ゴジラVSガイガン2019   作:マイケル社長

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ー合流Ⅱー

6月5日 火曜日 11:12 大阪府庁舎

 

 

事実上、日本の臨時政府となった全国知事会の面々は、自分たちの権限で可能な限りゴジラとカマキラスへの対処方針を模索、実行を指示していた。

 

差し当たり、東京から西へ拡大するカマキラス由来と思われる停電に関しては八田部以下神奈川県庁及び県内自治体、神奈川県警・消防本部が対応に当たり、北海道東はるか沖合にて消息を絶ったゴジラに関しては、海上ならびに航空自衛隊が警戒に当たっていた。

 

だが早くも手詰まりを感じさせる事態が起きた。

 

京都にある在日フランス総領事館(都内のフランス大使館とは連絡が途絶えている)より、再三に渡り昨日のエールフランス機墜落の調査報告をするよう催促されていた。

 

墜落現場となった東京都二子玉川、川崎市高津区へは渋滞と避難者の殺到で近寄ることすらできていない。第一、航空事故調査委員会を組織しなければならないが、官邸や所轄官庁である国土交通省と連絡すら取れない。事故調査を求めるフランス総領事の声は次第に焦りと怒気に満ちていった。

 

また東京の機能損失とゴジラ出現により、関東圏を中心に不穏な空気が漂い始めていた。

 

東京東部及び隣県にて、物資の買いだめや自主避難等が起こり、一部では略奪、暴行など刑事事件が急増していた。

 

東京から放射状に伸びる列車や道路では、自主避難による深刻な渋滞・混雑が生じ始めていた。

 

さらに間の悪いことに、午前9時過ぎ、高知県沖を震源とするマグニチュード6.9の地震が発生、高知県・徳島県沿岸に津波警報が発令され、9:47、高知県沿岸部に高さ2メートルの津波が押し寄せたことも、混乱に拍車をかけた。これにより、四国4県の知事たちはスカイプでの知事会参加すら困難となった。

 

午前10時を以て、参集された知事の面々にて現況の確認、指針協議を行ったが、知事会とはいえ地方自治体の寄り合いでは到底この問題に対処できないことばかり増えつつあった。

 

北海道から尾形教授が到着されました、どん詰まりの空気を換えるように、職員が会議室に駆け込んできた。

 

ここはひとまず、と、知事たちは抱える頭を振り払い、やがて入室してきた男性に注目した。

 

ブルーのYシャツをめくり、麻のスラックス姿と、爽やかさと育ちの良さを漂わせる男性―尾形大助教授は入るなり一礼し、案内に従ってテーブル中央に立った。

 

京都大学で生命科学分野での教鞭を取りつつ、ゴジラ研究の第一人者として活動。よくテレビや雑誌にも登場する上、各県の防災会議にも怪獣災害の識者として参加することも多く、この部屋で尾形を知らぬ者は誰もいなかった。

 

「尾形先生、ご無沙汰しております」

 

「先日の防災会議ではお世話になりました」

 

尾形が挨拶するより早く、列席の知事たちが頭を垂れた。

 

「お忙しいところ恐縮です。手短にお話をさせていただきます」

 

知事たちのデスクに積まれた資料やファイルを見て、尾形は何が起きているか察した。

 

「尾形先生、当たり前のことを訊くようですが、昨日北海道に現れたのは、間違いなくゴジラですよねえ?」

 

原田が自分でも言うほど、当たり前の質問だったが、誰もが心のどこかで、ゴジラでない似た怪獣・・・放射能を帯びた熱戦を吐き散らし、砲弾も高圧電流も通じない化け物ではないと尾形が断言してくれることを祈っていた。

 

「はい。写真とテレビ映像を何度も確認しましたが、間違いありません。ゴジラです」

 

「しかし先生、ゴジラは厚い氷に閉ざされた後死亡したと、昭和42年に旧ソ連が発表してます。あれはまた、新たな個体でしょうか?」

 

資料に目を通しながら、町田が訊いた。

 

「いえ、今回現れたゴジラは、身体的特徴を鑑みますと、昭和30年・・・いまから64年前に出現したゴジラと同一個体であると考えられます。あ、ここでその、写真を撮影した方に同席を願っております」

 

尾形はドアの外へ「お願いします」と声をかけた。府庁職員に案内され、スーツ姿の男女二人が入ってきた。

 

「KGI損保株式会社の、緑川です」女性が挨拶したのに続き「金崎です」と男性が頭を下げた。

 

「お二人は海難事故調査のため、昨日から網走に滞在されていたところ、昨晩ゴジラの上陸を目撃、その後被害物件調査のため市内にいらした際、私が様子を尋ねたことから、こちらへお招きしたのです」

 

尾形の説明に「それにしてもなんだって保険屋が?」と小林がぼやいた。

 

「こちらの、金崎さんが撮影した写真です」

 

尾形はパソコンを操作し、スクリーンに投影させた。テレビ報道やネットニュースに挙げられたものより、はるかに鮮明に写されているゴジラの姿に、皆が息を飲んだ。

 

「ちょうど、ガソリンスタンドを破壊したところだったようで、燃え上がった火柱によって地肌まで確認できます。併せて・・・」

 

尾形は画面を分割させ、別な写真を投影させた。白黒写真だが、やはり炎上する建物を背にしたゴジラ、そしていままさにゴジラに襲い掛からんとしているアンギラスの様子を捉えていた。

 

「こちらは64年前、ゴジラとアンギラスが大阪に上陸した際、偶然取られた報道写真です。いずれも注目していただきたいのは、こちらです」

 

