「彼」が待ち望んでいた刻が訪れた。
この生物の本能に従い、頻繁に生殖活動を繰り返し、子孫を増やしていた。
だが「彼」が憑いた生物は、種の特性として産まれた存在すべてが活動可能とは決してならなかった。
同じ種族同士で喰らい合うもの、この惑星の支配者に捕獲されてしまうもの。あるいは別の生物に栄養素として取り込まれてしまうもの。
※自身で栄養素を生成可能な「彼」にとっては当初非効率極まりないものであったが、なるほど他の生物を喰らうということは、自身で生成するより高い栄養素を得られるものだった。
そして「彼」から産まれた生物は、「彼」と同様支配者の波長を拒む能力を得ることはできたものの、元々保有していなかった能力の負担が大きく、波長の阻害に活動力の多くを費やしてしまうのだった。
だが、時と進化がそれを克服していった。
直近に産まれた種は、新たな能力をごくごく当然な存在として受け入れ、種の活動力を妨げるものではなくなっていた。
そして「彼」自身にも変化が訪れた。
かつて「主」と共生したとき、「主」の波長を拒む力を得ていたが、この惑星に降りてしばらくすると、「彼」を悩ませた支配者の波長を拒むどころか、相手の波長そのものに浸食、発生を妨害する能力を得るに至ったのだ。
支配者は自身が作り上げた波長が機能しないと、驚くほど脆弱なようだった。
支配者が築いたものはこの惑星に住む他の生物にとって重大な脅威だったが、それらは波長によってその機能を全うしており、波長を阻害してしまうと、その機能を停止してしまうのだった。
この事実は「彼」に新たな欲望を産んだ。「彼」が降りた地は、惑星でも有数の支配者たちの営巣だった。ここを自身の拠点として支配者を追いやり、「彼」が新たな支配者となれば・・・。
惑星降下直後こそ「彼」とその容器となった生物は支配者に比べ大きく見劣りしたが、いまや「彼」はその巨体を隠すことに苦労するようにすらなっていた。
直近の種が孵化し、波長妨害能力を基本に据えたものたちが現れたことによって、いよいよ「彼」は、支配者たちを巣から追い出すことにした。
動き出した「彼」に、たまたま近くにいた支配者の一人が気が付いた。「彼」も同じだった。
その二足歩行の支配者は地に崩れ落ち、驚愕の表情で「彼」を凝視する。もはや「彼」の体格は支配者を見下ろすに十分な大きさだった。
「彼」は支配者の一人に近寄ると、左前足を振り下ろした。
支配者は真っ二つになり、大量の体液を噴き出しつつ、動かなくなった。
なるほど、物理的なダメージを与えると活動を停止するのか。
「彼」はそのまま、動かなくなった支配者を捕食した。栄養素が豊富だ。
この惑星で新たに得た能力『食事』を愉しむと、「彼」は自身の思念が及ぶ子孫たちに伝えた。
―動け、喰らえ―
「彼」の子孫たちはその命に忠実に行動するのだ。