ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー襲来ー

・6月4日 月曜日 16:49 東京都千代田区麹町1丁目

キャピタルFM 第一スタジオ

 

 

「それではこの時間のCFMニュース。報道情報センターの神崎さんです。お願いします」

 

パーソナリティ・吉住紀美子の快活な口調に促され、神崎はニュースを読み上げる。

 

「お伝えします。さきほど入りましたニュースですが、ロシア・インタータクス通信は、ロシア海軍太平洋艦隊司令のレニング・シルパトキン准将が拳銃で自殺したと報じました。ロシア海軍のスポークスマンによると、シルパトキン准将は、択捉島・ベルタルベ山の噴火対応で精神が極めて不安定だったと伝え―」

 

そのときだった。スタジオのすべての電源が一斉に落ちた。報じていたアナウンサーも、パーソナリティの吉住も、控えている番組ディレクターも構成作家も突然の出来事に戸惑った。

 

「おい、予備電源」

 

その中でもディレクターは冷静にアシスタントに命じた。アシスタントの1人が機械設備室に走っていった。

 

「また停電だね」

 

パーソナリティの吉住は、灯りの消えた天井の蛍光灯を見つめて、誰にともなくつぶやいた。

 

「参ったなあ、放送事故だよ」

 

ディレクターは頭を抱えた。彼は放送局の設備に何らかのトラブルが起きた程度に考えていたのだ。よもや放送局のスタジオはおろか、東京の広範囲が一斉に停電したという事実を知るのは、だいぶ後になってからだった。

 

「ちょっと、見て。あっちのビルの壁」

 

吉住が指さす方を見ると、隣のビルの壁に緑色の何かが多くうごめいている。

 

「ありゃカマキリだよ。あんなにたくさん気味が悪いな」

 

構成作家が言うと、そのうち何匹かが飛んできて、放送局のガラス窓にへばりついた。

 

 

 

 

 

・同時刻 東京都中央区八重洲1丁目

大倉百貨店 地下1階 食料品売り場

 

 

「マネージャー、バックヤードにネズミが・・・・」

 

パート従業員から小声でささやかれ、総菜マネージャーの伊藤順平は店頭商品チェックの手を止め、バックヤードに向かった。

 

都内でも有数の規模・伝統を誇る大倉百貨店とはいえど、ここ食料品売り場を中心に建物の裏や隙間に潜むネズミとの戦いは避けて通れなかった。

 

せめてお客様がいらっしゃる売り場まで出すことなく、バックヤードで処理しなければならない。

 

「ネズミはどこ?」

 

「それが、壁際で死んでるんです」

 

なあんだ、伊藤はそう言いそうになった。

 

生きているネズミは非常にすばしっこく、食品を取り扱う現場としては厄介な相手だが、死んでいるのなら話は簡単だ。

 

ちりとりで亡骸をすくい上げ、生ごみとして処理すれば良いだけだ。その後はネズミが侵入したとおぼしき穴を見つけ、修繕伺いを総務に提出すれば、提携の施工業者が何とかしてくれるだろう。

 

死体を片付けるのは正直ありがたくない仕事だが、大倉百貨店に入社して早15年、最初はネズミを見ると青い猫型ロボットばりに悲鳴を上げていた伊藤だったが、いまではすっかり処理にも慣れたものだった。

 

だがパートに案内された伊藤は、30分ほど前にようやく摂れた昼食の中華弁当を吐き出しそうになった。

 

ネズミは自然死や病気によるものではなく、全身を何かに齧られたような痕があったのだ。

 

(これは猫が入ってきたのか?いやネズミは共食いするんだっけかな?)

 

必死に吐き気を我慢して、伊藤は無残な屍をちりとりで片付けた。生々しい血痕が床にこびりついていた。

 

ふと足元を見ると、別なネズミが猛スピードで段ボール箱の中にもぐり込んだ。

 

生きてるヤツを相手にするのか・・・と思った刹那、まるでネズミを追いかけるように数匹のカマキリが段ボール箱に侵入した。

 

ネズミの甲高い悲痛な鳴き声がしたかと思うと、段ボール箱から異様な音が聞こえてきた。

 

バリバリ、バリバリ・・・・・。

 

中がどうなっているのか、恐る恐る段ボール箱を開けようとしたとき、バックヤードの照明が落ちた。

 

(ネズミが配線齧ったかな?)