レーザーポインタを当てながら、尾形は説明していく。

 

「大阪に現れ、ボーフヂェーディ島・・・旧神子島の雪崩に沈んだこのゴジラ―便宜上2代目と呼びます―は、昭和29年に東京へ上陸し東京湾で没したゴジラに比べ、首が長く、身が引き締まっています。そして昨夜、網走に出現したゴジラは・・・御覧の通り、2代目ゴジラと形態が酷似しています。というか、異なる部分の方が見当たらない。何より、この腹部の紋様です」

 

2枚の写真が拡大され、ゴジラの腹部が浮かび上がる。

 

「人間の指紋が各人異なるのと同じで、ゴジラは腹部の紋様が個体ごとに異なると考えられます。現在までのところ、確認されたゴジラは2体だけですから、比較対象には議論の余地はあります。ですが、2代目と今回のゴジラは紋様が完全に一致しています。長くなりましたが、この事実に基づき、私はこの2体は同一のものであると結論づけたのです」

 

「それじゃあ、ゴジラは死んでなかったということですか?」

 

呆れたように口を大きく開けて、原田は訊いた。

 

「言うなれば、ゴジラは仮死状態のまま冬眠していた、と考えるのが妥当です。当時のソ連科学アカデミーは、爬虫類がゴジラ並の大きさとなったと仮定し、ゴジラの身長・推定体重と低温状態の期間を基に、何日でゴジラが死に至るかという仮説を以てしてゴジラが死亡したと発表したのです」

 

「どえらいたわけた話だ」

 

吐き捨てるように、小林がつぶやく。

 

「では、ゴジラはなぜ目を醒ましたのでしょうか?」

 

町田が興奮気味に訊いた。

 

「原因については憶測の域を出ませんが・・・ここ一カ月に及ぶ日本列島の異常高温、または択捉島の火山噴火が有力です。ぜひ、神子島の現地調査をしたいところですが・・・昨晩の様子から、もうひとつ、仮説を立ててあります」

 

さておき、と、尾形は網走の写真を全面に投影させた。

 

「2代目のゴジラと同一の個体と申し上げましたが、64年前と異なっている点がありるのです。緑川さん、お願いします」

 

緑川は軽く頷き、やはりレーザーポインタでゴジラの手前に写るビルを照らした。

 

「この建物に注目してください。こちらは当社の建造物損害保険に加入いただいている物件です。地上6階建て、高さ34メートルです」

 

穏やかな声で話す尾形と違い、緑川は臆することなくハキハキとしゃべる。よほどプレゼンテーションやらで鍛えたのだな、と列席の知事たちは思った。

 

「2代目のゴジラは身長が50メートルでした。ですが昨晩現れたゴジラは、このビルの高さとビルとの距離、ゴジラの頭部をまとめて計算すると、身長が90メートル。また足跡のくぼみ、鉄筋コンクリートの破壊具合から、体重はおよそ4万トンと考えられます」

 

「大きくなってるんですか、ゴジラは」

 

会田がびっくりしたような顔で訊いた。

 

「おっしゃる通りです。氷の中、仮死状態にありながらも、ゴジラは成長を続けた。それによって氷の封印を破ったのではないか、とも考えられます。ここで不可解なのは、旧ソ連時代から監視を続けていたロシアがなぜ、ゴジラに気がつかなかったのか、という部分です」

 

それは誰もが疑問に思っていたことだった。

 

「択捉島の噴火が原因で発見、探索が遅れたのか、はたまた別の理由があるのか、この辺りは外務省の復旧を願うとして・・・昨晩、海上自衛隊及び海上保安庁でも、網走沖に存在したはずのゴジラを捕捉できなかったとうかがいました」

 

それも事実だった。北海道知事の一橋から受けた報告では、網走と根室の海上保安本部も、青森県大湊の海上自衛隊基地も、ゴジラの網走接近を事前に察知できなかったというのだ。

 

「極めて厄介なことに、ゴジラには我々のレーダー探知が通用しないということも充分考えられます」

 

知事たちは色めきだった。

 

「じゃあ、いまどこにいるのか、これからどこへ向かうのか、見当もつかないと?」

 

原田の問いに、「その可能性があります」とだけ尾形は答えた。

 

「本来であれば、怪獣に対する防衛出動が適用され、自衛隊によるゴジラ駆除作戦が実施されて然るべきなのですが・・・。現時点でゴジラに対しては、沿岸部の夜間灯火管制、出現した場合の照明弾投下による誘導しか方法が考えられません」

 

「そういえば」と、ただただ黙って聴いていた侭田が手を挙げた。

 

「ゴジラは夜行性ときいたことがあります。夜間のみ警戒して、常時照明弾を搭載したヘリやら軍用機を飛ばせば・・・・・・」

 

言いながら、自分でも無茶なことを言っていると気が付いて、侭田は口を閉ざした。しょうのないことを、と言わんばかりに小林は含み笑いをする。

 

「残念ですが、ゴジラが夜行性である、という確たる証拠は存在しないのです」

 

「しかし・・・東京でも大阪でも、ゴジラは夜になってから上陸しましたよ?」

 

「いえ。旧千島列島の岩島で最初に2代目ゴジラが確認されたときは、昼間だったそうです。夜にしか活動しない、とは言い切れないでしょう」

 

「・・・とにかく、尾形先生。東日本太平洋側の自治体には、警戒情報を発令して上陸に備える他ありませんかな?」

 

「おっしゃる通りです」

 

早速町田は自分のスマホを握り、自身の県庁に電話を始めた。

 

スカイプで話をきいていた各県知事も倣った。

 

 

 

 

 

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