の融資を規制(総量規制)したり、金融引締め策をとるようにした。これにより、1980年から土地の価格が大幅に下落、いや、暴落していった。また、
日経平均株価も1990年にはいるとみるみるうちに暴落、同年10月にはついに2万円を切るところまでいく。ぞくにいうバブル崩壊である。
人々はわが春と思い土地や株などを買いあさっていたが、バブル崩壊とともにその株や土地の価格は買ったときの価格すら下回るほどに下落していく。そして、売ろうにも買い手がいないので売れなかったりする。それが不良債権(売ろうとしても売れず、その買ったときの資金の回収すら困難となった土地、株などのこと)としてこれから先、個人や企業を苦しめることになった。
このことは建造にもあてはまった。1994年ごろ、
「なんで株価が2万円をきっているんだよぉ。89年末には3万8千円だったのに、いまやそのときの半分以下になってしまった。それに、土地はどんどん値下がりしている。「絶対にあがります」って言うから買ったのに、今となってはその買値よりも下回った。売ろうにも売れない。土地ってずっと値上がりするもんでしょ。土地神話ってやつ、その神話は続くものなんでしょ」
と、建造は経済新聞を見て愚痴を言っていた。それを見ていた大地、
「だから言っていただろう、あまり熱をいれるなって。熱をいれるまえに売っておけば損しなくてすむんだぞ。それに、土地神話というのはただの幻だったんだ。それにはやく気づけば今みたいにならなくてすんでいたんだぞ」
と、建造に諭す。
だが、建造はその大地の言葉に黙ったままだった。それを見ていた大地、
「もしかして、会社の資金を勝手に使っていたのか。その資金をもとに株や土地を買っていたのか。そんなことをしたら、もしものときに困るんだぞ。それに私的目的で会社のお金を使うのはいけないことなんだぞ」
と、建造に怒るも、
「これは会社のためだったんだ。株価や土地の価格があがれば、それだけ会社の資金も増える。会社を大きくすることもできる。社員に楽もできる。すべて会社のためだったんだぞ。許してくれ、大地」
と、建造は言い訳をする。これを見た大地、
「おまえな、土地神話という幻想につかれたからこうなるんだ。少しは反省してろ」
と怒ると、建造は、
シュン
となってしまった。
こんなこともあって大地はあらためて会社の資産財務状況を見直してみる。すると、大変なことがわかった。会社の資産のほとんどをバブル景気のときに建造は土地と株に投資していたのだ。で、それが今となっては会社の重荷、いや、不良債権化していた。
「これは非常にまずい。このままだと、うちらの会社はちかいうちに倒産するぞ」
と、大地はものすごく心配していた。これは全国的にいろんなところで起こっていた。不良債権により多くの企業が倒産、破産していった。それはこの当時まで国が守ってくるから絶対につぶれないといっていた金融機関、銀行などもその国が守ってくれなくなったこともあり次々に破綻していった。
「これだけ不良債権があると建て直しは難しい。それだけでも大変なのに、今、仕事がどんどんなくなっている」
と、大地はつぶやいていた。事実、バブル崩壊でバブル景気のときに決まっていた工事はどんどん中止になっていた。なので、工事を受注しようにもその影響で工事を受注することすらできなくなっていた。特に孫請けの自分たちの会社は。仕事があるにしてもとても小さな工事のみ。これでは建設会社として経営するにしても無理なはなしである。
「このままだとこの会社はもうじき潰れる。そうしたら、会社を大きくするという建造の夢が潰えてしまう。建造のパートナーとしてそれはさせたくない。仕方がない。腹をくくるか」
大地はそう言うと、奥のほうへと消えてしまった。
「ふう、今日はなんとか工事を受注できたな」
と、建造は営業の外回りから会社に戻っていた。建造も会社の会計が火の車、財務状況がとても悪いことは認識していた。それが自分のせいであることも。なので、建造自らなれない営業をしていたのだった。むろん、建造は外回りなどあまりしたことがない。が、建造は現場でリーダーとして働いていたことで、その工事関連の人脈を築いていた。そこで建造はその人脈を活かして少しでも工事を受注できるように営業をしていた。
「でも、これでは会社としては維持できない。もっと大きな工事を受注しないと」