 

だが表を見ると、売り場の照明も落ちていた。しかも奇妙なことに、非常灯すら消えてしまっている。

 

お客と従業員から悲鳴とどよめきが上がった。

 

やや混乱しながらも、スマホのライトをつけて足場を照らし出す。

 

伊藤もそれにならって自分のスマホをポケットから取り出した。

 

そのとき、左足首に鋭い痛みが走った。

 

 

 

 

・同時刻 東京都目黒区三田1丁目 JR山手線外回り電車内。

 

 

乗車率80%の退勤ラッシュ前の車内。熱された外気のせいで冷房も満足に効かない中、大牟田美樹はあくびをしながら、友人の寺田淳美とLINEでやり取りをしていた。

 

『また来たよ、あのクレーマー』

 

『おつかれー。マジ?』

 

『うん。品揃え悪いだの、あいさつの声が小さいだの』

 

『あのじいさんもう出禁で良いんじゃない?』

 

『ホントだよね。店長気きかせろよって』

 

そんな他愛もないやり取りをしていると、左横から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おい、席を譲れ」

 

席に座っているサラリーマン風の若い男性はキョトンとしている。

 

美樹の左隣にいる老人・・・まさしく、いま淳美とのLINEに登場したクレーマーだった。

 

見られてはマズイと、美樹は右側に顔を背けた。

 

「若い者が座りやがって」

 

(なんで仕事終わってなおコイツの毒つき耳にしなきゃいけないの・・・)

 

間もなく恵比寿だ。まったく予定にないが、美樹は次の駅で電車を降りることにした。

 

座っていたサラリーマンが渋々席を立ったときだった。突然電車が急ブレーキをかけた。いや、正確には急ブレーキがかかったのだ。

 

立っている者の何人かは積み木が崩れるようにバランスを崩し、床に転倒、または隣の乗客にぶつかった。

 

美樹は辛うじて吊革にしがみついたが、立とうとしていたサラリーマンは哀れ派手に床へ転がった。

 

電車は完全に停止した。車内の電気も消えてしまった。

 

乗客がざわつく中、(電車って電気消えるとこんなに薄暗いんだ)と自分でも思うほどに美樹は冷静だった。

 

「また停電かよ」「ちょっと、どーなってるの」

 

乗客たちは驚きが困惑と怒りに変わる。

 

「まったく、高い金払って乗ってるというのに」

 

例のクレーマーはちゃっかり席に座っていた。電車が急停車したことより、美樹は如何にして早くこのクレーマーから遠ざかれるかを気にしていた。

 

やがて乗客の何人かが、電車の中にも関わらず外に電話をかけようとしてスマホをいじり出した。

 

「あれ?繋がらない」「また通信障害かよ、こんなときに」

 

昨日から断続的に通信障害が発生しているとは聞いていたが、運が悪いんだな、程度にしか美樹は感じなかった。それよりも早く動いて、恵比寿駅に止まってくれないかな・・・?

 

ゴン、ゴン、ゴン・・・・。

 

電車の外から、何かを叩くような音がした。

 

「ひゃあああ!」

 

それと同時に、入り口近くの女性が叫んだ。ガラス窓に数匹のカマキリがへばりついてきたのだ。

 

「やかましい!」

 

悲鳴を上げた女性を罵ったのは、例のクレーマーだった。

 

(地獄に落ちればいい・・・)

 

美樹がそう思ったまさにそのときだった。

 

クレーマーの背後でガラスが割れた。皆の注目が集まったが、さらに大きな悲鳴が上がった。

 

緑色ののこぎり・・・もとい、大きなカマキリの鎌が、クレーマーの脳天を文字通り割っていた。

 

「ア・・・・アア・・・・アあ」

 

口をパクパクさせながら、クレーマーは前のめりに倒れた。ピンク色の物体が脳天からあふれ出してきた。

 

脳天を割ったカマキリは、大型犬ほどもある身体を窓から侵入させた。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

皆絶叫しながら、車内後方に殺到した。足がもつれて転んだ中年の男性が床に倒れ、そこをかまわず踏みつけて逃げる乗客。

 

呆気にとられていたサラリーマンを、カマキリは右の鎌で払った。

 

サラリーマンは腹部を割かれ、悶絶しながら大量の血液をまき散らした。

 

どうにか車内後方まで逃げた乗客は、急ぎ戸を開けてさらに後方へ向かおうとした。

 

だが、先頭を走っていた男性はそこで足を止めた。

 

後方の車内には、既に4匹の巨大カマキリが居座っていた。

 

一気に異様な臭いが漂ってきた。

 

カマキリたちは、既に数名の乗客を屠り、そして食べ始めていた。

 

呆然とする乗客たちの背後から、さらに別なカマキリが襲い掛かった。

 

血の海にへたり込んだ美樹は、いつの間にか自分の左手首から先が失われていることに気がついた。

 

激痛と驚愕に耐え切れず叫ぶ美樹。次に激痛が走ったのは、左こめかみ辺りだった。

 

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