と、建造は会社のことを危惧していた。自分の会社を維持するためにはもっと仕事が欲しいのだが、バブル崩壊で国、都道府県、市町村など自治体が工事を発注する、いわば公共工事すら減らされていることもあり、工事の受注を得ることは難しくなっていた。それは建造の人脈をもってしてもだ。どの会社も明日を生きるために死に物狂いで喰らいつこうとする。どんな条件でも工事を受注しようと必死になっている。そして、工事を受注することすらできない建設会社は消えていく運命だった。それが大きな工事ならなおさらだった。それほど建設業界は苦しかったらしい。
「今日の受注は小さいが、それでも1週間ぶりの工事だ。今のうちに用意してないと」
と、建造はすぐに資料作成に取り掛かる。今日とってきた仕事は小さな町の道路補修工事。それでも建造は久しぶり腕がなった。小さい工事をこつこつとこなしていけば、それが信頼となって必ず大きな工事に結びつく。建造はそう考えていた。事実、小さな工事をこつこつとこなしていったことで、建造は建設業界で人脈を築くことができた。それが今活かされようとしていた。
が、事務室に入った建造はなにかに気づく。
「あれ、なんか隣の台所からガスのにおいがするぞ」
そう建造が言うと、事務室の隣にある台所に通じる扉を開けようとするが、あけることができない。なにかによって扉が封鎖されているのでは、そう考えた建造はいきおいをつけて扉を無理やり蹴り飛ばそうとした。
「えいっ!!」
と、建造はなんども扉を蹴り飛ばす。すると、
バカッ
と、その扉は台所のほうに倒れていった。
「なんかガス臭いな」
と、建造はなかが暗い台所に充満するガスをかいでいた。このままだとガス爆発するのではと思った建造はすぐに、
バカッ
と、台所の窓を強引に開けたが、そのとき、なにかガムテープみたいなもので目張りしていることに気づく。
「ガスつけぱなっしだ」
と、ガスを止める建造。
すると、そこには…。
「大地、だいち~!!」
と、大地の変わり果てた姿が見えた。建造はすぐに気づいた、大地はガス自殺をはかったことを。
建造はすぐに救急車を呼び、病院に駆け込む。が、手遅れだった。
「なんで、なんでなんだよ~」
と、建造は病院のなかで叫びまくる。大切なパートナー、大地を失ったのだ。それは建造にとって死よりもつらいことだった。
「俺がしっかりすれば大地を失わずに済んだんだ。それなのに、それなのによ~」
自暴自棄になりかける建造。
そんなとき、
「土居(建造)社長、これが大地さんの近くにありました」
と、会社の従業員があるものを建造に渡した。
「なんだこりゃ」
と、建造はそれを受け取る。それは茶色いちょっと大きな封筒だった。その封筒を開けてみる。そこには、
「なんだこりゃ。これって生命保険の証書じゃないか。あと、なにかはいっているな」
と、証書とそのなにかを取り出す。そして、それがなんかの手紙だと気づいた建造はすぐに、
「え~と、なになに…」
と、その手紙を読んでみる。内容はこうだった。
「建造へ おまえがこれを読んでいるってことは、おれはこの世にはもういないだろう。なので、この手紙を残す。俺には多額の生命保険をかけていた。俺は少ない給与から毎月その生命保険の掛け金をかけていた。それも10年以上も。保健金の額も大きくなっているだろう。建造よ、頼みがある。その多額の保険金で会社を立て直してくれ。俺はいなくなるが、会社はきっとよみがえるだろう。そして、仕事にまい進してくれ。余計なことは考えるな。仕事に集中していればきっと世の中はきっと建造に微笑みかけてくれるだろう。建造よ、達者でな、あばよ。 大地より」
この手紙を読んだ建造、
「俺のためにあいつは死んだんだ。ごめんよ、ごめんよ」
と泣きじゃくる。そして、建造は保険の証書を見る。
「えっ、あいつは俺のためにこれほどの大金を残したのか」
と、建造は驚く。その保険金の額は建造の会社の不良債権、負債を含めた借金の総額を超え、当面の運転資金を賄えるほどの額だった。で、受取人は建造となっていた。
その証書を見た建造、すぐにあることを決意する。
「大地よ、おまえの覚悟、たしかに受け入れた。俺は心を入れ替えるよ。これからは仕事のことだけ考えていく。おまえが残したお金で絶対に会社を大きくしてやる。おまえの犠牲は無駄にしないよ」
さらに、建造はあることを強い思いで決意する。
「そして、大地の夢、おまえの故郷、九龍島に必ず一大リゾート地を作ってやる。おまえは九龍島をリゾート開発するという夢があったな。その夢、俺が引き継いでやる。九龍島に一大リゾート地を造り、九龍島を盛り上げてやる。だから、大地、安らかに眠れよ」
そして、建造は大地のために黙祷した。